2007年4月2日ソロモン諸島地震・津波災害と社会の対応



 2007年4月2日午前7時39分(現地時間)ソロモン諸島西部深さ10kmを震源とするMw8.1の地震が発生し(USGS)、地震発生から2〜3分後に ソロモン諸島西部の島々を津波が襲った。津波の遡上高は最大8.5m(Simbo島北端)に達する。この地震に伴い震源西側に位置するRanonnga 島では3〜4mの隆起が見られた。

 この地震による死者は52名であり、主に津波による死者はSimbo島およびGizo島に集中しているが、Ranonnga島では西岸で発生した大規模 な斜面崩壊により2名が亡くなっている。大規模な津波が発生したにも関わらず死者が52名に留まった理由として、1)2004年インド洋津波の教 訓が伝えられており、地震発生後、多くの人が高台へと避難した事、2)海岸部に集落が少なかった事(@海岸部に平地が少ない、A首刈りの 風習があり、他の部族による襲撃に備えて伝統的に海岸部に居住しない)という事が挙げられる。海岸部に居住しないという文化的な背景もあ り、今回の津波で大きな被害が被ったのは、1)キリバス系移民、2)政府職員といった、新たにこの地域に「移住」してきた人々であった。

 災害対応については、被害の規模がそれほど大きく無かった事もあり、被害の全体像の把握は災害発生から2日程度で行われ、約1週間で 災害対応活動の重点が応急対応から復旧・復興対策へと移行して行った。また、ソロモン諸島政府の災害対応を支援する目的でUN Disaster Assistance Coordination(UNDAC)が、災害発生から3日後の4月5日〜19日の2週間にわたって活動を行った。

 被災した人々は、現在、津波を恐れ内陸部に新たに設置したキャンプで生活を行っている。学校教育も仮設の学校が建設され、発災から2週 間程度で再開されている。どこで集落を再建するのかが、今後の課題となっており、Simbo島、Ranonnga島(津波ではなく地盤災害)においては 高台に集落を移転することが決定され、現在、新たな住宅の建設が行われている。集落の再建について大きな問題を抱えているのはGizo島の キリバス系移民の集落である。1960年代にキリバスから移住してきた人々は、内陸部に自分たちの土地を持たないため、現在のキャンプは政 府、民間の所有地を不法占拠して建設している。津波を恐れ、可能ならば内陸部に位置する現在のキャンプの場所で集落を再建したいという 意向を持っているが、土地所有問題が解決されない限り、本格的な復興を行う事ができない。また、各集落のキリスト教の宗派もその集落の 復興(社会的状況)を考える上で重要なファクターとなっている。

  今回報告を行ったソロモン諸島の津波災害調査は2007年5月24日〜6月2日に防災研究フォーラムからの研究助成を得て実施された。社 会科学的側面からの分析を行うため、調査には防災研究所の牧、鈴木に加え、ソロモン諸島の社会状況に詳しい人類学者(古澤拓郎:東京大 学 国際連携本部ASNET推進室)も参加した。

写真1 Ranonnga島の地盤災害(Mondo周辺) 写真2 Gizo島の津波被害(Malakerava)
写真3 Gizo島の避難キャンプ
(ギルバート系移民 New Manderの住民)
写真4 再定住地に設置された
仮設小学校(Simbo島)

(巨大災害研究センター 牧紀男・鈴木進吾)