2007年能登半島地震


 2007年3月25日に、能登半島中部西岸近傍で気象庁マグニチュード6.9の地震が発生した。石川県七尾市、輪島市、穴水町で震度6強が観 測された(気象庁)。この地震による犠牲者は1名、負傷者は300人以上であった(石川県)。また、木造住宅などの建造物やがけ崩れなどの被 害も多数発生した(石川県)。防災研究所では、余震観測・地殻変動観測・強震動観測・建造物被害調査・港湾被害・地滑り被害などの緊急観 測・調査が各部門によりおこなわれた。

2007年能登半島地震と地殻変動解析

 筆者は、当所橋本学教授を中心とした京大防災研・北海道大学・富山大学・金沢大学によるGPS地殻変動観測に参加すると同時に、防災科 学研究所の小澤拓研究員・橋本教授と共同で、地球観測衛星「だいち」に搭載されている合成開口レーダPALSARの画像を用いた干渉合成 開口レーダ(InSAR)解析をおこなった。本稿では、このInSAR解析の結果と、検出された地殻変動を説明するモデルについて紹介する。

 InSAR解析をおこなうと、同じ領域を撮影した二枚のレーダ画像から、その撮影日の間に起こった地表面の変動を画像として捉えることができ る。レーダは右斜め下を向いているので、南から北に衛星が移動するとき(上昇軌道)には西傾斜、逆に北から南に移動するとき(下降軌道) には東傾斜の方向からのスラントレンジ(衛星と地面との距離)の変化量が検出される。今回の地震についての西傾斜、東傾斜の方向に対す るInSAR画像が図1(a)、(b)である。これらはともに、地震前と地震後の画像を用いて得られたものである。色の一周期が、レーダ の半波長(11.8cm)の変動に対応している。地震後の画像としては、地震発生後数週間後のものを用いているので、厳密に言うと、地震発生後 に起こるゆっくりとした変動(余効変動)も含んでいる。しかし、GPS観測から余効変動の大きさは地震時の変動より一桁小さいことがわかって いるので、余効変動の影響を無視してしまってもあまり影響はない。

 次に、観測データ(図1(a)、(b)と、国土地理院のGPSデータ)をよく説明する断層面と、すべり分布を求める。断層面の位置を 試行錯誤的に決定したあと、その断層面を2km×2kmの矩形セグメントに分割し、各セグメントですべり量とすべり角を推定した結果が 図1(c)、(d)である。気象庁によって求められた本震の震源(星印)と、本震発生後約一ヶ月間に発生した余震(青丸印)も表示して いる。図から、1〜2mの大きなすべりが、本震震源(破壊開始点)の上およそ4〜10kmの深さと、西側のより浅い部分(海域下)に延長した領域 でおこったことがわかる。また、すべり方向を見ると、逆断層型と右横ずれ型が複合した地震であったことがわかる。今後、GPS観測データと 融合させ、さらなる解析を進めていく予定である。

図1(a)、(b):観測された地震による地表の変動。西傾斜と 東傾斜の方向の変動が面的に捉えられている。気象庁CMT解(地震エネルギーを中心的に放出した位置とメカニズム解)も示してある。
図1(c):推定された地震すべり分布と本震・余震分布。
図1(d):(c)を海岸線図上に投影したもの。赤い矩形が仮定した断層面で、直線が 上端(地表に到達)。断層面は、水平から63度で傾斜している。


2007年能登半島地震の強震動

図2震度6強の揺れが観測された地点の地図(▲印)。紫色の ●は本震発生後1日以内 のM2以上の余震の震央(気象庁による)。
 
図3余震観測から得られた地盤増幅特性。町役場の観測記録に対するスペクトル 比で表現している。岩田・他(2007)による。
 2007年能登半島地震では、(独)防災科学技術研究所や気象庁によって整備されている高密度な強震・震度観測網によって、強震観測記録 が得られている。最大震度6強が観測された4地点(図2)のうちでは、輪島市鳳至町(気象庁輪島測候所)と鳳珠郡穴水町大町の 記録が公開されている。このような強震記録を分析することにより、震源断層の詳細な破壊過程や被害地域での地盤震動特性から強い揺れ (強震動)の成因を明らかにする研究が進められている。

 我々のグループは、特に、穴水での強震動に着目し、現地での観測を実施するとともに、記録の分析を行っている。穴水は震源から約20km 東に位置しており、七尾湾の湾奥に町が開けている。強震観測点は町のほぼ中央に設置されている。観測点から約200m南の穴水駅前周辺で は建物被害が多く報告されている。穴水町大町での本震時の強震動は周期1秒付近の震動が卓越しており、そのスペクトル特性は1995年兵 庫県南部地震の際の神戸海洋気象台の記録と類似した特徴を持っている。震源からやや遠いにもかかわらず、このような揺れが生じた原因を 解明するため、現地で短時間の余震及び微動観測を実施した。図3は穴水町内の4カ所で同時に観測した4つの余震記録のスペク トルを比較したものである。露頭岩盤上にある町役場の記録を基準とし、それに対するスペクトル比を図示している。これによると、K-NET(本 震で震度6強を観測した地点)や法性寺(鐘楼の跳躍が確認された)は、岩盤に対し、周波数1〜2Hzで相対的に10〜15倍程度増幅することが 分かった。これは表層に堆積している柔らかい泥炭層の影響であると考えられる。また、町内各地で測定した微動のH/Vスペクトル比から得 られた卓越周波数も1〜2Hzであり、地震動の卓越周波数と対応している。さらに詳細な地盤調査を進め、地震動の増幅に寄与する堆積層厚 さの空間的な広がりを明らかにしていく予定である。

 本調査研究は地震災害研究部門岩田知孝教授、後藤浩之助教、次世代開拓研究ユニット山田真澄助教と共同で行っているものである。観 測に際しては、大学院生の岩城麻子氏、栗山雅之氏、石井やよい氏、高畠大輔氏の協力を得た。

能登半島地震 被害調査報告
道路・橋梁被害と地震動


(1)はじめに

 能登半島地震では死者1名、及び住宅全壊630棟(5/28現在)の被害を生じた。高橋良和(防災研究所)、後藤浩之(防災研究所)、豊岡亮洋 (京都大学大学院都市社会工学専攻)の3名はこの地震の一報を受け、3/25-26に道路・橋梁被害及び地震動に関する現地被害調査を実施 したので、その一部を報告する。ただし、前述した被害の概要は地震後に整理された情報であるため、被害調査時には断片的な情報に基づい た限られた箇所における被害調査であることを付記しておく。

(2)現地被害調査の報告
写真1 中能登農道橋の
橋軸方向の振動痕
写真2 国道249号志賀町
深谷地区での盛土崩壊現場
  1. 中能登農道橋
     橋梁被害は能登島に架かる2本、能登島大橋と中能登農道橋において被害が報告されている。現地調査を実施した中能登農道橋は能登島 の西部に架かる斜張橋と桁橋とが一体となった全長620mの橋梁で、斜張橋部と桁橋部の連結部で写真1に示す約10cmの橋軸方向 の振動痕が確認された。連結部では若干の段差が見られるものの橋梁の構造体に被害が確認されないことから、この橋軸方向の変位は許容 範囲内と考えられる。また、2ヶ所で照明灯の照明が落下、及び取り付け部の段差が確認されたが、橋脚等に損傷は確認されなかった。中能 登農道橋に近いKnet観測点ISK005(穴水)とISK007(七尾)の橋軸方向に対応する東西成分の変位応答スペクトルが10cmを超えることから、 実際の入力地震動がこれらと異なると考えられるものの、振動痕と対応させて10cmのオーダーの相対変位が発生する地震動が入力したとす ることは不合理ではないようである。
  2. 国道249号志賀町の盛土崩壊
     国道249号では落石・陥没等が9ヶ所で発生し、現地調査を実施した国道249号志賀町深谷地区では写真2のように高盛土である 北側斜面の部分で幅10m程、長さ100m程に渡って大規模な盛土の崩壊が発生した。本地震がMj 6.9であることから、経験的には震央距離100 km程度までの範囲において斜面崩壊の可能性が考えられるが、能登半島全域が震央距離100kmの範囲に収まるために、より強度が低いと考 えられる盛土崩壊についても同様に発生の可能性が考えられる。本崩壊箇所に近いK-net観測点ISK006(富来)の観測記録に対して、盛土構 造物の耐震性能照査に有用である片側必要強度スペクトルを計算し、斜面災害、盛土崩壊が数多く報告された中越地震の山古志村の記録と 比較したところ、0.5秒以下を固有周期とする地盤に対しては山古志村と同レベルの設計水平震度を要求することが確認された。このため、短 周期成分で見ると盛土を崩壊に至らせる可能性の高い地震動が入力していたと推測されている。
(3)おわりに

 本報告では、防災科学技術研究所のK-netの観測記録を使用させていただきました。当データは地震直後より公開されていたため、被害 調査を行う上での基礎情報として非常に有用でした。また、現地にて情報を提供いただきました方々に感謝を申し上げると同時に、被災地の 1日も早い復興をお祈り申し上げます。

能登半島地震による港湾被害

(1)はじめに

 2007年3月25日9時42分、石川県能登半島沖を震源とするMj 6.9の地震が発生したことを受け、3月26日から27日にかけて主に港湾構造物 に対する被害調査を行ったので報告する。本調査は井合進(京都大学防災研究所教授)、飛田哲男(京都大学防災研究所助教)、 姜基天かんぎちょん(京都大学大学院社会基盤工学専攻博士後期課程1年) の3名が実施した。

(2)港湾関連の被害

 能登半島には重要港湾1、地方港湾9と70を越える漁港がある。ここでは調査した港湾(七尾)、漁港(穴水)と親水公園(七尾マリンパーク) の被災状況について報告する。
写真3 七尾港(−10m)木材加工基地、
矢板式岸壁(1号)背後の野積場の沈下
  1. 七尾港
     重要港湾である七尾港太田地区(震央距離約30km)の木材加工基地1号矢板岸壁(−10m)は、野積場が最大約40cm沈下した。同野積場 には液状化によると思われる噴砂も見られたが特に大きな亀裂はなく、矢板岸壁の海側(20cm程度)への移動により背後地盤の広い範囲が 一様に沈下したようである(写真3)。一方、隣接する2号矢板岸壁(−10m)は、サンドコンパクションパイル工法、ロッドコンパクション 工法、グラベルドレーン工法により地盤改良が施されていたため1)、被害は目視では確認できず、調査当日も荷役が行われていた。本事例 は、建設年代の違いはあるものの、同一の構造形式、同一の地震動に対する液状化対策工の有無と被害との関係が実物規模で示された珍 しい事例である。
  2. 穴水漁港
     物揚場(−4m)背後地盤のアスファルト舗装に5cm弱の段差が生じていた。セルラーブロック式岸壁(−4m)が海側へ20cm移動したとの報告 もある1)が、震度6強を観測した地域としては軽微な被害にとどまっている。これは、当該地点が河口部であり軟弱層が厚いことから深層混合 処理が施されていたためである1)。対岸のヨットハーバーはアスファルト舗装に亀裂が生じ、地表面が大きく変形していたことから、液状化対策 の有無が被害程度に大きく影響したものと考えられる。
  3. 七尾マリンパーク
     親水公園として2002年4月に開園した七尾マリンパーク内のインターロッキングブロック舗装の一部に亀裂が入り、液状化による噴砂が見受 けられた。同公園は災害時の避難広場として活用されるはずであったが、立入り禁止となった。このことは同様の避難施設についても適切に 耐震対策を施すことが重要であることを示唆している。公園内にあるフィッシャーマンズワーフ建屋の構造体であるコンクリート柱(鉄骨RC)には 微小なクラックが見受けられたが、店舗は一部営業中であった。しかし、同店内海側のレストランのコンクリート床には不同沈下によると見られ る亀裂が生じ床がわずかに傾斜していた。
(3)まとめ

 本報告では、港湾関連被害について報告した。港湾関連では、震度6強を観測した地域においても特に大きな被害は発生していない。この 理由としては、液状化対策が適切に施されていたことが考えられる。しかし、災害時の避難広場として活用されるはずであった親水公園が液状 化被害により立入り禁止になったことは、避難施設の耐震性の確保という点において課題を残した。

まとめ

 ここに紹介されている報告は、2007年4月27日に催された地震火山グループ研究会「2007年能登半島地震特集」で発表いただいた内容が 基になっている。研究会では、ここに紹介されている報告以外に、木造建物被害・地すべり・崩壊・余震観測についても各専門の方から発表い ただいた。当日は、複数のグループから50人を超える多数の方に参加していただき、大変活発な議論がおこなわれた。グループを超えた研究 内容の相互理解にとってよい機会になったと思う。

参考文献
1)土木学会・地盤工学会・日本地震工学会・日本建築学会・日本地震学会、2007年能登半島地震災害調査速報会資料、平成19年4月24日、 2007。


(地震予知研究センター 福島 洋、
地震災害研究部門 浅野公之・後藤浩之、
地盤災害研究部門 飛田哲男)