第15回公開講座開催


 2004年9月24日(金)9時30分より17時までの日程で、京都駅前キャンパスプラザ京都において、「防災情報の作成と伝達 −知識と情報をいかに活かすか?」をテーマに掲げ、第15回京都大学防災研究所公開講座を開催した。ここ数年間、公開講座は大阪市で11月に開催されてきたが、中期目標・中期計画策定に際しての議論の中で、公開講座の開催場所を年によりいろんな場所で開催した方がよいという提案があり、今回思い切って京都に変更した。また、開催時期も11月に積極的な理由もないことから、外部的には9月1日の「防災の日」で防災に関する関心が高まる時期であること、内部的には大学におけるセメスター制の導入など、多種の要素に鑑みて9月末に実施することとした。

 第14回公開講座の参加者アンケートには、講義時間の延長を希望する声が多かったことから、講演者数を減らし、一人当たり1時間の講義時間を確保するようにした。また、従来の往復ハガキに加え、メールによる申込を受け付けるようにするとともに、事務方のご尽力により参加料の支払いに銀行振り込みが可能となり、そのため申込締め切りも大幅に遅くすることが出来た。さらに、今回初めての試みとして、参加申込時に講演者に聞きたい質問をひとつ記入していただくようにし、これらを講演あるいはパネル・ディスカッション中で取り上げるようにした。

 今夏は台風・豪雨災害が頻発するとともに、参加申込締め切りが目前に迫った9月5日に紀伊半島南東沖の地震が発生するなど自然災害が多く、災害に対する関心も高まりつつあったところでの公開講座開催となった。参加者は100名と、定員には達しなかったが、開場前から陣取られる熱心な参加者も数多く見受けられた。  

公開講座パネルディスカッション風景

 井上所長の挨拶に続き、地震予知研究センター片尾浩助教授が「近畿地方の地震活動と南海地震」と題して講義を行った。地震予知研究センターが行っている微小地震観測のデータや過去の被害地震記録に基づき、近畿地方の内陸地震の活動と南海地震の関係およびそれらのメカニズムについてやさしく解説頂いた。続いて、最近の近畿地方の地震活動・地殻活動の現状について触れるとともに、9月5日に発生した紀伊半島南東沖の地震についての最新情報を紹介された。紀伊半島南東沖の地震では、長周期の地震波が大阪や東京などの堆積平野で増幅されたという観測結果も報告され、あらためて南海地震に向けて対策の必要性を訴えられた。

 続いて、総合防災研究部門鈴木祥之教授が「町家の耐震性と耐震補強について」と題して、講義された。町家建築は京都の民家の代表であり、近年は歴史的な景観としてその価値が再認識され、保全に向けた努力がなされつつある。しかし、大規模火災が多かった京都では、現存する町家は大地震による強震動を経験しておらず、その耐震性については不明であった。鈴木教授の講義は、京都や萩市などの町家建築における伝統工法の解説から始まり、建築基準法に基づく耐震性能評価、さらには振動台実験や静的載荷実験まで、豊富な写真や映像を使った研究成果の紹介が続いた。最後に、土壁や小壁の設置をはじめ町家の意匠性を活かしつつ耐震性を向上させる手法について提案された。また、参加者から事前に頂いた、「田」の字型の家の耐震性に関する質問に対して、愛知県での実験を紹介しつつ、意外と耐震性が高いことを示された。

 昼食後、水災害研究部門戸田圭一教授が「都市水害とその予測」について講義された。都市においては、最近地下街が発達するとともに、排水能力や降雨量との関係で地下街への浸水被害が深刻な問題となっている。そこで、京都と大阪の地下街を例として取り上げ、実験やシミュレーションにより地下街への浸水の様子を調べられた成果を紹介された。鴨川が氾濫し、その水が御池地下街に流れ込んだことを想定し、実際の地下街の模型実験を行われた。その結果、流入開始後20分もすれば地下3階の地下鉄ホームが水没する可能性があり、また東側の階段部での流速は5分もすれば避難困難なものになることが示され、参加者一同身近なところにある危険を改めて認識させられた。あわせて、今夏の福井水害の現地調査結果も紹介頂いた。

 引き続いて、巨大災害研究センター林春男教授が「一元的な危機管理体制の必要性」と題して講義された。林教授は、まず今夏の新潟水害に見られた認識のゆがみが新たな危機をもたらすことを指摘し、続いてリスクに対する人間の持つバイアスを簡単な2つの質問を参加者に投げかけることで明らかにされた。これらの災害心理学のポイントを踏まえ、危機に対応する体制として調整指揮・事案処理・情報作戦・資源管理・財務管理の5つの活動を包含した一元化体制の構築を提案された。最後に、危機は別な側面からは機会でもあるとの捉え方も紹介された。

 サブテーマである「知識と情報をいかに活かすか?」にちなんで、実際に行政の現場で知識と情報を集約し、防災対策に活かそうとされている自治体の代表からお話をうかがうべきであるとの考えで、地元京都市から消防局防災危機管理室中川信夫防災課長をお招きし、「災害から命を守る防災情報」と題してご講義頂いた。京都市では、8月に防災情報提供のツールとして、「京都市防災マップ」を作成・公表された。これは水災害版と地震災害版からなるカラーのマップであり、これまでの国・府等の調査成果に京都市独自の調査成果を加えた京都市域の詳細な浸水深や震度の分布図となっている。これを市民新聞に折り込んで全戸配布し、全市民に京都市を襲いうる災害を知ってもらおうと努力されている。さらに、これに加えて各区版の防災マップを準備中であり、これも市民に広く提供するという京都市の積極的な姿勢をご紹介頂いた。

 以上の講義を踏まえ、約1時間パネル・ディスカッションを行った。特に、京都市の防災マップを踏まえ、観光都市京都の防災のあり方、耐震性向上に向けた考え方、さらには公からの知識と情報の提供を受けて自助・共助はどうあるべきか、という議論がなされた。途中、フロアからも耐震診断等についての質問があり、これを受けて地震に関する議論も盛り上がった。

 以上、長時間のプログラムであったが、参加者は最後まで熱心に聴講されていて、防災に関する関心の高さがうかがえ、主催者側としては喜ばしい限りであった。特に、開催場所・時期を変更したことによる影響が懸念されたが、そのようなものは感じられず、ひとまず成功であったと考えたい。しかしながら、ひところのような参加者数には程遠く、公開講座の規模や懸案の参加料の問題、さらには講座そのもののあり方についても考えていく必要性を痛感する次第である。現在、防災研では本公開講座のほかにも京都・東京のサテライトはじめいろんな公開行事があり、また他機関も同様に競って講演会等を開催している。このような状況においても、「やはり防災研は一味違う」と思っていただけるよう、公開講座はじめ公開行事のあり方を真剣に議論する必要があると考えるのは筆者だけではない、と信じる。
(対外広報委員会行事推進専門委員会委員長 橋本 学)