大都市大震災軽減化特別プロジェクト


「巨大地震・津波による太平洋沿岸巨大連担都市圏の
総合的対応シミュレーションとその活用手法の開発」


 京都大学防災研究所は、文部科学省が実施している 「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として、 被害者救助等の災害対応戦略の最適化を目的に標記の研究を、 平成14年度より実施している。

(1)研究の目的


 東海・東南海・南海地震とその津波災害の発生が懸念される中で、 まず、巨大地震・津波災害の総合的対応シミュレーションへの入力として 強震動の広域高密度分布と津波の広域来襲特性を予測し検証する方法を開発し、 これらによる広域被害想定、 とくに各種ライフラインの被害と信頼性を評価する手法を提案する。 これらと同時に、被害軽減に資する災害対応戦略を構成する参加型意思決定方法と シナリオプランニング技術を開発し、市民、企業、政府・自治体の防災担当者、 防災研究者などの総合的災害対応能力の向上を目指す。

(2)研究期間


 平成14年10月から平成19年3月まで(4年6ヶ月)

(3)実施体制


 本研究課題は、京都大学防災研究所をコア組織として5テーマ、 及び所外における関連災害対応戦略研究としてサブ研究チームの7テーマ、 合計12テーマで構成される。本研究課題は京都大学防災研究所をコア組織とし、 「研究運営委員会」を設立して、研究運営の円滑化を実現する。 その下に、コア組織サブテーマ責任者5名と各サブ研究チームの研究開発代表者8名、 合計13名からなる「研究推進・調整委員会」を置いて、 各研究課題間の調整、研究集会の開催、 他研究機関の研究者との共同研究の円滑化のための取り組みを行う。

(4)各課題の概要


【コア組織】(京都大学防災研究所)


1)巨大地震の強震動シミュレーションとその活用手法の開
 災害対応戦略の策定に強震動予測シミュレーションを用いるためには、 将来発生する巨大地震を正確に予測できなければならない。 このため、マグニチュード8クラスの海溝型巨大地震のシミュレーション手法の開発を行う。 さらに、地震動の空間的な分布を高い解像度で予測する手法について検討する。

2)大規模ライフライン網の地震災害評価シミュレーション手法と耐震性向上技術の開発
 大規模なライフライン網の地震時における安全性を保証するためには、 ネットワークの連結性だけではなく機能の信頼性を確保することが必要となる。 そのために、まず、既存のライフライン信頼性解析法の問題点を明らかにした上で、 ネットワークの新しい信頼性解析法を開発するとともにライフライン網の信頼性を モニターするための技術を開発する。 つぎに、信頼性が低く評価されたライフライン網の補強を行うため、 構成要素の重要度に関する新しい評価尺度を提案することにより、 構成要素の補強順序を評価するための手法を開発する。 さらに、地震時におけるライフライン施設の動的応答特性を把握するための 新しい解析法を開発し、構成要素の脆弱性評価と耐震性向上技術の開発を行う。

3)巨大地震津波による広域被害想定と防災戦略の開発
 次の南海トラフ上で発生する地震では、 1707年の宝永地震のように東海・東南海・南海のイベントが 同時に起こる可能性があることが分かってきた。 連動して発生する地震動による被害に加え、 津波の被害も我が国太平洋岸全域におよび、 従来の被害想定を大きく上回る超広域複合津波災害となる可能性がある。 その被害内容と被害軽減のための短期・長期の対策を防災戦略の観点から明らかにする。

4)統合地震シミュレータに基づく災害対応戦略に関する参加型意思決定方法に関する研究
 太平洋ベルト地帯に位置する都市圏を対象として 地震被害シミュレーションの適応技術の開発を行う。 具体的には、地震被害シミュレーションモデルを巨大地震に対する 地域の安全性を高めるための施策の構築とその実施に際して生じる 地域のコンフリクトを解消するための議論の基礎を提供する装置として捉え、 適応的マネジメントのアプローチを用いて、 シミュレーションモデルの構造や意思決定過程に地域固有の知を反映することを試みる。

5)新公共経営(New Public Management)の枠組みにもとづく地震災害対応シミュレータによる災害対応能力の向上
 本研究では新公共経営(New Public Manage-ment (NPM))の枠組みにもとづいて 災害対応能力の向上を図るための災害対応シミュレータの構築を目的とする。 本研究では21世紀前半に発生が予想される南海トラフ沿いの超広域地震災害を想定し、 その被害をできるだけ軽減するために3大都市圏での災害対応力の向上を目的とする。 多様なハザードに一元的に対応できること、 継続的にその質の向上をはかれることを 今回開発する災害対応システムが備えるべき要件とする。

【サブ研究チーム】

1)上水道ネットワークの広域復旧戦略シミュレーターに関する研究(鹿島建設株式会社)
2)大震災時における最適消防力運用(筑波大学社会工学系)
3)災害対策本部要員の応急対応訓練用ゲームの制作(潟Vステム科学研究所)
4)防災担当者の能力向上を目的とした図上訓練シミュレーターの開発(竃h災・情報研究所)
5)防災用人的シミュレーションの研究開発(神戸大学海事科学部)
6)復興まちづくり計画の策定・合意形成支援システムの開発(東京都立大学都市科学研究科)
7)復興シナリオにおける(仮設市街地)構築システムの研究・開発(且都圏総合計画研究所)

(5)今後の展開


 研究開始以来、この10月で丁度2年を数えるに至った。先日、総合科学技術会議で中間評価が行われ、大幅な研究体制の変更を余儀なくされている。それは、この研究によって何が成果として見えるかが厳しく問われていることに関係している。関係者の一層の努力が必要とされている。
(研究代表者 河田惠昭)


【中核機関:京大防災研究所】

 本課題では、2050年頃までに確実に起こると予想されている 東南海・南海地震を対象にしています。 その内容は、これらの地震の起こる順番や規模などの発生パターンを考慮しつつ、 太平洋沿岸に位置する東海地方より以西の大都市圏を襲う地震動・津波の挙動や 大規模ライフライン網の安全性についての総合的シミュレーションを行います。 また、その結果に基づき、災害の発生以前に地域の耐震安全性を高め、 被害を少なくするための地震発生時に関連する機関及び個人の対応行動を最適化するための 基盤的情報を提供します。
(1)巨大地震の強震動シミュレーションとその活用手法の開発(地震の揺れ)/td>
(2)巨大地震津波による広域被害想定と防災戦略の開発(広域災害と減災)
(3)大規模ライフライン網の地震災害評価シミュレーション手法と耐震性向上技術の開発(ライフライン防災)
(4)統合地震シミュレータに基づく災害対応戦略に関する参加型意思決定方法に関する研究(最適対応)
(5)新公共経営(New Public Management)の枠組みにもとづく地震災害対応シミュレータによる災害対応能力の向上(危機管理能力)
(6)関連する災害対応戦略研究(地震・津波災害の新たなる課題)