2004年徳島豪雨災害報告


1. はじめに

 今年2004年は、新潟・福島、福井をはじめ各地で洪水・土砂災害が頻発しており、 台風上陸回数も10月の台風22、23号を含め、既に10回を数えている。 その中でも、7月31日から8月1日にかけて四国・中国地方を縦断した台風10号は、 四国各県に大雨を降らせた。 特に、徳島県において記録的な豪雨をもたらし、 那賀川上流域の山間部にあたる上那賀町では日降雨量1317mmという過去最高値を記録した。 この豪雨によって、上那賀町・木沢村・木頭村にまたがる地域では、 多数の山腹崩壊・土石流が発生し、大きな被害がもたらされた。 ここでは、災害発生の経緯・被災地の状況等を簡単に報告する。

2.災害の概要

 今回の災害の最大の特徴は、降雨量の多さである。 総雨量は、神山町旭丸観測所で1243mmに達し、西日本での最高値を記録した。 また、気象台による観測データではないものの、 日雨量では上那賀町海川で8月1日に1317mm(四国電力の管理)を記録したのをはじめ、 木頭村小見野々で1195mm、木沢村沢谷1006mm、同村名古ノ瀬でも911mmに達した。



図2 2004年7月31日から8月2日にかけての台風10号による総降雨量の等降雨量の等降雨線図。
1500mmを超える降雨が、那賀川流域の一部(上那賀長、木沢村、木頭村)に集中している。
2000mm超過の地点は、上那賀町海川。





図3 四国において、台風10号の降雨により発生した土砂災害の位置。
今回、調査・報告の対象とした上那賀町・木沢村・木頭村に
またがる地域において発生した土砂災害を赤丸で示す。



これら1000mmにまで達する日雨量が観測された地点は、 土砂災害の発生が集中した上那賀町、木沢村、木頭村にかけて南北に広がる地域と完全に一致しており、 局地的な豪雨が土砂災害の引き金となった状況がうかがえる。  この地域で発生した主な災害は、大用知地区、加州地区、阿津江地区、白石地区、 海川地区、沢谷地区等で起こった山腹崩壊とそれに続く土石流によるものであり、 家屋全壊7棟、国道・県道に限った幹線道路の寸断・橋の流失・トンネルの破損は11箇所にのぼり、人的被害としては大用知地区で2名がいまだに行方不明となっている。山腹崩壊の発生時刻は正確に特定されていないものが多いが、およそ8月1日夜から翌未明にかけての時間帯に集中している。  これら崩壊地の下流に位置する長安口ダムには、大量の土砂と流木が流れ込み、 流木については平常時の1年間に流れ込む量の約20倍がこの短期間に集中した。 また、流入した土砂によって河川水の濁度が上昇、 その状態が長期間継続すると予想されており、下流域での漁業等への影響が心配されている。

3.各被災地区





写真1
木沢村の大用知地区・加州地区で発生した斜面崩壊の
様子。両崩壊によって流出した土砂は、那賀川の支流
である坂州木頭川に流れ込んだ。加州崩壊の後方
(写真右上)には、小畠地区の崩壊も見える。



写真2
大規模な崩壊が発生した木沢村阿津江地区。崩壊地の
上部には多数の亀裂が見つかっており、それら亀裂を
結んだ線上に位置する林道に2m近い段差が現れた。
崩壊地上部に残った不安定土塊は、
少しずつ移動しているものと思われる。




写真3
上那賀町白石地区で発生した斜面崩壊。
今回の災害では最も民家が集中している場所で発生した。



写真4
上那賀町白石地区で発生した土石流で押しつぶされた民家。
多数の家屋が被害を受けたにもかかわらず、
住民の自主避難により一人の犠牲者も出さずに済んだ。
土石流には、多量の流木が混入している。



(1)大用知・加州地区

 大用知地区では、8月1日の夜半に山腹斜面が幅およそ100m、長さ200mにわたって崩壊し、流出した土砂が、対岸斜面の民家を直撃し老夫婦が行方不明となった。その後、流出土砂は土石流化し渓流沿いの林道や橋を破壊しながら、坂州木頭川まで流下している。また、隣接する加州地区でも山腹が崩壊し、発生した土石流は300m程を流下し国道の加州谷橋を破壊した。これらの地域には、被災した老夫婦のものを除き、民家がほとんどないため、崩壊が発生した正確な時刻はわかっていない。なお、大用知での崩壊は今回発生した崩壊の中で崩壊面積が最大である。

(2)阿津江地区

 大用知・加州地区の坂州木頭川をはさんだ対岸に位置する阿津江地区では、8月2日午前2時頃、尾根に近い林道を上端とした崩壊が発生し、下流の符殿橋を破壊した。危うく難を逃れた住民(崩壊地に隣接する民家に居住)によると、「当時は雨音が大きかったため、崩壊がいつ起こったのかはっきりとは、わからなかった」ということである。また、この崩壊地の上部には広範囲にわたり多数の亀裂が見つかっており、不安定な土塊が崩れ残っている。充分な警戒が必要と思われるが、その後、台風15、16、18、21号等によって何度か大雨に見舞われたにもかかわらず、10月1日現在も更なる大規模崩壊は発生していないようである。

(3)白石地区

 8月1日午後8時ごろ、民家45世帯が集る白石地区の裏山が崩壊し、流下した土石流によって家屋10棟が全半壊した。今回の豪雨によって、最も民家が密集した地域で起こった崩壊であり、家屋への被害が大きい。ところが、幸いにも犠牲者を出さずに済んでいる。これは、崩壊発生前の午後3時頃、裏山の異変(砂利混じりの濁水発生)に気付いた住民がいち早く周辺住民へ連絡し、ほとんどの世帯が自主的に避難したためである。住民独自の判断による自主避難の重要性を示した事例といえる。ただし、崩壊・土石流が発生した際、多くの住民が避難した民家に土砂が押寄せ、別の安全な場所を探して移動したそうであり、災害が発生したときの避難場所の選定についても問題を提起している。

4.まとめ

 今回の災害は、人的被害が最小限に抑えられたため各種報道では あまり大きく取り上げられなかったが、大小さまざまな崩壊が数多く発生しており、 土砂流出量の観点からは、かなり大規模なものであったといえる。 人的被害が少なくすんだのは、(1)被災地域の人口密度が小さい、 (2)民家の密集した地区においては昼間に避難できた、という理由が考えられる。 この災害の直接的な原因は、特殊な地形・気象条件による記録的な豪雨であったことは疑いの余地はないが、 このような豪雨でも崩壊した場所と崩壊しなかった場所があり、 その違いを解明することが重要であると考える。
 調査においては、被災された方々をはじめ各自治体の皆様からご協力を頂き、 (社)砂防学会の災害調査団および 斜面災害研究センター徳島地すべり観測所の皆様にお世話になった。 また、この報告を作成するに当たり、 国土交通省四国地方整備局の方々からご協力を頂いた。ここに謝意を表します。
(水災害研究部門 堤 大三)