平成16年7月福井豪雨災害


はじめに

 6月に2個の台風が上陸し、7月に入ると12日〜13日にかけて新潟・福島豪雨災害が発生、 追い討ちをかけるように5日後の17日〜18日に福井豪雨災害が発生した。 その後、10月までの間に10個の台風が上陸し、各地で風水害が頻発した。 ここでは、7月18日の福井豪雨災害発生直後に現地入りした水災害研究部門の立川助教授、 佐山氏(D2)による速報会(7/22)の結果を受け、7月24日に水資源研究センター (池淵教授、相馬氏(D1))、水災害研究部門(戸田教授)、災害観測実験センター(中川教授、石垣)および技術室(吉田技術員、辰巳技術員)の7名で行った現地調査と、 9月29日〜30日に災害観測実験センター(上野助手、石垣)で行った再調査の結果について報告する。
  17日夜から18日にかけて活発な梅雨前線が北陸地方をゆっくり南下し、 18日朝から昼前にかけて福井県北部を中心に大雨となった。 特に強雨域は、九頭竜川水系日野川の支川である足羽川流域(流域面積:415.6km2、 幹川延長:61.7km)に重なり、下流部の福井(福井市)で最大1時間降水量75mm(8時)、 中流域の美山(美山町)で96mm(6時10分)、上流域の板垣(池田町)で65mm(9時30分)という猛烈な雨が降った。 この5日前に新潟・福島豪雨の発生により水害に対する備えが強化されていたこともあって、 死者・行方不明者は5名に止まったが、住家被害は、全壊66、半壊135、床上浸水4052、床下浸水9675世帯 (福井県土木部9/1現在)に及び、河川・道路等の社会基盤の被害などを含むと1000億円規模の被害であったと言われている(福井新聞8/20)。  
 被災地では道路関係の被害も多く、通行が規制されていたため、多くの被害箇所を調査することは不可能であったが、この水害を特徴づける市街地での外水氾濫地区、河道災害箇所、土砂災害地区の被害状況を把握することができたので、その概要を報告する。

市街地での外水氾濫地区
(福井市内:足羽川左岸春日地区)

 県土木部のまとめによると、河川関係の被害は、決壊2箇所、護岸破損36箇所、越水23箇所、漏水3箇所、閉塞15箇所である(9/1現在)。2箇所の堤防決壊箇所の一つが、この春日地区であり、JR福井駅南約0.9kmの市街地で外水氾濫が発生した。 破堤地点は、日野川との合流点から4.6kmの足羽川左岸であり、下流側には道路橋や鉄道橋など10橋が架橋され、河川改修のために順次架け替え工事が進められていた。  そこに流下能力を上回る洪水が流れ、破堤地点周辺左岸側の12箇所、対岸の3箇所から越水し、洪水ピークを過ぎた13時45分頃左岸堤防が幅約50mにわたって破堤した。  これらの越水・破堤により左右岸で浸水被害が発生し、ビルの地下空間へも浸水した。  浸水深は、洪水痕跡から、破堤地点付近で約1.5m、対岸で約0.7mであった。  その後の県土木部の調査によれば、破堤した左岸側で、南北約1km、東西約2kmの範囲が浸水する被害であった。破堤原因は、 越水による堤防裏法面の侵食と考えられるが、 この周辺に越水箇所が集中した原因など、今後の検討が必要である。

河道災害
(足羽川:一乗谷川合流点付近〜美山間)

 一乗谷川との合流点(左岸)は、足羽川が福井平野に注ぐ谷口にあり、 これより上流の足羽川は、谷底平野を蛇行しながら流れており、 集落は山すその微高地に位置している。 この区間の被害は、谷底平野への氾濫とJR越美北線の橋梁流出で特徴づけられる。 18日の明け方から河川の水位が上昇し、9時半頃にピークとなり、 ほぼ谷底平野全体を洪水が流下した。 地元の人の話によると、 土砂崩れにより道路が通行不能になるとともに浸水が始まり、 洪水・流木・ごみ・車が川、道路の区別なく流れた、という状況であった。 その結果、蛇行部の内岸側氾濫原に土砂や流木が堆積するとともに、 この区間の河道に架かっていたJRの第1〜第7足羽川橋梁の内、5橋梁が流失した。 写真1は、第5足羽川橋梁の橋脚が折れている状況を示したものであり、洪水時の流体力の大きさが窺える。 この区間のJR越美北線は昭和35年12月の開通であり、直接基礎の橋台が多く、 多くの橋脚が転倒するとともに、一部の上部桁は、200〜300m下流まで流されている。 流失しなかった橋でも欄干の損傷が激しく、流木等が引っかかって堰上げられ、橋に過大な力が作用し、 いくつかの橋梁が流失するに至ったものと考えられる。



写真1 JR第5足羽川橋梁の被害状況(手前の橋脚が折れている)


土砂災害
(蔵作地区、浄教寺地区)

 JR美山駅近くの美山橋から約4km上流の足羽川左岸にある集落が蔵作(くらつくり)であり、集落内を蔵作川と稗苗川という小河川が流れ、足羽川に注いでいる。今回の豪雨により、これらの河川が土砂で埋まるとともに川沿いの家々を土砂で埋め尽くした(写真2)。 上流域の谷や側岸の土砂も流出したものと考えられるが、 集落の上流側の河道および側岸はそれほど荒れておらず、その量は多いとは言えない一方、集落周辺の河道沿いの斜面や側岸侵食が激しく(写真3)、 集落付近を発生源とする土砂が氾濫量に占める割合が大きいものであったと考えられる。
 浄教寺地区は剣豪佐々木小次郎ゆかりの地であり、前述した一乗谷川の中流部に位置している。 また、その下流部は、越前朝倉氏が500年にわたり栄華を極めた土地として有名である。 この一乗谷川は、流域面積約17km2、流路延長約6.5kmの小河川であり、 下流部の地形勾配が約1/80、中流部のそれが約1/30という急勾配を有する河川である。 この流域に、18日の午前1:00〜12:00の間に総雨量338mm、午前5:00〜6:00の1時間に 71mmの猛烈な雨が降った(福井県城戸内観測局資料)。 その結果、上流域や側岸を発生源とする土砂や流木を大量に含んだ洪水が 集落内を流下するとともに、側岸を侵食し、周辺に大きな被害を及ぼした。 浄教寺地区を流れる一乗谷川の流下能力は20〜30m3/sであり、 その数倍の流量が流れたと推定されており、川幅や流路が大きく変わった区間がある。



写真2 蔵作地区の土砂氾濫状況
(土砂で埋まり、川が流路を変えて流れている)



写真3 蔵作地区の側岸侵食状況
(蔵作川沿い集落の上流端付近)



おわりに

 わずか数時間に200mm〜300mmの雨が、比較的狭い範囲に集中して降ったために発生した水害であり、記録的な集中豪雨発生のメカニズムとその予測法、これまでの河川整備計画上で想定されていなかった降雨パターンへの対応、外水氾濫と内水氾濫が同時生起する都市水害、土砂の発生源が被災集落に近い土砂災害など、多くの検討すべき課題を顕在化させた災害であった。また、被害状況から判断して人的被害を免れた地区が多かったと考えることができるが、その一つの理由として、5日前に発生した新潟・福島豪雨災害により行政および住民の防災意識が高まっていたことが挙げられる。この災害で得られた経験が今後の対策に活かされることを望んで止まない。最後に、貴重な資料を提供頂いた福井県土木部河川課の方々に謝意を表します。
(災害観測実験センター 石垣泰輔)