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 2.部門・センターの将来構想

2.2 地震災害研究部門


1.部門・センターの目的
 地震が発生し、それが地盤を伝わる過程で増幅し、そして人間の生活空間を直撃して、人的・物的被害を起こすことを地震災害と位置づけ、翻って、地震の発生機構と地盤中の伝搬特性を明らかにすることから強震動を同定し、これら強震動を受けてもなお安全でかつ機能を保持しうる建物や都市基盤諸施設を構築することを地震防災と位置づけている。地震災害研究部門は、地震の発生→地震波の伝搬→強震動の生成→地盤・構造物基礎の動特性→構造物の地震時応答→耐震設計・施工という、地震災害・防災に関わる主要研究課題に対して、理学および工学的アプローチを融合することによって科学的かつ総合的に取り組み、その帰結として地震防災を通じた社会の安寧に貢献することを目的とする。

2.部門・センターの目的の変更必要性の理由と新たな目的
(理由)
 変更する理由を認めない。地震災害とその防災は、21世紀においても地震多発国日本にとって愁眉の課題であることに疑いはなく、また、この課題に対して実効力のある研究を推進するためには、複合・学際的アプローチが不可欠であるという認識が高まるなか、地震災害研究部門が掲げる上記の目的は、これら社会の要請に整合するものと確信している。

3.部門・センターの現在の研究活動に即した目標と達成したい成果等、および、5年程度の中期目標とそれ以上の期間の長期目標
(5年程度の中期目標)
(1) 実地震記録に基づく震源・地下構造のモデル化:強震動記録を用いた、震源インバージョンによる震源の詳細モデル化、震源の物理に関係する動的パラメターの推定、地盤の増幅特性評価と地下構造モデルの高精度化を行う。
(2) 精度の高い強震動予測とモデルパラメターの関係:震源・地下構造モデルに基づく強震動予測において、予測精度を大きく左右するモデルパラメターを抽出し、そのモデルパラメター策定を進める。
(3) 広帯域・高精度強震動予測手法の構築:地震災害に直結する強震動に着目した、広帯域の震源・地下構造モデルに基づく強震動予測手法の枠組み(フレームワーク)を構築する。
(4) 耐震設計用地震動の設定法:強震動予測手法の枠組みに基づいて、散乱による影響、地盤の非一様性、液状化の非線形挙動等を考慮して、耐震設計に直接供しうる高精度な地震動を合成する手法を開発する。
(5) 地盤-構造物系の耐震設計法の開発:土構造物やライフライン施設などの地震時挙動における非線形動的相互作用の影響を解明し、合理的な耐震設計を開発する。
(6) 耐震要素構成部材の力学的特性の改善:より高い強度と変形性能を持つ複合構造部材を開発し、その有効性を実大実験によって検証する
(7) 構造物・部材の強非線形挙動・崩壊の定量化:過大地震下における構造物の応答と崩壊を模擬しうる強非線形挙動解析コードを整備するとともに、その妥当性を完全崩壊に至る実験から検証する。
(8) 地震動を受ける大空間構造の動的挙動予測:大地震時に生じる動座屈現象発生を、構造物と地震動特性の関数として予測する手法を考案する。
(9) 金属系耐震部材の累積損傷度測定技術の提案:動的応答−塑性化−発熱−温度上昇に着目し、温度測定から、金属系耐震構造部材の三次元的塑性挙動に伴う損傷度を評価する技術を提案する。
(10) 新しい免震・制振システムの開発:強震動を受ける構造物の耐震性能を、使用限界、修復限界、安全限界という多元的視点から評価し、より高度な免震・制振システムを開発する。
(11) 既存構造物のヘルスモニタリング技術の開発:新しい計測デバイスを開発するとともに、ロバストかつ高精度なシステム同定手法を開発し、両者の統合による新しいヘルスモニタリング技術を構築する。
(12) 履歴ダンパーを用いた耐震補強技術の開発:履歴ダンパーが有するエネルギー消費効率の高さに着目して、既存中小構造物に対する簡便かつ経済的な耐震補強技術を開発する。

(10年程度の長期目標)
 空間的・時間的分布を考慮した高精度強震動予測手法の洗練と、表層地盤や地盤−構造物連成の影響による地震動増減幅特性の定量化を通じて、建物や都市基盤施設に作用する入力地震動とその地震応答特性を適確に把握し、安全性、損傷性、機能性等の多段階性能要求に応えうる耐震設計・施工法を構築する。

4.部門・センターの目標を達成する上で、現在の分野・領域構成は適切かどうか。変更する場合の理由と構成
 5年程度の中期目標は、主として部門内各分野とそれらを総合した部門としての共同研究によって遂行されるものであり、分野構成を変える必要を認めない。これらの研究を促進するためには、現有常勤教官に加えて、4名(各分野1名)程度の非常勤研究者(例えばポスドク研究員)を恒常的に確保し、研究活動の継続的な活性化を図りたい。
 今後防災研究所で積極的に展開されることが予想される「防災に関するプロジェクト研究」については、プロジェクト内容に即した非常勤研究者(ポスドク研究員)を雇用するとともに、分野間の流動的定員配置を視野にいれた柔軟な対応をめざしたい。

5.部門・センターの目標を達成する上で、現構成メンバーの専門分野でカバー可能か。不可能な場合に新たに必要な専門分野
 前項にあげた目標は、原則として現有常勤教官の専門分野でカバーできる。これはむしろ、現有常勤教官が主体的に取り組んでいる研究内容を目標として設定した側面もある。
地震学・工学を取り巻く環境の変遷に照らしあわせれば、今後インフォマティクス(情報学)に関する研究ジャンルの充実が望まれる。情報学に基礎をおく応用数理を専門とする新しい血の導入を模索したい。

6.部門・センター内での大講座的運営の実態
大講座的運営のメリットとデメリット
 大講座的運営形式をとっている。部門会議を月1回開催し、共通経費の扱い等も含み部門運営に関する意見調整を恒常的に実施している。また、互いの研究に関する情報共有も身近なものとなり、分野を超えた講習会やゼミも行っている。これらはいずれも、小講座的運営形態に比べ、社会に還元されるべき研究がより融合的で実際的なものとなる潜在的メリットを形成している。部門全体としての共同研究への機運も高まり、現在当部門が共有している強震観測ネットワークを活用したプロジェクト研究を発案している。
 大講座的運営のデメリットはない。

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