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4.8.2 研究領域の活動概要

T.火山噴火予知研究領域

教授 石原和弘、助教授 井口正人、
助手 西 潔(〜平成13年)、味喜大介、山本圭吾、神田 径、為栗 健(平成13年〜)
非常勤講師 宇都浩三(平成10〜12年度)
小屋口剛博(平成13年度〜)

@領域の研究対象
 平成12〜13年度に研究対象とした火山は、桜島・姶良カルデラ、開聞岳、薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島、有珠山、岩手山、雲仙岳、グントール山、メラピ山である。

A現在の主な研究テーマ
(1)桜島火山の爆発地震発生過程(為栗  健、井口正人、石原和弘、小屋口剛博)
目的:いわゆるブルカノ式噴火のこれまでの研究で、火口底での爆発(衝撃波の発生、火山弾・火山ガスの突発的噴出)の直前約1秒前に火口直下、1〜2kmで爆発地震が発生すること、爆発直前には火口浅部にガス溜りが生成していることが推定されている。これらの現象と爆発地震の関係を定量的に明らかにすることにより、火山爆発のメカニズムの理解の進展を目指す。
方法:桜島の周囲に広帯域地震計を配置して、得られた波形記録を解析して、爆発地震の震源パラメータを決定する。そのパラメータと他の観測データと比較して、爆発地震と爆発現象の関係を明らかにする。
成果概要:爆発地震の初動の立ち上がりから約1.5秒間の振動は実体波であり、それに引き続く長周期の主要動はレーレー波であることを明らかにした。その上で、波形解析により、初動部分は火口の直下2km付近での小さな等方的膨張と引き続く円筒状のより大きな収縮によって励起されていることを明らかにした。一方、主要動は火口浅部0.5km付近での等方的膨張と水平方向の収縮によって引き起こされ、膨張部の地震モーメントは爆発空振波の振幅と強い相関関係を示すことを確認し、火口浅部に形成されるガス溜りの破裂に対応することを明らかにした。

(2)水蒸気爆発の発生場 (石原和弘、井口正人、味喜大介、山本圭吾、神田径、為栗 健)
目的:雌阿寒岳、鳥海山、草津白根山、焼岳など全国の火山で頻繁に発生する水蒸気爆発については、有珠山、三宅島、桜島などのマグマが関与する噴火と異なり前兆が微弱であるので、その発生機構の理解や発生予測手法の研究はほとんどなされていない。歴史時代繰り返して水蒸気爆発を発生し、近い将来に噴火発生の可能性の高い口永良部島をテストフィールドとして、水蒸気爆発の発生場を解明し、その発生予測手法の開発と発生機構の解明を目指す。
方法:活動火口を中心に山頂から山腹にかけての地域に地震、地殻変動、地磁気等の観測点を設置するとともに、地熱、磁化構造等の調査を実施して、火山体内部の物理的状態とその変動を評価して、水蒸気爆発のエネルギー蓄積場を推定する。 成果概要:活動火口の東縁部の地下浅部に磁性の弱い領域があること、その付近の地下1km付近に地殻変動の力源が求まること、更に火山性地震のほとんどは山頂直下の0.5km以浅で発生することが明らかになった。更に、2001年以降山頂火口の下で熱消磁に起因すると推定される地磁気変化が観測が観測された。以上の結果から、山頂火口の東側の地下1〜2km付近に、水蒸気爆発発生に関わるエネルギー蓄積場が存在することが推定される。

(3)桜島・姶良カルデラのマグマ蓄積・貫入過程(山本圭吾、石原和弘、井口正人、味喜大介)
目的:活火山のマグマ供給系とマグマ蓄積・貫入過程の解明は、火山学の根本問題であるとともに、噴火の長期予測および噴火規模の予測の観点から火山防災にとっても最重要課題である。これまでの研究により姶良カルデラ直下と桜島直下にマグマ溜りの存在が明らかになっている。マグマ蓄積状況とカルデラから桜島へのマグマ貫入過程を解明することを目的とする。
方法:水準測量、GPS、傾斜計、潮位等の地殻変動観測、噴出物量の調査および重力測定を実施して、地殻変動および重力変化からマグマ蓄積状況および貫入過程を評価する。また、マグマ貫入に伴う微小な重力変化の検出手法を開発する。
成果概要:地殻変動データと噴出物量データの解析から、姶良カルデラへのマグマ供給率は、従来考えられていた定常的なものではなく、数年の時間スケールで変動していること、また、1914年の大規模噴火直前のマグマ蓄積レベルの8割程度まで回復していることが明らかになった。また、絶対重力の連続測定データと潮汐データを用いて、重力変化に及ぼす海洋潮汐の影響を厳密に評価する方法を開発して、マグマ貫入等に伴う数μgalの重力変化を検出することができることを示した。

(4)火山体の3次元地震波速度構造の解析(西  潔、山本圭吾、井口正人)
目的:火山体は地震波速度など物性の異なるさまざまな噴出物や貫入岩で構成されていて、噴火様式や噴火発生場所などの予測にとって、また、火山性地震の震源を精密に決定する上で、火山体の3次元速度構造を精密に決める手法の開発が必要である。従来の地震波トモグラフィー手法は、速度異常のコントラストの強い火山地域の構造解析には向かないので新たな手法を開発する。
方法:火山体の地下構造をグリッドに分割し、それぞれに任意の速度パラメータを与え、フェルマーの原理に従った精密な波線を求める方法を開発し、構造探査等で得られた観測値を用いて、逆問題としてグリッドに与えるべき速度パラメータを決定する。この手法を実際の観測データ解析に使用して、火山体の3次元速度構造を求める。
成果概要:上記の方法を開発して、雲仙岳、阿蘇山、霧島山の観測データ解析に使用して、それぞれの火山の3km以浅の3次元速度構造を決定し、地震波速度異常域が、火山性地震の震源域や地殻変動から推定された浅部マグマ溜りに対応することを明らかにした。また、従来のトモグラフィーに比べて、速度構造の分解能が優れていることをシミュレーションと実際のデータで検証した。更に、この手法を用いて、南九州の火山深部構造解析に適用して、活火山およびカルデラ地域の5〜20kmにP波低速度域が存在すること、また、深部には沈み込みスラブに対応した高速度が存在することを見出した。

(5)火山体浅部の電磁気学的研究  (神田  径)
目的:火山体浅部の熱的状態や熱水活動の状況を把握・評価することは、火山の噴火様式、噴火地点の予測にとって重要であるばかりでなく、静穏期の長い火山での噴火発生の可能性、すなわち、噴火ポテンシャル評価にとって重要である。電磁気学的手法を用いて、このような課題の解決に取り組む。
方法:活動様式や活動度の異なる火山で、自然電位測定、大地比抵抗、地温測定等を実施して、火山体内部の熱水活動を評価する。また、空中磁気測量、地磁気観測等を実施して、磁化構造や地磁気変化から地下の熱的状態やその変化を評価する。
成果概要:活発な噴火活動が続いている諏訪之瀬島では、現在の活動火口のみならず、南西方向の尾根に沿って過去の活動火口につらなる地域の地下に現在も活発な熱水活動が存在すること、一方、薩摩硫黄島では、千年以上にわたり火山ガス放出を続けている硫黄岳山頂部の中腹以上にのみ自然電位異常が認められ、浅部まで上昇している高粘性のマグマによって活発な熱水活動が生じていることが判明した。他方、1200年間活動を休止している開聞岳でも、山頂部で自然電位異常が認められ、1200年前に噴出した溶岩による弱い熱水活動が存在することが推定された。口永良部島では、ヘリコプターを使用した低高度での空中磁気測量を実施して、データ解析から活動火口から東山腹にかけての地下浅部に高温度を反映した磁化の弱い領域が存在することが明らかになった。

(6)南九州の火山活動史の復元(味喜大介、石原和弘、宇都浩三)
目的:近年の雲仙普賢岳や三宅島の事例からわかるように、歴史時代の噴火活動とは様相が大きく異なる噴火が頻繁に発生する。数万年の時間スケールで噴火様式、噴火発生地点の推移等を明らかにして、噴火ポテンシャルの評価など火山噴火予知の高度化に資することを目的とする。
方法:桜島、姶良カルデラ等の南九州の溶岩を採取して、古い年代の試料はK-Ar法で、数万年より新しい年代の試料は古地磁気学的手法を用いて、年代測定を行い、火山活動の推移を明らかにする。
成果概要:姶良カルデラでは、活動域と溶岩の性質が過去100万年の間に変化していることを明らかにした。特に、約22,000年のカルデラ形成を伴った巨大噴火の数千年前に、20km以上はなれたカルデラ北部と南東部でほぼ同時に性質の類似した溶岩流出活動があったことが明らかになったことは、巨大噴火の発生機構、マグマ溜りの形成時期を考察する上で重要な知見である。桜島では、年代不詳であった3つの溶岩流の年代同定を行い、それらが4千年以内に流出したものであることが判明した。また、口永良部島は西山麓を広く覆う3枚の溶岩流がいずれも8世紀に流出したことを明らかにし、同火山では水蒸気爆発のみならず、溶岩流出を含むマグマ噴火発生の可能性もあることを示した。

(7)島弧火山の噴火機構の比較研究(井口正人、石原和弘、為栗 健、山本圭吾)
目的:マグマ供給系や噴火機構の研究がもっとも進んでいる桜島火山の経験と成果を踏まえて、他の火山の各種観測データを比較検討し、島孤火山の噴火機構の解明と噴火予知手法の開発・確立を目指す。
方法:霧島火山帯に属する桜島〜諏訪之瀬島にいたる諸火山において地震等の連続観測、インドネシアではメラピ山やグントール山等でインドネシア火山調査所との共同観測を実施して、蓄積されたデータや各種の実験的観測データを分析して、噴火機構や噴火の前兆過程の比較研究を実施する。
成果概要:山頂火口で、継続的に爆発的噴火活動を繰り返す諏訪之瀬島およびスメル山では、活動の高まりに先立ち震源がやや深く高周波振動が卓越するA型地震が増加し、次に震源の浅いB型地震が多発・群発するという桜島と同様の経過をたどることが明らかになった。溶岩ドーム崩落による火砕流を頻発するメラピ山では、静穏期から活動期に入る時期には、桜島同様にA型地震が増加し、次にB型地震が増加するが、いったん活動期に入ると溶岩の噴出に伴う低周波地震(MP型)が頻発し、火砕流発生にいたる。MP型地震は、桜島で微弱な空振を伴い火口に溶岩が上昇する際に群発するBL型地震に相当すると考えられ、噴火様式は異なるが、本質的には、類似のプロセスを経て噴火にいたることがわかった。また、同火山で、日・米・インドネシアが共同して実施してきた山頂周辺での傾斜の多点観測により、顕著な火砕流噴火や爆発に数ヶ月先立ち、山頂直下の深部から浅部へ地殻変動の圧力源が上昇する現象が数例とらえられた。また、静穏期の長いグントール山では口永良部島と同様に地震活動等の高まりに対応して、山頂直下約2kmの領域で圧力増加する現象が地殻変動観測で捉えられた。

(8)集中総合観測・火山体構造探査(石原和弘、井口正人、味喜大介、山本圭吾、神田  径、為栗 健:全国共同研究)
目的:火山噴火予知計画の全国共同研究事業である。集中総合観測は、火山活動の総合的な把握と活動レベルの評価を主目的としていて、活動時の観測データの評価の基礎資料となる。火山体構造探査は、火山体浅部の3次元的地震波速度構造や電気比抵抗構造の解明を目的としている。平成12、13年度の対象火山は表に示した通りである。雲仙岳の集中総合観測には、井口助教授がGPS観測、神田助手が電磁気観測に技術職員および大学院学生を伴って参加した。また、岩手山および有珠山の構造探査には、山本助手が大学院学生を伴って参加した。

年度集中総合観測火山体構造探査
平成12年度薩摩硫黄島・
 口永良部島
岩手山
平成13年度雲仙岳有珠山

当センターが、研究観測計画の立案、実施および研究成果の取りまとめに当たった薩摩硫黄島・口永良部島火山の集中総合観測について概要を述べる。
方法:全国11大学、産業技術総合研究所およびインドネシア火山調査所から40人が参加して、鹿児島県、関係町村の協力を得て、地震、地盤変動、地磁気、空中磁気測量、空中熱測定、火山ガス・温泉、地下水、噴出物等の総合的な調査を実施した。

成果概要:
薩摩硫黄島:1996年頃をピークとする火山灰放出、M2.9の地震発生を含む硫黄岳の火山活動は順次低下傾向にある。放出された火山灰は新鮮なマグマ物質を含んでいない。また、30年間の二酸化硫黄放出率は約500トン/日、平均的な地震放出エネルギーは1014erg/yearのオーダーであり、1996年前後で顕著な変動は認められない。また、放出火山灰や火山ガスの組成の分析から、硫黄岳のマグマ活動に顕著な変化はないと結論された。
口永良部島:地震活動、地殻変動、地磁気変化、火山体の磁化構造から、水蒸気爆発のエネルギー蓄積場は、新岳の東斜面の地下1km付近にあることがわかった。また、浅部地震活動、地殻変動および地磁気変化から、浅部で噴火エネルギーの蓄積が進行していることが確認された。また、火山灰や溶岩の調査から、8世紀に溶岩流出を伴う活動があったこと、古岳でも歴史時代に噴火活動があったことが判明した。

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