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4.7.2 研究領域の活動概要

Y.地震予知情報研究領域

教授 古澤 保、助教授 松村一男
助手 森井 亙


@領域の研究対象
地震予知に関するさまざまの項目の観測データを効率よく解析処理するシステムの開発と、地震予知に有意となり得る情報の検出と前兆現象として判定する方法の開発、さらに、得られた情報を地震防災に役立つように関係諸機関に迅速に伝達するシステムの研究

A現在の主な研究テーマ
1)各種データの集録・処理システムの開発に関する研究
2)地殻変動・地震活動の観測データの多変数時系列解析による地殻歪場の時空間変化に関する研究
3)前兆現象の事例の収集と地震予知情報のデータ・ベースの構築
4)連続データからの異常変化の抽出と評価に関する研究

B各研究テーマ名
(1)地震波形記録と一次処理データとしての震源情報のデータベース化とその効率的検索システムの構築            (松村一男)
 地震データの伝送方法が従来の電話線利用の有線テレメータ方式から衛星通信利用のシステムに切り替えられ、それに伴う集録システムの大幅な変更とそれに適合するデータ処理システムの構築を行った。関係する観測所及び総合処理室との密接な協力の下に、従来各観測所別に独自に行っていた地震データの解析処理を一元化することにより地震活動に関するデータ処理の効率化と統合処理による震源決定の高精度化を実現することができた。
  長期間にわたる地震の研究には、最近のディジタル記録だけでなく、長期間観測されてきたアナログ地震波形記録も有用である。平成10年度より、上宝観測所の地震波形記録を用いてアナログ地震波形を高速でAD変換し、そのファイルから、個々の地震を取り出すソフトを開発し、WINフォーマットのデータベースを作成した。平成14年度からは、法理区観測所および鳥取観測所の地震波形記録のディジタル化を開始した。
 微小地震統合ファイル(THANKS)の追加は平成12年のデータまでで終了し、平成14年度からは各観測所で作成されてきた地震検測データの、統合処理を始めた。

(2)地殻変動連続観測データの一元的データベースの構築と統合処理   (古澤 保、森井 亙)
これまで各観測所での個別のデータ解析による降雨・気圧等の影響を明らかにして観測点固有の擾乱を除去した局所的地殻歪変動の把握に留まっていたのを、一元的データベースを構築して統合処理を行うよう改良した。
森井は、気圧変化による観測坑道内気温の変化について、気圧―温度変換特性を明らかにし、気圧計記録を用いた坑内気温の変化による伸縮計記録のより高精度の補正方法を開発した。
30分間隔のデータベース化されている伸縮計連続記録を用いて、天ヶ瀬観測室、日向灘総合観測線各観測点の地球潮汐歪の解析を行い、理論潮汐と比較した。

(3)定常連続観測からの予知情報の抽出(古澤 保、松村一男)
 大地震前後の地震活動の時空間変化を量的に捉え、大地震発生の予知情報としての有為性を検討するための試みとして、微小地震統合ファイルをもとに中国地方東部―近畿地方西部地域について兵庫県南部地震前後の地震活動の時系列と空間分布に基き、b値の時間変化の地域の地殻応力変化に対する量としての可能性、発生した大地震によるせん断応力の増加量と摩擦応力の増加量との差僂FFの有効性を検討し、ある程度までの有効性を示した。また、山陰地方の地震活動の時間空間的変動の特徴について調べ、その中で、地震のマグニチュード別頻度分布曲線の変動が、少し大きめの地震の活動に関連があることを指摘した。
 1966年10月と12月に日向灘で45日の間隔で連続して発生したM6.6の地震を含む期間について、日向灘地殻活動総合観測線で得られたデータの長期変動の解析では、震源に最も近い宮崎観測所の伸縮歪に1995年4月頃から1976年の観測開始以来の経年変化と異なる変動が現れており、観測線各観測点の記録について相関解析を行った結果、この変動が日向灘から九州内陸部へ向かって、東から西へ90-140km/年の速度で伝播していることが示された。現在の観測網による前兆現象の検出可能性の検討は地震予知研究の大きな課題でもあり、本研究領域の重要課題として推進する必要がある。

(4)データ収録システムとスペクトル解析の新方法の開発            (森井 亙)
 天ヶ瀬観測室の観測機器の性能(動帯域・最小分解能・周波数応答特性)に対応できるよう、従来のテレメータによる収録システムに替わる計算機制御方式の新データ収録システムを開発した。
特定の周波数成分の信号強度の時間的変動を検出する方法として、計算機上でAM受信機のエミュレートを行う手法を開発した。この方法では、信号強度の時間変化は狭帯域フィルターとPLL回路に相当する信号処理により推定される。フーリエ変換、MEMと比較した結果、ラインスペクトルの強度変化に対しより良い時間分解能を持つことが分かった。
 この方法を天ヶ瀬観測室の伸縮計の1年間の連続記録に適用して解析した結果、地球の常時自由振動の日周変化を検出することが出来た。

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