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4.7.2 研究領域の活動概要

X.地震予知計測研究領域

教授 大志万 直人(平成13年3月地震予知計測研究領域助教授より)
助教授 西上 欽也(平成13年10月巨大災害研究センター助教授より)
助手 徐 培亮


@領域の研究対象
 当研究領域は、設立当初から、地震の短期予知を目指して、前兆現象発現機構の解明や計測技術の向上を目的としてきた。最近は特に、地震断層や活断層周辺およびその直下深部での精密な構造の把握と断層破砕帯のさまざまな特性に関する観測・研究を重点的に行ってきている。そのためには地震学的な手法にとどまらず測地学的手法、地球電磁気学的手法、地球化学的な手法と幅広いアプローチの研究を行ってきている。
 特に当研究領域では、1995年兵庫県南部地震の発生後に淡路島の野島断層の南端部分で掘削された500m、800m、および1700m孔を用いた観測施設(野島断層観測室)を使用し、注水試験をはじめとするさまざまの全国共同的な野外実験・観測をもとにした研究を実施している。

A現在の主な研究テーマ
 当研究領域の平成12年度と13年度の主な研究課題を列挙すれば以下のようなものがある。
1)断層の回復過程の研究
2)地殻流体の検出に関する基礎的観測研究
3)地殻活動に伴う局所的地磁気変化の検出とその発現機構に関する研究
4)観測データの解析・評価に関する理論的基礎研究

B各研究テーマ
(1)断層の回復過程の研究(大志万直人、西上欽也ほか)
 断層の回復過程を調べるため、野島断層の1700m孔からの第2回注水実験を全国共同研究として2000年1〜3月の期間に実施した。800m孔からの湧水量の変化から推定された岩盤の透水性の時間変化や、地表での流動電位観測から推定した透水性に関するパラメータの時間変化から断層が回復していることが推定された。また、注水実験期間中と、実験終了後も観測を継続した、高精度のボアホール地震波形を用いた注水誘発地震の発生過程の推定を行った。また、高感度比抵抗変化計を用いた注水実験に伴う比抵抗変化の観測では、注水に伴う比抵抗の増加を検出し、これは注水に伴う応力変化により説明できることが示された。

(2)断層トラップ波を用いた断層破砕帯構造の精密把握        (西上欽也ほか)
 野島断層、茂住・祐延断層、および鳥取県西部地震の震源断層において断層トラップ波を検出し、断層破砕帯構造の推定を行うと共に、跡津川断層のクリープ/固着セグメントの地震学的特性の解明を目指した観測研究を開始した。

(3)トルコ北アナトリア断層西部域での断層構造の調査     (大志万直人、西上欽也ほか)
 平成12〜13年度も東京工業大学、ボアジチ大学などと共同して、トルコ・北アナトリア断層西部域において調査研究を継続した。広帯域MT法による断層帯およびその周辺の深部比抵抗構造調査を、1999年イズミット地震の地震断層に関してイズミットの西側部分では2観測線に沿って、また、イズミット地震の地震断層のさらに西側延長部の地域内でも2観測線に沿って実施した。また、イズミット地震の地震断層の東側地域で断層トラップ波の観測を行い断層は妻帯構造の推定を行った。

(4)山陰地域での地殻深部比抵抗構造探査           (大志万直人ほか)
 地殻の比抵抗構造は、地震の発生に重要な役割を果たすと考えられている地殻内流体(水)の分布を把握するために重要な情報をもたらす。平成12年度と13年度は、鳥取県西部地震震源域周辺、兵庫県北部、大山周辺での比抵抗構造調査のための広帯域MT観測を鳥取大学などと共同で実施した。鳥取県西部地震震源域周辺での比抵抗構造調査では、TMモードの見掛け比抵抗と位相情報を元にした2次元構造解析の結果から、本震含む余震発生域直下の比較的深部に低抵抗領域が存在している事が明らかになった。2000年鳥取県西部地震合同稠密余震観測による余震分布や、1989、1990、1997年の群発的活動の震源分布を、求められた比抵抗構造と比較すると、1989、1990、1997年の群発的活動は主に高比抵抗領域で発生しており、西部地震の余震の震源は低比抵抗領域と高比抵抗領域の境界付近から高比抵抗領域側に位置している事が明らかになった。
 これまでに行われた比抵抗構造調査の結果と合わせて、山陰地域では、上部に地震発生領域を持つ地殻下部と、地震発生域(現時点で微小地震活動が見られない領域)を持たない地殻下部とでは大きな違いのある事が分かってきた。地震発生領域がある場合、その地殻の下部には低比抵抗領域が存在し、そうでない場合には低比抵抗領域が存在していない。そして、大山など火山では地殻浅部に低比抵抗領域が存在している。

(5)全磁力連続観測の実施  (大志万直人ほか)
 日本全国の全磁力連続観測データをもとに、日本全体をカバーする標準地磁気経年変化モデル(JGRFモデル)の作成についての基礎的検討を継続した。また、このモデルの基礎となるデータ取得のため、北淡町、鳥取、宇治、峰山、鯖江、天生、宝立で全磁力連続観測を継続した。また、地殻活動に伴う局所的地磁気変化検出のため、伊東市周辺での地磁気全磁力の連続観測を継続した。

(6)ネットワークMT法による広域比抵抗分布マッピング         (大志万直人ほか)
 東京大学地震研究所、神戸大学、高知大学、鳥取大学と共同でNTTメタリック線を利用した長基線電場観測を、島根県、広島県、紀伊半島内で順次実施した。また、このような観測データをもとにした比抵抗構造モデル解析にも応用できる、グローバル・インダクション・シミュレータの開発を行い、その評価検討も行った。

(7)観測データの解析・評価に関する理論的基礎研究               (徐 培亮)
 衛星重力データを用い、逆問題の理論・重力場・理論測地学に関する一般的な数学モデルの研究を行った。また、日本での百年間の測地学的データを用いて、地殻変動の解析を行った。誤差が大きいことやscaling と rotation の問題もあり、関東地方に限定した解析をおこなった。また、地球科学で用いられるテンソルは観測データから決定されるが、そのようなテンソルはstochasticな性質を持つ。そこで、random tensorに関しての研究を行った。この研究の応用としては、地震のdynamical simulationの 際の断層stochastic modelに応用できる。さらに、精密衛星測位(GPS)に関する統計学的研究を行った。GPS精密測地のためにはGPS integer ambiguityを正しく決定しなければならないが、このために新しいモデルをたてて研究を行った。

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