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4.7.2 研究領域の活動概要

T.地震テクトニクス研究領域

教授 橋本学(平成13年5月1日助教授より)
    助手 吉井弘治(平成13年10月1日〜)


@領域の研究対象
世界地図を見ると地震が発生する場所は限られている。地震はどこにでも起こるわけでなく、特別な条件が成り立つ所にのみ起こる、“珍しい”現象と言える。地震は、どのような場所、どのような条件のもとで起こるのか、地球の内部構造やダイナミックスと関連づけて研究するのが、地震テクトニクス領域の研究目標である。したがって、地球内部の構造から地殻変動およびこれらの理論・モデル・観測・解析手法の開発にいたるまで、地震に関連するテーマはすべてが本領域に関連するものである。

A現在の主な研究テーマ
1)日本列島の変動とプレート運動
2)南海トラフ巨大地震の発生の準備過程
3)内陸活断層の変動パターンの研究

B各研究テーマ名
(1)日本列島の変動とプレート運動(橋本 学)
日本列島はプレート境界に取り囲まれている。この境界は海洋プレートが大陸プレートに沈み込む境界である。駿河湾から東海、四国沖、九州沖ではフィリピン海プレートが沈み込む。このうちでも、南海トラフと呼ばれる沈み込み帯は、巨大地震を引き起こすことが知られている。また、これらプレート運動による応カにより、内陸部に歪が蓄積し、内陸地震発生の遠因となっていると考えられている。したがって、日本列島全域の変動とこれを取り巻くプレートの運動の解明は、地震予知あるいは地震発生危険度評価にとって不可の課題である。このため、全国の大学の地震観測網、気象庁、科学技術庁強震ネット等の地震観測データ、国土地理院のGPS連続観測データ等の公開データ、さらには独自の観測データに基づき、日本列島とその周辺で発生する地震のメカニズム、日本列島のブロック構造とその運動の推定、及ぴ、これらとプレート運動との関連、などに関する研究を行い、日本列島における歪の集中帯とその歪速度を推定した。さらに、この間発生した鳥取県西部地震については、緊急GPS観測を実施し、その余効変動を観測した。観測結果から余効変動は震源断層の地殻浅部延長部でのすべりにより生じていることを明らかにした。また、平成と明治の芸予地震について、地殻変動データから断層モデルを推定した。

(2)南海トラフ巨大地震の発生の準備過程(橋本 学)
南海トラフにおいて、最近では1944年東南海地震、1946年南海地震と歴史的に数多くの地震が発生している。次の南海トラフ沿いの地震の予知のために、この巨大地震へ至る準備過程を観測およぴシミュレーションを通して理解する必要がある。一方、プレート境界のカップリング状態と内陸の地震の発生が関連を持つことは歴史資料から知られており、巨大地震による内陸の応力の変化から内陸地震の発生との関連を追跡することも重要である。このため、国土地理院により配備されたGPS連続観測網の公開データ等を使用して、南海トラフのプレート境界断層におけるプレート間カップリング及ぴその時間的な変化の推定、さらにこれらの結果に基づいた応力の時間変化のシミュレーション、等の研究を行い、特にその空間変化を明らかにした。また、推定されたカップリングの状態から内陸の応力変化を見積もり、多様な地震活動が生じることを示した。さらに詳細なカップリングの状況を調べるため、平成12年度に紀伊半島ヒンジラインを南北に横切るGPSトラバース測線を2本設け、観測を繰り返している。1年間の観測で、プレート運動に伴うと考えられる変位を検出している。今後もこれを繰り返し、精度を挙げることにより詳細なカップリングの状態を明らかにしていく。

(3)内陸活断層の変動パターンの研究(橋本 学)
内陸活断層は内陸地震の震源域となるため、この運動様式を明らかにすることが重要である。すなわち、活断層がどの程度固着して歪を蓄積しているのか、固着している領域はどのあたり、特に深さ方向、を知る必要がある。このため、高密度のGPS観測により内陸活断層周辺の変動様式を明らかにする観測を、中央構造線及び山崎断層で行っている。固着領域の深さは、断層に直交する方向の変位の分布により推定することが可能である。そこで、全国の研究者との共同研究により、上記の活断層を直交して横切るようにGPS観測点を配置して、繰り返し観測することにより変位の分布を明らかにする試みを実施している。中央構造線では、北に傾き下がる固着面の存在が推定されている。山崎断層についても、同様に北に傾斜する断層延長部が推定されるまでデータが蓄積してきたが、すべり速度が遅いため解像度が低く、今後も継続し、長期のデータを蓄積していく。
 なお、吉井弘治は平成12年度南極越冬隊員として、昭和基地にて地震観測、重力観測等に従事している。

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