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4.6.2 研究領域の活動概要

T.災害水象観測実験領域

教授 今本博健(平成13年3月退官)
教授 中川 一(平成13年10月水災害研究部門土砂流出災害研究分野助教授より)
助教授 石垣泰輔、助手 上野鉄男、武藤裕則、馬場康之
非常勤講師 名合宏之(平成12年度)、大年邦雄
(平成12〜13年度)、綾 史郎(平成13年度)
研究担当 藤原建紀(平成12〜13年度)牛島 省(平成13年度)

@領域の研究対象
豪雨による洪水・土砂災害、台風による高潮災害、および地震による津波災害などのいわゆる水災害の発生機構及び被害の防止・軽減方法について、観測・水理模型実験・数値実験の手法を用いた研究を行っている。水理学および水工学に係わる現象に関する基礎的な研究、および防災施設の自然環境や生態系との調和を目指した応用的な研究を進めている。この領域では宇治川オープンラボラトリー(宇治川水理実験所)において種々の水路、平面水槽を用いて種々の流れに関する基礎実験を行うとともに、宇治川を対象として実際の河川の流れや物質移動の観測を行っている。また、現象をより深く理解し、そのモデル化を図って現象の再現および予測を行うため、水理現象に関する数値モデルの開発も行っている。

A現在の主な研究テーマ
1)洪水流の特性および河道変動特性に関する研究
2)湾域、河口および沿岸域の水理現象に関する研究
3)水理現象に関する模型実験法および数値シミュレーション手法に関する研究
4)水理構造物の防災機能に関する研究
5)水理環境保全工の機能に関する研究

B各研究テーマ名
(1)洪水流の3次元構造とその作用
 流れの構造は境界形状により異なるため、直線長方形断面水路、直線台形断面水路、直線複断面水路、複断面蛇行水路を対象に、流れの構造を検討する方法として、速度計測、水位計測、流況の可視化を、流れの作用を検討する方法として、壁面せん断力分布の計測、圧力分布の計測、河床形状の計測、可視化法を用いている。得られた流速分布、2次流の分布、渦構造や2次流の可視化結果などから、固定床における直線水路および複断面蛇行水路における流れの三次元構造、流れの構造と壁面せん断力分布との関係、流れと河床形状との関係などについて多くの知見が得られている。現在、洪水時の流れの構造およびその作用と護岸・堤防災害との関係、および環境と調和した河道計画の基礎資料を得るため、環境保全工が設置された場合、高水敷上に樹木やワンドなどがある場合など、より複雑な境界条件での洪水時の流れとその作用について検討を行っている。

(2)氾濫水理と遊水の水理
 最近、土地利用も考慮して河川の特性に応じた流域対策を検討し、霞堤や遊水地による洪水の氾濫も考えるという治水方式が提案された。このような氾濫を伴う場合の治水対策を具体化するためには現地調査による洪水の実態の把握と実験的検討が重要である。このため、1998年8月に発生した余笹川の超過洪水による災害の実態を調査し、典型的な水理現象を見つけ出して、実験的に検討する研究が進められている。さらに霞堤や水害防備林によって洪水を遊水させる治水方式がとられている桂川(亀岡)や由良川(福知山周辺)を対象として、洪水時の水理の調査、洪水時の流況観測、これらの結果に基づく洪水遊水時の水理の実験的検討を行って洪水氾濫・遊水の水理現象を明らかにするとともに、これらの伝統的な水害対策の効果についても検討しようとしている。これらの研究によって、氾濫を伴う洪水に対しても、トータルの被害が小さく、総合的な安全性が高まるような治水対策の具体化へと繋がることが期待される。

(3)土砂移動現象に関する観測実験
 流砂の時空間的な不均衡から様々な土砂災害が発生する。山地域では豪雨、火山活動、地震が誘因となって土石流、火砕流泥流、斜面崩壊といった急激な土砂の生産と移動が生じ、一方で砂防ダムや貯水池の堆砂、河岸侵食、橋脚周りの局所洗掘などの比較的緩慢な土砂移動現象も生じて災害を惹起する。これらの土砂移動現象が発生する機構を観測と実験で明らかにするとともに、現象のモデル化を図り、数値シミュレーションによる土砂移動現象の予測および土砂災害防止のための有効な対策方法などについても研究している。宇治川オープンラボラトリー内の大型水路(幅7.5m、長さ243m、深さ1.5m)を用いた舟運のための航路維持に関する移動床水理模型実験(幾何縮尺1/70、粒径0.6mm、比重1.37の石炭粉を使用)では、現況の河床形態の再現性を確かめた上で、水制による航路維持の可能性について検討している。また、土砂災害に関して、砂防施設配置の効果を検討するために、渓流における土砂流出予測法および土砂流出制御法や扇状地上での土砂氾濫・堆積に関する数値シミュレーション法についても研究を行っている。

(4)沿岸域における流動の解析
 沿岸域は人間活動と密接に関連する水域であり、常に高い関心を集めている。この水域における流動は風波密度、さらには地球自転の効果など数多くの要因の影響が、大気・海底・陸岸・海洋の4つの境界に囲まれた領域に作用する結果、非常に複雑な様相を呈する。本研究領域では、沿岸環境の保全、海岸災害の防止・軽減の観点から、実験的、数値解析的研究、または現地観測手法を用いて、沿岸域の流動場に関する研究を行っている。例えば、宇治川オープンラボラトリー内にある大規模水理模型(大阪湾水理模型:水平縮尺1/5000、鉛直縮尺1/500)を用いた可視化実験では、大阪湾内の潮流および明石海峡から流入する水塊の挙動に関する実験結果は、観測衛星、現地観測結果等より、その妥当性が確かめられた。また、豪雨による斜面崩壊あるいは河岸侵食で大量に流木が生産され、これが河道を流下して湾域に流出し、船舶の航行、魚介類の養殖、港湾機能等に多大の被害を発生させるという、いわゆる流木災害についても研究を行っている。例えば、流木の挙動に関し、風域場を考慮した潮流場のオイラー的解析法と流木群のラグランジュ的挙動解析法とをカップリングした数値シミュレーション手法を開発している。本手法を実際の場に適用し、流木群の挙動がうまく再現されることを確認している。

(5)河川環境の保全に関する研究
 水域環境を保全または改善し良好な状態で次代に受け渡すことは、水理学分野における今日的な課題であり、地球環境問題とも関連させてその取り組みが要請されていることは世界的な趨勢である。実際の川作りの現場においては、その哲学は従来の単純化・簡素化から複雑化・多様化へと既に大きく踏み出しており、そのような観点からの河道設計・改修の例も数多く見受けられるが、治水面からは環境面におけるこれらの配慮が負の効用となることも少なくない。にもかかわらず、そのような河道の水理特性に関しては、形状の複雑さ・多様さゆえ十分な検討がなされておらず、不明であることが多い。ここでの検討対象は広汎であるが、本研究領域では水割群を取り上げ、その流速低減効果と土砂捕捉機能について実験および観測的に検討することでワンドの形成過程の解明とその抵抗特性の評価を手始めとして、望ましい水辺空間の創造とその保全を支える水理学的なバックボーンの構築を目指している。

(6)洪水・土砂災害に関する調査研究
 21世紀を迎えた今日においても、豪雨・高潮・津波等による洪水・土砂災害は国内・海外を問わず各地で毎年のように発生しており、大規模な被害をもたらすものも少なくない。特に近年の水害の特徴であるインパクトの先鋭化・巨大化や被害の長期化・拡大化は地球規模の異常気象との関連で語られることも多く、その防御法の確立については、豊富な水害克服経験を有するわが国の国際協力がもっとも期待される分野の1つでもある。本研究グループでは、洪水・土砂災害の発生機構の解明と被害の実態把握および被災原因の究明を目的として災害被災地の現地調査を行うとともに、被害予測の精度向上と的確な防災施策策定のための補助ツールの開発を念頭に洪水・土砂災害を対象とした数値シミュレーション法に関する研究が行われている。ここ数年の主要な調査例としては、98年新潟、同年福島・栃木・茨城、2000年愛知(東海水害)などの国内水害の他、98年中国、99年ベネズエラ、2000年カンボジア・ベトナム、2001年台湾など海外調査も積極的に行っている。

(7)湾域・河口および沿岸域の水理現象(中川 一、馬場康之、藤原建紀)
沿岸域は、大気・海底・陸岸・海洋の4つの境界に囲まれた水域であり、風・波・密度、さらには地球自転の効果など数多くの要因の影響により、流動は非常に複雑な様相を呈する。本研究領域では、沿岸環境の保全、海岸災害の防止・軽減の観点から、実験的、数値解析的研究、または現地観測手法を用いて、沿岸域の流動場に関する研究を行っている。大規模水理模型を用いた実験による湾内の潮流場、および数値シミュレーションによる流動場、物質移動に関する検討が実施され、また現場海域における現地観測により、沿岸域に置いて支配的な流動とその要因に関する解析が行われている。

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