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4.6.2 研究領域の活動概要

U.土砂環境観測実験領域

教授 関口秀雄、助教授 澤田豊明
助教授 末峯 章、助手 小西利文


@領域の研究対象
 地すべり、山崩れ、土石流、土砂流出などの種々の土砂災害や、山地荒廃および環境劣化を引き起こしている土砂移動現象について研究を行っている。すなわち、水際における未固結堆積地盤の液状化、流動変形及び粒子移動問題を対象として流体−流状体地盤系ダイナミクスを駆使した研究を行っている。さらに、丘陵・山地域における斜面土層の風化・浸食などによる不安定土砂の生成過程と滑動・流動などの移動過程の連続観測、並びに各々の過程における各層の特性に関する現地観測を穂高砂防観測所と徳島地すべり観測所で実施し、これらの現象の特性と原因の解明に努めている。特に、穂高砂防観測所では活火山焼岳を源流とする足洗谷において土砂の生産流出過程、河道特性の変化ならびに土砂流出の制御調節構造物の機能などに重点をおいた観測を実施している。徳島地すべり観測所では、その立地条件活かして、構造線沿いの破砕帯地すべりの連続観測および地すべり規模の推定に関する実験などを行っている。

A現在の主な研究テーマ
1)不安定土砂の生産と流出に関する観測研究
2)河道、河床変動の観測研究
3)山体変形、土圧変動の計測と山体解体過程の研究
4)地すべり地における地下水と土塊移動の観測研究
5)水際地盤の液状化、流動変形及び粒子移動過程
6)河口・沿岸域における土砂環境変動の予測

B各研究テーマ名
(1)水際地盤の液状化、流動変形及び粒子移動過程              (関口秀雄)
 厳しい波浪負荷のもとにおける砂質地盤の進行性液状化過程を整合的に予測し得る弾塑性連成解析コ−ドを有限要素法に基いて開発し、その適用性を実験結果に基いて検証した。

(2)河口・沿岸域における土砂環境変動の予測(関口秀雄)
  液状化土塊の水中重力流れと再堆積過程の記述を可能とするために、流体力学アプローチと土質力学アプローチを融合した解析コードの開発を進め、dam break問題等のベンチマーク問題に照らして定式化の妥当性を確かめた。現在、解析コードの実問題への適用を行なっている段階である。

◎穂高砂防観測所        (澤田豊明)
(1)山岳流域の降雨特性に関する研究
 高度や斜面方向による降雨特性を明らかにするために、試験流域(6.5ku)の約10地点に雨量計を設置して観測研究を実施してきている。その結果、降雨の特性が時間的にも空間的にも局所的な現象に支配されていることが明らかとなっている。このような降雨特性をリアルタイムで把握し、防災・減災に役立てるために船舶レーダーを利用した雨雲観測を遂行中である。

(2)降雨流出機構と水質に関する研究
 土砂移動現象に深く関与している融雪および降雨流出の機構を明らかにするために、試験ダムにおける流量、水質観測を継続して実施している。電気伝導度は連続観測、採水による化学分析は一週間毎に約20地点で実施され、季節および降雨規模による流出の違いを明らかにしている。

(3)土砂生産に関する研究
 土砂災害の要因となる土砂生産の実態を解明するために、約10箇所の試験観測裸地斜面において、降雨および凍結・融解による土砂生産の特性を調査している。調査は一週間ごとに行われ、試験斜面において生産された土砂量や粒径などが分析されて土砂生産の特性が季節的に変動することや降雨強度および凍結・融解に支配されていることが明らかとなっている。
 その他、ヒル谷試験流域の源流にあって、この試験流域の主な土砂生産源である裸地斜面において、TVカメラによる土砂生産の実態の観測が行われ、下流における土砂流出現象との関係が明らかにされている。 

(4)出水と土砂生産・流出のプロセスに関する研究
 ヒル谷試験流域や足洗谷試験流域において、出水と土砂生産・流出のプロセスが河床形態に支配されていることに着目し、出水と河床形態の特性を明らかにするとともに、その流出プロセスにおける河床形態の役割を解明している。

(5)土石流に関する研究
 足洗谷試験流域の源流に発生する土石流の観測によって、その発生機構、流下・堆積機構に関する実態を明らかにするとともに、土石流の危険降雨量と流域特性の関係を明らかにしている。また、土石流の制御を目的とした砂防構造物の構造とその機能について多くの知見を得ている。

(6)土砂流出と渓流環境に関する研究
 貯水ダムの容量を確保するための排砂や砂防ダムの機能回復のための排砂などの実施が重要な課題となっており、これらの排砂が渓流環境に与える影響を明らかにするために、ヒル谷試験ダムの排砂による観測・調査を実施している。この研究によって水棲生物のハビタットへの影響評価とその対策に関して多くの成果が得られている。

(7)土砂流出観測手法などに関する研究
 山地渓流において、土砂流出の実態を明らかにするためには、そのための計測手法の開発が望まれている。試験流域を利用して、流砂量測定装置の開発、流砂の自動採集装置の開発、および土石流発生検知装置などの開発を行い、実用化された技術を提案している。

◎徳島地すべり観測所  (末峯 章、小西利史)
(1)地すべり移動機構の研究
徳島県下のモデル試験地で、伸縮計、傾斜計、パイプ歪み計、地下水位計の計器を設置して、どのような降雨条件の時どのような地すべり活動をするかと言うことを解明するために観測を行っている。その結果かなり多量の降雨時に地すべり活動が起こることも有るが、クリープ的な動きをする地すべり活動が存在することが分かってきた。また年変化をする動きも存在することが分かってきた。

(2)地形改変による地すべりの動き等に関する研究
地すべり地内で道路工事が行われることが時々発生する。この時地すべりの動きがどのように変化するかについての研究事例はほとんどない。本研究の観測を行ってきている地すべり地内で道路工事が行われたことが数回あった。この観測事例から色々なことが明らかになりつつ有る。

(3)地すべり地における土圧観測による研究
地すべり地における土圧観測はほとんど行われていない。地すべり活動が引き起こされる時、地すべり斜面の主動土圧地域と、受動土圧地域の確定や、その変化の様相を調べるための観測を行っている。それから色々なことが判明しつつ有る。

(4)写真測量による変位観測の研究
岩盤斜面の崩壊予測手法の確立は急いで確立する手法である。岩盤が崩壊しそうな時に、岩盤にのって観測することは非常に危険であることは容易に想像される。このような時にデジィタルカメラで写真測量を、違った時期に行って、変位の様子が調査できるかどうかについて研究を行っている。

(5)崩壊現場における地下水の流動状況に関する研究
結晶片岩地域における多量の降雨時に崩壊が起こることがよく有る。この崩壊を引き起こす地下水がどこからきているかについての研究事例は多くない。我々はこの地下水の流動状況を把握するために、種々の方法を用いて観測を行い、色々な観測結果を得つつ有る。

(6)排水量の時間変化等に対する研究
地すべり地内で対策工として排水ボーリングや集水井が施行される。これらがどのように変化するかについての観測はほとんど行われてきていない。この排水量を観測することによって、利用可能な量や、道路工事による影響についての知識が得られ、地元や土木工事事務所に提案等を行っている。

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