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4.5.2研究分野の活動概要

V.耐風構造研究分野

   教授 河井宏允、助教授 丸山 敬、助手 荒木時彦

@分野の研究対象
本研究分野は暴風雨研究分野、災害気候研究分野とともに大気災害研究部門を構成している。大気災害研究部門では、自然災害の一つとして重要な大気災害の研究と、人間活動による大気環境変動とそれに伴って生じる大気災害の研究を2つの柱として、理学・工学の両面から研究を実施している。本分野は、工学的な面から、強風が構造物に与える影響とそれに伴う災害発生機構の解明と、市街地における強風災害の危険度予測を含めた強風災害低減のための研究を行っている。

A現在の主な研究テーマ
1)市街地における気流性状の解明
2)強風災害調査方法の開発と災害調査
3)強風災害発生メカニズムの研究
4)強風災害低減のための耐風設計方法の開発5)市街地における強風災害ハザードマップの作成
6)強風下における市街地火災の研究などである。

B各研究テーマ名
(1)市街地上空の気流性状に関する研究
建物の耐風設計や風環境予測を行うために、市街地のような複雑な粗面上における気流性状を数値計算により予測する手法を開発し、実市街地における建物の形状データを用いて、上空のシミュレーションを行った。計算結果は、ドップラーソーダによる観測結果と比較され、計算手法の精度、適用限界等が検討された。また、計算結果により、風速分布や乱れの状態等、市街地上空の気流性状が検討した。

(2)自然風中の低層建物に加わる非定常風圧力に関する研究
建物、とくに低層建物の強風災害防止を目的として大阪湾の舞州において模型を用いた野外観測を行い、地面付近の自然風の性状に関して低層建物に加わる非定常空気力と接近流の気流性状との関係を明らかにした。

(3)屋根葺き材等の強風による飛散メカニズムの解明とその防止方法の研究
強風災害の80パーセント以上は、瓦の飛散を含めた屋根部分の災害である。瓦などの屋根葺材は、建築基準法など従来の風荷重基準等で想定されている風力の発生メカニズムとは異なったメカニズムで大きな風力が発生し飛散することが、本分野で長年にわたって行われてきた災害調査などから明らかになっている。本研究では、潮岬風力実験所に設置した観測小屋の屋根瓦の表裏に作用する風力力を実測し、瓦の飛散に結びつく大きな風力がどのような原因によって生じるのを明らかし、飛散風速を予測するとともに、飛散防止方法を検討している。

(4)自然風中における高層建築物の壁面に作用する非定常風圧力に関する研究
高層建築物の構造設計においては、地震荷重とともに風荷重が非常に重要な荷重となる。特に、窓ガラス等の外装材の設計において風荷重は特に重要で、しばしば強風時に窓ガラスなどが破壊するなどの災害が生じる。これらの強風災害は、通常、局部負圧と呼ばれる非常に大きな風圧力の発生に伴って生じる。従来の耐風設計においては、この負圧の大きさや性状は、風洞実験結果に基づいて定められてきたが、自然風中では時には風洞実験では決して見られないような大きな負圧が発生することが、この負圧は実際の強風災害に大きく関係するのではないかと見られている。本研究では、潮岬風力実験所に設置した、高さ8mの高層建築物模型の壁面に作用するする180点の風圧変動を同時測定し、局部負圧の発生を含めた風圧変動の性状を研究している。

(5)屋上パネルに作用する風力と飛散防止策の研究
環境負荷を減らすため、都市内の建物の屋上を緑化することが積極的に進められている。既存の建物の屋上緑化には、構造的な制約から軽い緑化パネルが使われる。これらの緑化パネルの強風による飛散防止策を検討するため、実物や模型を用いた飛散実験を含めた基本的な実験を風洞において行い、緑化パネルの配置や飛散防止方法などを検討している。

(6)市街地における強風災害予測に関する研究
台風などが襲来したときの市街地における強風災害を予測するため、メソスケールからマイクロスケールに及ぶ数値計算を実施している。市街地における建物種別などのデータベースと組み合わせ、より正確な強風災害ハザードマップを作成するための準備を進めている。

(7)強風下の高温熱流の実験的研究
市街地上に発達した接地境界層内における火災源を含む高温熱気流場の性状を明らかにするため、風洞実験による計測システムを構築した。それにより、火災源下流の速度・温度変動や、地表面・建物表面の温度分布を測定し、対応する高温熱気流場の数値計算を行うための乱流モデル等の検証用データが得られた。また、市街地火災予測のための計算手法・建物火災モデル等の検討も行っている。

(8)強風災害調査
平成13年の6月から7月にかけて発生した3件の強風被害に関して、現地調査や役所、消防署等からの資料に基づいて被害概要をまとめ、建物被害と気象状況の比較を行った。また、強風被害調査の実施方法に関するマニュアル制作の検討を行い、素案を制作した。

(9)建物のモニタリングと強風災害
既存建物が強風に伴ってどのように劣化するかを検討することは非常に重要である。地震と違い強風は頻度が高く疲労などの影響が生じやすい。特に、高層建築物やタワーなどの風の影響を受けやすい構造物においては、強風に伴う長年の応力変動の結果、疲労破壊を招く例も少なくない。本研究では、このような繰り返し応力による疲労破壊を含めた劣化状態を、どのようにしてモニタリングによって把握し防止するかを、理論構築を含めた確率論的解析方法によって解明している。

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