Index Next

4.5.2研究分野の活動概要

U.暴風雨災害研究分野

       教授 植田洋匡、助教授 石川裕彦、助手 堀口光章

本研究分野は耐風構造研究分野、災害気候研究分野とともに大気災害研究部門を構成している。この大部門では、自然災害の一つとして重要な大気災害の研究と、人間活動による大気環境変動とそれに伴って生じる大気災害の研究を2つの柱として実施しており、本分野は、リージョナルからメソ、都市スケールの現象を対象としている。すなわち、台風、集中豪雨などによる異常気象現象の構造、発生・発達機構と、乱流、大気大循環など様々なスケールの大気運動間の相互作用の研究を一つの柱にし、地球温暖化、酸性雨などの大気環境変動の研究をもう一つの柱にしている。
それらに伴って生じる大気災害を防止、軽減することを目的として、次の課題について研究を行っている。

 研究課題とその内容は以下の通りである。
(1)様々なスケールの大気運動とそれらの力学的相互作用−乱流、渦運動
乱流、渦運動、非線形波動を対象に、それらの不安定、発達、成層、回転の効果を中心課題とし、これらの基礎研究を通して「環境流体力学」の構築を目指している。特に、乱流構造と輸送機構に関しては、それらに及ぼす密度成層効果を含めて体系的な研究を実施し、成層の極限状態にも適応できる成層乱流理論の構築を行ってきた。

(2)大気陸面相互作用とアジアモンスーンのエネルギー・水循環
1996年度から5ヶ年計画で、国際共同研究特別事業「アジアモンスーンエネルギー水循環観測研究計画(GAME)」とこれに引き続くCEOPプロジェクトに参加し、モンスーンアジアでのエネルギー水循環の観測研究を実施している。GAME-Tibetでは、プロジェクトリーダーを務め、チベット高原上数地点で地空相互作用の観測を実施し、アジアモンスーンに及ぼす影響、さらに地球規模での熱、水循環に占める役割を明らかにしてきた。GAME-tropicsでは、降雨の日変化を調べ、東南アジア内での地域特性、早朝豪雨の発生地域の存在を明らかにしてきた。CEOPの一環として実施しているCamp-Tibetでは、新たな観測点を展開し、地表面フラックスの連続観測を開始した。また、人工衛星データを用いた地表面フラックス算出も並行して実施し、NOAAデータを用いたGAME-Tibet期間の地表面フラックスの算出、GMSデータを用いた高原全体の地表面温度の算出等を行った。

(3)メソ異常気象現象の構造とその発生・発達機構
メソ異常気象として、集中豪雨、台風を重点的に取り上げ、雲物理、降水現象に含まれる力学素過程、気象システムのエネルギー論の基礎研究を行ってきた。
台風の力学的メカニズムに関しては、数値モデルと気象衛星、レーダーなどのデータ解析をもとに、台風9807号の事例について、台風後面での強風発生機構を明らかにした。また、台風の温低化過程に関する研究を開始した。さらに、台風眼の非対称構造の成因に関する理論的研究を進めた。
台風に伴う竜巻に関しては、数値モデルで再現した台風循環の解析から台風循環内の特定の場所で竜巻発生の指標となる物理量が極大となることを明らかにし、その予測可能性に関する展望を得た。
集中豪雨研究として、近年の事例について気象データ、数値モデルを用いた事例解析を進め、豪雨の維持・発達機構として乾燥貫入による蒸発冷却と冷気外出流の強化機構を提唱し、その予測可能性を検証している。また、異常発達する温帯低気圧の発達メカニズムの研究も数値モデルを用いて行っている。

(4)大気境界層の乱流組織構造、雲物理・降水過程
最新の遠隔計測として、境界層レーダー、RASS、ドップラーソーダ、MUレーダー、降雨レーダー、レーザーレーダーを用い、これに人工衛星データとして静止気象衛星「ひまわり」、TRIMM、GPS積算水蒸気測定法などのデータを組み合わせた対流圏気象観測システムの構築を宙空電波科学研究センターと協力して行ってきた。それを用いた観測として、大気境界層の乱流組織構造と雲物理・降水現象、対流圏中、上層の乱流拡散機構の研究を実施してきた。また、数値モデルを用いたLarge Eddy Simulation による乱流組織構造の再現研究も行っている。

(5)リージョナル、メゾスケールの大気環境変動
 酸性雨、光化学オゾン、エアロゾル汚染を対象に、これらの輸送、拡散、反応、変質、沈着の素過程の基礎研究を実施し、対流圏大気質の輸送、反応、沈着数値モデルを完成させた。これを用いて、大気汚染、環境酸性化と地球温暖化の研究を実施してきた。対象領域として、都市、メゾスケールから東アジア(リージョナルスケール)を扱ってきた。

 大型プロジェクト研究として、「Model Intercomparison Study in Asia」(MICS-Asiaプロジェクト、IIASA−環境省支援)、「アジアでの酸性雨数値モデル研究プロジェクト」(RAINS- Asiaプロジェクト、世界銀行支援)の研究代表として計画を推進してきた。また、「Project on Longrange Transboundary Transport of Air Pollutants in Northeast Asia、大気汚染長距離越境輸送研究プロジェクト」(日中韓LTPプロジェクト、韓国環境省支援)や文科省の「アジア大気エアロゾル特性研究計画(ACE-Asia)」や科研費特定領域「対流圏化学のグローバルダイナミックス」などの研究に参加している。これらにより、東アジアでの対流圏オゾン、酸性雨の特性、特にこれらの歴史的推移と将来、黄砂飛散とそれによる酸性雨の中和および三宅島火山噴火に伴うエアロゾル環境変化などを明らかにしてきた

Index Next