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4.4.2 研究分野の活動概要

W.海岸・海域災害研究分野

      教授 高山知司、助教授 間瀬 肇、助手 吉岡 洋

 周囲を海で囲まれているわが国は、津波や高潮、高波によって多くの人命と貴重な財産が奪われるという苦い経験を何回もしてきている。特に、敗戦で荒廃した国土に高潮や津波による災害が多発し、災害から国土を護ることが当時におけるわが国の最重要課題であった。そのため、沿岸部における高潮や津波の挙動を予知・予測するための研究が精力的に行われるとともに、災害防御の観点から背の高い防潮堤が海岸線に沿って建設されてきた。このような防護施設の整備もあって災害は急激に減少してきたが、従来のような高い防潮堤の建設に対する不満も生じてきた。高い防潮堤は市民の憩いの場である海岸へのアクセスを阻害するものとして映り、稀にしか起きない災害に役立つものから日々の生活にも役立つ災害防護施設の要請が高まってきている。また、防災施設であっても、投資効果の高さが追及されるようになってきている。

 このような社会状況の変化に対応しながら研究を進めている。平成12および13年度の研究成果は、著書2編(共著)、学術論文50編(そのうち審査付37編)にまとめられている。主な研究内容は以下の通りである。

(1)陸上部における津波の特性と構造物に作用する津波力に関する研究    (高山、間瀬)  津波が陸上部に遡上してくると、底面摩擦の影響で段波状になって進行し、構造物に巨大な衝撃波力を作用させる。このような津波の変形を的確に把握し、作用津波力を精度よく算定することは、津波を防御する防潮堤の設計にとって非常に重要となる。そこで、VOF法を用いた数値シミュレーション手法を発展させ、津波の変形と衝撃的な津波力算定手法を開発した。そして、水理模型実験を実施して数値シミュレーション法の妥当性を検証している。今後は、平面的な地形変化の影響が導入できるように数値シミュレーション法の発展を図っている。

(2)多方向不規則波浪の変形計算法に関する研究(間瀬、高山)
 実際の海の波は、波高や周期、波向が異なる数多くの成分波が重なり合った多方向不規則波である。設計波を海底地形による波の変形を算定するに当っては、波を多方向不規則波として取り扱うことが重要となる。海の波を多方向不規則波として波浪変形計算を行う手法としてエネルギー平衡方程式法がある。この方法では波の屈折と浅水変形、砕波変形が考慮できるが、波の回折現象は考慮できなかった。そこで、回折現象を擬似的に導入する項を付加して、エネルギー平衡方程式法を改良する手法を提案した。さらに、成分波間の非線形干渉や流れによる波の変形が考慮できる定常的な変形計算法を提案して、その妥当性を検証しているところである。このように波浪変形計算法の計算精度を向上させることによって安全度の高い構造物の設計や港湾の水域計画に反映できるようにしている。

(3)海岸・港湾構造物の被災特性と確率設計法に関する研究          (高山、間瀬)
 海岸・港湾構造物の被災は、海岸工学技術の進んだ現在であっても、毎年数多くの地域で発生している。構造物の被災については、国土交通省でとりまとめられており、その被災の実態と修復状況が把握できる。そこで、これらの資料を用いて過去5年間の護岸と堤防の被災特性を調べ、被災の形態を明らかにした。その結果、洗掘による被災が全体の50%を占めることが明らかになり、このような洗掘特性を水理模型実験で再現した。さらに、防波堤の被災についても調べ、防波堤は滑動以外のマウンドの変形や転倒などの破壊モードも約30%の割合で生じることがわかった。このことから、防波堤の確率設計を行うためには滑動破壊以外の破壊モードに対する検討も必要であることがわかった。そこで、全ての破壊モードを考慮した防波堤の確率設計に向けた検討を行っている。

(4)高潮と高波の推算精度の向上に関する研究 (高山、間瀬、吉岡)
 高潮の計算法はほぼ確立されたと考えられていたが、9918号台風による周防灘における高潮と高波の推算において既往の推算法では十分な精度で再現することができないことが判明した。この原因としては、台風中心付近のスーパーグラデイエントな状態における風の推算が既往の台風モデルでは再現できないためだと考えられる。そこで、周囲陸上部の地形を考慮した風の推算法の改良を行っているところである。波浪推算法は、計算機の高速化に伴って急激な進歩をしてきた。波浪の成分波をそれぞれが独立であると考えて推算していた第1世代モデルから現在では成分波間の非線形干渉までを考慮した第3世代モデルまで発展してきている。これらの推算モデルを用いて、計算精度の判定を行っている。

(5)港湾における海水交換特性と底質の巻き上がり特性に関する研究      (高山、吉岡)
 閉鎖性港湾においては外海との海水交換が防波堤で阻害されているために、水質の悪化が大きな問題となっている。そのために、不透過な防波堤ではなく、透過式防波堤を設置して海水交換を促進しようとする試みがなされている。しかしながら、透過式防波堤をどの位置に設置するのが最も効果的かそれを評価する手法がないのが現状である。そこで、オイラー・ラグランジェ法を用いた計算を行い、そこから交換特性を明らかにする手法を提案した。また、内湾内の微細底質が潮流や波浪の作用で巻き上がる特性を把握することは、干潟の維持と開発にとって非常に重要である。そこで、超音波流速計であるADCPを底面に向けて反射強度を測定することによって巻き上がった底質の鉛直方向濃度分布が測定できる可能性があることから、この方法による現地観測を実施した。そして、現地観測データを用いて、底質の巻き上がり条件や鉛直濃度分布の解析を行っているところである。

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