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4.4.2 研究分野の活動概要

V.都市耐水研究分野

      教授 井上和也、助教授 戸田圭一

 わが国では、東京や大阪のように、沿岸域に巨大都市が発達している。このような沿岸域は河川河口部の沖積地でもあるため、これらの都市は、陸性の洪水、内水、あるいは海性の高潮、津波、波浪などによる水災害を受けやすい宿命を負っている。とくに、都市が高度にまた多層に発達した今日、水災害による潜在的被害は著しく増大しており、それが顕在化した福岡水害(1999年)や東海水害(2000年)の事例でも明らかなように、災害の巨大化、長期化、連鎖化が憂慮されている。
 そこで、本研究分野では、まず豪雨、洪水、高潮、あるいはそれらが重なった場合の水災害の発生機構を、過去の事例や現在の都市特性を考慮して明らかにすることに努めている。また、埋立や都市化の進行による境界・環境条件の変化が水災害に与える影響のシミュレーション解析研究、さらに都市の水災害の防止・軽減のための技術や対策をハードおよびソフトの両面から立案し評価する方法の研究を進めている。平成12年度および13年度の研究成果は、著書2編(分担執筆)、学術論文27編(うち査読付き21編)、総説2編にまとめられている。主な研究内容は以下のとおりである。

(1)豪雨、洪水、高潮などによる氾濫予測の研究
 豪雨による氾濫予測に関して、都市域近郊の山地領域からの流出解析モデル、都市内中小河川からなる河川網モデル、市街地の氾濫解析モデル、および下水道モデルを統合し、降雨という外力に対して、洪水ならびにその氾濫の時間的変化の応答が得られる「豪雨氾濫解析モデル」を提案している。このモデルを京都市内の中心域、および寝屋川流域に適用し、豪雨時の氾濫プロセスを詳細に表現することが可能なこと、得られた計算結果は過去の氾濫実績とおおむね一致することを確かめている。
 さらにこのモデルを発展させて、山地からの雨水流出とあわせて土砂流出も考慮した氾濫解析法も提案している。このモデルを用いて神戸市域の洪水・土砂氾濫特性を解析した結果では、土砂を考慮した場合では、土砂を考慮しない場合に比べて浸水深、氾濫規模が増大する結果が得られ、土砂生産の盛んな河川流域の都市では、土砂の影響を考慮した氾濫解析の必要性を確認している。

(2)都市特性を考慮した氾濫水理の研究
 高度に発達した都市域での氾濫水理解析を、上記1)と連携して研究している。
 まず、都市域での氾濫水の挙動の研究では、都市域内に存在する道路や建造物が氾濫水に及ぼす影響を考慮し、道路と建造物を別々の格子に属性分けできる計算格子を適用することを考え、主要な道路に沿って座標軸をとった一般曲線座標系を適用した氾濫解析法の代替として、領域を任意形状の格子に分割できる非構造格子を適用した氾濫解析法、市街地の道路網をネットワーク化して道路網には1次元解析法を適用する氾濫解析法(街路ネットワーク法)を新たに展開している。非構造格子を適用した氾濫解析法は、利根川の破堤を想定した埼玉県および東京都東部の氾濫解析、寝屋川流域の氾濫解析、神戸市域の洪水・土砂氾濫解析に、街路ネットワーク法は大阪市港区の高潮氾濫解析、京都市域の豪雨氾濫解析にそれぞれ適用している。
 解析的研究とならんで、街路形成が比較的規則的な京都市の中心部を対象にした1/100の物理模型を作成し、氾濫水の街路沿いの伝播、分岐、合流、あるいは街路ブロック内への浸入、さらに次項に関する地下空間への浸水量などについて、水理実験的研究を進めている。

(3)地下空間の浸水に関する研究
 新しい都市水害として注目されている地下空間内への氾濫浸水について、対象事例として大阪市の堂島地下街、梅田地下街および京都市の御池地下街をとりあげて研究を行っている。堂島地下街を対象とした解析では、洪水・高潮氾濫による浸水を想定し、デカルト座標系の2次元平面流れの解析手法を地下空間に適用している。また淀川左岸の破堤を想定した梅田地下街の解析では、地下街を複数の平面で構成される場としてとらえ、各平面において街路ネットワーク法を適用するとともに、浸水が天井に達することも考慮して、開水路・管路共存状態を扱えるモデル化を図っている。さらに、京都市・御池地下街に関しては、近くを流れる鴨川の越流氾濫による浸水を想定した上で、地下街形状が比較的単純なことを考慮してディフージョンウェイブ・モデルによる解析を行うとともに、1/30の模型を製作し水理実験によって浸水とその伝播過程を検討している。
 これらの解析および実験結果から、いずれの地下空間においても、比較的短時間のうちに相当の浸水が生じる危険性、条件によっては急激な水位上昇が現れる箇所のあることが明らかにされ、地下空間の氾濫浸水に対する危険性をあらためて強調する結果となっている。また、地下への入り口における浸水防止策や排水用ポンプについて、その効果なども検討している。

(4)水災害の防御システムの研究
 直接的な防御策の一つとして、都市の大深度地下空間を有効利用する地下河川の水理的な設計法を研究している。これまで、地表河川あるいは下水道からの取水流入地点の立坑形状について、螺旋案内条をもつ渦流式立坑や立坑下方に狭窄部を有する形状が、高落差の流水の減勢と空気混入量の抑止に関して効果的であることなどを明らかにしている。
 間接的な防御策としては住民の避難行動を取りあげ、氾濫解析と結合した避難シミュレーション・モデルを開発してきた。住民の避難行動を、複数個存在する避難場所から特定の避難場所を最短経路として選択する問題、あるいは、あらかじめ指定された避難場所への移動問題として捉えてモデル化した。得られたモデルを、淀川の洪水氾濫からの避難、大阪市域の高潮氾濫からの避難に適用するとともに、避難所配置、避難情報の時期、住民の危機意識などによって避難の成否がどのように変わるかを解析し、安全な避難にとって何が重要な因子であるかを求めようとしている。

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