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4.4.2 研究分野の活動概要

T.土砂流出災害研究分野

教授 高橋 保、助教授 中川 一(平成13年9月30日まで)、助手 里深好文

 流域における土砂の生産過程と輸送・堆積過程に関わる諸現象を、素過程の力学的機構の解明とそれらが組合わさったシステムとしての現象発現のシミュレーションを主体として、カタストロフィックな土砂災害、および、自然的・人工的原因による流域内土砂配分の不均衡による諸障害の予測と防止・軽減のための方策を打ち立てることを目的として研究を行っている。

 本研究分野の研究課題を列挙すれば以下のようである。
1)豪雨に伴う斜面の表面侵食・崩壊と土石流の定量的予測
2)土石流、土石なだれ、火砕流、雪崩といった土砂の集合運動の力学
3)洪水流出に伴う土砂流出および河道変動の予測
4)貯水池堆砂予測と自然環境に配慮した排砂法の開発
5)流砂系の総合土砂管理の立場に基づく山地渓流の制御
6)土砂氾濫災害の予測と軽減

 平成12・13年度における各研究課題の研究内容を要約すると以下のようである。

(1)豪雨に伴う斜面の表面侵食・崩壊と土石流の定量的予測
高瀬ダム流域の不動沢・濁沢に存在する崩壊裸地斜面において長期間にわたる侵食実態の観測がなされたデータに基づき、冬季の凍結融解の繰り返しによって直接河道へ供給される土砂量と、新たに定義した過剰降雨強度に比例して供給される土砂量に分けて、定量的に評価する手法を考案した。さらに、このようにして崩壊裸地直下の河床に堆積した土砂が洪水流出に伴って土石流として流下する量をセディメントグラフの形で予測する手法を与えた。

(2)土石流、土石なだれ、火砕流、雪崩といった土砂の集合運動の力学
土石流、土石なだれ、火砕流および雪崩について、粒子流の観点から共通点、相違点を明らかにし、それぞれの力学機構を統一的な立場で体系化した。本体系によれば、土石流は慣性型と粘性型に大別されるが、慣性型土石流に関して、石礫型、乱流型および掃流状集合流動を統一的に取り扱う理論を完成した。これは流域の土砂流出過程の数値シミュレーションに有効に使用されるものである。土石なだれの高流動性に関して従来多くの理論が提示されてきたが、新たに崩壊土塊下部の飽和層の液状化によるとする理論を示し、土塊運動を実験で検証するとともに数値シミュレーション法を考案した。

(3)洪水流出に伴う土砂流出および河道変動の予測
一般的な流域での土砂供給と土砂輸送の実態に応じて、降雨の時間分布に従って土砂流出が予測できるモデルを構築した。この手法を高瀬ダム流域、ベネズエラのカムリグランデ流域などに適用し、妥当性が検証された。本モデルは基本的には一次元のキネマティックウェーブ法であるが、河道幅が広く流路が網状を呈する場合には二次元の網状流路変動モデルを接続することが可能であり、貯水池へ流入する場合のようにキネマティックウェーブ法が不都合な場合には、ダイナミックウェーブ法と接続することも可能である。なお、粒度分布が広範囲に及ぶことが河床変動に与える影響や堆積層中の粒径分布を予測する方法に関する研究も行った。

(4)貯水池堆砂予測と自然環境に配慮した排砂法の開発
堆砂デルタ先端部での滑りの発生とそれによる堆砂層内の粒度分布の変化を考慮した貯水池堆砂モデルを開発した。また、排砂に関しては、従来小規模貯水池を対象にフラッシング法やバイパス法が実用されている例があるが、中規模から大規模にわたる貯水池では適切な排砂法が開発されていない。そこで、新たに、貯水池内に副ダムを設けて、その上流に堆砂させ、洪水後に貯水池の水を逆流させることによって排砂する方法を考案した。実験と数値シミュレーションによる検討の結果、この方法はある程度有望であることが判明したが、詳細な適用条件等については今後の課題となっている。

(5)流砂系の総合土砂管理の立場に基づく山地渓流の制御
「流す砂防」の観点から、透過型の砂防ダムが注目されていることに鑑み、とくに格子型の砂防ダムを取り上げて研究した。従来、格子型砂防ダムの機能に関しては、定量的な評価ができなかったが、格子の閉塞確率が格子間隔と粒径の比、粒子濃度および流速に規定されることを見出し、格子ダム上下流のセディメントグラフ変化が予測できるようになった。これにより、土石流流下に伴う粒径選別効果、流下中の土石流規模変化を考慮して、流域内のどの地点に、どのような格子間隔とダム高さを持つダムを構築すれば所期の目的が達成できるかが定量的に検討できることになった。

(6)土砂氾濫災害の予測と軽減
土砂流出モデルと非構造格子による土砂氾濫モデルを結びつけて、流域の降雨を与えるだけで、土砂氾濫の時間的推移、氾濫範囲と堆積厚さ分布が求められることとなった。この方法はベネズエラのカムリグランデ川の土砂氾濫に適用して、実際現象がうまく再現できることによって検証された。さらに、カムリグランデ川扇状地を対象として、砂防ダムと流路工の組み合わせによる災害復興を想定し、どのような高さの砂防ダムとどのような深さと幅を持った流路の組み合わせによれば、今回と同様規模の土砂流出現象に対しても安全になるかが、数値シミュレーションを使えば評価できることを実証した。

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