Index Next

4.4 水災害研究部門

4.4.1部門としての活動概要

@部門の研究対象と方針

 土石流、洪水、津波、高潮、高波など、土砂と水に係る災害の現象解明と予知・予測、およびこれらの災害の防止・軽減を図る方策の科学的基礎を樹立することを目的として、土砂流出災害分野、洪水災害分野、都市耐水分野および海岸・海域災害分野の4研究分野が有機的な連携のもとに、研究を進めている。

 戦後の混乱期から昭和30年代の中頃までは、大型台風が相次いで上陸し、大規模・激甚な洪水氾濫災害や高潮災害が発生した。このような災害を防御する対策についての研究が進められ、また、行政的な対応も図られ、大規模な災害は着実に減少してきている。しかし、大都市とその周辺部での都市化が進む中で、山麓部の急傾斜地や低平な湿潤地帯が市街化され、土石流災害や都市の内水災害が頻発してきた。現在では、わが国の水災害による死者の大半は土石流などの土砂災害によっており、経済的損失の大半は都市の浸水被害によっている。

 洪水や高潮、土砂の氾濫を構造物によって完全に防御し、被災を全く許容しないという方針堅持は、外力規模や施設の耐力等の不確実性が明らかになるにしたがって、実際上非常に困難になってきている。つまり、氾濫する場合もありうるという氾濫を許容することを前提にして、その被害を最小限に抑えるという方策が注目されるようになってきている。都市の発展と拡大に伴って、氾濫災害を都市域内だけの対策で防御することが難しくなってきており、流域としての対策が重要となっている。さらには、地下街その他の危険地域や危険物が錯綜する中で氾濫災害の規模を的確に予測し、避難等のソフト対策を含めた耐水都市の確立が必要となる。さらに、地球温暖化の影響で猛台風の来襲や集中豪雨の頻発が心配されているとともに、海面上昇による防潮堤等の防護施設の機能低下が懸念されており、来るべき大津波や大高潮に対して安全性を確保することが重要な課題となっている。そのため、将来における地球環境の変化が水災害にどのような影響をもたらすのか、地球規模的な情報の収集とデータベース化が必要となる。

 流域における砂防設備や洪水調節ダムが次第に充実し、利水ダムも方々で設けられるにしたがって、河川流下土砂が減少し、ダム下流部における河床低下や供給土砂の減少による海岸侵食が顕在化してきている。激甚な災害を防ぐための施設が、緩慢ではあるが災害を助長する方向に作用する場合もあり、また、流域や沿岸の環境にも悪影響を与えるようになってきている。そのため、災害防護施設の機能や流域と沿岸の環境に配慮して、山間部から海岸までの土砂の一元管理が望まれるようになってきている。

A現在の重点研究課題

 水災害研究部門では、洪水氾濫や土砂氾濫、津波・高潮・高波などによる被害の予知・予測や対策の開発、都市耐水システム等の研究を各研究分野で集中的に進めるのはもちろんであるが、各分野が得意とする研究を統合する課題を選定し、プロジェクト研究を活発に推進することにしている。このような課題としては、河川流域および沿岸海域を含めた広い範囲での土砂輸送の均衡を保持し、環境保全や利水との調整を図りながら災害からの安全性を確保する方策の開発であり、低頻度であるが巨大な災害となる高潮と洪水が重畳したときの氾濫流の挙動と災害予測の研究がある。このようなプロジェクト研究をより活発に推進するためには、当該研究分野の尾研究者だけではなく、多研究機関の研究者にも適宜参加を呼びかけることにしている。

 平成10、11年度には、淀川および大阪湾といった大規模で、かつ、大都市を抱えている地域に大規模な台風が来襲した場合を想定し、それによって引き起こされる土砂流出や洪水流出、高潮。高波氾濫を総合的に予測する流域一貫した総合型水象シュミレーションモデルの開発を推進した。また、リモートセンシングによる事前予測との結合、予・警報、避難システム、ハザードマップの作成などのソフト的施設への応用についても研究を進めた。この課題は、従来の山間部や平野部、河口・沿岸海域といったそれぞれの領域で個別になされる対応では根本的な解決には至らないとの認識の下に、流域全体を視野に入れた水防災に取り組んだ研究である。

 平成11年には、水防災シンポジュウムを防災研究所で開催し、上記の課題に関してこれまでの研究をレビユーし、額内外からの研究者から多くの示唆を得た。さらに、平成12年度には「21世紀の水防災を考える」と題した研究集会を開催し、ベネズエラの未曾有の土砂災害や典型的都市水害となった東海豪雨災害、伊勢湾台風以来なかった高潮による直接の人命災害の教訓を含めて、今後の研究課題について、学内外の100名に達する研究者とともに有意義な討論を展開した。

 平成11年の台風18号によって八代海に発生した高潮で12名の生命が失われるとともに、周防灘では満潮と高潮が重なって甚大な高潮・高波災害が発生したが、現在の推算技術ではその高潮や高波を十分な精度で再現できないことが明らかになった。そこで、平成12〜14年度の3ヶ年にわたって独立法人港湾空港技術研究所と共同で「高潮・高波推算技術の高度化と防災に関する基礎研究」(公募型研究)を実施している。そこでは、より精度の高い高潮と高波の推算技術を確立するとともに、防護施設の整備水準の経済性を評価するとともに、ハザードマップなどソフト対策による防災技術を提案することにしている。

 近年、集中豪雨による河川の氾濫で地下空間の浸水や水没事故が急増しており、福岡市や新宿区で2名水死し、また、福岡市や名古屋市では地下鉄が浸水で不通になっている。そこで、総合課題「都市複合空間水害の総合減災システムの開発」(科学振興調整費)の中で「洪水氾濫災害の危険度評価」に関する研究を平成13〜15年度の3ヵ年わたって実施しているところである。そこでは、京都市内の市街地と地下街や地下鉄の模型を用いて水理実験を実施し、地下への氾濫水の流入機構に関してその特性を明らかにするとともに、数値シミュレーションの妥当性についても検討している。

 以上のような総合的な水防災研究を推進するためには、その研究基盤として、地球規模での環境の変化や災害の変動に関して土砂・災害資料のデータベース化とその共有化を推進することが非常に重要となる。


Index Next