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4.3.2 研究分野の活動概要

V.地すべりダイナミクス分野

   教授 佐々恭二 、助教授 福岡 浩
              助手 竹内篤雄


 世界的な人口増大、都市開発の進展により、都市周辺地域における地震時や豪雨時に発生する高速長距離運動地すべり・流動性崩壊による災害が激化している。また、ペルー国マチュピチュのインカの遺跡など、一旦破壊されれば復旧の困難な文化・自然遺産が地すべりによる破壊の危険性にさらされている例が注目されるようになってきた。地すべりダイナミクス分野では、所内及び国内外の斜面災害関連分野と協力しつつ、平成12、13年度は下記の研究・企画調整課題に取り組んだ。

(1)国際地対比計画「IGCP-425:地すべり災害予測と文化遺産」及びユネスコと防災研究所間の研究協力覚え書きに基づいた国際共同研究(佐々、福岡)
平成10年度よりユネスコの国際地質対比計画に佐々の提案するプロジェクト(IGCP-425)が採択され、これをさらに発展させるものとして、ユネスコと京都大学防災研究所間で「地すべり危険度軽減と文化自然遺産の保護」(MoU)に関する研究協力覚え書きが平成11年12月に交わされた。この一環として、世界各国で実施する31のサブプロジェクトの企画調整を実施すると共に、防災研究所としてペルー・マチュピチュ遺跡の岩盤地すべり危険度評価、中国・西安市の華清池地すべりの高精度観測と対策工の設計、岡山県・備中松山城の岩盤地すべりの観測等を実施している。

(2)国際斜面災害研究機構(ICL)設立と国際斜面災害研究計画(IPL)の中核としての企画調整・研究実施    (佐々、福岡)
平成14年1月のユネスコ−京都大学シンポジウム「地すべり危険度軽減と文化・自然遺産の保護」において、ユネスコ、世界気象機関、国連食糧農業機関、国際斜面災事務局、文部科学省を特別後援機関として、国際斜面災害研究機構が設立され、佐々が初代会長に選出された。平成14年11月にユネスコ本部で開催されたICLの第1回代表者会議において役員、各委員会委員の選出、初年度予算、22件のIPL Projectsの採択、斜面災害に関する新国際ジャーナル発行(2004年より)が決められた。地すべりダイナミクス分野は、これら一連の世界的な斜面災害研究推進の枠組み作りにおいて、中核的役割を果たしてきた。

(3)地震/豪雨時の高速長距離土砂流動現象の解明の研究           (佐々、福岡)
地すべりダイナミクス分野では、平成8年以降、高速長距離運動地すべりの発生、運動機構の研究を推進するために研究開発を実施し、1)非排水せん断と過剰間隙水圧の測定、2)220cm/secまでの高速せん断、3)5Hzまでの繰り返し載荷および地震時応力波形の載荷を可能とし、すべり面の状態をあらゆる状況に対応して正確に再現できる「地すべり再現試験機」を実用的なレベルで完成させた。そして、せん断に伴う粒子破砕によりすべり面で過剰間隙水圧が発生して高速運動や流動が発生する原因となる「すべり面液状化」の発生における細粒分の影響についての研究を実施し、細粒分増大に伴う透水係数の低下により自然排水条件においても過剰間隙水圧が発散しにくくなることによりすべり面液状化が維持される機構について明らかにした。この研究をベースに、平成13年度より文部科学省科学技術振興調整費「地震豪雨時の高速長距離土砂流動現象の解明(APERIF)」(研究代表者:佐々恭二)を得て、東大、国土交通省国土地理院、(独法)防災科学技術研究所、(独法)森林総合研究所、および(社)日本地すべり学会とともに災害危険区域予測法の提案に向けた基礎的応用的研究を実施している。APERIFプロジェクトは世界的にも重要な研究課題として認められ、本年11月に国際斜面災害研究計画(IPL)のプロジェクトの一つ(IPL-M101)に採択された。

(4)地すべり予知のための斜面変動監視システムの開発  (佐々、福岡、竹内)
昭和47年より佐々らは徳島県・善徳地すべり地で大規模結晶片岩地すべりの長期連続観測による移動機構の研究を実施している。山頂から祖谷川にいたる全長1.5kmに及ぶ長スパン伸縮計、全長約600m(115台)の三次元せん断変位計の他、RTKを含むGPS観測、孔内傾斜計、水位等の観測を連続して実施している。平成12、13年度は特に三次元せん断変位計による約10年間の記録を伸縮計等の観測記録と比較、解析し、移動ブロック境界は地表に明確に現れないが、基岩形状が長期の土層変化形状に影響を及ぼしていること、寡雨期にもクリープが継続する結晶片岩地すべりに特有の斜面変動の特性を明らかにした。福岡らは、RTK−GPSを用いた斜面定期健康診断構想を提案し、5分間程度の短時間で精密GPS測量を行うための自動制御三脚の開発と産学連携による研究活動を実施した。竹内らは、半乾燥地域に於ける地すべりの移動機構解明のため、イラン・土砂保持および流域管理研究センターと共同で1m深地温調査を行い、半乾燥地域にもかかわらず、多数の流動地下水脈があることがわかった。また、イランでの大規模地すべりにおける長距離土砂流動が生じた原因は、このような土層内の地下水を含む土層への移動土塊の急速載荷に起因した過剰間隙水圧の上昇であるためであると推定した。

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