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4.3.2 研究分野の活動概要

W.傾斜地保全研究分野

教授 奥西一夫(平成14年3月退官)
Roy C. Sidle(平成14年11月着任)
助教授 釜井俊孝


 高度経済成長期以降、政策的に誘導された大都市への人口集中は、郊外に向かう宅地開発圧力となり、新たな斜面災害のリスクを増大させた。豪雨によって住宅地や道路、ライフラインに近接した斜面が崩壊し、災害となる事例が急増した。特に1978年宮城県沖地震、1993年釧路沖地震、1995年兵庫県南部地震等、都市に被害を与えた地震では、人口密集地に形成された多数の宅地盛土(多くは谷埋め盛土)の大規模な変動(地すべり)や宅地近接斜面の崩壊が発生した。本分野ではこうした災害の防止と傾斜地居住の新たな理念の構築のため、次の様な基礎研究と総合的な傾斜地防災対策の研究を行っている。

(1)安定斜面の形成過程の解明および災害危険度の高い区域を予測するための地形発達論的および水文地形学的研究(奥西一夫、Roy C. Sidle)
 岩石風化や地表浸食は、徐々に斜面を力学的に不安定にしている。こうした不安定化プロセスを理論的に取り扱うため、特に水文地形学に立った地形発達論的研究を行っている。奥西が中心となって研究を推進してきたが、2002年11月からはRoy C. Sidleがこれを引き継ぎ、水文地形学分野の発展を図る予定である。

(2)面表層の材料物性を明らかにするための地球物理学的探査法の研究(奥西一夫、Roy C.Sidle)
 斜面災害調査設備を六甲山麓住吉川上流部に設置し、1995年兵庫県南部地震によって亀裂が入り劣化した斜面の観測を行っている。土壌水分とストレインプローブによる内部変形の観測結果から、不飽和帯における水分移動と不安定化の関係について新たな知見が得られつつある。

(3)住居地、河川およびライフラインに近接した斜面の力学的安定度の評価のための理論的および実験的調査研究        (釜井俊孝)
 宇治川水理実験施設の水中振動台を使用し、1/50〜1/100スケールの斜面モデル実験を行っている。これまで多くの被災事例調査によって谷埋め盛土タイプの場合、変動の有無は住宅地形成以前の谷の三次元形状に強く支配されることがわかっている。モデル実験の結果はこうした統計的事実を裏付けるとともに、変動メカニズムに関する理論的根拠を与えることが期待される。

(4)傾斜地災害の地学的ならびに社会的条件と社会的影響をふまえた都市開発法の研究(釜井俊孝)
 1978年宮城県沖地震、1993年釧路沖地震、1995年兵庫県南部地震等の被災事例を解析し、宅地盛土の変動が発生した要因を明らかにするとともに変動予測式を作成した。これを首都圏南部の自由が丘から新横浜地域に適用し、都市域の宅地盛土型地すべりを対象とした危険度予測図(ハザードマップ)の作成を初めて試み、公表を目指している。

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