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4.3 地盤災害研究部門

4.3.1部門としての活動概要

@部門の研究対象と方針

地盤災害研究部門では、平野部における動的現象や人間活動に基づいた各種の地盤災害を防ぐための研究を推進するとともに、山地や都市周辺の傾斜地における降雨・地震・開発に伴う各種の地表変動現象による災害を防止・軽減するための研究を学際的に行っている。

近年、都市域の急速な拡大や気候の変化に伴って地盤災害は多様化し、また、複合的になっている。都市域は、海辺の低平地、丘陵地、山地に拡大しており、地盤災害に関する研究の重要性はますます増してきていると言える。地盤災害は、自然現象としてみただけでも、地盤工学、地質学、地形学、林学など多面的な側面を持っており、多くの場合、これらの分野で別個に行われてきている。しかしながら、これらの見方・考え方を合わせて研究をすすめることが、地盤災害の防止や軽減のためには不可欠である。当部門は、地盤防災解析、地すべりダイナミクス、山地災害環境、傾斜地保全の4分野から構成されており、構成員の専門分野は、地盤工学、地球物理学、地質学、地質工学、水文学、地形学と、地盤災害を学際的に研究する構成になっている。本部門は、これらを融合して学際領域を開拓してきている。災害の原因となる現象(ハザード)のメカニズムの基礎的な解明、それに基づく危険場所予測、危険度評価、災害防止手法の開発、研究結果の社会への反映を研究方針としている。当部門の4分野が連携して進めてきた12-13年度の課題は以下のようにまとめられる。

なお、平成14年度には、4月に地盤防災解析の教授と助手が新たに着任し、また、11月に傾斜地保全の教授が新たに着任し、新たな展開をはかりつつある。


A現在の重点研究課題

(1)地盤防災解析

 高度経済成長期以降、産業の効率化、人間生活の都市化にしたがって、沿岸部の埋立展開、沖合人工島の建設によって都市の巨大化が進展してきた。こうした人工地盤は軟弱な砂・粘土地盤上に構築されているため、大きな変状、強度不足による不安定化、地震時の震動増幅、液状化等の地盤災害にさらされることになる。また人間活動に伴って地盤汚染問題が深刻化しており、都市地盤の災害防止と環境浄化を重点的に研究を推進している。平成12、13年度の重点研究課題は以下の通りである。1)地盤環境の保全と廃棄物の環境地盤工学的対策、2)地盤改良工法の開発とその合理的設計方法の確立、3)地震時の地盤軟化機構の解明とその対策、4)数値解析による構造の発達した洪積粘土地盤の長期大変形機構の解明、5)遠心力載荷実験に基づく重力式構造物の地震時動的挙動に関する研究。

(2)山地災害環境

 起伏の大きな山地では、長い歴史を反映して地盤の風化、崩壊、土砂の運搬、堆積が繰り返されてきており、それによる人的被害、また、林地や農地の受ける災害には大きなものがある。また、近年では、都市の拡大によって都市自体が山地の中に入り込んでいることも一般的である。これらの災害の危険度を評価するには、崩壊の発生場所と時を的確に予測することが不可欠であり、また、災害の軽減のためには、予測に基づく警報発信が重要である。そのため、次の項目を重点課題としている。1)山体の重力による変形、および大規模崩壊に関する研究、2)岩石の風化メカニズムと速度、および崩壊の免疫性に関する研究、3)土石流などの急速な土石の移動の現地観測とモデル化に関する研究、4)山地の水文環境と地形形成プロ

セスの研究、6)山地災害の防止・抑制のための土地利用。

(3)地すべりダイナミクス

 世界的な人口増大、都市開発の進展により、都市周辺地域における地震時や豪雨時に発生する高速長距離運動地すべり・流動性崩壊による災害が激化している。また、ペルー国マチュピチュのインカの遺跡など、一旦破壊されれば復旧の困難な文化・自然遺産が地すべりによる破壊の危険性にさらされている例が注目されるようになってきた。このような世界的な地すべり危険度軽減と文化自然遺産の保護を目的として平成14年に国際斜面災害研究機構(ICL)が設立され、UNESCOとICLの共同事業として国際斜面災害研究計画(IPL)が開始された。地すべりダイナミクス分野ではIPL事務局として、所内及び国内外の斜面災害関連分野と協力しつつ、下記の研究・企画調整課題に取り組んでいる。

1)UNESCO/ICL国際斜面災害研究計画(IPL)事務局としての企画調整及び研究実施、2)高速地すべり・流動性崩壊の運動機構と運動範囲の予測の研究、3)都市開発域における地震/豪雨時の地すべり発生予測と防御の研究、4)ユネスコと防災研究所間の「地すべり危険度軽減と文化・自然遺産の保護」に関する研究協力覚え書きに基づいた国際共同研究、5)可視型リングせん断型地すべり再現試験機の開発、6)地すべり予知のための斜面変動監視システムの開発。

(4)傾斜地保全

 高度経済成長期以降、政策的に誘導された大都市への人口集中は、郊外に向かう宅地開発圧力となり、新たな斜面災害のリスクを増大させた。豪雨によって住宅地や道路、ライフラインに近接した斜面が崩壊し、災害となる事例が急増した。特に1978年宮城県沖地震、1993年釧路沖地震、1995年兵庫県南部地震等、都市に被害を与えた地震では、人口密集地に形成された多数の宅地盛土(多くは谷埋め盛土)の大規模な変動(地すべり)や宅地近接斜面の崩壊が発生した。本分野ではこうした災害の防止と傾斜地居住の新たな理念の構築のため、次の様な基礎研究と総合的な傾斜地防災対策の研究を行っている。1)安定斜面の形成過程の解明および災害危険度の高い区域を予測するための地形発達論的および水文地形学的研究。2)面表層の材料物性を明らかにするための地球物理学的探査法の研究、3)住居地、河川およびライフラインに近接した斜面の力学的安定度の評価のための理論的および実験的調査研究、4)傾斜地災害の地学的ならびに社会的条件と社会的影響をふまえた都市開発法の研究。


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