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4.2.2 研究分野の活動概要

V.耐震機構研究分野

       教授 中島正愛 、助教授 吹田啓一郎

@分野の研究対象と方針
 本研究分野では、建築構造物の地震に対する安全を確保することを命題に、建築構造物の地震時応答特性、崩壊特性などを理論的・実験的に解明するとともに、より高度な構造物耐震設計法・施工法の確立に関わる研究を実施している。

A現在の主な研究テーマ
1)鋼構造物の完全崩壊挙動の解明
2)連結振動系の地震時応答特性の解明
3)強震動を受ける建築構造物の応答予測技術の高度化
4)耐震接合部の破壊特性の解明
5)耐震設計における柱梁接合部の保有性能と要求性能の定量化
5)鋼構造物の耐震性能と施工品質の高度化
を中心に研究を展開し、以下の成果を得るに至った。

B各研究テーマ名
(1)鋼構造物の完全崩壊挙動の解明 (中島正愛)
 機能保持、損傷制御、安全確保などの多面的な要求に応えうる建築物を実現するための設計法として性能設計の確立が期待されているなかで、建物の安全性を確保するためには大地震動を受けたときの完全崩壊に至るまでの過程を解明し、また崩壊までの保有性能を定量化しておかねばならない。建物が自重を支えきれなくなる点と定義される完全崩壊限界を明らかにするため、繰返し大変形による梁部材の完全崩壊ならびに軸力と曲げを同時に受けて繰返し大変形する柱の完全崩壊を模擬する構造実験、鋼構造特有の材料および幾何学的な非線形性、形状変化を考慮した解析を行った。これらの研究から、部材および接合部の破断が発生しない限り大変形域においては微小変形域と異なる新たな抵抗機構が形成されて直ちに完全崩壊に至らず耐震能力を発揮できることを示すとともに、適切な補剛のなされていない梁や過大な軸力を受ける柱がこのような高靭性抵抗機構を発揮せずに容易に完全崩壊へ至る条件を明らかにした。

(2)連結振動系の地震時応答特性の解明(中島正愛)
 兵庫県南部地震において、都市部密集住宅群の地震に対する脆弱性が露わになり、これら住宅群のリニューアルも含めた耐震改修は地震国日本において愁眉の課題である。その普及を促進できる安価で実効性が高い改修方法の一つとして、住宅群を互いに連結させることにより群全体としての地震応答低減を実現する技術を開発した。連結材として、地震応答により隣接住宅が互いに近づく場合に抵抗する緩衝材、互いに離れる場合に抵抗する連結材を想定し、これらで連結された住宅群の地震応答特性を震動台実験や精緻な数値解析によって解明し、その成果に基づいて制振効果が最も高くなる連結方法を明らかにした。

(3)強震動を受ける建築構造物の応答予測技術の高度化             (中島正愛)
 性能設計の確立と普及のためには地震応答解析の手法によらず短時間で精度よく強震動下における最大応答を予測する技術が必要とされる。そのために非線形高次モード特性をも考慮した応答予測に着目し、多数の実地震記録波を使った応答解析結果を蓄積し、応答値に対して統計的手法を使った分析から、地震応答への寄与が大きいモードを明らかにするとともに、多自由度系の応答予測手法を提示した。

(4)溶接接合部の破壊特性の解明
 (吹田啓一郎)
 兵庫県南部地震に見られた溶接接合部の早期破断現象の要因解明のために動的載荷実験を行い、溶接接合詳細、鋼材の破壊靭性が破壊特性に関与することを明らかにしてきたが、同時に鋼梁部材の塑性化に伴う発熱現象が破壊現象の発生に大きく関与することを示してきた。この点に着目してさらに定量的な情報を得るための動的載荷実験を行い、塑性化する鋼梁の歪挙動と温度の時間・空間変動特性に関する詳細なデータを蓄積し、地震エネルギー吸収能力、鋼部材の残存耐震性能との関係を明らかにする上で基礎となる情報を得た。

(5)耐震設計における柱梁接合部の保有性能と要求性能の定量化      (吹田啓一郎)
 部材の塑性化により耐震性能を確保しようとする曲げモーメント抵抗型骨組の耐震設計において、最大応力発生点である柱梁接合部に要求される曲げ耐力と実際の接合部が保有する耐力値の精度よい定量化手法を確立するために、塑性解析による理論解析および地震時応答を忠実に再現した動的載荷実験を行い、柱梁接合部の性能設計において不可欠となる保有性能の評価手法を確立するとともに、地震時応答挙動から要求性能を定量化するために必要な部材耐荷能力の限界値を提示した。

(6)鋼構造物の耐震性能と施工品質の高度化(吹田啓一郎)
 鋼構造物の接合部が抱える溶接施工技術に対するロバスト性の問題を解決するひとつの手法として高力ボルト接合を主体とする耐震性能の高い接合技術の実現を目指し、同時に地震時に損傷させる部材を予め指定し、地震後に損傷部を随時取り替えることを可能とする高度化された耐震構造システムを開発する。そのために高力ボルト接合と履歴ダンパーの要素技術を複合した接合法を提案し、その性能を実大載荷実験により明らかにするとともに、設計手法を確立した。
 上記研究課題の遂行に関しては、研究担当として京都大学工学部:上谷宏二教授、非常勤講師として熊本大学工学部:小川厚治教授の協力を得た。さらに、米国イリノイ大学、M. A. Aschheim助教授、中華人民共和国清華大学、F. Qiu助教授、中華民国台湾技術科学大学、S. J. Huang教授らが当研究分野に滞在し、上記課題を中心とした共同研究を実施した。さらに中核機関(COE)特別研究員として、金尾伊織(2000〜2001年度)、謝強(2001年度)が上記研究を分担した。

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