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4.1.2 研究分野の活動概要

V.都市空間安全制御研究分野

教授  鈴木祥之、 助教授  林 康裕

@分野の研究対象と方針
総合防災における物理的課題を対象として、大地震などによる都市空間の危険度評価手法の研究とともに、安全性と快適性を備えた質的に高度な生活空間を実現するための空間安全制御手法、都市空間構成要素の信頼性設計法、生活空間防災計画法に関する総合的な「生活の質」向上の研究を行う。特に、建築物の耐震安全性向上の重要かつ基本的な課題である建築造物の耐震安全性の評価とそれに基づく合理的な耐震設計法の構築と構造制御理論に基づいた制震構造システムの開発を目的として、また都市住空間の地震危険度を評価し、安全性を確保することを目指して、以下の研究を推進している。

A現在の主な研究テーマ
1)都市住空間の総合防災に関する研究
2)構造物系の信頼性設計法と構造ヘルスモニタリングに関する研究
3)構造物の制震システムに関する理論的・実験的研究
4)生活空間の地震リスクマネージメントに関する研究
5)都市空間の地震被害予測に関する研究
6)木構造の構造力学的構築と耐震性能評価に関する研究

(1)都市住空間の総合防災に関する研究
建築物と人命の安全性を確保し、地震後の再建を容易にするための社会的システムのあり方を提案することを目的として、1)都市空間のリスク評価とマネジメント、2)建築物内部空間のリスク評価、3)建築物の性能と制度、の3テーマについて研究を行っている。
平成12年度研究集会(12S-1)「都市住空間における地震災害のリスク評価とマネジメント」(研究代表者:鈴木祥之)では、阪神・淡路大震災以後も鳥取県西部地震などを経験し、建築物、特に住宅と人命の安全性を確保し、地震後の再建を容易せしめるための社会的なシステムの重要性が認識されてきていることから、都市域の地震災害について、建築物群、特に住宅を対象に、建物、建物室内および居住者の観点から被害のリスク評価を行うとともに、建物および人命の安全性を確保するための住宅性能保証および検査制度の仕組みとこれらを補完する補償、保険制度の在り方について研究した。

(2)構造物系の信頼性設計法と構造ヘルスモニタリングに関する研究
 地震外乱、構造物系、耐震性の判定規範等に含まれる不規則性や不確定性を考慮して、構造物の地震時の安全性・信頼性を確率として定量化する方法を確立することが基本的に重要であり、履歴構造物の確率論的地震応答解析法および地震時損傷度評価法とそれらを統合化した耐震信頼度解析法を導き出すことを目的とした研究を行っている。
 まず、不規則地震外乱を受ける履歴構造物の不規則応答を確率平均法によって定式化する方法などを導き、数値シミュレーションにより、解析法の妥当性を検証した。また、地震外乱や構造物系に含まれる不規則性、不確定性を考慮し得る信頼度解析に基づいて構造物等の耐震設計を行うことが合理的であるとの観点から、不確定構造物系の耐震信頼度解析法と信頼性設計法の開発に関する研究を行った。さらに、地震時の構造物損傷をウェブレット法により検出することを試みに、2階建木造住宅の振動台実験で得られるデータを用いて検証した。

(3)構造物の制震システムに関する理論的・実験的研究
 地震時における建築構造物の安全性のみならず機能性・居住性を保持するには、構造物の地震応答を抑制するアクティブ制震が有効な方策であり、都市重要施設・建物や災害弱者用の建物等に適用が望まれる先端技術であり、特に、大地震にも適用し得る制震システムを開発することを目的とした理論的・実験的研究を行っている。
 アクティブマスダンパー(AMD)の制御装置の性能限界を考慮した可変ゲイン制御アルゴリズムの開発や形状記憶合金(SMA)の特性を利用した制震システムの開発を行い、実験的に検証した。外部からエネルギー供給が少ないという利点をもつセミアクティブ制震の制御アルゴリズムの理論的研究を行い、制御評価関数に含まれる重み係数の決定法を提案し、制御効率が改善されることを検証した。大地震時には、構造物の応答が非線形領域に至ることから履歴構造物のを対象とした非線形制御について検討を行った。小規模な木造住宅から社寺建築のような大規模な木造建築物の制御には、減衰装置が効果的であり、木造軸組に仕口ダンパーやブレーキダンパーなどを設置して、それらの制御効率を調べ、木造の制震補強法を開発している。

(4)生活空間の地震リスクマネージメントに関する研究
 災害のリスクを低減するためには、建築物の所有者や市民が地域や住まいにひそむ危機要因について良く理解し、自らの命や生活を自ら守るべく努力するとともに、行政も地域の危険度や防災対策について分かり易く説明することが大切であるとの観点から、災害発生前の防災対策促進のための建築物の地震リスク表示・コミュニケーションに関する研究と、災害後の被災者への公的支援と生活再建・自立に関する研究を行っている。特に、兵庫県南部地震や鳥取県西部地震の被害調査データを基に、建築物の耐震診断結果に基づいた地震リスク評価や、地域の住環境や住文化や地震後の生活復興困難性なども考慮した地震リスクの評価・表示方法について研究を進めている。

(5)都市空間の地震被害予測に関する研究
 都市域の地震被害想定と地震後の早期被害推定を高い精度と信頼性のもとに行うには、都市の広域的な地震動特性と地域の建物特性を把握するとともに、実被害地震における災害事例を検証し、被害経験を活かしていくことが基本となる。このような観点から、京都市域における地盤および建物の地震応答を広域的に観測するネットワークを構築し、1996年5月から地震応答観測を実施している。本観測システムによる観測記録と京都市における地下構造調査の結果等に基づき、京都盆地における強震動増幅特性に関する基礎的検討を行うとともに、兵庫県南部地震における京都盆地端部における木造住家の被害集中傾向の検証を行っている。また、2000年鳥取県西部地震、2001年インド西部地震、2001年芸予地震の建築物被害調査を実施し、地震動特性と建築物被害の関係等について分析を行い、建築物の地域性を考慮した耐震性能評価法や被害予測手法の開発を進めている。

(6)木構造の構造力学的構築と耐震性能評価に関する研究
 阪神・淡路大震災では、木造住宅が甚大な被害を受け、多くの死傷者を出すことに至ったことを契機に、木造住宅の耐震性能を構造動力学の観点から見直し、木構造の再構築を計るとともに、木造軸組構法に適した耐震設計法や耐震補強法の構築を目指した研究に取り組んでいる。
 まず、土壁、貫等の構造要素を対象として単位立体軸組試験体を用いた耐震性能評価実験、一般的な2階建木造軸組住宅を対象にした一連の実大振動実験を行い、木造軸組の耐震性能評価法に関する研究を行っている。この耐震性能評価法を基に軸組構法の限界耐力計算による新しい設計法へと展開している。また、伝統木造軸組の実大振動実験を実施して、伝統木造建築の構造メカニズムを構造力学的に解明するとともに耐震性能の評価を行った。実在の寺院建築を対象に構造調査、微動計測などの耐震調査を実施して、耐震性能評価と耐震補強計画を行う。
 日本建築学会「木構造と木造文化の再構築」特別研究委員会(平成11年度〜13年度、代表・鈴木祥之)の活動として、木構造の構造力学的構築や耐震設計法および補強法の開発など木造住宅の耐震性向上に関する研究を進めるとともに、木造住宅の性能保証に関連する検査制度や保険制度などの社会的な課題にも取り組んでいる。また、平成13年度からは、日本建築学会近畿支部木造部会(部会長・鈴木祥之)としても取り組んでいる。

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