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4.1.2 研究分野の活動概要

T.災害リスクマネジメント研究分野

    教授 岡田憲夫、 助教授 多々納裕一

@分野の研究対象と方針
 自然災害、環境災害などの災害リスクに対して有効な戦略を打ち立てていくためには、災害マネジメントの戦略についてリスク分析的視点から研究を進めることが必要である。自然・環境等からの外力の発生が被害をもたらす災害と顕在化する過程には人間の様々な活動が介在する。これらの外力と活動との相互作用によって被害の程度や災害からの回復の仕方が異なってくる。人間の活動は民間・社会資本の蓄積を介して被害を受ける客体の分布等を規定するとともに、防災のための社会資本の蓄積や制度等の整備、さらには災害文化の醸成等を介してソフト・ハードの社会基盤が形成される。本研究分野では、社会の「安全の質」を規定するという社会基盤整備の側面に着目し、ハード・ソフトの社会基盤の整備を通じた災害リスクマネジメントの方法論を提示することを目指して研究活動を展開している。

A現在の主な研究テーマ
1)災害リスクの分析・評価方法
2)災害による社会・経済的インパクト
3)災害マネジメントの戦略論
4)社会的合意形成過
5)安全で安心なまちづくりと技術的なコミュニティ形成のためのリスクマネジメントに関する実証論的研究

(1)災害リスクの分析・評価方法に関する研究
 災害が社会的被害を引き起こす過程には人間の活動分布や住宅・産業の空間的集積状況、社会基盤の整備状況、さらにはそれらを間接的に規定する法や制度、文化といった重層的な構造が介在する。そこで、人間活動の分布と災害のリスクとの関連を分析するためにニッチ分析や空間統計分析を用いた方法論の開発を試みている。また、社会基盤の整備と災害リスクの関連性に関しては、道路網の冗長性解析手法を提案している。また、住居の空間分布のリスク解析のために、都市経済学的なアプローチに基づいて災害リスク情報の利用可能性と被害の発生可能性に関する理論的検討を行っている。

(2)災害による社会・経済的インパクトに関する研究
 近年の災害による社会経済的なインパクトは年々増加の一途をたどっている。90年代の平均値と60年代のそれとを比較すると、災害の発生件数は3.2倍に増加し、総経済揖失は8.6倍に、保険金支払額にいたっては16.1倍に達している。このことは、災害に対する対処方法を考える際に、社会経済活動への効果を考慮することが極めて重要であることを示唆している。そこで、当研究室では、ハザードマップの提供による被害軽減の可能性や防災投資の短期・長期効果の計量化および評価方法に関して研究している。

(3)災害リスクマネジメントの戦略論
 災害のリスクマネジメントの方法は、災害リスクの「コントロール」と「ファイナンス」に大別される。洪水に備えてダムや堤防を作ったり、建築物や土木構造物の耐震設計を行ったりといった物的なリスクコントロールの他にも、保険、税あるいは情報提供等によって被災危険地域から人口や資産の分散を図るような非物的な手段によるコントロール手段も存在する。また、大規模な災害では被害の発生は避け得ない。このため、災害のリスクを効率的に分担していく仕組みであるリスクファイナンスも極めて重要である。災害リスクマネジメントを実効あるものにしていくためには、これらの施策を有機的に組み合わせていくことが不可欠となる。そこで、当研究室では、これら災害リスクマネジメントのための施策をいかに組み合わせ、有効な戦略を導くかという政策分析の方法に関して研究を行っている。

(4)社会的合意形成過程に関する研究
 いかに、理想的なマネジメントの方策が立案されようとも、その施策を実現していくためには、その実施に村して社会的な合意を形成していくことが不可欠である。当研究室では、社会的合意が達成されるプロセスを個々の主体が自己の利益の最大化を目指してゲームを行う結果、自発的に協力関係を形成される過程として捕らえる。さらに、分権的・自発的に協力関係が形成されるようなルールに関してゲーム論的な解析を行っている。この過程において情報の非対称性が重要な役割を果たすことに着目し、不完備情報下の交渉や交渉結果が不変となるような選好の構造に関しても検討を加えている。

(5)安全で安心なまちづくりと技術的なコミュニティ形成のためのリスクマネジメントに関する実証論的研究
 地域や都市、コミュニティの安全、安心の質を総合的に高めていくためには、市民を巻き込んだ技術的なコミュニティ形成のプロセスが不可欠である。そこで当研究室は過疎地域などを対象に、リスクマネジメントに関する多面的かつ実証的な研究を行っている。

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