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 3.2.2 一般共同研究 平成12年度


 広く研究課題等を公募し、防災研究所内外の研究者が協力して進める研究である。研究期間は1〜2年である(平成12年度までは1年間としていた)。研究代表者は所内・所外を問わないが、所外の研究者が実質的な研究の主体となるものである。企画専門委員会で事前に申請課題の整理を行い、各研究課題の意義・特色、および経費の妥当性について検討の後、コメントを付した別表を作成し共同利用委員会に提示する。共同利用委員会では、別表を参照しつつも、とらわれることなく審議を行い、採択候補課題を選定する。
研究期間終了後はすみやかに、研究成果を報告書にとりまとめ出版公表することを義務づけている。出版公表には電子媒体を用いることを推奨している。

平成12年度

(研究課題の選考概要)18件の応募があった。企画専門委員会では、各研究課題の意義・特色、および経費の妥当性について検討の後、コメントを付した別表を作成し共同利用委員会に提示した。
共同利用委員会における審議の結果、平成12年度一般共同研究として18件を採択した。


(12G-1)超稠密地殻変動観測網による火山体圧力源の解明
研究期間:平成12年4月1日〜平成13年2月28日
研究場所:岩手山火山(岩手県)
研究組織 
研究代表者 
 木股文昭(名古屋大学大学院理学研究科 )
所内担当者
 石原和弘(京都大学防災研究所 教授)
参加者数:14名

(a)研究の背景と目的
 岩手山火山では1998年以降、火山活動が活発化した。そこで申請者らは1998年7月から岩手山南山麓で水準測量を実施し、西岩手に圧力源を推定している。圧力源の位置や規模を詳細に議論するために2000 年度は水準測量の再測を実施し、過去の観測データも含め、同域における圧力源の位置や規模の変動に関する議論を行う。

(b)研究経過の概要
 水準測量は、1998年7月に設置した岩手山西山麓の40kmの路線で2000年5月23〜31日の9日間実施した。測量には、木股文昭・宮島力雄(名大)、高山鐵朗(京都大学)、内田和也・中村めぐみ(九州大学)、平野舟一郎(鹿児島大学)、立花憲司・上田英樹(東北大学)の8名が参加し、3チームで測量作業を進めた。冬季の積雪が多く、水準点を根雪から掘り出す事件も生じた。観測結果は、網張温泉以北で10mmの隆起が観測された。最近2年間では最も少ない隆起量である。隆起がより侠域に集中し、しかも隆起量が減少していることから、圧力源は活動が衰え、浅部に移動していると考えられる。

(c)研究成果の概要
 今回の観測を含め過去7回の水準測量を整理し、茂木モデルにより球状圧力源を各観測期間毎に推定した。推定した圧力源は網張温泉付近から時間経過とともに北西方向に移動し、しかも深さが2kmから4kmと深くなる傾向が明らかである。最終的に大松倉岳の南、深さ4km前後となる。その延長方向に国土地理院がSAR干渉により1998年9月までに推定した球状圧力源が位置する。
 各期間に推定した球状圧力源から計算する98年7月〜00年5月までの上下変動として、圧力源直上で5cmの隆起量が計算される。また、圧力源における体積増加も、増加率は減少していることが明らかである。圧力源での体積増加は98年7月〜99年5月までに1 ×106m3、その後は0.5 ×106m3にも満たない。岩手山では98年7月〜00年5月に圧力源の活動は時間と共に減衰していると考える。また、水準測量による上下変動の観測でも点の配置などに考慮すれば、体積増にして105m3規模の圧力源の規模と位置の変動が議論可能なことも明確となった。


(12G-2)淀川流域における自然人間系洪水流出現象の共同集中観測と予測モデル開発
研究組織 
研究代表者
 椎葉充晴(京都大学工学研究科 教授)
所内担当者
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 小尻利治(京都大学防災研究所 教授)
 福島義宏(名古屋大学大気水圏科学研究所 教授)
 畑 武志(神戸大学農学研究科 教授)
 田中丸 治哉(神戸大学農学研究科 助教授)
 中北英一(京都大学工学研究科 助教授)
 清水芳久(京都大学工学研究科 助教授)
 谷口真人(奈良教育大学教育学部 助教授)
 堀野治彦(大阪府立大学農学生命科学研究所 助教授)
 大手信人(京都大学農学研究科 助教授)
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
 増田貴則(鳥取大学工学部 講師)
 市川 温(京都大学工学研究科 助手)
 金木 誠(建設省土木研究所 主任研究員)
 三輪準二(建設省土木研究所 主任研究員)

(a)研究の背景と目的
わが国における河川流域の水循環・洪水流出・物質循環は、水工施設による流水制御や複雑な土地利用、農業生産活動など、人為的な効果が影響して非常に複雑なシステムを形成している。こうした地域での水循環の実態を明らかにし、流域の総合的な整備・保全・管理を指向する枠組みを構築するために、都市化が進展しつつある野洲川流域を対象として水理水文観測・データ収集を実施し、総合的な水循環・物質循環モデルを開発することを目的とする。

(b)研究の方法
水・物質循環解析を展開するためには、多くの行政機関の協力が必須となる。また、望ましい流域環境を指向するためには、流域住民が現在の流域をどう捉えどのような流域を求めているかを知る必要がある。そこで、住民・行政担当者・研究者が参加して意見交換をする場を設置した。また、既存施設による観測データの収集、農業用水の取水・還元の一斉集中観測を実施し、水・物質循環モデルの構築に取り組んだ。

(c)研究成果の概要
 水・物質循環解析を展開するために、行政機関・住民・研究者の対話の場を設置した。また、既存データを収集し、水・物質循環モデルの構築に取り組んだ。

(d)成果の公表
 収集したデータをホームページ上に整理した。


(12G-3)都市域及びその周辺のバックグラウンド大気微量成分の動態解明
研究組織
研究代表者
 福山 薫(三重大学生物資源学部 教授)
所内担当者
 岩嶋樹也(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者   
 サンガ・ンゴイ・カザディ(三重大学生物資源学部 教授)
 村松久史(名城大学理工学部 教授)
 寺尾 徹(大阪学院大学情報学部 講師)

(a)研究の背景と目的
 大気微量成分である大気メタンやオゾンなどについてはまだまだ未解明な部分が多い。特に、都市域とその周辺における挙動や実態については多くの研究課題が残されている。二酸化炭素の約20倍の温室効果を有する大気メタンは、二酸化炭素と同様に全地球的に増加傾向にある。この増加には、湿地・水田・家畜などの寄与が大きいといわれている。地域的には、このバックグラウンド濃度に、都市域の人間活動に伴って発生した大気メタンが加わっている。このような大気微量成分は大気環境・気候変動に大きな影響を及ぼし、その動態解明や量的評価が求められており、詳細な実態の観測や解析は極めて重要である。
 本共同研究は、伊勢湾やそれを囲む愛知県・三重県の都市とその周辺を研究対象域として、陸上や海上における大気メタン・オゾン濃度の観測と海水中の溶存メタン濃度の測定を行う。さらに、地方自治体の機関によって長年にわたって実施されてきた大気汚染監視観測結果を加えて、総合的な解析を行う。これにより、都市域とその周辺のバックグラウンド大気微量成分の動態解明を目指す。

(b)研究の方法
 バックグラウンド大気メタン濃度を調査するために、陸域では、名古屋市などの研究対象域の風上に当たる、伊吹山で空気試料採取と気象観測を4回実施した。また都市域から離れていて観測点が少ない渥美半島や知多半島について、都市域のデータから推定していた分布モデルの妥当性を確認するために、空気試料の採取分析を延べ3回実施した。
 海域では、三重大学生物資源学部附属練習船「勢水丸」により、伊勢湾と熊野灘で2回にわたって気象観測や大気オゾン濃度の直接観測を行い、大気メタン濃度測定用の空気試料を採取して分析した。また、伊勢湾の海水をさまざまな水深で採取して、溶存メタン濃度を測定した。これら試料の分析後、解析検討会を開き、今後の研究方向・課題についてとりまとめを実施した。

(c)研究成果の概要
 伊吹山での観測や長年にわたる大気汚染観測網データの解析から、滋賀県域の大気メタン濃度の年々変化をみると、1990年までは増加傾向にあったが、それ以降は横ばいか、やや低下傾向にあった。これに対して、周辺府県ではこれまでの全期間を通じてほぼ増加傾向にあることが明らかになった。このような滋賀県域メタン濃度と周辺との差の出現は、琵琶湖水温の経年変化が影響している可能性を示唆している。渥美半島・知多半島の空気採取分析によって、これまで解析によって推定してきた分布モデルの妥当性が確認された。 伊勢湾航海観測によって、海上にも大気メタン高濃度域が存在することがわかった。これには、知多半島における空気試料採取による分析結果と総合すると、陸域からの移流による部分が大きいと考えられる。さらに、海水採取による分析から、海水中の溶存メタンの寄与が加わっているものと推測される。季節や海域・水深等いくつもの条件下で大気メタンと海水溶存メタンの観測を実施することが今後の課題である。

(d)成果の公表
「都市域とその周辺における大気微量成分濃度とその変動(U)」、防災研究所年報第44号,B-1,pp.25-36.


(12G-4)リモートセンシングと多種の観測法を用いた落葉広葉樹林の微気象と蒸発散量の季節変化に関する研究
研究期間:平成12年4月1日〜
平成13年2月28日
研究場所:滋賀県伊香郡余呉町の落葉広葉樹林
研究組織
研究代表者
 戎 信宏(愛媛大学農学部研究センター)
所内担当者
 田中賢治(京都大学防災研究所 助手)
参加者数:7名

(a)研究の目的
森林の蒸発散研究においては、長期観測による落葉広葉樹林における微気象の季節変化と蒸発散量の定量的な解明は未だ十分ではない。そこで本研究は、リモートセンシングと従来の蒸発散量の推定法を組み合わせて、落葉広葉樹林の微気象と蒸発散量の季節変化の解明を研究の目的とする。

(b)研究経過の概要
滋賀県伊香郡余呉町にある森林フラックス観測タワー施設において、連続的な微気象・フラックス観測(温湿度、放射量、風速、風向、気圧、雨量、土壌水分、地温、風速気温変動など)を実施した。これとは別に観測機器の保守点検、観測データ回収時に葉面積指数(LAI)の計測を実施した。さらに、光量子計による可視光量の連続観測、ヒートパルス速度の連続観測を実施した。

(c)研究成果の概要
本研究の研究成果の概要は以下の通りである。気温と水蒸気圧のプロファイルは、夏期(7月〜8月)に蒸散の影響を強く受けていることがわかった。風速の観測から得られる粗度長(0.17〜2.5)と地面修正量(9.9〜15.5)は、葉の成熟や落葉の影響を受け、秋から冬に粗度長が大きく、地面修正量が小さくなる。アルベドは、積雪期(12月〜2月)が最大となり、最低は融雪期(3月)に現れ、5月から9月まではほぼ同じ0.13の値で安定している。ボーエン比法あるいは渦相関法で求めた蒸発散量は7月が最大となり、1999年では月平均3.3mm/day、2000年では3.5mm/dayであった。2000年の4月から11月の総蒸発散量は約480mmであった。ボーエン比の季節変化は、蒸散の盛んな7月から8月が安定しており、9月下旬になると急に高くなることがわかった。表面温度法による表面温度画像から得られた蒸発散量分布は、7月にその分布の幅が小さく、6月、10月は大きくなり季節変化による違いが見られた。ヒートパルス速度は、蒸発散量の多い夏期に最大値をとり、蒸発散量との対応が明らかであった。さらに光量子計による反射可視光量とアルベド計から得られる反射日射量より算出される正規化植生指標(NDVI)の季節変化は、5月下旬頃に最大値をとり、衛星データから得られるNDVIの季節変化とほぼ1:1で対応していた。また、このNDVIは現地で測定されたLAIとも相関が高いことがわかった。
以上のように、本研究の試験地において落葉期、着葉期(4月〜10月)の林分構造の変化による微気象・放射特性、蒸発散量、NDVIの季節変化が明らかになった。

(d)成果の公表
京都大学防災研究所一般共同研究研究報告書 12G-4「リモートセンシングと多種の観測法を用いた落葉広葉樹林の微気象と蒸発散量の季節変化に関する研究」
戎 信宏,西川 敦,近藤昭彦,中北英一,田中賢治:森林地における正規化植生指標と葉面積指数、蒸発散の季節変化に関する研究, 第3回水文過程のリモートセンシングとその応用に関するワークショップ, pp.59-68, 2002.
宮崎 真,杉田倫明,安成哲三,鈴木力英,石川裕彦,田中賢治,山本 晋:各種プロジェクトにおけるフラックス測定, 気象研究ノート第199号, 第9章, pp.201-234, 2001.
戎 信宏,山中新一,西川 敦,近藤昭彦,中北英一,田中賢治:地上観測の正規化植生指標(NDVI)と森林の蒸発散量に関する研究?琵琶湖プロジェクト森林観測から?,水文・水資源学会2001年研究発表会要旨集, pp.252-253, 2001.


(12G-5)飛騨山脈周辺における応力場と内陸大地震に関する研究
研究組織 
研究代表者
 川崎一朗(富山大学理学部)
所内担当者
 伊藤 潔(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 角野由夫(信州大学理学部 教授)
 佐々木嘉三(岐阜大学教育学部 教授)
 原山 智(信州大学理学部 教授)
 平松良浩(金沢大学理学部 助手)

(a)研究の背景と目的
飛騨山脈周辺付近ではGPS観測によって、変位が不連続であることがわかってきた。また、微小地震、地殻変動観測などによって、応力場が複雑であることがわかっている。このためには、他種類の観測結果を用いて、応力場に関連する調査を行う。これらの情報を総合的に解析して、応力場の地域的変化の詳細を明らかにし、プレート運動に対する内陸地殻の変形過程、内陸地震発生過程を調査することができる。

(b)研究の方法
GPS観測によって飛騨地域の地殻変動を観測した。地震活動の面からは、発震機構、地震分布から地震発生時の応力場が求めた。特に、1998年に活発であった群発地震との関連を精査することによって、これらの関連をも調査した。さらに、長周期地震計を設置し、長周期の地震を観測することによって、30km程度の深部で発生する、低周波地震の調査を行った。また、S波のスプリッティングによって、応力場の方向を検証した。また、地震発生時の地下水の変動からは、地下水位と地震発生との関連を調査した。

(c)研究成果の概要
 GPS観測によって、1998年群発地震の際に、飛騨山脈の山体が膨張した可能性が指摘された。地震観測からは発震機構と中地震とその余震の解析によって、破壊面と応力場が決定された。その結果、主圧力軸は北東−南西方向で、西北西―東南東方向の広域応力場とは有意に異なることがわかった。また、破壊面はほぼ垂直で、東西または南北であることもわかり、飛騨山脈下におけるの変形・破壊の様子が明らかになった。山脈中央部の破壊は、東西または南北の横ずれを示し、この破壊は深さ5km程度まで続いているが、その下の破壊様式はよくわからない。この結果はS波のスプリティングからも裏付けられる。さらに、広域応力場が局所的に変化する理由として、地震発生層より深い部分での、跡津川断層のディタッチメントが仮説として提唱された。観測された低周波地震は深い部分での運動を示唆している。上記の観測解析によって、さらに、長期のGPS変動ベクトルの解析と広域における発震機構の解析を行えば、これらの解明が可能であることが示された。

(d)成果公表の方法
各項目の研究成果を集めて、報告書(論文7編,77頁)を作成した。一部は2000年度地震学会秋期講演会で報告されている。
和田博夫,伊藤 潔,大見士郎:飛騨山脈の群発地震(その2)−周辺活動域への影響−,京都大学防災研年報,43B-1,pp.115-121, 2000.


(12G-6)内陸地震の震源断層周辺の地震 活動履歴解明
研究組織
研究代表者
 西田良平(鳥取大学工学部 教授)
所内担当者
 渡辺邦彦(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 佃 為成(東京大学地震研究所 助教授)
 塩崎一朗(鳥取大学工学部 助教授)
 竹内文朗(京都大学防災研究所 助教授)
 松村一男(京都大学防災研究所 助教授)
 大見士朗(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
日本列島の地下で発生する内陸地震はほとんどの場合地表面に地震断層が出現する。都市近傍に発生する大地震を発生させた震源断層周辺の地震活動は時間履歴を経て、現在の地震活動状況を示している。この活動度を把握することは、大地震以後の時間的・空間的な状況を知る上で重要な課題である。ここでは、微小地震と気象庁地震データのGISデータベース作成を行い、地表面の活断層に注目してその周辺の地震活動を検証する。活断層は地下の震源断層が繰返し活動することで出現することから、その地域の地震活動と地下断層との関係を解明する第1歩となり得る。活断層周辺の地震履歴を明らかにすることで、地震活動から将来の大地震発生予測の基礎データを得ることができる。

(b)研究の方法
 地震予知研究センターの微小地震データから、GISソフト(ARC-INFO、ArcView)のデータフォーマットに変換を行った。震源位置(X,Y)を位置データ、と属性として深さ、年月日、時分、マグニチュードを属性データとして入力した。他のGISデータとして日本の活断層分布データベース(市販)を用いた。GISソフトで地震活動解析を行い、まず活断層との関連を議論した。次に活断層に関係する地震分布を切り出し、震源断層周辺への地震活動の拡大とその活動度の時間経過を求めることとした。
 地震活動度は断層からの距離によると仮定した。断層からある距離幅の範囲内に含まれる地震数を面積で割って地震発生数密度を計算した。それが遠方周辺のレベルに下がる距離を、地震活動が断層の影響を受ける距離(有効距離)とした。
 対象とした活断層は跡津川断層、阿寺断層、根尾谷断層、養老断層、花折断層、三峠断層、有馬高槻構造線、六甲断層、山崎断層、鹿野吉岡断層、中央構造線である。これらの断層周辺の地震活動解析で、気象庁データでは14、微小地震データでは6つの活断層について地震活動が明瞭に分離でき、活動度を求めることができた。また全国の代表的98断層についても、気象庁データで概略解析を行った。
 12月9日に京都大学防災研究所地震予知研究センターで第1回の研究会を、2月2日に鳥取大学地域共同研究センターで、第2回の研究会を開催した。

(c)研究成果の概要
 活断層に影響される地震活動は、精度の良い微小地震データでは断層から距離約3〜5kmであり、気象庁データでは断層からの距離は3〜4kmと求められた。これにより、活断層周辺の地震活動の存在は断層と明瞭な関係があることが明らかになった。また、どちらのデータでもほぼ同じ値となったことは、断層周辺の地震活動、大地震の震源断層周辺の地震活動が非常に限られた領域でしか影響を及ぼしていないことを示し、興味深いことである。
 東北地方には縦ずれ断層が多いが、縦ずれ断層面の傾斜の影響も、大まかであるが考察した。その上で、中部〜近畿地方の断層の活動度密度は比較的高い傾向にあった。
 過去の大地震からの経過年数と地震活動度の関係から、時間的変化を考慮した断層活動度を推定した。

(d)成果の公表
 学会、研究会で結果を公表している。西播磨地域地震防災研究会報告や雑誌「自然と環境」にも一部引用し発表した。


(12G-7)大気・海洋循環系モデルにおける波浪の影響に関する研究
研究組織
研究代表者
 安田孝志(岐阜大学大学院工学研究科 教授)
所内担当者
 加藤 茂(京都大学防災研究所 助手)
共同研究者
 植田洋匡(京都大学防災研究所 教授)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 山下隆男(京都大学防災研究所 助教授)
 馬場康之(京都大学防災研究所 助手)
 小林智尚(岐阜大学大学院工学研究科 助教授)
 大澤輝夫(岐阜大学大学院工学研究科 助手)
 水谷夏樹(岐阜大学大学院工学研究科 博士後期課程*)
 河合篤司(岐阜大学大学院工学研究科 博士後期課程*)
*日本学術振興会特別研究員

(a)研究の目的・趣旨
 沿岸域の災害、環境問題の基盤となる海洋循環の時間発展型モデルの構築に、駆動力としての波浪場、風域場との相互作用を考慮することが必要である。九州を襲った台風18号においても、風による吹き寄せ効果に加えて、強風によって発達した波浪が湾奥の極浅海域に侵入・砕波し、それによって発生した吹送流が湾奥部での水位上昇を増大させ、大きな被害へと結びついた。また、冬季に強風を伴う日本海沿岸では、風による流れ(吹送流)をどの程度正確に予測できるかが、沿岸域全体の流れ場の再現性の鍵になるとも言える。
 そこで本研究では、大潟波浪観測所観測桟橋による冬季日本海の気象・海象観測と風洞水槽による風波の砕波実験を行い、大気−波浪−海洋循環の相互関係の解明を行う。また、既存の大気、波浪、海洋循環の予測数値モデルを改良し、これらを統合した3次元大気−海洋循環系モデルの構築およびその検証を行う。

(b)研究経過の概要
(1)水槽実験
 岐阜大学所有の風洞付き2次元波浪水槽に勾配1/20の一様斜面を設置し、現地において強風・高波浪時に発生する非常に強い流れ場の生成メカニズムの解明を目的とした水理実験を実施した。実験では、静水状態に風を作用させた条件と、進行する波に風を作用させた条件の2種類を対象として、風から波・流れ場へのエネルギー伝達、および形成される流れ場に関する差異の有無について検討した。
(2)気象・海象観測
 大潟波浪観測所の観測桟橋を援用して、沿岸域における冬季季節風下の気象・海象観測を実施した。
(3)数値モデルの構築および検証
 波浪の浅水変形が風波の砕波に影響を及ぼす海域(浅水域:shoaling region)での大気乱流場、波浪場、吹送流場の相互作用を考慮した海面せん断応力モデルの与え方を検討するとともに、波浪推算モデルWAM、海洋循環モデルPOMにより浅水変形海域における波浪−吹送流の結合モデルを白波砕波せん断応力を導入することにより構築した。また、このモデルを1999年の18号台風による八代海での高潮の追算に適用した。

(c)研究成果の概要
(1)波浪水槽実験
 風・波共存場においては、波浪、流れ場ともに強化される傾向を持つことから、海面におけるせん断応力特性には、風速だけではなく波浪の状態を考慮する必要があり、波浪の発達、砕波(白波砕波)を介しての風から流れへのエネルギー伝達の機構が、荒天時の流れ場の強化にとって重要であると考えられる。また、現地を対象とした実用的な定式化には、観測に基づいた現地スケールでの検討が必要である。
(2)気象・海象観測
 観測桟橋では、波高計群による波浪条件、3成分超音波式風速計による海上風乱流特性、プロペラ式風速計による平均風向・風速が計測され、桟橋先端の直下では海底に設置したADCPにより平均流の鉛直分布特性が計測された。これにより、冬季の気象・海象の長期連続データが得られた。また、桟橋先端には岐阜大学所有のXバンドレーダが設置され、桟橋沖での波浪、風波砕波および海洋表層流の空間分布の計測が試みられた。
(3)数値モデルの構築および検証
 波浪が吹送流に及ぼす影響として白波砕波せん断応力を用い、波浪推算モデルWAM、海洋循環モデルPOMにより浅水域における波浪−高潮結合モデルを構築、1999年18号台風による八代海での高潮の追算に適用した。その結果、浅水域では白波砕波せん断応力は強く作用し、それによるwave set-upの重要性が確認され、浅海域における波浪―吹送流(風域場)の相互作用として、白波砕波による吹送流の増幅を考慮する必要があることが指摘された。

(d)主な研究成果の公表
井坂健司,安田孝志,大澤輝男:風波下の乱流境界層の生成・発達における砕波の役割,海岸工学論文集,第48巻,pp.66-70,2001.
井坂健司,安田孝志,米倉誠司,大澤輝夫:砕波帯の波・流れ・乱流構造に及ぼす風速の影響,海岸工学論文集,第48巻,pp.91-95,2001.
馬場康之,山下隆男,加藤 茂:傾斜海浜上における風波エネルギーと生成される平均流についての実験的検討,海岸工学論文集,第48巻,pp.46-50,2001.
山下隆男,中川勇樹:白波砕波せん断応力を考慮した波浪・高潮結合モデルによる台風9918号による八代海の高潮の再現,海岸工学論文集,第48巻,pp.291-295,2001.


(12G-8)流動性崩壊の発生・運動機構の研究
研究組織 
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者
 千木良雅弘(京都大学防災研究所 教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 釜井俊孝(京都大学防災研究所 助教授)
 竹内篤雄(京都大学防災研究所 助手)
 末峯 章(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 丸井英明(新潟大学積雪地域災害研究センター 教授)
 北原 曜(信州大学農学部森林科学科 教授)
 矢田部龍一(愛媛大学工学部 教授)
 横田修一郎(島根大学理工学部教授)
 山本哲朗(山口大学工学部 教授)
 森脇武夫(広島大学工学部 助教授)
 海堀正博(広島大学総合科学部 助教授)
 古谷 元(新潟大学積雪地域研究センター 非常勤研究員)
 森脇 寛(科技庁防災科学技術研究所 室長)
 牧原康隆(気象庁予報部予報課 主任予報官)
 大倉陽一(林野庁森林総合研究所 主任研究員)
 落合博貴(林野庁森林総合研究所 室長)
 中里弘臣(農水省農業工学研究所造構部土木地質研究室 主任研究員)
 新井場公徳(消防庁消防研究所)
 星野 実(建設省国土地理院)
 千葉達朗(アジア航測竃h災部 主任技師)
 中筋章人(国際航業葛Z術センタ− 技師長)

(a)研究の目的と背景
1999年6月の集中豪雨により、広島市で多数の流動性崩壊が発生し30余名が死亡した.毎年火山性堆積物やマサ土等の斜面で流動性崩壊災害が発生している。本研究は、流動性崩壊の発生危険度予測を目的として、上記の災害現場等からサンプルを採取し、リングせん断試験、三軸試験等により発生・運動メカニズムの研究を行う。

(b)研究の方法
本研究では流動性崩壊現場斜面で採取した試料や粒状体試料を用い、佐々が開発した地震時地すべり再現試験機を主に本研究に用い、流動化の主要な原因と考えられているすべり面液状化の発生過程について調べた。 共同研究者らと研究成果の公表および議論については以下の通り行った。
(1)(社)日本地すべり学会・流動性の高い崩壊研究委員会を組織(委員長:佐々恭二、1999年〜2001年3月)し、研究を実施した。
(2)日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動と予測」を広島市において5月31日、6月1日にかけて組織した。
(3)(社)日本地すべり学会第39回研究発表会において流動性崩壊の特別セッション(8月29日、神戸)を組織した。
(4)GeoEng2000(2000年11月19〜20日、豪州・メルボルン)において特別講演「Mechanism of flows in granular soils」および討論を行った。
(5)International Conference on Research and Application on Hydrogeological Disasters in the World(2000年12月5〜10日、ローマ市)において特別講演「Prediction and hazard assessment of fluidized landslides and debris flows」と討論を行った。
(6)国際地盤工学会地すべり技術委員会(ISSMGE、 TC-11)として、Satellite Conference"Transi- tion from Slide to Flow", 25-26 August2001, Trabzon, Turkeyを組織した。

(c)研究成果の概要
本研究によって得られた成果は主に以下の通りである。
(1)地震時地すべり再現試験機を用いて珪砂に中国の黄土(レス)を異なる割合で混合した試料を対象に飽和非排水条件で応力制御試験を実施し、細粒分含有率と過剰間隙水圧の発生特性の関係を調べ、細粒分が多いほど過剰間隙水圧が発生しやすく、発散しにくい傾向を示すことがわかった。また、2001年1月に発生したラスコリナス地震による流動性崩壊の現場から採取したパミス試料についても非排水せん断試験を行い、すべり面液状化が発生し大きく強度が低下することを再現し、流動性崩壊の主要な原因がすべり面液状化であることを示した。
(2)兵庫県南部地震で仁川地すべり等の流動性崩壊を発生させた大阪層群試料について、定速度せん断試験を行い、従来の液状化メカニズムでは説明できなかった中密かつ緩傾斜の土層で地すべりの流動化現象が起こり得ることを明らかにした。
(3)試料のせん断中の粒子破砕の特性を効率よく調べるための小型のリングせん断試験機「粒子破砕特性試験機」を製作した。

(d)成果の公表
Sassa, K.:Mechanism of flows in granular-soils. Proc. GeoEng2000, Vol.1, pp.1671-1702, 2000.
Sassa, K.: Evaluation of Dynamic Shear Chara-cteristics in Landslides. Proc. UEF Confer-ence on Landslides-Causes, Impacts and Countermesures, Davos, (in print), 2001.
Sassa, K. :Machanism of Transition from Slide to Flow , Proc. ISSMGE Satellite Conference on Transition from Slide to Flow: Mechanism and Remedial Measures (in preparation),2001.
佐々恭二:流動性崩壊の発生・運動メカニズム, 日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動および予測」論文集, pp.1-26, 2000.
Konagai, K. J. Johansson, P. Mayorca, T. Yamamoto, M. Miyajima, R. Uzuoka, N.E. Pulido, F.C. Duran, K. Sassa, and H.Fukuoka. : Las Colinas Landslide Caused by the Jan. 13, 2001 Earthquake Occurred off the Coast of El Salvador. Proc. JSCE Symposium on Earthquake Engineering (in printing), 2001.
Okada, Sassa, and Fukuoka.: Liquefaction and the Steady State of Weathered Granitic Sands Obtained by Undrained Ring Shear Tests, A Fundamental Study of the Mechanism of Liquefied Landslides, Journal of Natural Disaster Science, Vol. 22, No.2, pp.75-85, 2000.
G.H. Wang and K. Sassa.: Factors affecting the rainfall-induced flowslides in laboratory flume tests, Geotechnique, (accepted), 2001
海堀正博:土石流災害の発生したいくつかの氾濫場の特徴と考察, 日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動および予測」論文集, pp.27-38, 2000.
千木良雅弘:崩壊発生の地質的素因−マイクロシーティング−, 日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動および予測」論文集, pp.39-56, 2000.
千葉達朗:空中写真から見た広島災害, 日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動および予測」論文集プレプリント, pp.1-20, 2000.
森脇武夫:マサ土斜面における崩壊発生機構, 日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動および予測」論文集, pp.57-78, 2000.
牧原康隆:土壌雨量指数と斜面災害予測の展望, 日本地すべり学会関西支部シンポジウム「流動性崩壊の発生・運動および予測」論文集, pp.79-96, 2000.
Sassa, K. : Prediction and hazard assessment of fluidized landslides and debris flows, Proc. Int'l Conf. on Research and Application on Hydrogeological Disasters in the World, 5-10 Dec. 2000,Rome, p.32, 2000.
JSCE reconnaissance team, 2001, Provisinal report on the January 13, 200l earthquake occurred off the coast of El Salvador, http://www.jsce.or.jp/e/index.html.
岡田康彦,佐々恭二,福岡 浩:非排水リングせん断試験による砂質土の過剰間隙水圧発生と有効垂直応力の低下, 第39回(社)日本地すべり学会研究発表会(地すべり2000)講演集, pp.291-292, 2000.
多田卓弘:地すべりの流動性に関する研究−せん断ゾーンの過剰間隙水圧の蓄積に及ぼす細粒分含有率の影響−, 京都大学大学院理学研究科修士論文(主査:佐々恭二), 2001.
中筋章人:近年の流動性崩壊の特徴,(社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.507-510, 2000.
佐々恭二:すべり面液状化と流動性崩壊の発生・運動機構, (社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.511-512, 2000.
千木良雅弘:流動性崩壊源頭部の風化特性〜東北豪雨災害および広島災害, (社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.513-516, 2000.
大倉陽一,三森利昭,落合博貴,川浪亜紀子,北原曜:室内崩壊実験による土砂の流動化発生過程, (社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.517-520, 2000.
中里弘臣:電磁探査法による広域地盤調査, (社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.521-524, 2000.
古谷 元,佐々恭二,日浦啓全:徳島県善徳地すべりで発生した小規模流動性崩壊の前兆現象, (社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.529-532, 2000.
Fawu WANG, 佐々恭二:Geotechnical Simulation on the Sumikawa Landslide - Debris Flow, (社)日本地すべり学会第39回研究発表会(地すべり2000)概要集, pp.533-536, 2000.


(12G-9)山地斜面、河川系、湖沼、海洋を通じての物質輸送に関する環境・防災科学的研究
研究組織 
研究代表者
 奥西一夫(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 杉本隆成(東京大学海洋研究センター 教授)
 立川賢一(東京大学海洋研究センター 助手)
 道上正規(鳥取大学工学部 教授)
 奥村武信(鳥取大農学部 教授)
 岩田好一朗(名古屋大学工学部 教授)
 諏訪 浩(京都大学防災研究所 助教授)

(a)研究の背景と目的
 従来斜面系、河川系、湖沼系、海洋系などについて、個別的に研究されてきた物質輸送が、互いに関連していることは今や常識である。平成11年度の準備過程で、これらの個別システムをリンクする研究が予想以上に進展していることが明らかにされた。しかし、まだ十分解明されていないリンクも存在する。本研究は熊野川水系と熊野川海岸の事例研究に基づいて、今後の研究を推進するためのシナリオを提案するものである。

(b)研究の方法
 事例研究をおこなった熊野川・熊野海岸について、国、県および学識経験者で構成する熊野川河床調査委員会、七里御浜海岸浸食対策検討会の調査・観測資料を収集・整理した。現地討論会は11月11日〜12日に熊野市保健福祉センターで開催した。また宿舎で本研究の分担者・協力者と熊野の自然を考える会のメンバーとの交流集会もおこなった。
 11月13日〜14日には現地調査をおこなった。まず熊野海岸の現況と海岸浸食の実態を調査し、ついで熊野川水系を遡り、流域の地形・地質特性と流砂・河床材料・河床形態の関連、1889年の十津川大水害による斜面崩壊とその後のダム建設が土砂流送と河川環境に与えた影響、ダムの上流と下流における土砂の流送状況の対比、砂利採取が河川環境に及ぼす影響などについて、現地調査をおこなった。
 平成13年2月17日〜18日に防災研究所で、研究取りまとめのための集会をおこなった。

(c)研究成果の概要
 十津川流域では1889年の十津川大水害による斜面崩壊によって大量の土砂が十津川水系に流入し、その後の森林の荒廃の影響をうけた20世紀中期に至るまで、流域からの土砂精算が極めて活発であった。その影響は熊野川下流並びに熊野海岸にまで及んだと考えられるが、系統的かつ定量的な考察の記録を発見することができなかった。20世紀後半に入って、十津川および北山川水系では多くの発電用ダムが建設され、それによって流砂量が激減した。これと河床からの砂利採取量の増加が重なり、熊野川下流では顕著な河床変動が起こり、また熊野海岸への土砂供給量が減少したことを、資料研究と現地調査によって明らかにした。
 上記のように、熊野川から海洋に流出する土砂の量は、一時期急増し、その後高い水準を保った後顕著な減少に転じたと考えられるが、これに対応して熊野海岸では礫浜の侵食が顕著になった。しかし、それが深刻な社会問題として認識されたのは、熊野川河口左岸側に建設された鵜殿港防波堤の影響で、それに接する七里御浜の侵食が特に顕著になってからである。しかし、海浜侵食とその物理的背景の定量的な記述はまだ不十分であり、今後の調査研究に待つ点が多い。
 現地討論会では漁業関係者、環境問題に関心を持つ一般市民、関連する行政関係者、および研究者の間で研究・活動成果と問題意識の交換が行われ、熊野川・熊野海岸をリンクした形で問題点が整理され、今後の問題解決に向けて重要な指針を得ることができた。

(d)成果の公表
奧西一夫(編):山地斜面、河川系、湖沼、海洋を通じての物質輸送に関する環境・防災科学的研究、京都大学防災研究所共同研究12G-9研究報告書,127p, 2001.
杉本隆成:沿岸漁場環境への陸域開発の影響,同上, pp.40-45.
岩田好一郎:熊野川河口周辺域の海岸侵食と対策,同上,pp.46-49.
伊藤宣毅:海岸法の改正と海岸事業の在り方,同上,pp.50-55.
花尻 薫:七里御浜の自然,同上,pp.56-58.
花尻 薫:熊野市有馬海岸に上陸産卵するアカウミガメの保護活動13年間,同上,pp.59-62.


(12G-10)人間活動に伴う地下水環境への影響に関する研究
研究期間:平成12年度
研究組織
研究代表者
 杉尾 哲(宮崎大学工学部)
所内担当者
 岡 太郎(京都大学防災研究所 教授)
 松田誠祐(高知大学農学部 教授)
 大年邦雄(高知大学農学部 教授)
 神野健二(九州大学工学部 教授)
 広城吉成(九州大学工学部 助教授)
 細川土佐男(九州産業大学工学部 教授)
 石井将幸(島根大学生物資源科学部 講師)
 藤原 拓(高知大学農学部 助手)
 浜口俊雄(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 毎年、各地で地下水位の低下や地下水の水質汚染などが深刻な社会問題となっている。これらの地下水障害は、地表面における活発な人間活動に伴うものであり、低水時の河川水環境にも、種々の障害が生じている。地下水環境を保全するために、人間活動に伴う地下水環境への影響の程度を明らかにすることが重要である。本研究は、生活空間において快適な水環境を保全するための技術的課題を検討し、社会への要望に応えるものである。

(b)研究の方法
実際に地下水障害の発生が憂慮されている地点を対象として、各分担者は独自に「人間活動と地下水環境との関係」について研究するとともに、宮崎県都城盆地において現地調査・防災研究所において研究会を実施する。さらに、高知県春野町、島根県斐川平野、福岡市元岡地区において広域的な地下水調査・解析を継続する。

(c)研究成果の概要
宮崎県都城盆地においては、主として硝酸性窒素による地下水汚染状況について調査を行った。
現段階では上水用水源に用いられている被圧地下水は水道水としての水質要件を満たしているが、地表面に近い不圧帯水層からは硝酸性及び亜硝酸性窒素が検出された。これらは窒素肥料や畜産廃棄物に起因することが分かった。現地では、汲み上げた地下水から硝酸性窒素を除去するためのイオン交換樹脂法に基づく装置が開発され実用試験が行われていた。また、地下水の涵養を促進するための雨水貯留浸透システムの導入が試行されていた。これらは地下水汚染対策として今後大いに期待される。
高知県春野町では、海岸付近に立地する園芸ハウス内の井戸において、地下水位、電気伝導率、地下水水質を観測した。地下水の塩水化については、淡塩境界は地下水位の変動に対応して変動しておるが両者の変動には場所によって振幅と位相に差異のあることが分かった。地下水水質は、塩水侵入と施肥の影響によっておおまかに説明でき、水質変動は園芸ハウスにおける湛水が大きく影響することが分かった。また、地下水流動と汚染物質の移流拡散現象を解くための非定常・三次元数理モデルの開発を行った。
福岡市元岡地区においては、塩水化が生じている地下水を地球化学的に解析した。その結果、塩水化地下水にどの程度の海水が混入しているかを知る必要があること、トリリニアダイヤグラムで分類された塩水化地下水の特徴は、水素・酸素同位体比の測定結果を参照して決定しなければならないことなどが分かった。
島根県斐川平野においては、電気探査法を用いて地下水塩水化の状況を調査した。宍道湖に近い部分を中心に塩水化がみられたが、伏流水が豊富な斐伊川沿いと、地下水涵養が多い山地の近くでは、塩水化は軽度であること、および夏季と秋季の塩水化の状況に大きな違いはみられないことが分かった。

(d)成果の公表
研究概要集を作成して配布するとともに、その一部は水資源研究センター発行の研究報告に掲載し、研究成果を公表した。


(12G-11)絶対重力計・相対重力計の併用による、桜島の火山活動にともなう山体内部の密度変化の検出
研究組織
研究代表者
 大久保修平(東京大学地震研究所 教授)
所内担当者
 山本圭吾(京都大学防災研究所 助手)
研究分担者
 石原和弘(京都大学防災研究所 教授)
 高山鐵朗(京都大学防災研究所 技官)
 古屋正人(東京大学地震研究所 助手)
 大木裕子(東京大学地震研究所 大学院生)
 田中愛幸(東京大学地震研究所 大学院生)

(a)研究の背景と目的
桜島及び鹿児島湾周辺域では、ラコスト重力計を用い、1975年から1997年までに計9回の精密重力測定が繰り返されてきた。その結果、この期間内に桜島中央部では鹿児島湾周辺を基準にして200マイクロガル以上にも及ぶ重力増加が起こっていることが明らかにされ、山頂噴火活動期にゆるやかな地盤沈降と並行して山体内部で何らかの密度増加現象が進行してきたものと考えられている。ところで、ラコスト重力計を用いた相対重力測定では、どこかに重力の不動点を仮定する必要があり、また、測定には20マイクロガル程の測定誤差を見込まなければならず、上記のような重力変化を詳細かつ定量的に論じるには不備が残る。本研究では、これらの問題を回避し、桜島火山において高精度絶対重力測定を行い、重力変化の定量的な見積もりから山体内部で起こっている現象を解明することを目的とする。

(b)研究の方法
東京大学地震研究所の絶対重力計を用いて、2001年1月に桜島西岸部にある京都大学桜島火山観測所と桜島中腹のハルタ山観測室の2個所において絶対重力測定を行った。同時に、この2点を含む桜島及び鹿児島湾周辺域の精密重力測定点において、ラコスト重力計を用いた相対重力測定を行った。

(c)研究成果の概要
1998年7月、1999年7月と行った絶対重力測定により、桜島の山頂噴火活動の静穏化と対応するかの如く、過去に測定されてきた桜島中央部における重力増加がこの期間に1マイクロガル以内の精度でほぼ停止していた事が明らかとなった。2001年1月の測定では、絶対重力計部品故障のため絶対重力値を得ることはできなかったが、ラコスト重力計による測定の結果、1999年7月からの期間に、桜島火山観測所において約20マイクロガルの重力の減少が示唆された。ただし、ラコスト重力計の測定誤差をも考慮し、今後絶対重力計によって確認する必要が残っている。また、過去のデータを定量的に再解析し比較検討した結果、重力測定値に精密な海洋潮汐補正を施すことに成功し、今後の微小な重力変動検出に道を開いた。

(d)成果の公表
山本圭吾,高山鉄朗,石原和弘,大久保修平,新谷昌人,古屋正人,大木裕子:桜島火山周辺の重力測定における海洋潮汐の影響,平成12年度京都大学防災研究所研究発表講演会.
大久保修平(研究代表者):絶対重力計・相対重力計の併用による,桜島の火山活動にともなう山体内部の密度変化の検出,京都大学防災研究所一般共同研究(12G-11)研究報告書,21p.
Yamamoto, K., Ishihara, K., Okubo, S. and Araya, A., Accurate evaluation of ocean tide loading effects for gravity in nearshore region: the FG5 measurements at Sakurajima volcano in Kagoshima Bay, Japan, Geophysical Research Letters, Vol.28, pp.1807-1810, 2001.
山本圭吾,石原和弘,大久保修平,新谷昌人,古屋正人,大木裕子,高山鉄朗:桜島の火山活動に伴う重力変化と絶対重力測定,月刊地球,Vol.23,No.8, pp.578-582, 2001.


(12G-12)平常時および災害時の緊急用水としての雨水・都市雑排水の利用可能性に関する調査研究
研究組織
研究代表者
 城戸由能(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 細井由彦(鳥取大学工学部 教授)
 史 承煥(鳥取大学工学部 教務職員)

(a)研究の背景と目的
 都市における渇水対策や災害時緊急用水としての雑排水の再生利用や貯留雨水の利用可能性を、地区あるいは建物単位の水道使用量に基づき、用途別の需要水と雨水および都市排水の水量および水質レベルを考慮した需給バランスを評価する。

(b)研究の方法
 鳥取市および大阪市における地区および建物単位での水道使用量データを収集するとともに、大阪市域の開発事業に伴う流出抑制目的で設置されている雨水貯留施設の容量等のデータを収集・整理し、地区単位および建物単位で、再生利用可能性を考慮して設定した水質レベル別に需要水量と排水量を算定し、雑排水・下水処理水および雨水の再生利用の可能性について検討した。

(c)研究成果の概要
 まず、再利用水の広域循環の可能性を検討するために、下水処理水および雨水貯留施設の全国の利用状況を概観した。その結果、全国の66%にあたる下水処理施設で処理水の再利用が行われているが、晴天時下水量に対する再利用水量の割合は6%〜10%程度であり、場外で利用されているものはそのうち数%〜25%のみにすぎず、地域の雑用水源として利用の余地があることがわかった。
 次に鳥取市内の地区単位での雑排水再生利用の可能性について検討するため、市内の大口利用者3,000件を対象として建物用途別に利用用途に対応した水質レベル別の再生利用可能な水量収支を町単位で評価した。その結果、再生水利用を飲用等以外の用途に限定すれば、全量再生水で供給できる町数は全体の23%、需要水量の50%を越える水量を再生水で供給できる町数は全体の49%となった。全市では、再生水利用可能な用途の総需要量の約60%を再生水で供給できることを明らかにした。さらに、雨水供給ポテンシャルおよび再生水の需要ポテンシャルの算定を行い、用途地域別の屋根面積と建物用途を用いて地域特性の違いを考慮した字町目内の需給バランスを算定することで、再生水の需要の大きな地域、雨水利用もしくは下水処理水を導入する可能性を検討すべき地域がわかることを示した。
 最後に、開発事業に伴う流出抑制対策としての雨水貯留施設に着目し、貯留雨水の再生利用の効果を評価した。再生利用可能性を考慮して設定した水質レベル別に大阪市内の地区・建物単位の上水使用実績データから需要水量と排水量を推定し、日雨量データから算定した集水および貯留雨水量に基づいて雨水で代替可能な上水量を評価した。その結果、市域全体で現存する貯留施設を活用すれば、その施設の総上水使用量の約15%、雨水代替可能な用途の総使用水量の約41%が雨水によって供給可能であり、建物用途別では、工場、交通・流通施設、スポーツ・文化施設で雨水利用効果が高かった。このような施設は、市域に分散した水源としても活用でき、平常時には対象地区や建物の一部用途の代替水源となり、緊急時には周辺地域を含めた防火用水等への利用も可能である。ただし、現状の設計指針は流出抑制目的に基づくので、水量的に需要水量の全てを供給することはできない。今後は、流出抑制目的と利水目的の両方の目的を合わせた複合機能施設として、設計および設置基準を検討する必要がある。

(d)成果の公表
京都大学防災研究所 一般共同研究 研究報告書12G-12「平常時および災害時の緊急用水としての雨水・都市雑排水の利用可能性に関する調査研究」


(12G-13)鬼界カルデラのマグマ溜りとその探査法に関する基礎的研究
研究組織 
研究代表者
 松島喜雄(工業技術院地質調査所 主任研究員)
所内担当者
 井口正人(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 風早康平(工業技術院地質調査所 主任研究員)
 菊地恒夫(工業技術院地質調査所 主任研究員)
 中尾信典(工業技術院地質調査所 主任研究員)
 斉藤英二(工業技術院地質調査所 主任研究員)
 斉藤元治(工業技術院地質調査所 主任研究員)
 篠原宏志(工業技術院地質調査所 主任研究員)

(a)研究の背景と目的
薩摩硫黄島では、1000年以上も活発な火山ガス放出が続いているが、その多量の火山ガスは、鬼界カルデラの直下に存在する巨大なマグマ溜りのマグマからの脱ガスに由来するものと推定されている。本研究では、九州地域において発生する自然地震を観測・解析し、マグマ溜りの位置を地震学的手法により探査する可能性を検討した。

(b)研究の方法
鬼界カルデラの縁に位置する薩摩硫黄島および竹島において広帯域地震計を4台設置し、2000年11月から2001年8月まで9ヶ月間、その周辺地域において発生する地震の連続観測を行った。その上で、観測点間で顕著な地震波の減衰が見られる記録について地震の震源位置から地震波線を推定し、その波線が交差する位置から減衰域を決定し、マグマ溜りの位置の検討を行った。

(c)研究成果の概要
 観測された九州地域の地震の波形を観測点の間で比較したところ、多くの場合は、波形の相関がよいが、一部の記録では、観測点の間の振幅が著しく異なることが見出された。この振幅の差は、P波初動よりもS波部分およびコーダ部分において大きい。気象庁および九州大学から公開されている震源位置を利用して減衰が顕著な地震の波線を計算した。薩摩硫黄島では、東側から到来する地震波の減衰が顕著である。高精度の減衰域の決定はできなかったが、おおよそ、減衰域は薩摩硫黄島と竹島の中間からその南の海域に位置する。この海域では1934年に海底噴火が発生したこと、また、薩摩硫黄島および竹島におけるGPS観測では、この海域にむけて収縮するような水平変動が見られることから、この減衰域はマグマ溜りの存在を示唆する。

(d)成果公表の方法
各項目の研究成果を集めて、報告書(論文4編、84頁)を作成した。また、本研究の一部はEPSの薩摩硫黄島特集号で報告されている。
Masato Iguchi, Eiji Saito, Yuji Nishi, and Takeshi Tameguri, 2002, Evaluation of recent activity at Satsuma-Iwojima -Felt earthquake on June 8, 1996-, Earth Planets Space, 54, 187-195.


(12G-14)地形改変がある場合の地すべりの挙動とその土塊の変形について
研究組織 
研究代表者
 海堀正博(広島大学総合科学部)
所内担当者
 末峯 章(京都大学防災研究所 助教授)

(a)研究の背景と目的
地すべり地に切土や盛土をともなう道路建設などの地形改変を行うことでこれまでに地すべり活動が助長され災害につながった可能性が指摘された事例がある。たとえば、昭和60年7月26日に大崩落をした長野市の地附山地すべり災害では昭和39年に開通した有料道路バードラインとの関係が問題となり裁判でも争点とされた。地すべり活動を助長することなく適切な開発を行うためにもなお多くの調査研究が必要である。しかし、地すべり活動は非常に長い期間にわたって継続し、また、再発する特性を有するため、短期間の調査研究からその挙動のメカニズムの全体を明らかにすることは難しい。そこで、20年以上にわたる観測がなされ、近年作業道建設が行われた徳島県のある小規模の地すべり地で、地表面変形、伸縮、傾斜などの調査とともに、土圧や地下水の動向などの調査も行い、地形改変の影響が地すべりの挙動に及ぼした影響について調べてみることにした。

(b)研究経過の方法
 徳島県三好郡井川町にある西井川地すべり地をモデル地として、これまで防災研究所によって設置され観測されてきた調査項目に加えて、平成11年度からは地すべり地冠頭部、中部、末端部に新たな観測機器を設置し、地表の伸縮や地中の土圧の変化を追っている。また、面的な地表面形状をとらえるためのトータルステーション測量による精密調査も継続して行っている。平成11年秋にこの地すべり地の上部にあたる位置に作業道(林道)が設置されたことにともない、部分的な地形改変がどのように地すべり挙動に影響するかを調査するために、平成12年度にはこれまでの観測調査に加えて地下水流向に関する調査として1m深地温探査を実施し、あわせて検討することにした。

(c)研究成果の概要
地すべり地等において、地形改変が引き金となっている場合が少なからず有る。その前後において観測されている例は非常に少ないのが実状である。四国に有る地すべり地で地すべりの観測を行っている所での事例解析を行った。その結果適切な対策を行っている所では地すべりを助長していないことが分かった。

(d)成果公表
新井場公徳,末峯 章:すべり裏面の形状と土塊内応力について, 地すべりと斜面崩壊に関するシンポジウム論文集, 2000年9月, pp.93-102, 2000.
新井場公徳,末峯 章:西井川地すべりの移動機構と移動土塊の変形について, 第39回日本地すべり学会研究発表会講演集, pp.107-110, 2000.
末峯 章:結晶片岩地すべり地における道路建設の地下水に対する影響について, 地すべりと斜面崩壊に関するシンポジウム論文集, 2000年9月, pp.71-78, 2000.
古谷 元,末峯 章,小山内信智,原 龍一:平成11年6月29日の豪雨によって善徳地すべり地・大師堂周辺で発生した斜面崩壊と水みちの分布, 新潟大学災害研年報, 第22号, pp.45-61, 2000.
再活動の結晶片岩地すべりの移動に及ぼす降雨の影響, 平成13年度地すべり学会研究発表会(予定)
古谷 元,末峯 章,日浦啓全,福岡 浩,佐々恭二,小山内信智:善徳地すべり地で発生した斜面崩壊の前兆変位と水みちの関係, 愛媛大学・地盤工学会四国支部, 豪雨時の斜面崩壊のメカニズムと予測に関するシンポジーム発表論文集,pp.87-94, 2001.7


(12G-15)熱・水収支観測の高精度評価に関する研究
研究組織 
研究代表者
 玉川一郎(岐阜大学工学部 助教授)
所内担当者
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者名
 伊藤芳樹(潟Jイジョー研究開発本部 マネージャー)
 田中健路(熊本大学工学部 助手)

(a)研究の背景と目的
大気陸面間の熱と水の交換は、気候の変動や形成、あるいは、水資源への影響の観点から重視され、特にその定量的モデリングが重要視されているが、モデリングで要求されている精度を持つ観測を行うことは非常に難しい。そこで観測に伴う種々の問題を防災研究所が保有するデータや観測装置を使い検証する。

(b)研究経過の方法
本共同研究参加者の大半が係わっている GAME-Tibet プロジェクトのチベット高原安多観測点での観測データを中心に、熱収支・水収支観測の評価の観点から、各研究者が再検討を行った。また、そこでも使用されている超音波風速温度計に関して、詳細な検討を行う為に防災研究所および潮岬風力実験所において検定実験を行った。その結果を研究会で検討議論した。

(c)研究成果の概要
大きく3点に分けられる。1つは、超音波風速温度計のKaijo TR-61A型プローブにおける、shadow effect および flow distortion に関して、実験を行い、結果として風洞中ではshadow effect に対して有効な補正を行う事ができるが、自然風中では補正の必要が認められず、プローブの真後ろ方向以外では共分散に関しても影響は小さい事が示された。
 残り2つは、チベット高原安多観測点のデータに関してである。そのうち1つは熱収支観測において、多くの疑問のある地中熱流量観測に関して、熱流板と土壌の伝導率の違いによる影響を数値計算により調べ、その影響は約2倍にも及ぶ事、また2cmより深くに熱流板がある場合にはPhilip(1961)の補正式が有効である事などが明らかとなった。
 もう一つは、同地での乱流観測に関して、乱流特性を調べ、数百秒スケールの長周期変動では水蒸気と気温の相似性がモンスーン開始前後の時期に崩れる事、長周期変動においてuwのコスペクトルがMonin-Obukhov則を満たさない事、乱流輸送量の算出に30分の平均化時間では統計的にやや不安定になるが乱流輸送量の過小評価はあまり大きくない事を示した。

(d)成果の公表
「熱・水収支観測の高精度評価に関する研究」報告書,玉川一郎編,2000.


(12G-16)盆地における局地循環と霧発生との関連
研究組織 
研究代表者 
 宮田賢二(広島女子大学生活科学部 教授)
研究分担者
 田中正昭(京都大学防災研究所 助教授)
 米谷俊彦(岡山大学資源生物研究所 教授)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 伊藤芳樹(潟Jイジョー 研究開発部長)
 橋口浩之(京都大学防災研究所 助手)
 堀口光章(京都大学防災研究所 助手)
 寺尾 徹(京都大学防災研究所 助手)
 岩田 徹(岡山大学環境理工学部 助手)
 宮下晃一(岡山大学資源生物研究所 助手)
 大原真由美(広島県保健環境センター 研究員)

(a)研究の背景と目的
 内陸の盆地では、しばしば濃霧が発生、悪視程が持続、それによる交通渋滞、事故などが発生し、生活に大きな影響を及ぼす。本研究の目的は、霧の多発地域、広島県の三次盆地おいて、自然霧の動態を総合的、集中的に観測測定して、霧の発生、成長、成熟、消滅に至る過程を盆地に形成される特有な局地気象現象(局地風、冷却など)との関連において明らかにして、その予知を可能にすることにある。

(b)研究の方法
三次盆地における霧集中観測研究を実施し、目視、カメラ、及びビデオカメラ観測と同様、赤外線熱画像装置、熱影像温度計、ドップラーソーダー、係留ゾンデ観測を併用して行った。また、霧水の採取量、イオン分析を行い、その化学的な検討を加えた。数値実験から、三次盆地での、瀬戸内海、日本海からの水分の補給を考慮し,盆地循環について検討した。この観測のあと2回の研究会を開催、観測結果をそれぞれのグループが発表、全員で討論した。

(c)研究成果の概要
本研究で得られた成果は以下のようである。広域的な地形に関係する霧もある。アンモニヤガスは霧が十分発生した状態でとりこまれる。霧の動態と山の斜面、霧の表面温度、湿度、水分分布がよく対応している。霧発生日と非発生日で風に際だった違いはなかったが、霧の上面付近に強混合域がある。濃い霧の発生日は共通して逆転層の発達、水蒸気の増加がみられ、発生前後から等温的になり、比湿は減少する。霧の内部構造が明確になり、川からの移流と盆底からの発生が捉えられた。しかしこれらは個別に行われた研究成果をまとめた段階であり、相互の関連性などについては、まだ十分でない。今後の課題である。

(d)成果の公表<BR> 京都大学防災研究所 一般共同研究 研究報告書12G-16「盆地における局地循環と霧発生との関連」
平成12年度京都大学防災研究所年報に掲載。


(12G-17)本上陸前後の台風の構造に関する研究
研究組織 
研究代表者 
 内藤玄一(防衛大学校地球科学科 教授)
所内担当者
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者  
 植田洋匡(京都大学防災研究所 教授)
 藤井 健(京都産業大学一般教育研究センター・教授)
 石川裕彦(京都大学防災研究所 助教授)
 西村宏昭((財)日本建築総合試験所耐風試験室 研究員)
 板野稔久(防衛大学校応用科学群地球海洋学科 助手)
 筆保弘徳(京都大学大学院理学研究科 大学院生)
 吉野 純(京都大学大学院理学研究科 大学院生)

(a)研究の背景と目的
 台風の構造は、低緯度で発生してから中高緯度で減衰あるいは温帯低気圧に変質するまで同じ特徴を保っていない。渦としての台風は既に多くの人たちが研究し、その構造モデルを提案している。しかしながら、その力学的熱的構造は解明されていない。特に、上陸前後の台風の構造や性状に関する知識が不足しているる。日本での台風による被害を考える際には、前線との相互作用や温帯低気圧化、また海面温度や地形による影響など、考慮すべき要素が多く複雑である。このため、この過程を詳しく調べた研究例は過去にはほとんどなかった。本研究では複雑で繊細な台風の挙動に関して、衛星データや他機関で観測された各種のデータを総合して、日本上陸前後の台風の構造を解明していくことを目的とする。

(b)研究の方法
 台風の観測は海上におけるものは島嶼か陸上におけるものが全てといってよい。発達期や成熟期の観測的研究に焦点をあてて、その渦構造について研究を進めることにした。沖縄や宮古島などの南西諸島を襲う台風は、強風の歴史的な記録を残しているが複合渦の構造をもっていたものがあったと指摘されている。本研究中の台風の本土上陸はなかったため、沖縄先島での資料収集を実施した。

(c)研究成果の概要<BR>  本研究中には台風の本土上陸はなかったため、過去の台風9918号の気象的特徴と被害の実態を再調査した。特に鹿児島県かでは強風による家屋や構造物の被害が発生しており、下甑島では90m/sに及ぶような強風が発生した。沖縄や宮古島では、本研究中に発生した3つの台風について資料収集を行い、台風の眼の構造、特に複合渦、複眼渦など詳細な構造についての記録を入手した。複合渦については、理論的考察を行った。

(d)成果の公表
内藤玄一編:日本上陸前後の耐風の構造に関する関する研究,報告書(作成中), 2001.
板野稔久,内藤玄一:台風T9918号九州上陸直前の構造に関する研究, 第16回風工学シンポジウム論文集, pp.25-29, 2000.
藤井 健,前田潤滋,石田伸幸,林 泰一:台風9918号において気圧分布から計算した風とNewMekシステムで観測された風, 第16回風工学シンポジウム論文集, pp.71-76, 2000.
板野稔久,石川裕彦:負の渦準地衡流円形渦の線形安定性,防衛大学校理工学研究報告, 第38巻第1号, pp.87-93, 2000.


(12G-18)ドップラーソーダを用いた海陸風の動態と性状に関する観測研究
研究組織 
研究代表者 
 岩田 徹(岡山大学環境理工学部 助手)
所内担当者 
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者  
 大滝英治(岡山大学環境理工学部 教授)
 塚本 修(岡山大学理学部 教授)
 米谷俊彦(岡山大学資源生物研究所 教授)
 伊藤 芳樹(潟Jイジョー技術開発本部 部長)
 太田 努(岡山大学自然科学研究科 大学院生)
 北垣順大(岡山大学自然科学研究科 大学院生)
 宮本尚規(岡山大学自然科学研究科 大学院生)

(a)研究の背景と目的
 海陸面の熱容量の違いにより生じる海風・陸風は古来から人類に知られた現象であり、気象学の分野においても19世紀末より規模の大小を問わず多くの観測的研究が行われてきた。これまでの国内外の観測実験においては係留気球やパイロットバルーンを用いて風速が測定されていたが、上空の風を高い分解能で測定することは容易なことでは無かった。
1970年代以降に開発された音波探査装置(SODAR)は、1980年代後半には散乱音波のドップラーシフトの性質を利用して、上空の3次元風速を瞬時に測定できるまでに進歩した。このドップラーソーダを海陸風研究に応用し、連続的・高時間分解能で風の変化を測ることで、海風(陸風)の立体鉛直構造を解明できる。

(b)研究の方法
 観測地点としては、当初夏季に海陸風循環が卓越しやすい、備讃瀬戸沿岸を計画していたが、ここ数年夏季集中観測の実績があり他の気象要素の測定や地表面観測の多点展開の実績をもつことなどから「琵琶湖プロジェクト」の集中観測に参加することで、より有効な観測データが得られる体制をとることとした。同プロジェクトが展開される琵琶湖北東部のサイトにおいては、湖面・陸面間循環の動態、日本海(敦賀湾)からの大規模海風の侵入の影響など動態解明もプロジェクトの目的推進上の大きな要請であった。

(c)研究成果の概要
 集中観測においては、期間中の前半は接近していた台風の影響、後半は梅雨前線の南下等により必ずしも良好な海陸風発生の条件を満たしていたとは言えなかった。しかし、解析を通じて琵琶湖プロジェクトの複数の観測サイトにおけるデータを詳細にみることにより、同地域における局地風の特性の理解が大きく進んだ。つまり、日本付近が高気圧に覆われる気象状況下(いわゆる海陸風日)では、同領域における局地風は二つのモード 1)午前中は湖から山岳方向への風、午後は敦賀湾(日本海)からの大規模海風が卓越 2)午後になっても敦賀湾からの海風が吹き込まず、盆地内での循環が卓越を有するという特徴を持ち、その違いは敦賀〜彦根間の気圧(海面補正値)が0.6hPaを越えるか否かによる、ということである。また、モード1)の敦賀湾からの海風は盆地内の空気よりも低湿度であることも大きな特徴であった。観測期間中にドップラーソーダによって捉えた立体構造については、午前中に湖から山岳の方向に吹く風は必ずしも一定の厚さを持った同風向・風速の構造を示していなかった。これについては、より良好な天候下での観測データを蓄積する必要がある。

(d)成果の方法
岩田 徹編:ドップラーソーダを用いた海陸風の動態と性状に関する観測的研究,報告書(作成中), 2001.
太田 努,岩田 徹:滋賀県北東部における境界層観測,平成12年度 気象学会秋季大会予稿集.
太田 努,岩田 徹:琵琶湖北東部における局地風の特性」(口頭発表), 平成12年度 琵琶湖プロジェクトミニワークショップ.
「琵琶湖北東部における局地風の特性に関する研究」,(報告書に掲載),平成12年度岡山大学自然科学研究科環境システム学専攻 修士論文

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