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 3.2.2 一般共同研究 平成13年度


平成13年度

(研究課題の選考概要)本年度より研究期間を1〜2年間に拡張した効果もあり、多数の応募(計28件)があった。企画専門委員会では、各研究課題の意義・特色、および経費の妥当性について検討の後、コメントを付した別表を作成し共同利用委員会に提示した。
 共同利用委員会における審議の結果、平成13年度一般共同研究として、昨年と同数の18件を採択した。


(13G-1)平常時及び非常時における消火用水を考慮した下水処理水の河川還元再利用に関する基礎的研究
研究組織 
研究代表者
 保野健治郎(近畿大学工業技術研究所)
所内担当者
 池淵周一(京都大学防災研究所 教授)

(a)研究の背景と目的
阪神大震災の教訓より、地震時の消火用水の確保が重要である。また、松山市等の渇水時の緊急用水(都市用水)の確保も必要とされている。本研究は、この教訓をふまえ、都市域の量的及び水質的に安全で安定した水源である下水処理水に注目し、非常時(地震時、渇水時、水害時等)における下水処理水の活用手法を模索する。特に地震時の、出火後約1時間以内の初期消火への活用を研究する。さらに、下水処理水の平常時利用方策を河川との関係から検討し、効率的・経済的再利用技術の確立を図る。

(b)研究方法
次の研究課題について分担研究し、年複数回の合同討論を踏まえ、研究報告書をまとめる。
(1)非常時の消火システムと必要消火用水量
(2)地震時の消火用水の下水処理水再利用システム
(3)渇水時・水害時等の下水処理水再利用システム
(4)再利用水の水質確保方策(下水処理の高度化、河川内自浄能力評価)
(5)平常時の下水処理水の多目的利用方策(農業用水利用、散水用水等)
(6)水処理水の河川還元用利用ケーススタディー(松山市を予定)

(c)研究成果の中間報告
平成13年度実施状況
研究会を3回開催した。この中で、
(1)非常時の消火システムと必要消火用水量(初期消火用水量)
(2)下水処理水の河川還元再利用ケーススタディ
(3)再利用水の水質確保方策(下水処理の高度化、河川内自浄能力評価)
について検討を重ねた。
非常時の初期消火に関しては、阪神淡路大震災時の神戸市のデータにより、出火後1時間以内の市民による消火の有無が決定的な鍵となることがわかった。このため、身近な空間に消火水を確保することが重要であると確認された。松山市の諸データ・資料を収集・整理し、下水処理水の河川還元再利用ケーススタディの基礎的知見を得た。再利用水の水質確保方策についての基礎資料収集・整理を行った。


(13G-2)2000年鳥取県西部地震周辺の空白域の検証
研究期間:平成13〜14年度
研究場所:京都大学防災研究所
研究組織
研究代表者
 西田良平(鳥取大学工学部)
所内担当者
 梅田康弘(京都大学防災研究所 教授)
参加者数:12名

(a)研究の背景と目的
 山陰地方沿岸には、第四紀火山(大山、三瓶山など)があり、火山帯が存在している。温泉分布、大地震の発生、微小地震活動が線状配列もこの地下の構造を裏付けている。鳥取県西部・島根県東部地域は、火山の間にあり、時間・空間的に空白であった。880年の出雲地震以来、1100年ぶりにM7.3の鳥取県西部地震が発生した。この地震に因る周辺の空白域への影響を検証するために、総合的な観測研究を行う。

(b)研究経過の概要
 2000年10月6日、鳥取県西部の日野町を震源とするマグニチュード(Mj)7.3の地震が発生した。この震源域では1989年から1997年にかけてM5以上の地震が6回発生していたものの、M7クラス地震の発生は予想されていなかった。一方、島根県東部には地震空白域があり、M7クラス地震の発生が依然、懸念されている。2000年鳥取県西部地震に関しては大学合同の地震・電磁気観測をはじめ多数の調査が実施され、震源域の不均質構造と本震破壊過程との関係等が明らかにされつつある。今回、これらの調査・研究成果を集約するとともに、この地域の地質学的研究等の幅広い知見とを合わせて検討し、鳥取県西部から島根県東部にかけての地震発生環境を理解するため、京都大学防災研究所の一般共同研究「2000年鳥取県西部地震周辺の空白域の検証」を実施した。この研究では、2001年11月13〜15日、米子市において研究会を開催し、上記の研究課題に対して討議を行った。研究会には京大防災研、鳥取大学をはじめ、島根大学、東大地震研等から多数の研究者が参加し、活発な討議を行った。

(c)研究成果の概要
 1989年〜1997年の前駆的な地震活動の震源域は互いに重なり合わないこと、本震の破壊は前駆的活動域を避ける、あるいは取り囲むように進展したこと、本震震源域直下の下部地殻には強い反射構造が存在することなど興味深い地震発生、および構造特性が明らかになった。また、米子コールドロンや花崗岩体等の地質学的構造と余震分布との対応も指摘された。さらに震源域直下では比抵抗値が小さいことや深部低周波地震が発生していることも判明し、地震発生に高温流体が関与している事が強く指摘された。高温流体は、もしフィリピン海プレートが山陰海岸付近まで達しておれば、プレート上面からの脱水反応を考えることで説明される。しかし現在のところ地震分布から認められるフィリピン海プレートは、せいぜい瀬戸内海までである。山陰地域の火山岩成分の解析からは非地震性スラブが日本海沿岸付近まで達していることが予想されるものの、これを地震学的に確認するためには更なる解析が必要である。平成14年度から実施される大学合同地震観測での新たなデータ蓄積が期待される。


(13G-3)鳥取県西部地震震源域と隣接する島根県東部地震空白域の地殻深部比抵抗構造とその対比に関する研究
研究組織 
研究代表者
 塩崎一郎(鳥取大学工学部 助教授)
所内担当者
 大志万直人(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 村上英記(高知大学理学部 助教授)
 山口 覚(神戸大学理学部 講師)
 上嶋 誠(東京大学地震研究所 助教授)
 橋本武志(京都大学大学院理学研究科 助手)

(a)研究の背景と目的
 近年、下部地殻の流動(水の存在度により影響される可能性あり)が内陸大地震の発生メカニズムに関与するモデルが提唱されているが、本研究では、深部流体を示唆する低比抵抗領域の存在形態に着目して、鳥取県西部地震震源域とその周辺地域の構造の共通点・相違点を比較検討し、山陰地域で発生する内陸大地震の原因を比抵抗構造研究の観点から考察する。

(b)研究の方法
 2001年10月6日鳥取県西部地震が発生直後から震源域周辺での比抵抗構造調査のため広帯域MT観測を開始した。地震直後はJR伯備線が土砂崩れにより不通となり、対象地域内での漏洩電流ノイズの影響を抑えられると思われたが、不通箇所が庄山より米子側のみであったことと、対象地域内に日野変電所があり、送電線が密集している事などにより、MT観測の条件としては良好とはいえなかった。結局、2000年には、3台の観測装置を用い7観測点で順次観測を実施したが、深部までの探査に使用できる長周期帯までの比較的良好なデータが得られたのはかろうじて震央付近の2点であった。その1次元解析の結果として、(1)地震発生域である深さ十数kmまでの上部地殻は全般的に高比抵抗であるのに対して、(2)本震の震央直南では地殻下部に低比抵抗領域が存在しているらしい事がわかった。一方、山陰地域では、1998年以来鳥取県東部から順に南北測線での広帯域MT観測を継続してきた。その結果、鳥取県内で海岸線に沿ってほぼ平行に分布する「地震帯」に対応してその直下に低比抵抗領域の存在が推定されている。このような背景のもと、2001年も鳥取県西部地震の震源域周辺での深部比抵抗構造の詳細を明らかにする目的で、10月28日〜11月10日の期間に広帯域MT観測を実施した。参加機関は次のとおりである。京都大学防災研究所、鳥取大学工学部、高知大学理学部、神戸大学理学部、東大地震研究所、東京工業大学理学部、京都大学理学部、北海道大学理学部。観測参者総数は22名であった。
 観測には11台のPhoenix社のMTU5システムを使用して、内1台はリファレンス観測のため鳥取県東部に設置し、残り10台を震源域周辺にほぼ南北方向の測線に沿って配置し地磁気擾乱の強い日のデータを同時に記録するという方針で観測を実施した。できるだけ多くの観測点でのデータ取得が望ましいが、設置した10台の装置は、大きな地磁気擾乱の発生まで移設しないこととした。上述したノイズのため、大きな擾乱でS/N比を稼がないと正しい探査曲線を得られないためである。また、観測点の選定にあたっては、4月から綿密な電場ノイズ調査を行い、対象地域内のできるだけノイズの少ない地点での観測ができるように努めた。さらに観測期間は、太陽活動の周期性を考慮し決定した。幸い、11月5日と6日に水平分力で326nTの最大振幅の非常に大きな地磁気擾乱が発生した。
 今回の観測期間中には、最も南に位置する観測点がある神郷町内の高瀬小学校から見学の申し込みがあり、見学会をその観測点で11月5日に行い、観測装置を見せながら観測のようすや意義をわかりやすく説明した。

(c)研究成果の概要
 地磁気静穏日に観測されたデータを用い解析処理を行うと、すでに前の節で述べたように伯備線の漏洩電流の影響が強く。正しく探査曲線が求まらない。静穏日のデータをもとにして求めた位相曲線は長周期側で0度に落ち込み、見かけ比抵抗曲線でもほぼ45度の傾きを持つ直線状に見かけ比抵抗が上昇する傾向が著しい、これはインダクションの効果よりも、漏洩電流によるノイズとその電流系が直接作り出す磁場の影響が強いためである。一方、擾乱日にはそのような傾向は見られない。なお、5日と6日の時系列データに単純にリモート・レファレンス処理を行い探査曲線を求めると擾乱の強かった6日のデータ(現実的には7日午前の夜間のデータ)の方が、得られた探査曲線が漏洩電流によるノイズの影響を強く受ける結果となった。これは、6日に発生した降雨の影響のため線路の接地ポイントの接地抵抗が下がり漏洩電流が増えてしまったものと考えられる。
 解析には夜間のデータのみを用いたが、それでも電場時系列に電車のノッチを入れた時に出るスパイク状のノイズが間欠的に見られた。このノイズは全観測点で同時に観測される。探査曲線を求める時系列解析にはこの部分を除去しデータを内挿した上で解析を行った。また、各観測点で観測された磁場3成分のデータをそれぞれの観測点での解析に使用するよりも、観測点6の磁場3成分データをすべての観測点での磁場データとして解析したほうが長周期側で探査曲線が比較的良好に求まった。これは、他の観測点よりも観測点6での磁場データのノイズが少ないためと考えられる。なお、鳥取県東部の観測点でのデータを用いリモート・レファレンス処理を用いた時系列解析を行った。大きな地磁気擾乱によりS/N比が改善され比較的良好な探査曲線が得られたとはいえ、10秒より長い周期帯での探査曲線がうまく得られていない観測点が多い。今後のデータ処理の改善が必要である。
 現時点では、まだ2次元構造解析までいたっていないが、見かけ比抵抗による擬似断面図と位相による擬似断面図を作成し、深部での比抵抗構造のようすの概要を推定すると、2次元構造に対して比較的良い指標を与えるTMモード(電場の南北成分と磁場の東西成分を基に算出した見かけ比抵抗と位相曲線を意味する)の位相分布が、10Hz〜1秒付近で一度、45度よりも小さくなるのに対し、1秒より長い周期帯では位相が大きくなる傾向が見てとれる。これは、本震含む余震発生域直下の比較的深部に低抵抗領域が存在している可能性を強く示していると考えられる。

(d)成果の公表
京都大学防災研究所年報, 鳥取県西部地震震源域周辺での深部比抵抗構造探査の概要, 第45巻,B-1,2002.
報告書はCD-ROM形式で作成し、提出。


(13G-4)木造建物群の並列結合による地震応答低減と耐震安全性向上
研究組織
研究代表者
 井戸田秀樹(名古屋工業大学工学部)
所内担当者
 中島正愛(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 緑川光正(建設省建築研究所 部長)  
 諸岡繁洋(京都大学防災研究所 助手)
 石原 直(建設省建築研究所 研究員) 

(a)研究の背景と目的
兵庫県南部地震において露見した都市密集地域における老朽住宅の倒壊を含む多数の被害は、抜本的リニューアルも含めてこれら建築ストックの耐震安全性を向上させない限り、兵庫県南部地震と同じ惨事が繰り返されるに違いないことを訴えている。しかしながら現在に至るまで、これら老朽住宅に対する耐震リニューアルは遅々として進んでいない。この閉塞した状況に関わる具体的問題点を、(1)実現性を有しつつ超安価な耐震改修法が提示されていないこと、(2)建物の内部をいじる耐震改修は所有者や住民の理解が得られないこと、(3)改修後の建物に新規建物と同じ安全性求める現在の改修指針は実効力を欠くと同定し、それを解決する一つの具体策を提示することを目的とする。

(b)研究の方法
住宅が軒を並べつつ密集している地区を対象に、個々の住宅を互いに連結することによる「建物連結補強」を提案した。隣棟間に隙間もしくはそれ以上の空間がある場合が少なくないことを踏まえ、この隙間に安価なクッション(例えば古タイヤ、ウレタン塊など)を挿入ことによって、建物間の揺れに相関を持たせ、その位相差によって減衰効果を発揮させることを試みた。この種の連結材は、一方向の動きに対してだけ抵抗力を発揮するので、建物自身が弾性であっても全体としては複雑な強非線形挙動を呈する。この種の挙動を解析するための地震応答解析コードを開発し、個々の建物の振動特性、連結材の隙間と剛性、連結建物棟数、建物の並び方などを変数とした数値解析を実行した。また連結効果を一般化するために、共振曲線を応答指標として用い、連結しない場合と連結した場合の共振曲線を比較することによって連結効果の定量化を図った。さらに応答を最小化させる最適連結法(連結部材の剛性や隙間の最適値)を検討した。上記の解析予測の精度や適用限界を、多数の小型建物モデルを互いに連結した建物模型群に対する震動台実験から検討した。

(c)研究成果の概要
本研究から得られた主たる知見は以下の通りである。
(1)建物群を連結することによって、連結材に減衰機構を付与しなくても、群全体としての応答は60〜80%低減しうる。
(2)連結材に付与する隙間が小さいことは、連結材の見かけ上の剛性増加に匹敵する。
(3)連結材に減衰を付加することは連結材の見かけ上の剛性を増加させる他、応答の低減を促進する。
(4)柔らかい建物と剛い建物が連結された場合、連結材の剛性を増やしてゆくにつれ、剛い建物の応答は大きく変動するのに対して、柔らかい建物の応答は比較的一定に留まる。
(5) (4)の性質から、剛い建物の応答が最も低減できる連結部材剛性が、建物群全体の応答が最も低減しうる連結部材剛性と見なせる。
(6)モード分解法を適用することによって、最適な連結部材剛性を解析的に求める手順を提示した。

(d)公表の方法
篠原達巳,小林真帆,中川徹,御澤昇明,諸岡繁洋,中島正愛,井戸田秀樹,緑川光正,石原 直:遊隙を持つ連結材でつないだ建物群の震動台実験と応答評価,日本建築学会大会学術講演梗概集,2002年8月,pp.899-906.


(13G-5)災害リスクコントロールを目的とした都市構造の診断手法の開発
研究組織
研究代表者
 古川浩平(山口大学工学部社会建設工学科)
所内担当者
 岡田憲夫(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 榊原弘之(山口大学工学部 講師)

(a)研究の背景と目的
都市の災害リスクコントロールのためには、都市構造を診断して脆弱な箇所を特定するための手法が必要である。近年のわが国の都市においては、モータリゼーションの進行に伴い、医療施設などが都市中心部の枠内を越えて都市圏全体に拡散して立地する傾向にある。その結果、災害時に道路網の寸断で都市全体が機能不全に陥る危険性が高まっている。本研究では、都市のトポロジカルな構造からリスクを診断する手法を開発する。

(b)研究の方法
(1)統計的手法を用いて、都市の人口分布と、医療施設等の分布の乖離を定量的に評価する指標を開発する。
(2)共同研究者らが以前開発した都市の道路網のトポロジカルな構造の評価指標(トポロジカルインデックス)を拡張し、道路網の分散性と施設分布の分散性を同時に評価するための指標を提案する。
(3)異なる都市の災害リスクの地理的分布状況の比較を可能とするため、確率シミュレーションの手法を用いて1)及び2)の指標の基準化を行う。

(c)研究成果の概要
研究分担者らはこれまでに、都市道路網の集中・分散特性及び孤立回避特性の評価指標として「トポロジカルインデックス」を用いることを提案している。本研究ではこのトポロジカルインデックスを実際の都市に適用し、都市構造を診断して脆弱な箇所を特定するために必要な以下の手法の開発を行った。
(1)異なる都市の災害リスクの地理的分布状況の比較を目的として、確率シミュレーションにより都市の達成可能なトポロジカルインデックスの分布を算定するための手法を開発した。本手法では、都市の形状、地形的制約等を考慮したうえで、当該都市で設定し得る道路網を多数想定し、それらの道路網のトポロジカルインデックスの分布を生起させる。その分布と現状の道路網のトポロジカルインデックスを比較することにより、当該都市のポテンシャルに対するトポロジカルインデックスの達成水準を評価することができる。本研究では開発した手法を国内の複数の都市に適用し、相互比較を試みている。
(2)人口分布と施設配置の乖離が、道路網によりどの程度補正されるかを評価するための手法を開発した。トポロジカルインデックスは都市内部での孤立回避特性を評価し得る。一方災害時においては、地区の物理的孤立よりも、到達可能な周辺地区に必要なサービスの供給が存在しない機能的孤立を回避することがより重要であると考えられる。本研究ではトポロジカルインデックスによる都市診断の前提となる道路網の定義にあたり、機能的孤立を回避するために必要な道路リンクを特定するための手法を開発した。

(d)成果の公表
榊原弘之,古川浩平,岡田憲夫,片山 武:人口・施設分布の乖離を考慮した地方都市道路網の定量的評価に関する研究, 京都大学防災研究所年報, No.44, B-2, pp.35-42, 2001.4.
Hiroyuki Sakakibara, Norio Okada, and Yoshio Kajitani: Topological Analysis on Vulnera- ble Spots of a City, Proceedings of the IEEE International Conference on Systems, Man and Cybernetics, 1264-1269, 2001.10.
榊原弘之,梶谷義雄,岡田憲夫:災害時のパフォーマンス向上を目的としたトポロジカルインデックスの適用,第24回日本道路会議一般論文集 (A), pp.190-191, 2001.10.
榊原弘之,梶谷義雄,岡田憲夫,片山 武,古川 浩平:都市構造を考慮したトポロジカルインデックスによる道路網評価,土木計画学研究・講演集,Vol.24, 177, 2001.11.
において、随時、研究成果を発表している。


(13G-6)火山島重力測定における海洋潮汐影響量の評価と測定データの再評価
研究組織
研究代表者
 大久保修平(東京大学地震研究所 教授)
所内担当者
 山本圭吾(京都大学防災研究所 助手)
研究分担者
 石原和弘(京都大学防災研究所 教授)
 高山鐵朗(京都大学防災研究所 技官)
 古屋正人(東京大学地震研究所 助手)
 新谷昌人(東京大学地震研究所 助手)
 松本滋夫(東京大学地震研究所 技官)
 田中愛幸(東京大学地震研究所 大学院生)

(a)研究の背景と目的
2000年の三宅島の火山活動では、マグマの移動を直接反映する重力変化が捉えられ、噴火活動評価に重要な役割を果たした。この様な火山島や海に近接している桜島で微弱な重力変動を検出するには、海洋潮汐荷重補正が決定的に重要である。本研究では、桜島において高精度絶対重力測定を行い、取得データ上に現れる海洋潮汐の影響を分析する。現行の海洋潮汐補正の一層の精密化により、過去のデータの定量的な再評価と高精度化が可能になる。

(b)研究の方法
本研究は、平成13年度および14年度の2ヵ年に渡って行う。平成13年度:2001年9月に、桜島西岸に位置する京都大学防災研究所附属火山活動研究センター桜島火山観測所において高精度絶対重力測定を行った。測定には、東京大学地震研究所所有のmicro-g社製絶対重力計FG5(#212)を用いた。また、FG5による測定と並行して、ラコスト重力計を用い、桜島およびその周辺の10数点で相対重力測定を行った。この測定では、FG5の測定点と接続測定を行うことで、全ての点の絶対重力値を求めた。2002年3月には、桜島中腹に位置する同センターハルタ山観測室においてFG5による絶対重力測定を行った。平成14年度:2002年9月、桜島火山観測所、ハルタ山観測室の2箇所およびその周辺の点において平成13年度と同様の絶対重力測定を行った。これらのデータを用い、精密な海洋潮汐補正法を確立するとともに、平成10年度より桜島において行っている絶対重力測定のデータにもこの補正を施し、データを再評価する。

(c)研究成果の概要
2001年9月に得たFG5の時系列測定データに、固体地球潮汐・極潮汐・気圧の補正を行うと振幅が5〜10マイクロガル程度の海洋潮汐の影響によると考えられる周期的な重力変動が得られた。桜島における理論海洋潮汐を計算し重力測定値と比較検討した結果、両者は振幅・位相ともによく一致することが分かった。2002年3月および9月に得たデータの解析は現在進行中であるが、海洋潮汐の影響によると考えられる重力変動を捉えることに成功している。これらの成果により、桜島における精密な海洋潮汐補正の手法が確立できるものと考えられる。精密な海洋潮汐補正を施したデータを詳細かつ定量的に吟味することで、桜島の火山活動と重力変化の物理的関係を考察する予定である。

(d)成果の公表<BR> 山本圭吾,大久保修平,古屋正人,新谷昌人,松本滋夫,高山鉄朗,石原和弘:桜島火山における絶対重力測定(続報),平成13年度京都大学防災研究所研究発表講演会.


(13G-7)抗土圧構造物の地震時挙動と耐震性診断に関する研究
研究組織
研究代表者
 古関潤一(東京大学生産技術研究所)
所内担当者
 関口秀雄(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者名
 井合 進(京都大学防災研究所 教授)
 釜井俊孝(京都大学防災研究所 助教授)
 澤田純男(京都大学防災研究所 助教授)
 飛田哲男(京都大学防災研究所 助手)
 森 伸一郎(愛媛大学 助教授)
 安川郁夫(キンキ地質センター 技師長)
 山田博志(キンキ地質センター 技師)
 松尾 修(国土技術政策総合研究所 地震災害 研究官)
 金 夏永(東洋建設鳴尾研究所 研究員)
 中井照夫(名古屋工業大学 教授)

(a)研究の背景と目的<BR> 1995年兵庫県南部地震や1999年台湾集集地震で多大な被害を受けた擁壁や岸壁、及び被害が少なかった補強土擁壁などの抗土圧構造物の地震時挙動を解明し、その耐震性の合理的な診断方法を解明することを目的とする。従来、これらの構造物の耐震設計は、地震時慣性力を静的な力に置き換える震度法に基づいて行なわれてきた。一方、実際の挙動は構造物と地盤の間の接触状態などに依存する動的相互作用の影響を受けており、極めて複雑で未解明な点が多い。本研究は、高精度な模型振動実験を行い、先端的な動的弾塑性解析との比較、検討を通じて動的相互作用の影響を明らかにする点で意義がある。

(b)研究の方法
平成13年度には、第1回の研究会を平成13年9月20〜21日に、第2回研究会を平成14年1月8〜9日に防災研究所で開催した。これらの研究会では、補強土擁壁、宅地造成盛土、護岸、古墳盛土等の土構造物の地震時挙動に関する研究資料、実験データを持ち寄り、現行の解析手法の特徴と適用限界を浮き彫りにした。さらに、社会から強く要請されている土構造物―地盤系の性能設計体系の確立を視野にいれて、盛土構造物の地震時塑性変形能に関する実証データ、およびレベル2の強震動予測にマッチした土の構成モデリングと力学物性データの現況を分析し、それらの充実に向けた資料収集と研究活動を次年度の課題とした。

(c)研究成果の概要
谷埋宅地造成盛土の動特性を調べるうえに、防災研究所設置の6自由度大型振動台(水中振動台)が有効であることから一連の振動実験を行い、実験結果をデータベース化した。谷埋盛土や水際土構造物の動的安定性は、地下水の流況やサクションの発達状況にも依存すると推定される。そのため、飽和―不飽和浸透流場も考慮し得る弾塑性動的解析コードの開発を推進し、基本プログラムの概成段階に達した。

(d)成果の公表
Li, F., Sassa, S. and Sekiguchi, H.: Modelling of the elastoplastic behaviour of unsaturat- ed soils under hydro-environmental loading. Proc. 4th Int. Summer Symp., JSCE, Kyoto, pp. 207-210, 2002.
Go, T. and Kamai, T.: Deformation behavior of model embankment under strong−motion shak- ing experiment. Proc. 10th Int. Conf. & Field Trip on Landslides, pp. 65-76, 2002.


(13G-8)流域水循環の動態の研究-野洲川流域を対象とした集中観測とモデル開発-<BR> 研究組織 
研究代表者 
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
所内担当者
 小尻利治(京都大学防災研究所 教授)
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
 城戸由能(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 椎葉充晴(京都大学工学研究科 教授)
 福島義宏(総合地球環境学研究所 教授)
 畑 武志(神戸大学農学研究科 教授)
 原田守博(名城大学理工学部 助教授)
 田中丸 治哉(神戸大学農学研究科 助教授)
 中北英一(京都大学工学研究科 助教授)
 清水芳久(京都大学工学研究科 助教授)
 谷口真人(奈良教育大学教育学部 助教授)
 堀野治彦(大阪府立大学農学生命科学研究所 助教授)
 大手信人(京都大学農学研究科 助教授)
 渡辺紹裕(総合地球環境学研究所 助教授)
 増田貴則(鳥取大学工学部 講師)
 吉谷純一(土木研究所水工研究グループ 上席研究員
 市川 温(京都大学工学研究科 助手)
 木平英一(名古屋大学環境学研究科 研究生)

(a)研究の背景と目的
わが国における河川流域の水循環・洪水流出・物質循環は、水工施設による流水制御や複雑な土地利用、農業生産活動など、人為的な効果が影響して非常に複雑なシステムを形成している。こうした地域での水循環の実態を明らかにし、流域の総合的な整備・保全・管理を指向する枠組みを構築するために、都市化が進展しつつある野洲川流域を対象として水理水文観測・データ収集を実施し、総合的な水循環・物質循環モデルを開発することを目的とする。

(b)研究の方法
当該流域で水文データの観測が開始された1960年代以降のすべてのデータを収集し、水文データの長期変動パターンを調査した。一方、石部頭首工の上流部および下流部を対象として、流域水循環システムと地下水流動システムを構築した。さらに、新たに地下水位と水質の常時観測システムを6箇所設定し、平成13年10月より継続的な観測を開始した。

(c)研究成果の概要
 当該流域で水文データの観測が開始された1960年代以降のすべてのデータを収集し、これまでの約30年間に水文データにどのような変化があるかを調査した。その結果、下流部の一部の地下水位が著しく低下していることが明らかとなり、長期地下水変動の変化パターンには地域的な特性があることが示された。また、これらの変動と流域変化との関連性を調査した。一方、石部頭首工の上流部を対象とする流域水循環システムと、下流部を対象とする地下水流動システムの基本的なモデル構築を図った。さらに、新たに地下水位と水質の常時観測システムを6箇所設定し、平成13年10月より継続的な観測を開始した。これらの観測データは、流域水・物質循環のモニタリングに用いられるとともに、水循環システムのモデルパラメータ同定に用いられる。

(d)成果の公表
 上記のデータ解析に関する部分は河川技術論文集に投稿中である。また、水循環シミュレーションシステムの一部は防災研究所年報に投稿中である。


(13G-9)山地流域における降雨の流出と土砂動態 −試験流域におけるモニタリングによるアプローチ−
研究組織 
研究代表者
 藤田正治(京都大学農学研究科 助教授)
所内担当者
 澤田豊明(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 水山高久(京都大学農学研究科 教授)
 中川 一(京都大学防災研究所 教授)
 関根正人(早稲田大学 教授)
 宮本邦明(筑波大学 助教授)
 里深好文(京都大学農学研究科 助教授)
 小杉 賢一朗(京都大学農学研究科 助手)
 三好岩生(京都府立大学 助手)
 恩田裕一(筑波大学 講師)
 権田 豊(新潟大学 助手)
 辻本浩史(日本気象協会 課長)

(a)研究の背景と目的
本研究は、穂高砂防観測所の山地試験流域において、水の流出や土砂移動に関するイベントが実際にどのような形態で発生しているのかについてビデオ撮影等を駆使して調査し、山地流域の降雨の流出特性および土砂動態を明確にするものである。この研究によって、流砂系における土砂流入の境界条件を正確に設定することができる。また、この研究を遂行する過程で、観測研究の必要性、有効性および問題点等を明確にする。

(b)研究の方法
穂高砂防観測所足洗谷流域において、降雨の流出と土砂の移動をモニタリングしながら、(1)山地森林における降雨の流出過程、(2)裸地斜面からの土砂生産過程および河道流入過程、(3)流入土砂の移動、堆積、再移動過程について検討する。(1)については、降雨、流量観測および地形、地下、地質構造の調査に基づいて、本支川における降雨と流量の関係を明らかにする。(2)では、裸地斜面からの土砂生産過程および河道流入過程をビデオ撮影等による実態調査により検討し、(1)の成果を踏まえて、どのような降雨条件のときどのような形態で土砂がどれだけ河道に流入するかを明らかにする。(3)では、土石流の発生、堆積、再侵食について現地の地形測量等によって検討する。また、掃流、浮遊形態での移動については濁度調査、河床変動調査を行い検討する。これらの知見を元に土砂動態のモデル化を試みる。

(c)研究成果の概要
13年度は
(1)レーダー雨量計と地上雨量計による降雨観測
(2)降雨および土砂生産流出の同時観測
(3)同位体元素を用いた流出土砂の起源の調査
について調査観測が進められた。
(1)については、地上雨量計と小型レーダー雨量計による雨量観測を行い、両者の結果のある程度の一致を確認した。(2)については、ヒル谷において、降雨、流量の観測に加えて、主な土砂生産源付近のビデオ観測、濁度観測、プール内の土砂の堆積とそれに含まれる濁度物質の調査を行った。この結果から、ヒル谷における土砂流入は、強度の高い降雨時に発生する表面流が影響し、流入した土砂は濁度成分を洗い流しながら流下すること、降雨後半には湧水が多く流入し、土砂や濁質の移動に影響を与えることがわかった。(3)については、ヒル谷を通過する濁度成分の起源を同位体元素の調査から調べた。その結果、ダムに堆積した濁度成分の内、数十パーセントは裸地以外のところを起源とするという結果を得た。

(d)成果の公表
藤田正治,水山高久,澤田豊明,大野 哲:山地小流域における土砂動態のモニタリング,平成13年砂防学会研究発表会, pp.312


(13G-10)人間活動に起因する環境変動を考慮した地域水系の健全性評価
研究組織 
研究代表者
 東海明宏(北海道大学工学研究科)
所内担当者
 小尻利治(京都大学防災研究所 教授)

本研究は、人間活動により排出される地球温暖化原因物質の水循環構造や水利用システムへの影響を分析するものである。これらの要因群の因果関係を分布型流域シミュレーションと生物多媒体モデルにより把握し、シナリオに対する応答特性を数値的に検討して行くことを目的としている。平成13年度は、流域内におけるノニルヘノールの動態と水性生物体内での蓄積過程をモデル化し、生物の生存可能性を推定した。


(13G-11)地震波散乱理論を背景とした統計的グリーン関数のエンベロープ表現の研究
研究組織 
研究代表者
 干場充之(気象庁地震火山部地震津波監視課精密地震観測室)
所内担当者
 澤田純男(京都大学防災研究所 助教授)
 岩田知孝(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 高周波地震動予測を目指した地震動の時系列計算を行う際に、経験的な地震波のエンベロープの形とω2モデルによる周波数特性を組み合わせた統計的グリーン関数法による表現が用いられてきている。一方、小地震の波形エンベロープは、伝播経路における地震波の散乱現象と解釈することで成功してきた。これまで、経験的表現であった統計的グリーン関数法のエンベロープ表現に散乱理論を取りこんで、応用範囲の広い表現の開発を行う。

(b)研究の方法
地震基盤での地震波エンベロープの形状と地表での地震波エンベロープの形状に差があるかどうかを調べ、さらにエンベロープの時間幅の拡大に関する考察を行う。地震記録としては、全国に約600点展開されている防災科学技術研究所のKiK-netのデータを用い、散乱理論の表現としては、マルコフ近似法による多重前方散乱の式を用いる。エンベロープを表すパラメータを周波数ごと、地域ごとに推定する。

(c)研究成果の概要
 3Hz以上の高周波数については、地表とボアホール内のエンベロープの形はほぼ同じであった。このことは、地表付近の構造は地震波振幅を増大させるものの、エンベロープの形にはあまり影響しないことを示唆している。また、エンベロープのパルス幅は、周波数が小さいほど、また、震源距離が大きくなるほど、大きくなる結果が得られた。周波数依存性があることは、統計的グリーン関数を考察する際に周波数毎にエンベロープを設定する必要性を示唆している。

(d)成果の公表
干場充之:輻射伝達理論およびモンテカルロシミュレーションによるコーダエンベロープの記述,地震2,54,pp.109-125, 2001.
干場充之:ボアホール内と地表のエンベロープの比較,地震学会講演予稿集2001秋,P082, 2001.
干場充之,岩田知孝,澤田純男:地震波エンベロープの統計的特徴の抽出,地球惑星科学関連学会2002年合同大会,S42-P20, 2002.
干場充之,斉藤竜彦:地震波の散乱,減衰とエンベロープ,地震学会講演予稿集2002秋,B79, 2002.


(13G-12)洪積粘土の構造特性と大阪湾岸の埋立地における長期沈下メカニズム解明に関する研究
研究組織
研究代表者
 三村 衛(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 大島昭彦(大阪市立大学工学部 助教授)
 大坪政美(九州大学大学院農学研究院 教授)
 金田一広(名古屋大学大学院工学研究科 助手)
 小高猛司(京都大学大学院工学研究科 助教授)
 澁谷 啓(北海道大学大学院工学研究科 助教授)
 武田弘一(大阪市港湾局 工務課長)
 竹村恵二(京都大学大学院理学研究科 教授)
 田中洋行(港湾空港研究所 土質構造部長)
 土田 孝(港湾空港研究所 土質研究室長)
 野田利弘(名古屋大学大学院工学研究科 助教授)
 八嶋 厚(岐阜大学工学部 教授)
 安川郁夫(キンキ地質センター(株) 技師長)
 山本浩司(地域地盤環境研究所・技術コンサルタント 部長)

(a)研究の背景と目的
 大阪湾埋立地、関西国際空港など大阪湾岸に開発された埋立地では長期間にわたって沈下が継続し、場合によっては社会基盤として安定的供用に支障が出かねないケースもある。精緻な計測によってこうした大きな沈下の状況、特に深部に堆積している洪積粘土層(更新統粘土層)がかなりの割合で沈下に寄与していることがわかってきている。本研究では、まず粘土の構造に関する先進的な研究を進めている研究者間で、粘土の有する共通的性質と地域性について知識の共有をはかり、粘土の構造をどのように評価し、その変形をいかに評価するのかについてアイデアを出し合って議論を深る。
また現場の実測データを数多く紹介する中で、室内試験と原位置挙動の類似性と異質性を認識し、実挙動を合理的に説明するために今後必要となるポイントを明らかにする。

(b)研究の方法
 平成13年度に全体研究討議を3回実施した。
各メンバーからなされた話題提供は以下の通りである。
・堆積環境からみた有明粘土の化学的・工学的性質
・大阪湾粘土の沈下特性
・関西国際空港地盤の地質学的研究
・自然堆積粘土のメタ安定度
・関西国際空港基礎地盤の変形解析
・データベースでみた大阪湾海底地盤の地質と土質
・佐賀低平地における沖積粘土層の地盤特性に関する物理化学的考察
・構造を有する土の弾塑性挙動 〜粘土と砂の違いの観点から〜
・構造を有する土の時間依存性挙動と地盤沈下
・自然粘土地盤の構造に関連する最近の研究
・同じ時期に堆積した大阪最上部洪積粘土(Ma12)と熱田下部粘土の工学的性質の比較
・京都市南部の洪積粘土の物性と沈下予測
・洪積粘土の過圧密領域での圧密特性
・Nakdong河口デルタ(釜山)の厚い粘土層における工学的諸問題について
また第二回の研究会においては、大阪港の埋立状況、および原位置計測の現状を船とバスを用いて視察し、大阪市港湾局の武田弘一氏の説明を受けた。

(c)研究成果の概要
従来行われてきた再構成粘土による実験、それに基づくモデル化では説明できない挙動が構造を有する洪積粘土で顕著に現れる。堆積環境からみて高位構造が発達すると考えられる大阪湾海底地盤の洪積粘土層の長期沈下が20年以上にわたって計測され、一連のデータから、圧密降伏応力に達しない荷重領域であっても時間依存性沈下が継続していることが明らかとなった。こうした現状を確認し、計測、実験、数値解析といった異なるアプローチを総合し、以下のような成果が報告された。
・粘土の堆積環境と構造発達の関連性について、有明粘土を例にとって化学的・工学的特性を説明した。
・詳細な地盤調査が行われた泉州沖の洪積地盤について、地質学的考察を加え、地盤変形にどのように寄与するかについて明らかとした。
・定義のあいまいな構造を特定するために、原位置および室内において微小ひずみ領域の弾性定数を測定し、これに基づいて粘土の構造を定量的に評価する手法を提案した。
・長期変形を計測している大阪港の事例を紹介し、高品質の粘土試料を用いた長期圧密試験を実施した。その結果、原位置で起こっている遅れ圧密現象が室内試験によっても確認された。
・大阪湾海底地盤情報のデータベース化について説明があり、現在、8000本のボーリングからなるデータベースが構築されつつあることが報告された。
・弾塑性力学を基礎として、下負荷面、上負荷面の概念を適用した構造を有する粘土のモデル化が行われ、その妥当性が示された。
・丘陵で見られるメカニカルな過圧密粘土と海底にある擬似過圧密粘土の違いについて報告され、その長期変形の現れ方にも大きな違いがあることが報告された。

(d)成果の公表
三村 衛,小田和広,大島昭彦,武田弘一,山本浩司,長屋淳一,藤原照幸:大阪湾擬過圧密洪積粘土の時間依存性挙動と長期沈下について,粘土地盤における最新の研究と実際?微視的構造の観察から超軟弱埋立地盤対策技術まで?に関するシンポジウム論文集,pp.151-158, 2002.
M. Mimura: Long-term Settlement of Reclaimed marine Structural Pleistocene Clay Founda- tions in Osaka Bay, Japan, Special lecture, Proc. Int. Conf. on Coastal Geotechnical Engineering in Practice, IC-Atyrau, pp.19- 30, 2002.
M. Mimura, K. Takeda, K. Yamamoto and T. Fujiwara: Long-term Settlement of Pleis- tocene Marine Deposits in Osaka Bay Due to Offshore Reclamation, Proc. 2nd World Engi- neering Congress, Geotechnical Engineering and Transportation Volume, pp.17-24, 2002.
三村 衛,野田利弘,山田英司,高稲敏浩,小高猛司,島津多賀夫:浅い基礎の設計理論と実際?パイルド・ラフト基礎を中心として?,土と基礎,第50巻,8号,pp.15-17, 2002.
M. Mimura and W. Y. Jang: Evaluation of Long-term Settlement of Pleistocene Depo- sits in Osaka Bay, Proc. Int. Symp. on Soft Soil Engineering in Coastal Areas, pp.49-54, 2002.


(13G-13)海面フラックスの季節変動に関する観測的研究
研究組織
研究代表者
 塚本 修(岡山大学理学部)
所内担当者
 芹澤重厚(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の目的・趣旨
 地球規模の気候変動メカニズム解明のためには、地球表面の7割を占める海洋と大気との相互作用が重要で、中でも海面と通して交換される熱や水蒸気の輸送過程は直接的に両者をつなぐものとして注目されている。しかし、この輸送量を直接観測から明らかにしようという研究は海洋表面での観測が困難を極めることから非常に少ない。このような背景のもとに、海洋表面での長期観測で海面フラックスの季節変動を明らかにするという目的で、京都大学防災研究所の白浜海象観測所の高潮観測塔を用いた本研究を立案した。

(b)研究経過の概要
 気象・海象の一般的な観測が継続的に行われている京都大学防災研究所・白浜海象観測所の高潮観測塔に新たに観測機器を設置して長期間の海面フラックスが連続的に得られるように観測体制を整備した。新規に設置したものは、赤外線湿度変動計、放射温度計、日射計、温度湿度計でこれと従来から設置されている機器からの信号をまとめて収録するデータロガーも設置した。これによって従来困難であった海面フラックスのリアルタイム処理が可能となり、長期観測体制が整った。

(c)研究成果の概要
 観測塔に設置した計測器のデータを用いて2種類の方法で海面フラックスの算定を行った。1つは超音波風速温度計と赤外線湿度変動計を用いる渦相関法で最も精度は良いが長期連続測定にはやや問題がある方法、もう1つは平均風速・気温・湿度・海面温度を用いるバルク法で精度はやや劣るが比較的長期間のデータが得られる方法である。バルク法については2000年9月から2001年12月までの1年以上に渡って連続した海面フラックスのデータを得ることができ、季節による海面フラックスの挙動を明らかにすることができた。また、渦相関法の結果について、顕熱フラックスについてはほぼ連続的にデータをえることができ、これはバルク法のデータを較正するのに非常に有効であった。一方、渦相関法による潜熱フラックスは赤外線湿度変動計の特性のために断片的な記録が得られたにすぎない。しかし、ここで得られた海面フラックスの1年以上にわたるデータは少なくとも国内では初めて得られたもので、その意義は大きい。今後は渦相関法による潜熱フラックスの長期観測ができる体制を整備することと、日射量などの放射量の観測、そして地球温暖化のカギを握る二酸化炭素フラックスの直接測定についても視野に入れて検討を進めてゆく。

(d)研究成果の公表の方法
海面フラックスの季節変動について(仮題),日本海洋気象学会誌「海と空」 投稿予定


(13G-14)災害対応従事者支援システムの開発
研究組織
研究代表者
 重川希志依(富士常葉大学環境防災学部 助教授)
所内担当者
 林 春男(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 青野文江((財)市民防災研究所 主任研究員)
 遅野井貴子(都市防災研究所 研究員)
 小村隆史(富士常葉大学 講師)

(a)研究の背景と目的
わが国では、発災時に災害対応従事者らが得た個人としての記憶や教訓が、組織体としての記憶や教訓として共有化されていない場合が多い。 このInstitutional Memoryの欠如が、災害が起こる都度均一な質の災害対応、あるいはより良い質の災害対応を提供することができない一つ の要因となっている。
本研究では、過去の災害で得られた災害対応の教訓等をInstitutional Memory化する事により、被災者に対し均一な質のサービスが提供できる災害対応従事者を育成し、発災時の業務支援を可能とするデータベースシステム構築のために必要な、災害発生時における被災地での教 訓や知識・知恵・工夫の抽出を行う。

(b)研究の方法
阪神・淡路大震災時において災害対応に従事した人たちへのインタビューならびにグループディスカッション調査の結果から、災害対応項目ごとに問題となったこと、教訓、現場での知恵や工夫を抽出してデータベースとなり得る形式にまとめた。また平成12年3月に発生した有珠山噴火災害、平成12年10月に発生した鳥取県西部地震、平成13年3月に発生した芸予地震を対象に現地調査を行い、当時の災害対応従事者へのヒアリング調査を実施して災害対応上の課題や教訓を明らかにした。さらに平成13年月に発生したニューヨークWTCテロ災害に関しては、きっかけとなったテロは自然災害ではないが、その後被災地や被災者がたどる災害過程は自然災害への対応に普遍化できる事 実があるとの前提に立ち、被災企業の災害対応責任者へのヒアリング調査を行い、他の事例と同様に教訓の抽出を試みた。

(c)研究成果の概要
阪神・淡路大震災時における災害対応従事者から得られた教訓のデータベース化にあたり、
(1)被害情報(生活機能、ライフライン機能、経済 機能)の把握に関わる項目
(2)人命の安全確保に関わる項目
(3)市民の心の安定に関わる項目
(4)被災者の生活維持・避難情報に関わる項目
(5)組織・体制・制度に関わる項目
に分類して教訓等を整理した。また有珠山噴火災害、鳥取県西部地震、芸予地震時における災害対応上 の教訓として、とりわけ発災後間もない初動期において、災害対策本部の立ち上げ、ボランティア組織の受入れや派遣など、救援活動に関わる 災害現場での体験や教訓を明らかにすることができた。

(d)成果の公表
京都大学防災研究所のHP http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/web_j/kyodo/ kako/h13/13g-14.html
京都大学防災研究所年報, 第45号A, 2001.


(13G-15)破砕性地盤における地すべり運動機構及び運動範囲予測法の研究
研究組織
研究代表者
 王 功輝(日本学術振興会外国人特別研究員)
所内担当者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 松本樹典(金沢大学工学部 教授)
 新井場 公(徳消防庁消防研究所 研究員)
 古谷 元(新潟大学積雪地域災害研究センター研究員)
 今村幸史(京都大学防災研究所 研究生)

(a)研究の背景と目的
近年、日本では、地震および降雨によって、高速長距離運動地すべりが発生し、甚大な被害を及ぼした。例えば、1995年1月17日の兵庫県南部地震によって、仁川地すべりが大阪層群の砂質土盛土地盤で発生し、34名の人命がなくなった。1996年12月長野県小谷村蒲原沢では、火山噴出物の風化物地盤で崩壊による土石流が発生し、工事中の従業員14人を死亡させた。1997年7月、鹿児島県出水市では、集中降雨によって、安山岩質斜面で地すべりが発生し、運動土塊は針原川に流れ込み、砂防ダムとぶつかって、流動化して針原村まで氾濫し、21名の命を奪った。1998年、福島県・栃木県の県境で集中降雨により、数多くの斜面崩壊が発生し、広範囲にわたって被害を及ぼした。特に、福祉施設「太陽の国」裏山では、流動性崩壊が発生し、5名の人命を奪った。また、1999年の福島県豪雨斜面災害などなど、枚挙に暇はない。これらの長距離運動地すべりの共通点の一つは破砕性地盤で発生していることである。本研究は、斜面地盤の破砕性に着目して、地すべりの運動機構および運動範囲の予測法の研究を行う。地すべりの運動機構を解明することは運動範囲予測の基礎となる。そして、準動範囲予測法の研究は斜面防災に直接的貢献できる。そこで、以下の要領で本共同研究を行うことにした。
(1)既往の成果を整理し、仁川地すべり、針原川地すべり−土石流、および広島市亀山地すべりで採取した試料の粒子破砕を確認し、非排水状態での過剰間隙水圧との関連性を明らかにする。
(2)地すべり体積が大きいほど、運動中の見かけの摩擦係数が小さくなる現象を解明するため、異なる応力レベルの非排水三軸圧縮試験を実施し、粒子破砕性の流動化過程での役割を解明する。
(3)室内模型実験を実施し、降雨および振動による流動化地すべりの挙動を調べる。
(4)善徳地すべり区域で発生した流動性崩壊の現地調査を行う。
(5)破砕性を考慮した地すべり運動モデルを考案し、澄川地すべりの事例研究を行う。

(b)研究の方法
降雨模型斜面装置および振動台模型斜面装置を開発し、斜面運動中すべり面におけるせん断応力、垂直応力、間隙水圧、運動変位を観測し、模型実験を行った。1999年6月広島市集中豪雨による亀山地区の地すべりで採取した試料をリングせん断試験機を用いて再現試験を行い、地すべりの運動機構を検討した。粒子破砕性の異なる砂質土試料を用いて、異なる応力レベルで非排水三軸圧縮試験を行ない、粒子破砕性の流動化への影響を見出した。以上の研究に基づいて、地すべり運動範囲予測プログラムを考案し、澄川地すべりに対する事例研究を行って、地すべり運動および堆積範囲との比較より、地すべり土塊の運動の数値シミュレーションが精度よくできた。また、徳島県善徳地すべり区域で発生した土石流の地下水状況を把握するために、源頭部における地下水調査を行った。

(c)研究成果の概要
(1)非排水せん断過程において、粒子破砕が起こったことを確認した。そして、異なる土試料の比較試験によって、実際発生した高速地すべりで採取した土試料の方が破砕性が高いこと、そして、高い拘束圧(地すべりの規模に相当するパラメータ)ほど、粒子破砕しやすく、非排水状態では過剰間隙水圧が上昇しやすいことを見出した。このことは大規模地すべりがよく長距離運動する現象を説明できる。
(2)リングせん断試験の長距離せん断試験結果より、地すべり運動中のせん断抵抗変化モデルを提案した。このモデルは、地すべり土塊はすべり面のせん断抵抗が定常状態に達することによって、過剰間隙水圧の発生によって、見かけの摩擦角度が減少し、地すべり運動が加速していく。せん断抵抗が定常状態に到達した後、土塊の分散することによって、土塊の厚さが減少すると共に、見かけの摩擦角度が増大していくことによって、地すべり運動が減速し、最終停止する。このモデルを適用することより、長距離運動地すべり運動過程が再現できた。
(3)降雨斜面模型装置および振動台模型斜面装置を用いて、振動による流動性崩壊および降雨による流動性崩壊に関する模型実験を行った。実験結果より、土試料の透水性および初期密度は流動性地すべりの発生には大きな影響を及ぼしていることが分かった。
(4)1999年6月29日に広島市亀山地区で発生した地すべりは崩壊土塊が流路での非排水職荷によって、最終堆積した土砂量は源頭部での発生量の1O倍にもなったことを推定した。リングせん断試験での再現試験結果では、わずかなせん断力の増加、あるいは間隙水圧の上昇によって、大量の過剰間隙水圧が発生することより、当地すべり運動のメカニズムを見出した。
(5)1999年6月29日に徳島県西祖谷山村善徳の「とびのす谷」で発生した土石流を誘発した斜面崩壊に関与した地下水脈について、1m深地温探査、水温および電気伝導度の測定結果より推定を行った。その結果より、探査範囲内で斜面崩壊の誘因となった地下水脈は、伏流水によるものが二箇所と裂か水の水脈によるものが1箇所存在することが推定できた。

(d)成果の公表<BR> (査読付論文)
Wang F.W., Sassa, K., Okuno, T., Matsumoto, T., Yamakami, T., Kikuno, Y.: Experimental Study on Mechanism of Flows Induced Seismic Loading through Shaking. Proceedigs of International Symposium on Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritag, UNESCO & Kyoto University, pp.73-84, 2002.
Wang, F.W., Matsumoto, T., Kikuno Y., Yamakami, T., Sassa., K., Okuno, T.: Experimental study on mechanisms of flowslides induced by rainfall through flume tests. Proceedings of International Symposimn on Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritage, UNESCO & Kyoto University, pp.211-219, 2002.
Wang, F.W., Sassa, K.: A modified geotechnical simulation model for landslide motion. Landslides, Proceedings of the 1st European Conference on Landslides, Prague, Czech Republic, in press, 2002.
Wang, G.H., Sassa, K.: Post-failure mobiliy of saturated sands in undrained load−control- ed ring shear tests. Canadian Geotechnical Journal, in press, 2002.
Wang. G.H., Sassa, K.: Pore pressure genera- tion and motion of rainfall-induced landslides in laboratory flume tests. International Symposium Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritage, Kyoto, Japan, pp.45-60,2002.
(その他)
古谷 元,末峯 章,山内信智,原 龍一,佐藤 修,小松原岳史:結晶片岩地域の山地における土石流源頭部の地下水脈の推定、新潟大学積雪地域災害研究センター研究年報,第23号,pp.32-41, 2001.
奥野岳志,菊野嘉雄,汪 発武,松本樹典,山上尚幸:振動による斜面崩壊の影響素因・運動範囲に関する実験的研究,第37回地盤工学研究発表会,印刷中,2002.
菊野嘉雄,奥野岳志,汪 発武,松本樹典,山上尚幸: 降雨による斜面流動性崩壊の発生,運動メカニズムに関する水路実験研究, 第37回地盤工学研究発表会,印刷中, 2002.
前川晃一,汪 発武,松本樹典: 三軸試験を用いた破砕性砂質土の非排水せん断挙動, 第37回地盤工学研究発表会, 印刷中, 2002.


(13G-16)道路のり面危険度評価手法の研究
研究組織
研究代表者
 沖村 孝(神戸大学都市安全研究センター 教授)
所内担当者
 奥西一夫(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 諏訪 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 斉藤隆志(京都大学防災研究所 助手)
 田中泰雄(神戸大学都市安全研究センター 教授)
 吉田信之(神戸大学都市安全研究センター 助教授)
 鳥居宣之(神戸大学都市安全研究センター 助手)
 平野昌繁(大阪市立大学文学部 教授)

(a)研究の背景と目的
本研究では、国土交通省の一斉道路防災総点検で対応が必要とされた斜面、および防災カルテの作成が必要とされた斜面を対象として、これらの斜面で現地調査を実施し、対象斜面で発生すると考えられるメカニズムの抽出、斜面および道路への危険度評価手法を確立し、定量的な道路被災危険度評価手法を提案し、これにより施工優先順位選定の資料を提供しようとするものである。

(b)研究の方法
上記の目的を達成するための調査路線として、兵庫県淡路島を縦断する国道28号線を対象路線とした。この路線の北側2/3は花崗岩を基盤岩とし、一部花崗岩が露頭し、他は固結〜半固結の礫や砂泥に覆われている。一方、南1/3は中・古生代の和泉層群を主体とし、礫岩、砂岩および泥質岩が互層状になって覆っている。国道28号線では7カ所の斜面が防災カルテ対応以上の危険斜面にランクされている。これらの斜面を対象として現地調査を実施した。

(c)研究成果の概要
国道28号線では過去に崩壊土量10m3以下の自然斜面表層崩壊が豪雨時に多発している。本研究では崩壊メカニズムを、@落石型、A転石型、Bトップリング型、C表層崩壊型、およびD円弧すべり型の5種類とし、それぞれの崩壊メカニズムを定式化し、これらにより「崩壊危険度」を求めることとした。一方、「道路被災危険度」は崩壊した土砂が道路に達するか否か、および落石防止柵などの防災構造物が落ちてきた土砂をくい止める効果があるか否かを、材料が岩の場合と土砂の場合で定式化した。前者はモンテカルロシミュレーションを、後者は崩壊土砂運動モデルを用いた。
現地調査により、対象斜面では起こりえないメカニズムを除去し、残るメカニズムについて定量評価を実施した。その結果、斜面1では表層崩壊、落石、転石を、斜面2では表層崩壊と落石を、斜面3では表層崩壊と転石を、斜面4では表層崩壊と転石を、斜面5では表層崩壊を、斜面6では表層崩壊と落石を、斜面7では表層崩壊と転石のメカニズムで考察した。また各斜面の既設防災構造物の調査も行った。計算の結果、斜面7および斜面4では転石による「道路被災危険度」が大きく、斜面7、斜面5および斜面3では表層崩壊による「道路被災危険度」が大きいことが明らかになった。なお危険度の大きさは表記した順に小さくなることも明らかになった。

(d)成果の公表
沖村 孝,鳥居宣之,渡辺哲生,萩原貞宏,吉田正樹:道路斜面の危険度評価手法に関する研究?国道175,176号線を対象として?,神戸大学都市安全研究センター研究報告,pp.1-15,2001.
沖村 孝,鳥居宣之,萩原貞宏,吉田正樹:道路斜面における落石危険度評価手法の一提案,地すべり,39-1,pp.22-29,2002.
沖村孝,鳥居宣之,吉田正樹:3次元落石シミュレーション手法の提案,財団法人建設工学研究所論文報告集,2002.(投稿中)


(13G-17)フィリピン海プレートの北限を探る
研究組織
研究代表者
 山口 覚(神戸大学理学部 講師)
所内担当者
 大志万 直人(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 上嶋 誠(東京大学地震研究所 助教授)
 村上英記(高知大学理学部 助教授)
 塩崎一郎(鳥取大学工学部 助教授)

(a)研究の背景と目的
中国・四国地方の地下電気伝導度構造を基に、フィリピン海プレートの位置や形態を明らかにする。
フィリピン海プレートは西南日本の地球科学的状況を規定していると言っても過言ではない。四国地方下では、多くの地震の震源分布からフィリピン海プレートの上面の形状はよく理解されている。しかし、中国地方に入ると非地震性となりその存在形態(特に、北限)は明確ではない。そこで、本研究では地震学的手法で求まる物理量と独立した量である「電気伝導度」に注目しフィリピン海プレートの形態を決定しようとするものである。

(b)研究の方法
鳥取県米子市付近および島根県東部地域おいて、地磁気地電流法(Magnetotelluric法)による観測を行った。ネットワークMT法による測定と、広帯域MT測定装置を用いた測定を併用した。ネットワークMT法は、電位差測定にNTTの公衆回線を用いる事を特徴とし、長周期(おおよそ10分以上)の応答関数を求める場合(これは地下深部までの電気伝導度構造を反映する)に適当である。また、広帯域MT測定装置は周波数300Hzから数分までの周期帯の応答関数を連続的に求めることができる。

(c)研究成果の概要
 鳥取県米子市付近では、ネットワークMT法による観測と広帯域MT装置を用いた観測を併用している。両手法が重複している周期帯では、互いに整合的な結果が得られており、信頼性の高い結果を得ていることを示している。現在も両者を一括した解析を進めている。
 島根県平田市、松江市、出雲市に付近に展開したネットワークMT観測結果を基に、一次元層状構造を仮定したインバージョン解析を行った。これらいずれの地域でも深さ100km付近に高比抵抗値を示す層が存在していることを示している。この深さは、四国地方で地震学的に同定されているフィリピン海プレートをそのまま延長した位置に当たり、フィリピン海プレートがこの付近まで延伸していることを示唆していると考えられる。
 今後は、島根県東部と地域における広帯域MT装置を用いた観測をネットワークMT観測域で展開し、浅部から深部までの連続した解析および、四国地方と本研究展開域の間(鳥取県南西部および広島県北部)における研究が重要と思われる。

(d)成果の公表
CD-ROM形式の報告書を作成し提出。


(13G-18)台風の内部構造に関する調査・研究
研究組織
研究代表者
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 田平 誠(愛知教育大学情報処理センター長 教授)
 藤井 健(京都産業大学一般教育研究センター教授)
 石川裕彦(京都大学防災研究所 助教授)
 筆保弘徳(京都大学大学院理学研究科 大学院生)
 吉野 純(京都大学大学院理学研究科大学院生)

(a)研究の背景と目的
本研究は、台風の変形した眼の構造、多重渦構造や周辺で発生するpressure dipなどの台風のシステム内に発生する異常現象を対象とする。台風の眼が変形して円形でなく、楕円形や四角形をしている事例や、眼の付近で渦の多重構造は、台風がその最盛期に沖縄を通過するときに見られる。また、pressure dipは日本に上陸後に発生する。これらの台風内部に発生する現象によって、思わぬ強風や豪雨が発生する。この台風内部の構造について、事例を集めて、その物理的機構について調査する。

(b)研究の方法
 本研究中の台風の本土上陸はなかったため沖縄先島での資料収集を実施した。
台風の観測は海上におけるものは、島嶼か陸上におけるものが全てといってよい。発達期や成熟期の観測的研究に焦点をあてて、その渦構造について研究を進めることにした。沖縄や宮古島、石垣島などの南西諸島を襲う台風は、強風の歴史的な記録を残しているが、複合渦の構造、台風の眼が楕円形をしていることが多々指摘されている。ここでは、防災研究所の気象衛星(GMSX)の画像を中心にして、前もって解析を進め、2000年の12号台風、2001年の16号台風の2つに焦点を当てて、研究を進めることにした。そのご、沖縄気象台、石垣島地方気象台に出かけて、レーダー資料、地上気象資料、高層観測資料を収集し、とくに眼の通過に伴う、眼のなかのメソ渦の発生消滅過程について、解析を進めた。

(c)研究成果の概要
 本研究中には台風の本土上陸はなかったため、過去の台風2000年の12号台風、2001年の13号の気象的特徴を再調査した。両者は、特に台風12号は沖縄の先島において、宮古島を眼が通過していて、そのときに眼のなかで、メソ渦が発生消滅していることが見出された。台風0116号は沖縄本島付近に、を約10日にわたって停滞し、強風による家屋や構造物の被害が発生した。現地の沖縄気象台や石垣島地方気象台で収集した資料を素に解析を進めて、メソ渦の発生と台風の眼の構造の発達には関係があることを見出し、それが地上気象資料、とくに気圧の自記記録にも、明確に判別できることなどを示した。

(d)成果の公表の方法
京都大学防災研究所年報 

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