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 3.2 共同研究


 平成8年度に、防災研究所が改組され、全国共同利用研究所として位置づけされたことに伴ない、所内および全国の研究者が連携した共同研究を募集し実施することとした。防災研究所共同利用委員会(委員長(所長)、所内委員、所外委員より構成される)は、研究者が協力して実施する共同研究と、研究者が研究成果と今後の研究の方向性について意見交換を行う研究集会に大別して、全国から研究課題を公募することとした。具体的には、防災研究所が主体的に研究課題を企画・立案し全国の研究者の参加を呼びかけ実施する「特定共同研究」及び「研究集会(特定)」と、広く全国の研究者から研究課題を募集し実施する「一般共同研究」及び「研究集会(一般)」に区分した。
平成13年度共同研究より、共同研究スキームの一部見直しを行い、特定共同研究の研究期間を2〜3年間に、一般共同研究の研究期間を1〜2年間に改めた。さらに、萌芽的共同研究のカテゴリーを新設した。
公募要綱は、共同利用委員会企画専門委員会で作成された原案が共同利用委員会での審議を経た後、教授会で決定される。募集要項は、国内の大学研究機関に配布されるほか、防災研究所ホームページに掲示される。また、募集案内は各種学会誌に掲載される。研究代表者の申請資格は、国公私立大学および国公立研究機関の教官・研究者又はこれに準ずるもの、としているが、大学院学生や民間の研究者が共同研究者として参加し得る途も開いている。
審査基準のポイントは、@災害科学における学術上、社会的な意義、A研究目的からみた研究組織、研究場所(研究集会については開催地)および経費等の妥当性である。その外、防災研究所の施設、設備、データベース等の資料および人的資源の活用が評価点として考慮される。応募研究課題は、企画専門委員会における研究内容等の事前の整理・検討をふまえたうえで、共同利用委員会において審議がなされ、採択候補課題が選定される。その後、教授会で採択課題が決定される。
平成12年度共同利用委員会の構成は、委員長(所長)、所内委員11名、所外委員11名である。平成13年度共同利用委員会の構成は、委員長(所長)、所内委員10名、所外委員11名であった。

3.2.1特定共同研究


防災研究所が主体的に研究課題を立案し全国の研究者に参加を呼びかけ、計画的に推進する研究である。研究期間は2〜3年である(平成12年度までは2年間としていた)。研究代表者は所内・所外を問わないが、前年度上半期に防災研究所所内で研究課題を募集する。企画専門委員会で審議し、優先順位を付して推薦候補課題を共同利用委員会に提示する。共同利用委員会で採択候補課題を選定し、その結果を教授会が受けて採択課題を決定する。採択課題は、一般共同研究および研究集会(一般)の募集とあわせて、防災研究所共同研究募集要項に掲載され、特定共同研究への研究者の追加募集を行っている。
研究期間終了後はすみやかに、研究成果を報告書にとりまとめ出版公表することを義務づけている。出版公表には電子媒体を用いることを推奨している。

平成12年度

(研究課題の選考概要)所内から9件の申請があった。企画専門委員会において、各申請課題の研究内容について評価するとともに、前年度からの継続が内定している研究テーマ(計3件)との重複や研究分野の偏りが生じないかどうか等を検討し、内3件を新規採択候補課題として共同利用委員会に推薦した。
共同利用委員会における審議の結果、平成12年度特定共同研究として3件を採択した。


(11P-1)防災投資の費用便益分析法の課題と展望
研究期間 平成11、12年度
研究組織
研究代表者
 多々納裕一(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者名 
 喜多秀行(鳥取大学工学部 教授)
 谷本圭志(鳥取大学工学部 助教授)
 榊原弘之(山口大学工学部 講師)
 小林潔司(京都大学大学院工学研究科 教授)
 上田孝行(東京工業大学工学部 助教授)
 南 正昭(山口大学工学部 助手)
 岡田憲夫(京都大学防災研究所 教授)
 亀田弘之(京都大学防災研究所 教授)
 萩原良巳(京都大学防災研究所 教授)
 鈴木祥之(京都大学防災研究所 教授)
 田中聡(京都大学防災研究所 助手)
 清水康生(京都大学防災研究所 助手)
 高木朗義(岐阜大学工学部 講師)
 斉藤誠(一橋大学経済学部 助教授)
 中島英嗣(安田エンジニアリング 部長)

(a)研究の背景と目的
防災投資の便益評価に関する研究は不確実性下の便益評価法や一般均衡理論を適用する形で発展してきている。しかしながら、災害時には一般に経済的な均衡が達成されているとはみなしがたいこと、防災投資は不可逆性を伴うこと等の理由により、現在までの方法論には一定の限界がある。本共同研究では、先端的な研究を展開している研究者と実務家を結集、これらの課題を克服するための方法論の開発を試みた。

(b)研究の方法
平成11年度に5回、平成12年度に4回の研究会を実施した。まず、防災投資の費用便益分析法の現状に関して討議し、制度への依存性、認知リスクの違いの考慮、長期的効果の考慮、ストックの損傷とフローの損傷との二重計算の防止等の課題が指摘された。次いで、これらの課題への対応方法について意見交換を行うとともに、同分野における課題の体系化と対処方法に関する展望を取りまとめた。

(c)研究成果の概要
保険市場が完全に機能している場合とそうでない場合とでは、防災投資の便益が異なりうることが報告され、災害リスクのファイナンスに関する制度が防災投資の便益に及ぼす影響に関する検討が重要であることが広く認識されるに至った。また、低頻度で大規模な影響をもたらすような災害に関しては、完全な保険が最も望ましいわけではなく、部分的な保険が社会的にみても望ましいことが確認された。このような状況下では、物的な被害の軽減に加えて、心理的な被害の軽減の効果を計量化することが重要となることが確認された。さらに、復興過程や被害のスピルオーバーなどを考慮した防災投資便益の帰着の検討、二重計算の防止等の方法を今後検討していくことが重要であることが確認された。また、認知リスクのバイアスが存在する場合には、便益の計量化に際して客観的リスクに基づく補正が必要であり、バイアス軽減のためのリスクコミュニケーションが重要となることも指摘された。

(d)成果の公表
平成12年度防災研究所研究発表会にて、関連研究の発表を実施した。
多々納裕一,庄司靖章,岡田憲夫:災害リスク下の多地域一般均衡分析
小林潔司,横松宗太:防災投資の経済評価:研究展望
梶谷義雄,多々納裕一,岡田憲夫:時系列分析を用いた震災の港湾活動への長期的影響に関する研究
上田孝行,高木朗義:災害脆弱地区における住環境改善便益の帰着分析
これらの研究成果を含め、出版された論文は以下のようである。
山口健太郎,多々納裕一,岡田憲夫:リスク認知のバイアスが災害危険度情報の提供効果に与える影響に関する分析, 土木計画学研究・論文集 No.17, pp.327-336, 2000.
庄司靖章,多々納裕一,岡田憲夫:2地域一般均衡モデルを用いた防災投資の地域的波及構造に関する分析, 土木計画学研究・論文集 No.18,pp.287-296, 2001.
梶谷義雄,多々納裕一,岡田憲夫:兵庫県南部地震の港湾活動への長期的影響に関する事後分析,土木計画学研究・論文集 No.18, pp.317-324,2001.
小林潔司,横松宗太:タストロフ・リスクと防災投資の経済評価, 土木計画学研究・論文集, Vol.19,No.1,pp.1-12,2002.



(11P-2)豪雨による都市水害モデルの開発とその治水計画への応用
研究期間 平成11、12年度
研究組織 
研究代表者
 井上和也(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者
 市川 温(京都大学防災研究所 助手, 当時)
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
 戸田圭一(京都大学防災研究所 助教授)
 中川 一(京都大学防災研究所 助教授, 当時)
研究分担者名
 青木純一(国際航業施設情報部長)
 神吉和夫(神戸大学工学部 助手)
 神田 徹(神戸大学工学部 教授)
 椎葉充晴(京都大学大学院工学研究科 教授)
 杉尾 哲(宮崎大学工学部 教授)
 武田 誠(中部大学工学部 講師)
 多田彰秀(長崎大学工学部 助教授)
 野口正人(長崎大学工学部 教授)
 細田 尚(京都大学工学研究科 教授)
 渡辺政広(愛媛大学工学部 助教授)

(a)研究の背景と目的
 わが国の地形は急峻で河川のこう配もまた急である。梅雨期あるいは台風期には強い降雨が集中する。その結果、大きな洪水が短時間のうちに発生する。大都市の多くは河川河口部の沖積平野に位置しているとともに、広いゼロメートル地帯を含んでいる。このような自然的条件により、わが国の都市は陸性および海性の水害を受けやすい宿命を負っている。
 豪雨やそれに伴う氾濫災害に限ってみても、わが国の都市域では、その周囲を流下する大河川や都市を貫流する中小河川の氾濫による災害の危険が潜在的に高い。また、都市域においては集中豪雨が頻発しており、それが排水能力を越えているために生ずる内水氾濫災害も目だっている。もちろん、内水災害と外水災害が重畳して発生する、あるいは両者の区別がつかないような災害の危険性も高い。
 本研究は、都市域における氾濫災害の発生・伝播の機構を明らかにするとともに、被害の防止・軽減策をハードおよびソフトの両面から考察することを目的としたものである。

(b)研究の方法
 都市とその周辺も含めた流域を対象にして、流出、洪水および氾濫の諸過程を解析する手法の構築を目指すことにする。都市においては、とくに、中小河川、下水道、地下空間などを考慮に入れたモデル化が重要である。ついで、このような手法を用いて、都市における洪水氾濫流の詳細な挙動を追跡し、その結果から都市の治水能力の評価とともに耐水性向上策を検討する。また、既存の地形情報システムやGIS技術の活用した水害情報の提供、および避難計画のあり方についても考察する。具体的には、次の研究会及び現地調査を行った。
(1)平成11年8月5日:防災研究所において研究会、参加者は14名(共同研究参加者以外も含む、以下同様)。参加者の都市水害に関する水文・水理的解析研究についての話題提供と討議(その1)。今後の研究の進め方について意見交換。
(2)平成12年1月12日:防災研究所において研究会、参加者は15名。話題提供と討議(その2)。大阪府土木部の青島行男・都市河川室長による寝屋川流域の都市水害対策についての現状説明と討議。
(3)平成12年10月4日:東海水害の現地調査、参加者は17名。名古屋市緑政土木局の山田和良係長らの案内で、新川破堤地点、天白川野並地区などを調査。
(4)平成12年12月22日:防災研究所において研究会、参加者は14名。建設省中部地方建設局の廣瀬昌由・河川計画課長、愛知県土木部の大内忠臣・河川課長による東海水害の発生原因、経過、被害、問題点などの説明と討議。
なお、上記の全体的な集まり以外にも個別的な連絡も取りつつ研究を進めた。

(c)研究成果の概要
 本研究では、共同研究参加者のこれまでの成果を都市型水害の現象解明や対策立案などにどのように活用するかという視点から討議を行い認識を深めるとともに、いくつかの新しい都市水害モデルを構築した。それらの成果を挙げると以下のようである。
(1)都市周辺の山地部からの降雨流出とそれに先立つ降雨予測
(2)小規模流域における短時間集中豪雨の流出
(3)都市特性(街路網、中小河川、下水道、地下空間など)を考慮した洪水氾濫解析モデル
(4)流域内貯留に関する施設・設備の効能
(5)下水道管路内の流れの水理
(6)マンホールを考慮した解析と事故防止
(7)山地、扇状部、急傾斜地都市における土砂氾濫災害
(8)洪水情報の取得と伝達
(9)都市地形および洪水情報に関するハイドロ・インフォマティックス
この研究を進めている期間には福岡水害(1999年6月)や東海水害(2000年9月)が発生した。福岡水害では、集中豪雨とそれによって増水した市内河川が越水し、福岡市内でわずかな時間差をもって内水氾濫と外水氾濫が連続して発生した。氾濫水は、地盤が周りよりやや低い博多駅周辺に集中し、ビル地下室では浸水から逃げ遅れた従業員が犠牲になり、地下浸水が大きな社会的衝撃を与えた。東海水害では、未曾有の豪雨(名古屋市での2日間雨量は567mm)により、1級河川である庄内川が破堤の危機に瀕しただけでなく、流域の都市化が進んだ新川では破堤し広い領域で外水氾濫が生じた。また、内水氾濫はいたるところで発生し、とくに低地に内水が集中して一部では浸水が2m以上に及んだ。この水害では、情報伝達、避難、復旧などの面でも大きな問題が顕在化し、都市の水害脆弱性がハード的にもソフト的にも露呈された。
 本研究の成果はいずれも、これらの水害で明らかになった技術的基本課題に応えるものと考えている。

(d)成果の公表
 京都大学防災研究所特定共同研究報告書(11P?2)で公表.


(11P-3)局地的強風の全国的な調査研究
研究期間 平成11、12年度
研究組織
研究代表者
 石川裕彦(京都大学防災研究所 助教授)
所内担当者
 植田洋匡(京都大学防災研究所 教授)
 桂 順治(京都大学防災研究所 教授)
 田中正昭(京都大学防災研究所 助教授)
 丸山 敬(京都大学防災研究所 助教授)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 堀口光章(京都大学防災研究所 助手)
 奥田泰雄(京都大学防災研究所 助手)
研究分担者名
 早川誠而(山口大学農学部 教授)
 森 征洋(香川大学教育学部 教授)
 卜蔵建治(弘前大学農学生命科学部 教授)
 塚本 修(岡山大学理学部 教授)
 玉川一郎(岐阜大学工学部 助教授)
 脇水健次(九州大学農学部 助手)
 板野稔久(防衛大学地球科学系 助手)
 竹見哲也(大阪大学 助手)
 田中健路(熊本大学工学部 助手)

(a)研究の背景と目的
 各地方には固有の強風域が存在し強風災害が発生している(列車脱線事故、農林被害、送電線被害など)。各地の局地的強風は個別的に研究されてはいるが、全国の強風域を網羅的にまとめた資料はない。
 本研究では、地形による強風を理解しその防災対策考える上での基礎として、各地の研究者と協力して、全国の局地的な強風域を網羅的に調査し、強風の発生条件(気象、地形)や頻度などを整理した資料を作成することを目的とする。本研究の成果を基礎に、地形性強風の発生機構研究、モデルによる総合研究が発展すると期待される。

(b)研究の方法
平成11年度は台風9918号に伴い、九州地方を中心とした風害・高潮害、豊橋市における竜巻等の風災害が発生したため、これらに関わる調査主体の研究活動となった。平成12年度は、西日本を主体として局地風の文献発掘を行った他、冬季の関東平野の強風の観測を行った。

(c)研究成果の概要
(1)平成11年9月に豊橋市で発生した竜巻を端緒に、同地域での過去の竜巻事例を調べた。この結果、ほぼ同じ地域で何度も大きな竜巻が発生していることがわかり、地形や気象条件との関連に関して、研究を進める必要があることがわかった。
(2)同、不知火海沿岸で発生した高潮害を対象に、気象観測データの収集と解析を行った。また、数値モデルにより、風速の再現実験を行った。
西日本の局地的強風に関して、60編の資料収集を行った。このなかには、平野風、わたくし風、天秤おろし、アラセ、鳥取の南のおろし風など、従来はあまり知られていない局地風の資料が含まれている。
(3)平成13年2月には、前橋において実施された関東平野の強風の観測に参加し、境界層レーダによる強風の鉛直構造のデータを取得した。 (4)初年度に、台風9918号関連の調査研究に集中したため、必ずしも全国規模の調査には至らなかった。

(d)成果の公表
林 泰一,滝川 清,石川裕彦:台風9918号にともなう高潮災害・竜巻害, 自然災害科学, 第18巻(4号), pp.441-448, 2000.
石川裕彦:1999年9月24日の豊橋市の竜巻(多重渦), 天気, 第47巻(7号), pp.489-490,2000.



平成13年度


(研究課題の選考概要)本年度より研究期間を2〜3年間に拡張した効果もあり、所内から多くの応募(計12件)があった。企画専門委員会において、各申請課題の研究内容について評価するとともに、前年度からの継続が内定している研究テーマ(計3件)との重複や研究分野の偏りが生じないかどうか等を検討し、かつ一般共同研究のための予算枠も視野にいれて、新規採択候補課題を2件に絞り込んだ。
共同利用委員会における審議の結果、平成13年度特定共同研究として2件を採択した。


(12P-1)実験・観測・シミュレーションによる洪水時の河口部における流れの構造と底質の移動機構に関する研究
研究期間 平成11、12年度
研究組織
研究代表者
 今本博健(京都大学防災研究所 教授)
所内分担者
 関口秀雄(京都大学防災研究所 教授)
 山下隆男(京都大学防災研究所 助教授)
 加藤 茂(京都大学防災研究所 助手)
 馬場康之(京都大学防災研究所 助手)
研究分担者名
 出口一郎(大阪大学 教授)
 田中 仁(東北大学 教授)
 大年邦雄(高知大学 教授)
 小野正順(高知高専 講師)
 北 勝利(東海大学 助教授)

(a)研究の背景と目的
水際での環境保全に関する研究、特に河口を接点とする河川・海岸・海底地盤系の流れや物質移動の研究が重要になっている。本研究では、洪水時の河口部を対象として、土砂移動、河川管理および海岸漂砂の観点から、実験・観測・シミュレーションの研究手法の連携により、以下の研究を実施する。
(1)河口流解析モデルの構築:洪水時に河口部に形成される波と流れとの強い非線形干渉の流体運動を再現する数値モデルを検討する。3次元2方程式系乱流モデルと波浪伝播モデルとの結合で河口流シミュレーションを行う。さらに、シミュレーション結果を検証するための大型実験装置を設計する。
(2)河口部での土砂移動の解析:河口部での土砂移動シミュレーションモデルを開発する。これをデルタ形成型河口および底質の海底谷流失型河口地形に対してそれぞれ適用し、河口部での土砂移動における河口周辺地形の相違を明確にする。
(3)河口周辺海岸の海底地形変化の観測:関川河口周辺海岸である上越・大潟海岸を対象として、観測に基づいた河川流送土砂の海岸線への分配気候の検討を行う。

(b)研究の方法
(1)河口流解析モデルの構築:波浪変形モデルと流れの準3次元数値モデル(平均流+乱流モデル)により、河口部から海岸への河川流、広域海浜流のシミュレーション手法を開発した。
(2)河口部での土砂移動の解析:河口流解析モデルに漂砂機構を導入して、河口部での土砂移動シミュレーションモデルを開発した。また、仁淀川および熊野川河口を対象として、計測された河口部の地形データの収集を行った。
(3)河口周辺海岸の海底地形変化の観測:関川河口周辺海岸である上越・大潟海岸における波と流れの広域観測データを解析し、河川流送土砂の海岸域への分配機構の検討を行った。さらに、熊野川・七里御浜海岸系の土砂質配分を検討した。

(c)研究成果の概要
(1)河口流解析数値モデルを構築した。さらに、河口流解析モデルに漂砂機構を導入して、河口部での土砂移動シミュレーションモデルを開発した。
(2)仁淀川および熊野川河口の地形データベースを作成した。
(3)上越・大潟海岸における波と流れの広域観測データを解析し、河川流送土砂の海岸域への分配機構の検討を行い、広域海浜流が沿岸方向への漂砂移動に大きく貢献していることを示した。これにより、河口部に大規模海岸構造物を築造する場合には、広域漂砂の制御を十分検討する必要があることを示した。
(4)熊野川・七里御浜海岸系の土砂質配分を検討し、七里御浜海岸の侵食の主要因および熊野川での洪水、土砂流出の時系列発生特性を明確にした。これにより、波浪・洪水特性とその経年変化特性を海岸漂砂管理に導入することの重要性を示した。

(d)成果の公表
山下隆男,伊藤政博,塚原陽一:熊野川からの河川流量の季節・年変化と河口砂洲状の変形特性海岸工学論文集,第47巻, pp.641-645, 2000. 馬場康之,今本博健,山下隆男,加藤 茂:荒天時に発達する吹送流場に及ばす海底勾配の影響に関する数値実験,防災研年報, 第44号 B-2, pp.353-360, 2001.
Takao Yamashita, Masahiro Ito and Kentaro Hayashi: Sediment-Cell Based Coastal Zone Management, Proc. Int. Inaugural Interna- tional Conf. on Port and maritime R&D and Technology, Singapore, Vol.2, pp.535-540, 2001.
Masahiro ITO, Takao YAMASITA, Hidetosi TATEMATSU and Mitsuhiro OOSHIMA: Beach topography and vegetation in the Fuji, Enshu and Hichirimihama Coasts, Proc. Int. Inaugural International Conf. on Port and maritime R&D and Technology, Singapore, Vol.2, pp.513-520, 2001. Takao Yamashita, Shigeru Kato and Naoto Kihara: Cross-shore Profile of Wind and Wave-Induced Coastal Current System,Proc. Int. Inaugural International Conf. on Port and maritime R&D and Technology, Singapore, Vol.1, pp.269-272, 2001.
Yamashita, T.: Comparative Study of Beach Dynamics and Morphology in Japan and Korea : For Beach Management of Japan (East) Sea Coasts, The 11th PAMS/JECSS WORKSHOP,pp.151-154, 2001.
馬場康之,加藤 茂,山下隆男:冬季季節風による広域海浜流−上越・大潟海岸を例として−(現地観測結果),海と空,第78巻,第2号,pp.59-66, 2002.
加藤 茂,馬場康之,山下隆男:冬季季節風による広域海浜流−上越・大潟海岸を例として−(広域海浜流の数値モデルとしれによる再現計算),海と空,第78巻,第2号,pp.67-72,2002.
田中 仁:河口部の水理と物質輸送,海と空,第78巻,第2号,pp.77-84,2002.
山下隆男:沿岸海洋における風による海水流動,海と空, 第78巻, 第2号, pp.85-91, 2002.


(12P-2)災害監視・解析のためのリモートセンシングの応用に関する研究
研究期間 平成12、13年度
研究組織 
研究代表者
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者名 
 中川 一(京都大学防災研究所 助教授)
 間瀬 肇(京都大学防災研究所 助教授)
 戸田圭一(京都大学防災研究所 助教授)
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者名 
 竹田 厚(東北文化学園大学科学技術学部 教授)
 椎葉充晴(京都大学工学研究科 教授)
 後藤恵之輔(長崎大学工学部 教授)
 佐渡公明(北見工業大学 教授)
 幾志新吉(広島工業大学環境学部 教授)
 菅 雄三(広島工業大学環境学部 教授)
 近藤昭彦(千葉大学リモートセンシング研究センター 助教授)
 河邑 眞(豊橋技術科学大学工学部 助教授)
 石黒悦璽(鹿児島大学農学部 助教授)
 片田敏孝(群馬大学工学部 助教授)
 篠田成朗(岐阜大学流域環境研究センター 助教授)
 鈴木広隆(大阪市立大学工学部 講師)
 石田亜紀代(宇宙開発事業団 地球観測利用研究センター)
 平口博丸((財)電力中央研究所 上席研究員)
 坂井伸一((財)電力中央研究所 主任研究員)
 水鳥雅文((財)電力中央研究所 主任研究員)
 坪野考樹((財)電力中央研究所 主任研究員)
 浦井 稔(産業技術総合研究所地質調査所)
 水谷完治(森林総合研究所 研究員)
 平林由希子(東京大学大学院 大学院生)

(a)研究の背景と目的
 メカニズムを理解するための有用な基本的観測手段である。本研究では、水・土砂・地震・地盤・気象・火山・農林等の災害の各分野での利用可能な衛星およびセンサーの現状とその災害関連の応用研究をレビューするとともに、災害監視を主目的とする高分解能陸域観測衛星ALOS(平成16年打ち上げ予定)の実利用に関する討議を通して、宇宙からの防災に関する提言をまとめることを目的とした。

(b)研究の方法
リモートセンシング技術が災害発生の監視やその後の対応についてどのように利用されているか、その現状を把握するために平成13年2月にワークショップを開催した。また、高分解能陸域観測衛星 ALOS の防災実務・研究への利用に関する研究集会を平成14年1月と3月に開催した。

(c)研究成果の概要
平成12年度においては、防災目的のために利用可能な衛星およびセンサーの現状とその災害関連の応用研究をレビューするとともに、高分解能陸域観測衛星ALOS(平成16年打ち上げ予定)の実利用に関する討議を行い、その成果の一部を「自然災害防止のためのリモートセンシングの技術の可能性、自然災害科学20(2)、2001」と題する特集記事にまとめた。平成13年度は、これらのレビュー研究に基づきALOSの防災実務・防災研究への利用に焦点を絞った議論を行い、災害観測実施方針、行政利用に結びつけるための課題、経済効果等に関する討議がなされた。

(d)成果の公表
 自然災害科学20(2), 2001に「自然災害防止のためのリモートセンシングの技術の可能性」と題する特集記事を企画し、防災目的での利用可能な衛星およびセンサーの現状とその応用研究をレビューした。詳しい討議内容や提言に関しては報告書においてまとめる。


(12P-3)重力流ダイナミックスモデルと暴風雨、火砕流予測への応用
研究期間 平成11、12年度
研究組織
研究代表者
 植田洋匡(京都大学防災研究所 教授)
所内分担者
 石川裕彦(京都大学防災研究所 助教授)
 丸山 敬(京都大学防災研究所 助教授)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 石原和弘(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者名
 小森 悟(京都大学大学院工学研究科 教授)
 釜田弘毅(京都大学総合人間学部 教授)
 宮嵜 武(電気通信大学機械システム工学科 教授)
 北田敏廣(豊橋科学技術大学エコロジー工学科 教授)
 余 偉明(東北大学大学院理学研究科 助教授)
 花崎秀史(東北大学流体科学研究所 助教授)
 竹見哲也(大阪大学大学院工学研究科 助手)
 野沢 徹(国立環境研究所大気圏環境部 主任研究員)

(a)研究の背景と目的
熱と粒子(あるいは水蒸気と粒子)の混合空気の重力流(密度流)は、砂嵐、火砕流、豪雨など多くの大気災害を引き起こす流動機構である。重力流中では、熱と粒子は共に拡散するが、それぞれが密度変化が生じる(二重拡散)。もし、熱と粒子の(乱流)拡散係数が異なると、重力流上面でのKelvin-Helmholtz(K-H)不安定の限界およびK-H渦の構造が劇的に変化し、重力流自体の構造も大きく変化することが予想される。本研究では、このときの重力流のダイナミックスを明らかにする。応用として、豪雨、砂嵐および火砕流のダイナミックス・モデルを構築し、その予測可能性を検討することを目的とする。

(b)研究の方法
二重拡散重力流の生成から消滅に至る全過程を数値モデルで再現する。これにより、二重拡散重力流の基本的なメカニズム(K-H不安定、二重拡散対流不安定およびそれに伴う混合機構など)、重力流の内部構造と重力流のダイナミックス(重力流の進行、消滅など)の全容を把握する。応用研究として、砂嵐と火砕流予測モデルを構築する。

(c)研究成果の概要
二重拡散を伴う重力流について、K-H渦についての数値実験を行った。その結果、密度変化(浮力)を生む熱と物質のわずかな拡散係数の差(拡散係数が10%異なる場合など)によってK-H渦の構造が劇的に変化することを示した。また、高密度、低密度の層が幾重にも重なった流体層のなかに二重拡散対流が起こって、H-K渦をさらに変化させ、これらが重力流のダイナミックスを大きく変化させることを示した。乱流中では、熱と物質の「乱流」拡散係数は通常等しい値をとるが、粒子(砂塵や雲粒)の場合慣性効果のためにそれより小さな値をとり、この乱流拡散係数の僅かな差が、乱流の場合でもK-H渦の構造に大きな変化をもたらすことを示した。
さらに、砂嵐の数値モデルを用いて、黄砂の飛散と拡散を予測し、東アジアの大気環境への影響、とくに黄砂による浮遊粒子状物質の濃度増加と黄砂による酸性雨の中和効果を明らかにした。

(d)成果の公表
Ueda, H. and Andoh, K.: Kelvin-Helmholtz billows associated with double diffusion effects. "Turbulence, Heat and Mass Trans- fer 3", Edt. by Nagano, Y., Hanjalic, K. and Tsuji, T., pp.291-295, Aichi Shuppan, Nagoya, 2000.
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Carmichael, G,R., Calori, G., Hayami, H., Uno, I., Cho, S.Y., Engrdt, M., Kim, S.-B., Ichikawa,Y., Ikeda, Y., Woo,j-H., Ueda, H. and Amann, M.: The MICS-Asia study: model intercomparison of long-range transport and sulfur deposition in East Asia. Atmospheric Environment, Vol.36, pp.175-199, 2002.
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