Index Next

 3.1 特別事業費等による研究プロジェクト


3.1.1防災研究経費

(12-1)災害に対する「都市診断」科学の確立のための総合的研究
研究組織
研究代表者
 鈴木祥之(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 亀田弘行(京都大学防災研究所 教授)
 岡田憲夫(京都大学防災研究所 教授)
 萩原良巳(京都大学防災研究所 教授)
 林 康裕(京都大学防災研究所 助教授)
 多々納裕一(京都大学防災研究所 助教授)
 田中 聡(京都大学防災研究所 助手)
 清水康生(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 本事業では、都市を複合的な災害から守るための予防的で総合的な「都市診断」の科学の確立と、そのためのシステム科学的方法論を開発することを目的とする。本研究グループでは、このような目的の下に、都市診断科学の主要な課題として、@生活空間の安全管理(都市空間安全制御)、A都市リスクに対する抵抗力(災害リスクマネジメント分野)、B都市基盤の診断(防災社会構造分野)、C環境改善による持続的処法(自然社会環境防災)、を取り上げ、研究を推進する。
(b)研究の方法
(1)木造建物の動的耐震性能の解明と性能向上を目指した振動実験等を実施して、耐震信頼性解析法や設計法の構築を行う。建物被害予測を行い、リスク評価・表示手法の開発を行う。
(2)都市リスクの生態学的評価法や道路網の多重性のGISによる評価方法を発展させるとともに、災害被害の合理的なアカウンティング方法に関して考察する。併せて、防災投資が経済成長経路に及ぼす影響を分析するためのモデルを開発する。
(3)都市基盤施設の地震時性能規範を提示するために、交通施設や都市建築物のフラジリティ評価システムおよび地震工学/交通工学の知見を結合したネットワーク信頼性解析法と時空間GISによるリスク対応型地域空間情報システムの開発する。
(4)都市の環境改善による防災・減災のための具体的対策を取り上げる。都市の「ゆとり」としてのオ−プンスペ−スや、都市水循環システムモデルの構築を行う。そして、水資源関連施設の最適配置の計画プロセスならびに開発と環境の時間軸を考慮したコンフリクト解析を研究する。

(c)研究成果の概要
(1)都市住民の安全性に最も密接な木造建物の振動実験等を実施し動的耐震性能を調べるとともに性能向上の方策について検討した。木造建物の耐震信頼性解析法を導き、構造設計法を構築する基礎資料を得た。都市全体の建物被害予測を行う方法を確立するために京都市域地震観測ネットワークを用いて京都盆地の震動特性を調査した。また鳥取県西部地震などの被害地震経験に基づきリスク評価・表示手法の開発を行った。
(2)GISデータベース上に入力した建物更新過程に関するデータをもとに、都市リスクの生態学的評価法を適用して神戸市長田区における復興状況を分析した。また、シアトルと神戸における道路網の震災に対する脆弱性の違いを比較した。ストックに生じる被害とフローとして生じる被害との関連性に関して考察し、同時にストックの経済成長モデルを構築し、災害発生前の経済成長経路と災害後の経済復興の経路の特性を明らかにした。
(3)都市基盤施設の地震時性能規範の提示を目的として、高速道路システムの地震時信頼性解析をおこなった。兵庫県南部地震時の阪神高速道路復旧過程の分析から、橋脚が再構築基準に達する確率を表すフラジリティ曲線を算出し、高速道路システムの機能性評価に関する基礎的方法論の開発を行った。
(4)防災・減災の観点から重要となる都市のオ−プンスペ−スとして公園・緑地を対象として分析を行い、公園・緑地を「個性」と「遊び」の観点から分類しその配置について考察を行った。また、GISを援用して淀川流域を対象とした都市水循環システムの構築を行った。震災時を想定し、震度分布推定を行い水道システム・下水道システムへの影響について明らかとした。

(d)成果の公表
日本建築学会、土木学会、日本都市計画学会、地理情報システム学会、地域安全学会などの学会において研究成果を発表している。


(12-2)構造物のヘルスモニタリング技術と補修技術の開発
研究組織
研究代表者
 入倉孝次郎(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 佐藤忠信(京都大学防災研究所 教授)
 中島正愛(京都大学防災研究所 教授)
 澤田純男(京都大学防災研究所 助教授)
 松波孝治(京都大学防災研究所 助教授)
 諸岡繁洋(京都大学防災研究所 助手)
 本田利器(京都大学防災研究所 助手)
 岩田知孝(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 1994年のノースリッジ地震ならびに1995年の兵庫県南部地震では比較的古い構造物が大きな被害を受けたが、地震直後に個々の構造物被害の詳細を把握することは非常に困難であった。崩壊に至るような激しい被害の場合には目視で十分に被害の程度を判定できたが、地震後十数ヵ月経過した時点でも、全ての鉄骨構造物の健全度は明らかにされていなかった。構造物や橋梁の地震による損傷度を詳細に調査するためには、外装を取り除いた上で非破壊検査の手段を用いなければならないので、莫大な費用と時間が必要なためである。病院、消防署、主要道路の橋梁、発電所、配水施設など都市における重要構造物に関しては、地震直後にその健全度を迅速に評価することが地震災害の拡大を防止する上で必須の要件である。また、都市社会資本が充実するに伴って、適切な時期に既存都市施設の補強を行って都市の耐震性を向上する必要があるが、このためには継続的に都市建物群や土木施設の耐震健全度をモニターできるシステムの構築が望まれている。
都市建物群の耐震改修そのものは新しい課題ではないが、鉄骨造建物の耐震改修は兵庫県南部地震以降に顕在化した問題である。また鉄骨造建物は主として民間が保有しており、現在まで組織的な耐震改修戦略はない。構造物のヘルスモニタリングに関する研究は、我国においてはまだ端緒に付いたばかりであるが、長大つり橋などの大規模構造物が建設されてから半世紀以上が経過している米国では、社会資本の維持の観点から重要な研究課題となっている。なお、空間構造のヘルスモニタリングに関する研究の歴史は国内外においてほとんど見いだすことができない。こうした観点から、本研究は、構造物の健全度をモニターする計測・解析システムと地震時における構造物の損傷度の検出法を開発し、補修の必要な構造物に対する新しい補修技術を開発することを目的として立案された。

(b)研究の方法
(1)直下地震及び海溝性地震により生ずる強震動の生成伝播機構を明らかにし、それが構造物の破壊力に及ぼす影響評価を行う。
(2)地震時における構造損傷の検出を目的として、構造システムの非線形同定アルゴリズムとそれを内蔵した構造物損傷の自動検出システムを開発する。また、継続的に都市空間施設や土木施設の劣化をモニターできるシステムを構築するために、インパクトハンマーを利用した既設空間構造の動特性の同定技術を開発する。
(3)劣化した構造物の耐震性性能を向上させる目的で、靭性に優れた低降伏点鋼を用いた履歴ダンパーを開発する。

(c)研究成果の概要
(1)震源インバージョンによる震源断層の不均質性の推定を行い、その不均質性の特性化を行った。不均質震源断層の特徴には相似性が確認され、強震動予測のための特性化震源モデルの構築方法の基礎を与える。地震動および微動アレー観測に基づく地盤構造の同定法を実記録に適用して、その妥当性について検討した。これらの震源・地下構造のモデル化に基づく強震動予測手法をレシピとしてまとめた。
(2)構造物の非線形動特性と地震時損傷度の同定法、光ファイバーを利用した構造物震動の多点同時計測システム、モード解析システムに基づいた構造損傷検出方法の開発をすすめた。
(3)既設構造物の耐震安全性を高めるためのデバイスの開発に関する実験的研究が行われ最適な履歴ダンパーによる鋼構造物建築物補強方法の高精度化についての知見を得た。

(d)成果の公表
 本研究成果は報告書の形でまとめられた他、各学会誌、国際学会発表議事録等に研究成果報告が掲載されている。


(12-3)地盤災害メカニズムに関する研究
研究組織
研究代表者
 嘉門雅史(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者 
 千木良 雅弘(京都大学防災研究所 教授)
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授) 
 奥西一夫(京都大学防災研究所 教授) 
 三村 衛(京都大学防災研究所 助教授) 
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授) 
 諏訪 浩(京都大学防災研究所 助教授) 
 乾 徹(京都大学防災研究所 助手)
 斎藤 隆志(京都大学防災研究所 助手)
 竹内 篤雄(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 地盤災害の有する多様性に対応し、以下の3つのサブテーマを設け研究を実施した。
(1)地震時高速地すべりメカニズムの解明:兵庫県南部地震時に発生した仁川地すべりのように地震によって発生する高速地すべりは、破壊力も大きく、甚大な災害を引きおこす。しかしながら、そのメカニズムは明らかになっておらず、防災施策実施のためにも、その解明が必要とされている。
(2)花崗岩の風化メカニズムと降雨浸透挙動の解明:花崗岩地域では、豪雨の度に表層崩壊を発生してきており、その危険度評価は重要な問題である。
(3)地盤の力学的・環境的劣化:人為的原因による地盤の力学的・環境的劣化は新たな地盤災害問題として特に臨海都市において深刻である。要素試験、模型実験、数値シミュレーションを適用してこれらの災害のメカニズムを解明するとともに、効果的な環境災害防止技術の確立を試みた。

(b)研究の方法
(1)主に室内実験によって、地震時高速地すべり現象を再現する。
(2)野外調査・観測、および室内実験によって花崗岩の風化メカニズムと風化帯内降雨浸透挙動を明らかにし、崩壊危険度評価の基礎データとする。
(3)廃棄物要因に基づいた地盤環境災害のメカニズム解明に取り組み、災害事例ごとに課題を整理し、その対策を検討する。

(c)研究成果の概要
(1)地震によって高速地すべりの発生した仁川地すべり地の土(マサ土)は、せん断に伴って粒子破砕し、すべり面液状化を起こし、高速地すべりの原因となることが明らかになった。
(2)1999年広島災害時に多数発生した花崗岩の崩壊は、この地域に分布する花崗岩の特殊な風化様式にあることが明らかになった。また、もう他のタイプの花崗岩斜面において、水の浸透挙動を電気比抵抗値の分布変化によって可視化することに成功した。
(3)地盤埋立に使用される廃棄物からの有害物質の溶出メカニズムに関する実験的研究を実施し、効果的な対策技術の確立をおこなった。

(d)成果の公表(主要論文のみ)
Chigira, M. : Micro-sheeting of granite and its relationship with landsliding specifically after the heavy rainstorm in June1999,HiroshimaPrefecture,Japan.Engineering Geology. 59,219-231, 2001.
Kamon, M. , Katsumi,T. and Sano,Y. :MSW fly ash stabilized with coal ash for geotechnical application, Journal of Hazardous Materials, Vol.76, Nos.2-3, pp.263-283, 2000.
Kamon, M., Katsumi, T., Zhang, H., Sawa, N. andRajasekaran, G.: Redox effect on hydraulic conductivity and heavy metal leaching from marine clay Clay Science for Engineering,K. Adachi and M.Fukue, Eds.,Balkema, Rotterdam, pp.505-510, 2001.
Thouret,J., Voight, B., Suwa, H. and Sumaryono, A.:Lahars at Merapi volcano, central Java; an overview. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 100, 423-456, 2000.
Vankov, D.A. and K. Sassa : Mechanism of earthquake-induced landslides on almost flat slopes studied with a ring shear apparatus. Journal of Natural Disaster Science, Vol.21, No.1, pp.23-35, 2000.
Wang, F.W., K. Sassa and H. Fukuoka: Geotech-nical simulation test for the Nikawa landslide induced by 1995.1.17 , Hyogoken-Nambu earthquake. Soils and Foundations, Vol.40, No.1, pp.35-46, 2000.


(12-4)文化遺産地区における岩盤崩落前兆現象の観測と災害予測
研究組織 
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授) 
研究分担者
 釜井俊孝(京都大学防災研究所 助教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 千木良雅弘(京都大学防災研究所 教授)
 古澤 保(京都大学防災研究所 教授)
 松波孝治(京都大学防災研究所 助教授) 
 末峯 章(京都大学防災研究所 助教授) 
 小西利史(京都大学防災研究所 助手) 
 牛山素行(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 平成10年より佐々はユネスコ−国際地質学連合共同事業IGCP(国際地質対比計画)No.425(文化遺産と地すべり災害予測)を開始し、現在13ヶ国、24課題が並行して実施されている。また平成11年12月にユネスコ事務局長松浦晃一郎と防災研究所長との間で共同研究合意覚え書き(MoU) を交わした。この合意に基づく共同研究の一環として以下の三カ所の岩盤崩落の危機に瀕する文化遺産地区の調査を実施する。
(1)岡山県・備中松山城の岩盤崩落:城の基礎の岩盤のクラックに貫入している樹木の揺れ及び気象条件の変化による岩盤クラックの拡大の観測とDEMによる崩落のシミュレーション。
(2)国西安市の華清池(麗山)岩盤すべり:地震による大規模岩盤崩落の危険性が懸念されている斜面での地震時斜面震動特性の研究と岩盤崩落の前兆現象の観測および長距離データ転送。
(3)徳島県・祖谷の文化遺産と善徳の大規模斜面変動:三次元せん断変位計と長スパン伸縮計によるクリープ移動の精密観測法の開発。

(b)研究の方法
 上記各テーマの特色と意義は次の通りである。(1)地すべり危険度軽減および文化・自然遺産保護の研究の一環として、岩盤崩落の危機に瀕する文化遺産の災害の前兆段階での監視と災害予測法の確立を目指す。
(2)本年度から観測を開始する備中松山城において低周波地震計、伸縮計、傾斜計、クラック計、気象観測機器を併せて観測に基づき、岩盤崩落の予測の研究を実施する。また長期クリープ挙動を示す大規模結晶片岩地すべり地で25年以上の長期にわたり地すべり移動観測を実施している徳島県善徳地すべり地において高精度・耐久性の高い監視システムの確立を目指す。
(3)中国西安市の華清池地すべり地で実施している大規模岩盤地すべりの前兆現象および誘因としての地震、降雨観測結果の遠距離データ転送を試みるとともに安価な準リアルタイムデータ処理法を開発する。

(c)研究成果の概要
(1)岡山県・備中松山城の追手門岩盤の変位観測を実施したが、これは日本で初めての文化遺産の基礎となる岩盤の不安定性調査である。精密観測を行うため、差動トランス型伸縮計およびクラック変位計を開発し設置した。また従来型の伸縮計も併設した。観測開始からわずか3ヶ月ほどで、岩盤に設置した伸縮計、クラック変位計とも0.1mmから数mmの累積する移動が観測された。この数値は、想定していたよりもかなり大きい。さらに樹木の1秒程度の短周期の揺れとクラックの拡大の関係を調べることが可能な高精度傾斜計システムの開発を行った。また、矩形要素DEMにより、斜面末端の地すべりにより岩盤斜面が不安定化する過程をシミュレートし、斜面が崩壊する条件について調べた。本研究は、日本の他の地域の文化・自然遺産(城、神社、仏閣、伝統建造物など)が、地すべり、岩盤崩落などにより、破壊、埋没することを事前に防ぐための適切な調査、対策法を確立するための先駆けとなった。
(2)中国西安市・華清池地すべりにおいて、観測を行っている長スパン伸縮計にテンポソニック(電磁歪・弾性波を用いたリニア変位計)を用いた自動観測システムを取り付け、高精度準リアルタイムデータ処理法の開発を行った。
(3)徳島県・善徳地すべり地における長スパン伸縮計観測、三次元せん断変位計、連続静止GPSのデータの総合解析を行った。

(d)成果の公表
Sassa-K, Fukuoka-H, Shuzui-H.:Field investi-gation of the slope instability at Inca's world heritage, in Machupicchu, Peru. In: IGCP-425 Landslide hazard assessment and cultural heritage, Landslide News. 13, pp.37-41, 2000.
Furuya, G., K. Sassa and H. Fukuoka.: Monitoring of slope deformation in Lishan Landslide, Xi'an, China. Proc. 8th Int'l Symp. on Landslides, Thomas Telford "Landslides in research, theory and practice," Vol.1, pp.591-596, 2000.
Hiura, H., G. Furuya, H. Fukuoka and K. Sassa.: Investigation of the groundwater distribu-tion in a crystalline schist landslide Zentoku, Shikoku Island, Japan. Proc. 8th Int'l Symp. on Landslides, Thomas Telford "Landslides in research, theory and prac tice," Vol.1, pp.719-724, 2000.
福岡 浩:GPS等を用いた地すべり地の移動観測(その1), 地すべり技術Vol.27, No.3, pp.28-34, 2000.
Sassa, k. (editor.): Landslide Risk Mitiga-tion and Protection of Cultural and Natural Heritage. Proc. UNESCO/IGCP Symp., 15-19 January 2001, Tokyo. 268p, 2001.
Sassa, k., Fukuoka, H., Kamai, T., and Shuzui, H.: Landslide Risk at Inca's World Heritage in Machu Picchu, Peru. Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritage (Sassa ed.). Proc. UNESCO/IGCP Symp., 15-19 January 2001, Tokyo, pp.1-14, 2001.
Sassa, k., Fukuoka, H., Wang, G., Wang, F., and Furuya, G.: Pilot study of landslide hazard assessment in the Imperial Resort Palace (Lishan), Xi'an , China. Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritage (Sassa ed.). Proc. UNESCO/IGCP Symp., 15-19 January 2001, Tokyo, pp.15-34, 2001.
福岡 浩:GPS等を用いた地すべり地の移動観測(その2), 地すべり技術, Vol.27, No.4,pp.24-31, 2001.
Kyoji Sassa (Editor): Landslide Risk Mitiga-tion and Protection of Cultural and Natural Heritage. Proceedings of UNESCO/IGCP Sympo- sium, 15-19 January 2001, Tokyo, Japan, p.267, 2001.
Hiura, H., G. Furuya, H. Fukuoka, and K. Sassa: Investigation of the Groundwater Distri-bution in a Crystalline Schist Landslide Zentoku, Shikoku Island, Japan.
京都大学防災研究所 一般共同研究11G-11「地すべりの移動機構と移動土塊の変形についての研究」報告書(研究代表者:新井場公徳)(General Joint Research Project 11G-11 of Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University,"Study on mechanism of landslide movement and deformation of landslide mass"(Principal Investigator: K. Araiba)), pp.59-64, 2000.
Sassa, K.: Earthquake-Resisting Technologies for Geohazards−Landslide Hazards Assess-ment in Lishan, Xi'an, China, Proceedings of the Second Multi-lateral Workshop on Development of Earthquake and Tsunami Disaster Mitigation Technologies and their Integration for the Asia-Pacific Region, EDM Technical Report Series No. 4, Kobe, Japan, pp.67-72, 2000.
Lin, Z., Sassa, K., Zhang, Z., and Liu, Z.: Terrain Subsidence and Low Angles Slides Triggered by Seismic Slumping and "Liquefaction"of Loessial Soil Masses during Strong Earthquake. Proceedings of the Second Multi-lateral Workshop on Development of Earthquake and Tsunami Disaster Mitigation Technologies and their Integration for the Asia-Pacific Region. EDM Technical Report Series No. 4, Kobe, Japan, pp.93-98, 2000.
佐々恭二,福岡 浩,守随治雄:世界遺産インカのマチュピチュ都市遺跡(ペルー国、クスコ州)の地すべり危険度調査, 平成12年第39回日本地すべり学会研究発表会講演集, pp.51-52, 2000.
今村幸史,佐々恭二,福岡 浩:リングせん断試験による結晶片岩土砂を用いたクリープ挙動の研究, 平成12年第39回日本地すべり学会研究発表会講演集, pp.293-296, 2000.
古谷 元,佐々恭二,日浦啓全:徳島県善徳地すべりで発生した小規模流動性崩壊の前兆現象。平成12年第39回日本地すべり学会研究発表会講演集, pp.529-532, 2000.


(12-5)流域一貫した統合型シュミレーションシステムの構築
研究組織 
研究代表者
 井上和也(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 高橋 保(京都大学防災研究所 教授)
 高山知司(京都大学防災研究所 教授)
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
 澤田豊明(京都大学防災研究所 助教授)
 間瀬 肇(京都大学防災研究所 助教授)
 中川 一(京都大学防災研究所 助教授)
 戸田圭一(京都大学防災研究所 助教授)
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
 吉岡 洋(京都大学防災研究所 助手)
 里深好文(京都大学防災研究所 助手)
 牛山素行(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 水災害の発生機構を明らかにし、被害を防止・軽減する方法を、山地部、平野部、海岸・海域を包括した流域という一貫した視点から考える。すなわち、災害の入力および場の情報を包含するデータベースを拡充するとともに、大型台風や集中的な豪雨による土砂流出、河川形態変化、洪水流出、氾濫流、高潮・高波などの水災害現象のメカニズムを解明し、それらをサブモデルとする統合型水象シミュレーションシステムを開発する。

(b)研究の方法
 最近の事例をみると、水災害は新しい様相を呈しつつあるようであり、自然現象的にみても社会・経済的な仕組みからみても、水災害を流域全体に関わる問題としてとらえなければならないことは明らかである。本研究では、データや物理・数理シミュレーションモデルを共有化するとともに、関連する知識・知見・経験・モデルを結集して、流域一貫した統合型シミュレーションシステムとする。これにより、総合的な流域管理、防災計画、治水対策に貢献できると考えている。

(c)研究成果の概要
(1)降雨と土砂流出を統合したモデルの開発:山地部においては降雨による流路形成および斜面崩壊・堆積物移動による土石流発生機構、扇状地部においては2次元的な土石流氾濫解をそれぞれモデル化した。このモデルを1999年ベネズエラの土砂災害に適用し、災害現象を追算再現するとともに、減災対策について提言を行った。
(2)豪雨時の都市水害の予測モデル:2000年の東海水害は、都市の水害脆弱性を改めて浮き彫りにした。そこで、都市化の影響を考察するため、都市背後地の山地流域を含めるとともに、街路、市内河川、下水道、地下空間などを取り入れた統合型都市水害モデルを開発し、これより流域内貯留の重要性などを指摘した。
(3)広域的水文資料の解析:時間雨量50mm以上の猛烈な豪雨が発生していることに関して、より長期的かつ広域的な水文資料の収集・分析を行い、頻発傾向にあるといわれる最近の豪雨は、30年程度の期間でみれば現段階では必ずしも特異とはいえないようであるという結果を得た。 (4)高潮、波浪、洪水の同時発生:災害現象の面からも危機管理の面からも考えておくべき複合した災害水象として、台風来襲時の高潮・高波の発生とそれらが洪水時に河川を遡上することを取り上げ、防潮・防洪区間の統合的な設定が重要なことを示した。


(12-6)メガ・シティの拡大に伴う大気環境の変化
研究組織 
研究代表者
 植田洋匡(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 石川裕彦(京都大学防災研究所助 教授)
 堀口光章(京都大学防災研究所 助手)
 岩嶋樹也(京都大学防災研究所 教授)
 田中正昭(京都大学防災研究所 助教授)
 河井宏允(京都大学防災研究所 教授)
 丸山 敬(京都大学防災研究所 助教授)

(a)研究の背景と目的
 現在、都市住民は世界人口の8割を越え、都市集中は発展途上国を中心に更に加速している。それに伴い、エネルギー消費、物質循環システムは大きく変化し、都市域の拡大、建物の高密度、高層化が進んでいる。本研究では、これらの変化に伴う大気環境特性の変化を、(1)建物群落(都市キャノピー)内での風環境、熱環境、大気組成の変化と、(2)メガシティによるメゾ異常気象(集中豪雨と竜巻)の構造変化の2つの側面から研究を実施する。

(b)研究の方法
 課題(1):従来、大気質や風環境は建物群落の平均高さ或いはその上空について観測され、理論展開がなされてきた。本研究では、それを発展させ新たにラージエディシミュレーション(LES)と風洞実験により、居住環境として最も重要な群落底面付近の特性を明らかにする。また、大規模構造物による局地的強風、突風の発生機構を明らかにする。特に、逆転層形成時の高密度建物群による気流のブロッキングなど、大気の成層状態による変化と、それの極限状態としての都市火災の解明を図る。
 課題(2):都市化に伴う、地表での摩擦や熱、水蒸気供給の変化と、それによるメゾ異常気象の内部構造や移動経路の「変化」を明らかにする。リージョナル規模の環境場から順次、細視化(ネスティング)計算を実施し、都市規模の計算では大規模渦運動が追跡できるLESを実施する。

(c)研究成果の概要
課題(1):1)建物群落内の気層に着目し、大気安定度依存性を明らかにした。2)居住環境を特徴付ける建物群落の底面付近の風環境、熱環境、大気汚染と、3)都市火災、局地的強風・突風の解明を通して総合的な都市防災、環境保全計画に資すことができる。
課題(2):1)建物群落の正確なモデリングにより、メゾ異常気象モデルの下面境界条件の精緻化が図られる。2)すでに、都市豪雨、竜巻の発生の「可能性」が予測できる状況に達しており、今後それらの「発生・発達の予測」ができる。

(d)成果の公表
Ueda,H., Takemoto,T., Kim, Y.P. and Sha, W.:2000 Behavior of volatile inorganic compo-nents in urban aerosols. Atmospheric Envi-ronment, Vol.34, 353-361.
Qian,S., Okada,K., Nagase,Y. and Ueda,H.2000: Direct numerical simulation of bluff body flows using non-staggered grids. Chem. Eng. Comm. Vol.178, pp.157-183.
Wang, Z., Sha, W. and Ueda, H. 2000: Numerical modeling of pollutant transport and chemi-stry during a high-ozone event in northern Taiwan. Tellus,Vol.25B, 1189-1205.
薩摩林光・鹿角孝男・西沢宏・横内陽子・植田洋匡 2001: 晩秋における大気中粒子状有機物質の光化学生成、大気環境学会誌、Vol.36, No3, 174-184.
Satsumabayashi, H., Nishizawa, H., Yokouchi, Y. and Ueda, H.: Pinonaldehyde and some other organics in rain and snow in central Japan. Chemosphere, Vol.20, pp.611-616, 2001.
An, J., Huang, M., Wang, Z., Zhang, X., Ueda, H. and Cheng, X.: Numerical regional air quality forecast tests over the mainland of China, Water, Air, and Soil Pollution, Vol. 130, pp.1781-1786, 2001.
Carmichael, G,R., Hayami, H., Calori, G., Uno,I., Cho, S.Y., Engrdt, M., Kim, S.-B.,Ichikawa,Y., Ikeda, Y., Ueda, H. and Amann, M.: Model intercomparison study of long range tranaport and sulfur deposition in East Asia (MICS-ASIA), Water, Air, and Soil Pollution, Vol. 130, pp.51-62, 2001.
植田洋匡:5.8節 非定常型シミュレーション・モデル、「浮遊粒子状物質汚染予測マニュアル」、浮遊粒子状物質検討会編、環境庁大気保全局大気規制課監修、東洋館出版社、東京、2000, pp.237-251.
植田洋匡,堀口光章: 乱流の構造および拡散機構におよぼす密度成層効果、日本航空宇宙学会誌、Vol.49, pp.293-299, 2001. 
植田洋匡,石川裕彦,堀口光章: ヒートアイランドのメカニズムとモデリング、エネルギー・資源、Vol.22, pp.279-285, 2001.
丸山 敬,桂 順治,前田潤滋:台風9918号による八代海沿岸の建物被害について−航空機からの映像による調査検討−,日本建築学会大会学術講演梗概集, pp. 111-112, 2000.
佐々木淳,須田健一,石橋龍吉,藤井邦雄,日比一喜,丸山 敬,岩谷祥美,田村幸雄:ドップラーソーダを用いた地表面粗度の異なる地点の風速鉛直分布に関する研究(その15同一強風場における都心部の風速の高さ方向分布の変化),日本建築学会大会学術講演梗概集, pp. 127-128, 2000.
丸山勇祐,丸山 敬:人工的に生成した流入変動風を用いた高層建物周りの乱流の計算,日本建築学会大会学術講演梗概集, pp. 225-226, 2000.
T. Maruyama and Y. Maruyama: Large eddy simulations around a rectangular prism using artificially generated turbulent flows, Abstracts of papers at the 3rd international symposium on computational wind engineering, 4-7 Sep. 2000, pp. 11-14.
須田健一,佐々木 淳,石橋龍吉,藤井邦雄,日比一喜,丸山 敬,岩谷祥美,田村幸雄:ドップラーソーダーを用いた都心部の自然風観測, 第16回風工学シンポジウム論文集, pp.13-18, 2000.
丸山 敬,林 泰一,前田潤滋,桂 順治,藤井 健:台風9918号による八代海沿岸の建物被害について, 第16回風工学シンポジウム論文集, pp.89-94, 2000.
丸山 敬,田中哮義:二次元火炎後流の熱気流性状に関する実験的研究,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.227-228, 2001.
Y.Tamura, K.Suda, A.Sasaki, K..Miyashita, Y.Iwatani, T.Maruyama, K.Hibi and R.Ishibashi: Simultaneous wind measurements over two sites using Doppler sodars, J. Wind Eng. and Ind. Aerodynamics, No.89, pp.1647-1656, 2001.
西村宏昭,丸山 敬:台風9918号による鹿児島県下の建物被害状況, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp. 83-84, 2001.
岩谷祥美,須田健一,丸山 敬,宮下康一,田村幸雄,菅沼信也:ドップラーソーダを用いた地表面粗度の異なる地点の風速の鉛直分布に関する研究 その17 自然風の鉛直成分の乱れの特性, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.93-94, 2001.


(12-7)災害環境の総合観測に関する研究
研究組織 
研究代表者
 今本博健(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 武藤裕則(京都大学防災研究所 助手)
 馬場康之(京都大学防災研究所 助手)
 上野鉄男(京都大学防災研究所 助手)
 石垣泰輔(京都大学防災研究所 助教授)
 芹澤重厚(京都大学防災研究所 助手)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 関口秀雄(京都大学防災研究所 教授)
 山下隆男(京都大学防災研究所 助教授)
 加藤 茂(京都大学防災研究所 助手)
 澤田豊明(京都大学防災研究所 助教授)
 末峯 章(京都大学防災研究所 助教授)
 小西利史(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 災害観測実験研究センターの観測所、実験所が共同して、災害環境の総合観測に関する研究を行う。すなわち、(1)高潮時の気象・海象の総合観測として、ADCP、海洋レーダ、ドップラーソーダおよび高潮観測塔を用いた風域場および吹送流場の3次元計測(白浜、潮岬)を行う。一方、(2)土砂災害の発生機構の総合観測として、土石流観測(穂高)、GPSによる地すべり観測(徳島)および波浪による海底地盤の液状化・マスムーブメントの観測(大潟)を行う。これらの総合的観測研究を行うことは、観測技術の向上のみならず、観測データの同時性・総合性がもたらす災害環境の総合的解明を可能とする。

(b)研究の方法
 高潮時の気象・海象の総合観測では、高潮の発生機構を明確にするために、センターで開発している高潮の数値予知モデルにデータ同化システムを組み込む。さらに、海洋レーダーによる高波浪時の吹送流場の計測を通じて現地検定を行なう。これにより、高潮時の広範囲な表面流速の計測を可能とする。土砂災害の発生機構の総合観測では、土石流、地すべり、地盤の液状化といった異なる観点から、水と土砂の相互作用を現地スケールで調査研究を推進する。これにより、複雑流体系の視点から、土砂災害の発生機構の解明に新たな展開が期待される。

(c)研究成果の概要
 高潮時の気象・海象の総合観測では、ADCP(超音波式ドップラー流速分布計)、X‐バンドレーダー、車載型ドップラーソーダおよび田辺・中島高潮観測塔を用いた風域場および吹送流場の3次元計測を行った。これにより、高潮時の気象・海象の総合的観測研究を実施した。 土砂災害の発生機構の総合観測では、土石流観測、GPSによる地すべり観測および波浪による海底地盤の液状化・マスムーブメントの観測を行った。これにより、土砂災害の発生機構に関する総合観測研究を実施した。

(d)成果の公表
Yamashita, T. and K. Fukujin:THE RED-TIDE PREDICTION MODEL WITH CONSIDERATION OF IN- TER-SPECIFIC COMPETITION BETWEEN PHYTOPLA-NKTONS, Recent Advances in Marine Science and Technology 2000, PACON International, pp.99-110, 2001.
Shigeru Kato and Takao Yamashita:THREE-DIMEN-SIONAL SIMULATION AND ITS VERIFICATION BY ADCP OBSERVATIONS FOR COASTAL CURRENTS, Recent Advances in Marine Science and Technology 2000, PACON International, pp.89-98, 2001.
Sekiguchi, H., Kim, H. and Miyamoto, J.: Dynamic physical and numerical modelling in waterfront geotechnics. Proc. Kazakhst-an−Japan Joint Geotechnical Seminar,Astana, pp.12-19, 2001.


(12-8)地震動に伴う海岸流出・海底地すべり災害に関する研究
研究組織 
研究代表者
 関口秀雄(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 今本博健(京都大学防災研究所 教授)
 高橋 保(京都大学防災研究所 教授)
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
 三村 衛(京都大学防災研究所 助教授)
 澤田純男(京都大学防災研究所 助教授)
 河田恵昭(京都大学防災研究所 教授)

(a)研究の背景と目的
 わが国のような高地震活動域における海岸環境保全や、水際線近傍の都市施設の耐震性確保のためには、砂やシルトなどの未固結堆積物によって構成される水中斜面の動的安定性と流動ポテンシャル評価が極めて重要になる。そこで、本研究では、従来個別的な議論の多かった流動すべり、海底マスムーブメント、地すべり誘起性津波に関して、複雑流体の視点から融合研究を行い、「地震時の海岸流出・海底地すべり災害」のメカニズムの解明を目指す。

(b)研究の方法
 防災研究所設置の水中振動台および遠心力載荷装置を活用し、これまで不明の点が多い成層堆積土斜面の進行性破壊に関する系統的な実験を行なう。さらに、液状化の発生から、液状化域の発達および凝固堆積に至る一連の過程を整合的に記述し得る解析モデルの開発を行なう。

(c)研究成果の概要
(1)現実的な土の繰返し塑性を組み込んだ非線形動的有限要素解析コードを開発し、水中堆積土斜面の動的挙動を詳しく検討することを可能とした。
(2)震動による水際斜面の崩壊・流出機構をターゲットとした高度な実験システムを開発した。
(3)液状化土と外部粘性流体の相互作用を整合的に考慮し得る動的流出解析モデルの定式化を行なった。

(d)成果の公表
金 夏永,関口秀雄:強震動による耐波構造物―地盤系の塑性変形,海岸工学論文集,第48巻(2), pp. 961-965, 2001.
Kim, H. and Sekiguchi, H. : Plastic deforma-tion behaviour of composite breakwaters under earthquake shaking. Proc. Int. Conf. Physical Modelling in Geotechnics, pp. 587-592, 2002.
関口秀雄:揺れると融ける砂粒の集まりー液状化の動力学,第3回レオロジーフォーラム,pp.4-7, 2001.


(12-9)南海地震の予測に向けた西南日本テクトニック数値モデルの構築
研究組織 
研究代表者
 橋本 学(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 伊藤 潔(京都大学防災研究所 助教授)
 渋谷拓郎(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 前の南海地震から50年が経過し、次の南海地震の発生時期/規模などの予測が防災面からも求められている。また、南海トラフ沿い巨大地震の前に西南日本で内陸地震の活動が活発化するといわれており、その場所を予測することも有益である。本研究では、有限要素法等の数値手法を用いて、出来る限り地球内部構造を再現したモデルを構築して、シミュレーションを行って応力集中を評価することを目指す。

(b)研究の方法
 地震波速度構造活断層分布、地質構造などのデータにもとづき、西南日本の地殻・プレート構造の三次元有限要素モデルを作成する。さらに、このモデルにプレート運動などの境界条件を与え、変位・ひずみなどの地殻変動や応力場のシミュレーションを行い、西南日本における応力集中の有無など歪エネルギーの蓄積状態を評価する。

(c)研究成果の概要
 人工地震データの走時解析および自然地震によるレシーバー関数等の手法を用いて、中国地方〜四国東部の地殻及び上部マントルの地震波速度構造を推定した。特に、四国東部中央構造線の南側の地殻下部に低速度領域が存在することを確かめるなど、当該地域の詳細な地震波速度構造を得た。
 諸般の事情で計算機の導入が遅れ、研究期間内にこれらを用いて有限要素モデルを構築するまでに至らなかった。しかしながら、計算機導入以後地球シミュレータ計画で開発された三次元有限要素コードGeoFEMを導入するとともに、ブロック・断層モデルに基づく地震活動のシミュレーションやトモグラフィー等による詳細な三次元地震波速度構造の推定を継続している。

(d)成果の公表
Hashimoto, M. : Complexity in the recurren-ce of large earthquakes in southwest Japan: A simulation with an interacting fault system model, Earth Planets and Space, Vol.52, 249-259, 2001.
橋本 学:断層間の力学的相互作用を考慮した地震活動のシミュレーション,地学雑誌,111,298-307, 2002.
澁谷拓郎:レシーバ関数解析による四国東部地域の地殻およびスラブ構造,月刊地球,Vol.23, No.10, pp.708-713, 2001.
平原和朗,多田明希子,澁谷拓郎:短周期レシーバ関数で見る中部・西南日本の地殻・最上部マントル構造,地球惑星科学関連学会2001年合同大会,SZ-005, 2001.
山内麻記子,平原和朗,澁谷拓郎:レシーバ関数による日本列島地下構造の推定―下部地殻に焦点を当てて―,地球惑星科学関連学会2002年合同大会,S052-002, 2002.
澁谷拓郎,前田好晃:2000年鳥取県西部地震の震源域を含むやや広域の3次元地震波速度構造,月刊地球,号外No.38,pp. 203-208,2002.
吉井弘治, 伊藤 潔:近畿地方北部の地震波速度構造と地震発生層,地球惑星科学関連学会2001年合同大会,Sz-P006, 2001.


(12-10)薩摩硫黄島・口永良部島の火山活動及び周辺地殻活動の評価に関する調査研究
研究組織 
研究代表者
 石原和弘(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 古澤 保(京都大学防災研究所 教授)
 井口正人(京都大学防災研究所 助教授)
 山本圭吾(京都大学防災研究所 助手)
 神田 径(京都大学防災研究所 助手)
 為栗 健(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 1000年以上にわたり、二酸化硫黄など多量の火山ガスを放出し続けていて近年火山灰を間欠的に放出している薩摩硫黄島、数10年ごとに激しい水蒸気爆発を繰り返してきて20年間噴火活動が休止している口永良部島については、緊急に活動評価を行うことが防災上もとめられている。また、火山噴火予知計画の「実験観測の推進」の項で、特色ある活動様式の観測研究のテストフィールド火山として、両火山が明記されている。

(b)研究の方法
 全国の研究者の協力を得て、地震、地殻変動、地磁気、自然電位、熱、火山ガス、地下水・温泉、噴出物などの観測・調査を実施して、両火山の活動の現状評価とそれぞれの活動メカニズムの解明を行う。

(c)研究成果の概要
 薩摩硫黄島については、1997年以降の硫黄岳山頂火口からの火山灰放出活動と火口の拡大は、放熱量、火山ガス放出量、地震活動、地殻変動等からみて低下傾向にあり、それ以前の定常的なレベルに戻ったと判断された。また、諸観測のデータからみて、硫黄岳の浅部にマグマが存在していることはほぼ確実であるが、火山ガス組成や地震活動からみて深部のマグマ活動に顕著な変化は認められない。  口永良部島では、地震活動、地殻変動および地磁気変化からみて、新岳の浅部で噴火発生エネルギーの蓄積が進行している。また、同島北西沖の地震活動に対応して火山性地震の活動が高まることから、周辺の地震活動が噴火発生のトリガーとなる可能瀬があることが示唆された。地震、地殻変動、火山体の磁気異常の分布から、同島山頂火口の地下1km付近に爆発エネルギーの蓄積場が存在することが判明した。過去の噴出物の調査・分析から、8世紀頃に多量の溶岩を流出する活動が生じたこと、また、現在の活動火口の南にある古岳も過去千年以内に噴火が生じたことが判明した。火山のハザードマップ、防災対策の改訂に当たって新たな知見が得られたといえる。

(d)成果の公表
 火山活動研究センター編:薩摩硫黄島火山・口永良部島火山の集中総合観測(平成12年8月〜平成13年3月), 184p.2002.
井口正人,山本圭吾,高山鉄朗,前川徳光,西村太志,橋野弘憲,八木原 寛,平野舟一郎:口永良部島火山における火山性地震の特性―2000年集中総合観測―,京都大学防災研究所年報, pp.317-326, 2001.
Iguchi, M., Saito, E., Nishi, Y. and Tameguri, T.,:Evaluation of recent activity at Satsuma-Iwojima - Felt earthquake on June 8, 1996 -, Earth Planets Space, 187-195、2002.
神田 径,森 真陽:自然電位から推定される薩摩硫黄島の浅部熱水系,火山の浅部構造と火山流体, pp.139-147,2001.
神田 径,田中良和,宇津木 充,井口正人,石原和弘:衛星通信を利用した口永良部島火山における地磁気全磁力連続観測,京都大学防災研究所年報, 第44号 B―1,pp.327-332,2001.


(12-11)住民の防災啓発と行政の災害対応能力向上に関する研究
研究組織 
研究代表者
 河田惠昭(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 田中哮義(京都大学防災研究所 教授)
 林 春男(京都大学防災研究所 教授)
 石原和弘(京都大学防災研究所 教授)
 石川裕彦(京都大学防災研究所 助教授)
 土岐憲三(京都大学工学研究科 教授)
 橋本 学(京都大学防災研究所 助教授)
 高山知司(京都大学防災研究所 教授)
 井上和也(京都大学防災研究所 教授)
 佐藤忠信(京都大学防災研究所 教授)
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
 安藤雅孝(名古屋大学 教授)
 中川 一(京都大学防災研究所 助教授)
 西上欽也(京都大学防災研究所 助教授)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 高橋智幸(京都大学防災研究所 助手)
 田中 聡(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 巨大災害研究センターでは、所内の複数の部門、センターと共同して、幾つかの継続的な事業を展開し、住民の被災経験を呼び覚まし、多くの災害未経験者の防災に関する知識を深め、さらに自治体における防災関係者の災害時の対応能力向上を目指したものである。

(b)研究の方法
(1)地域防災計画実務者セミナー(2000年8月2、3、4の3日間、京大会館にて自治体職員約100名参加)
(2)メモリアル・カンファレンス・イン神戸Y(2001年1月21日、テーマ「ボランティア」、神戸海洋博物館、在阪のマスメディアの大半が参加)
(3)ジェーン台風50周年シンポジウム(2000年9月3日、テーマ「地域の安全と危機管理」、大阪・交通科学博物館にて住民約350名参加)
(4)有珠山・三宅島噴火災害における住民調査(長期化災害における住民の生活再建に焦点を当てて現地調査)
(5)災害対応研究会(年4回開催、全国レベルの防災研究者が対象)
(6)アクセプタブル・リスク研究会(年4回東京で開催、建設、運輸、農水、国土の各省庁の課長級の参画)
(7)発展途上国の防災に関する研究会(年4回開催、国際協力事業団、ODAに関係する社会学者ほか)
(8)東海・東南海・南海地震津波研究会(約350名の会員による4つの分科会活動)
(9)DRSセミナー(所内の若手教官の話題提供、参加、毎月1回開催)
(10)ハザード2000国際シンポジウムの総括(実行委員会を3回開催)
(11)トルコ・台湾地震災害報告書の出版(1000部)

(c)研究成果の概要
 第6回地域防災計画実務者セミナーでは、「災害対応を学ぶ」として、「最近のわが国の風水害の特徴」、「噴火災害と防災」、「震災復興と生活再建」と題して所内3教授が行い、その後、パネルディスカッションを実施し、最後に政府の3省庁から防災関連の講義があり、実効性の高いセミナーが実施できた。メモリアル・カンファレンス・イン神戸Yでは、ボランティアをテーマに実施した。午前は、あらかじめ全国公募した「私のボランティア体験」の作文を選考し、発表していただき、午後はボランティア団体の代表によるパネルディスカッションを実施した。これらの模様はNHKや民間テレビ局によって全国報道され、防災研究所の社会への大きな貢献となった。ジェーン台風から50年を考える第4回大規模災害対策セミナーを開催し、講演とパネルディスカッションの結果は2000冊の報告書に印刷され、全国の防災関係者に配布され、高潮防災の実務に貢献することができた。このほか、有珠山・三宅島噴火災害調査、防災と開発の委員会活動、東海・東南海・南海地震津波研究会、災害対応研究会などを予定通り実施し住民の防災啓発と行政の災害対応能力向上に大きく貢献することができた。

Index 続く