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 は じ め に


 京都大学は2002年3月に定めた基本理念の中で「創立以来築いてきた自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献する」ことをあげている。防災研究所はこの理念に即して人間社会の持続的成長にとってもっとも顕著な脅威となる災害問題に関して「災害の学理と防災学の構築に向けた総合的研究」の推進を目的としている。

 1995年阪神・淡路大震災やエルニーニョ現象に伴う異常気象による災害など、災害問題は20世紀の後半あらためて顕在化し、21世紀初頭の人類史的課題として重要問題となっている。防災研究所は地球規模、あるいは地域特性の強い災害と防災に関わる多岐多様な課題に対して、理学、工学、社会科学等にまたがる基礎的研究を展開するとともに、防災に対する真の社会ニーズに応えうる実践的なプロジェクト研究を、学際融合的な研究組織によって問題解決に取り組んでいる。また本研究所は、京都大学の付置研究所の1つとして、21世紀に残された人類の課題の1つである自然災害を軽減するための「防災学」の研究の発展と関連する研究の蓄積を基盤に、京都大学の学部および大学院教育の一翼を担い、豊かな教養と高い人間性を持ち、地球社会と調和を取りうる人格形成に貢献するための教育を行っている。

 防災研究所は、昭和26年(1951年)、「災害の学理とその応用の研究」を行うことを設置目的に京都大学に附置された。当初わずか3部門の構成で発足したが、平成7年には16研究部門、4研究センター及び7実験所・観測所を有する大規模な研究所に発展した。平成8年度に、阪神・淡路大震災を契機とした防災学研究への社会的要請とその緊急性にこたえるべく、組織の抜本的に見直しを行い、部門・センターの整理統合によって総合防災、地震災害、地盤災害、水災害、大気災害の5大研究部門、災害観測実験、地震予知、水資源、火山活動、巨大災害の5研究センター制に組織替えを行った。この改組では、従来力を入れてきた災害を伴う自然現象の予知・予測と災害の防止・軽減のためのハード的な対応法の研究といった理工学的な研究と、被災する側の人間及び社会の問題を人文・社会科学、計画科学、さらには危機管理までを含めたソフト的な研究とを有機的に結びつけた総合的な研究体制の整備を図った。これに伴い、研究所の設置目的が「災害に関する学理の研究及び防災に関する総合研究」に変更された。

 改組のもう一つの眼目は全国の大学共同利用の研究所への移行にあった。それにより防災に関する我が国唯一の全国共同利用研究機関として災害科学と防災学に関する共同研究を実施するとともに関連研究者のネットワークをつくり突発災害調査や災害データベースの構築に主導力となるべき役割を担った。平成9年から自然災害研究の「卓越した研究拠点-センター・オブ・エクセレンス」(COE)の研究機関として認められ、活発な国内外の研究交流を展開してきた。

 ところが、平成14年文部科学省は従来のCOEプログラムを打ち切り、「『大学(国立大学)の構造改革の方針』(平成14年6月)に基づき、活力に富み、国際競争力のある国公私立大学づくりの一環として、第三者評価による競争的原理を導入し、国公私を通じた世界最高水準の大学を育成するために、研究や高度な人材育成の面でポテンシャルの高い大学に思い切った重点投資を行う「21世紀COEプログラムをスタートさせた。このプログラムは研究領域を10分野に分け、各分野をリードするわが国の中核的研究拠点を指定するものである。本研究所は平成9年以来のCOEとして国内外の防災面での共同研究の推進に主導的役割を果たしてきた実績を踏まえ、21世紀における自然災害を中心としたあらゆる災害による被害軽減を目標として、防災研究に関する国際的な研究拠点を形成しその研究成果を世界に発信していくため、「災害学理の究明と防災学の構築」と題する計画を作成し、21世紀COEプログラムに申請、採択されている。

 本研究所の自己点検・評価は、平成8年の改組で定めた設置目的に照らして、@研究活動・教育活動が適切な成果上げているか、A全国共同利用として大学を横断する当該分野全体の研究活動の拠点としての役割を十分果たしているか、BCOEとして当該分野について世界においてトップレベルの研究成果をあげ、それが世界で認知され、その分野を牽引する卓越したリーダーとして内外の研究者をひきつける力を有しているか、などについて2年ごとに実施してきている。本報告は第4回目で主として平成12年度と13年度の研究・教育活動を対象としたものである。

 今回は、第1編で研究活動、教育活動、研究・教育環境、個々の研究者の研究成果および社会的貢献、など従来と同じ点検項目に関する自己評価をまとめた。第2編で所外の学識者(防災研究所の活動に関心を持っている大学、国立・民間研究機関、官公庁、地方公共団体、民間会社、マスコミ、などの関係者)からアンケート形式でいただいた意見を基に定めた「防災研究の評価として考慮すべき項目」について点検を行った結果をまとめている。第3編で部門・センターごとの将来構想に関するアンケート結果を収録している。

 本報告書は所内の自己点検評価委員会(委員長:河田恵昭教授)が全所的な協力を得てアンケート調査や資料の収集をはかり纏めたものであり、これまで約1年近く作業に携わっていただいた自己点検評価委員会の皆様の努力に感謝する。本報告書が大学の法人化を間近に控え、付置研究所のあり方が問われている中で、全構成員にとってこれからの研究所のあり方を検討する上での指針となることを期待する。

所長 入倉孝次郎 

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