ネパールの河川

水災害研究部門 戸田圭一


巨石による護岸を施したマハカリ川        
 
 ヒマラヤ山脈の南に位置する小国「ネパール」は、人口約2,000万人、面積は約15万 km2 で、1人あたりのGDPがUSドルに換算して約200ドルの発展途上国である。今年の3月にJICAの河川工学の短期専門家としてネパールを訪れた際、ネパールの河川をいろいろと見て回る機会を得た。ここではネパールの河川について少し述べることとする。
 ネパールは東西に細長い形状をしており、南北の距離は約150 km、その幅の中で7,000m級のヒマラヤの山々からインドと国境を接している海抜100 mのテライ平原まで高さが変化する。河川も、首都カトマンズが位置する丘陵地ミドルマウンテンからシワリク丘陵を経てテライ平原に至るまでに大きく3度河床勾配が変化し、それに対応して河床材料の粒径も変化し、それぞれに異なった様相を呈している。シワリク丘陵は地質が脆く多くの箇所で侵食が進んでおり、ここで削られた土砂が下流のテライ河川に運ばれ、そこで洪水氾濫、土砂の氾濫・堆積を繰り返している。このように河川の縦断方向の変化が顕著なことより、河川特性の縦断方向のセグメント分割が可能である。首都カトマンズを流れるバグマティ川を対象に河川調査が手がけられつつあるが、今後、勾配、河床材料粒径、代表流量時の水深などのデータを集積して整理することにより、縦断的な河道特性をある程度把握することができよう。また、南北に流下するネパールの河川はその地形的、地質的な特性から、河相が概ね相似であると捉えることができ、代表的な河川の調査結果が他の河川にも適用できる可能性が高い。
 治水事業としては,JICAのプロジェクトがモデル事業的に行われているのみであるが、護岸工や護床工は、現地で容易に入手できることから巨石を用いたものがほとんどであり、まさに多自然型工法そのものである。テライ平原の生産性を高めるうえからも、テライ河川の河岸侵食の防止や農耕地への土砂の堆積防止が重要 課題となっている。
 以上簡単ではあるが、ネパールの河川について述べてきた。今、日本で求められて止まない自然環境を保持しているネパールの河川が、治水・利水とのバランスをいかに保ちつつ今後進化していくのか、またそれに対して我々がいかなる形で貢献できるのか、いろいろと考えさせられる出張であった。