防災研究所の新たな出発にあたって

所長 高橋 保 

 防災研究所は懸案でありました改組計画が認められ、創立45周年の年である平成8年度から新たな出発を致しました。改組案の作成や、その実現に向けてのご理解、ご尽力を賜りました所内外の数多くの関係者に衷心より御礼申し上げます。今後は、改組による成果に対して寄せられているいろいろの面からのご期待に背かないよ うに、所員一同一丸となって努力する決意を新たに、防災学の推進に避進したいと思います。
 我々は、従来、災害の原因となる自然現象の解明とその予知予測、そのような現象によってもたらされる災害の軽減防御のための構造物による対策などの理工学的な研究に力を注いで来ましたが、複雑な発展を遂げている社会においては、思いもかけない事態によって災害が拡大・深刻化するなどの災害の変質や、社会構造自体の災害脆弱性の増大など、理工学的な研究のみでは対処できない事柄が急激に増えてきています。このような状況下にあって、今後の防災研究には、被災する人間および社会構造・体制の側の問題からのアプローチの必要性が明白であります。この度の防災研究所の改組では、防災学研究のこのような要請の変化を受けとめ、ハードおよびソフトの面からの研究の連携や、研究の必要性の変化への柔軟な対応がし易い体制の実現を目指して、大部門化する中で組織の見直しを行い、新たな研究部門および研究センターの新設を行っています。
 改組のもう一つの眼目は研究所の全国共同利用化であります。わが国で発生している自然災害の大半の続類をカバーする研究陣容と研究施設・機器を持っている防災研究所を全国の研究者の共同研究の場として提供し、強固な研究ネットワークによる数々の研究成果を広く世界に発信することによって、防災学の推進をグローバルに行って行きたいと思っています。より魅力的な共同利用の研究所とするために、人事の交流や研究施設の充実に努力を致します。
 研究所の改組にあたっては名称変更をすることが多いようですが、防災研究所の名は改組後の研究内容をも的確・簡潔に表現していることから、敢えて変更しないことに致しました。ただ、設置目的については、従来の「災害の学理とその応用の研究」から、「災害に関する学理の研究及び防災に関する総合研究」と、より明確な表現としています。
 この度の防災研究所の改組が、わが国の防災学研究の格段の進展につながるよう、読者各位のご指導・ご鞭推ならびに主体的・積極的な参加をお願い致します。


 上の組織・運営図のように、従来の16研究部門、2実験所、5観測所および4研究センターを5大研究部門、5研究センターに再編した。また、研究支援の技術部を技術室として組織化した。
 大部門化の日的は、対象とする災害の種類や研究手法においてほぼ同様の研究領域に属する小部門を統合することにより、より柔軟な研究体制ができ、研究の広がりも期待できるところにある。 「地震災害」、「地盤災害」、「水災害」および「大気災害」研究部門はこのような目論見で、従来の小部門の統合と、分野および研究課題の見直しによって作られた。「総合防災研究部門」は近年の都市構造の発展・拡大の現実を踏まえ、従来の防災構造物の設置による災害からの防御や、建物・インフラストラクチャー等の構造物自体の耐災性の向上を目指す物理的立場ではなく、より総合的・長期的・計画論的視点に立つ防災学研究を行うために新たに設置されたものである。ここでは、災害リスク評価と防災マネージメントの方法論(安全の質)、物理的、情報システム的、社会的および心理的といった総合的・多元的防災構造の提示とその形成論(社会の質)、都市・生活空間の安全制御と都市防災計画(生活の質)および社会環境開発と自然環境を共生させる開発企画の在り方(環境の質)の研究を行う。
 既存の研究センターは大部門制のメリットを先取りするような形で、プロジェクト的研究を推進することを意識して作られていた。したがって、「地震予知研究センター」および「水資源研究センタ−」は、それぞれ、研究領域増の要望はあったものの、若干の見直しや、研究部門との統合を含めた研究課題・領域の見直しにとどまった。また、「火山活動研究センター」は今のところ桜島火山観測所のみの構成となっている。「巨大災害研究センター」は、これまでの「地域防災システム研究センター」と「都市施設耐震システム研究センター」が母体となり、阪神・淡路大震災のような巨大災害による被害を最小限にとどめるために、人間、情報、危機管理、施設の面での、事前対応、発災時対応、および事後対応について研究することを目的として、新たに設置されたものである。従来からの災害資料データベースの構築や客員研究領域との連携による自然災害の全国共同研究のネットワーク事業推進の中枢としての機能も果たして行く。「災害観測実験センター」は宇治川水理および潮岬風力の2実験所、大潟波浪、白浜海象、穂高砂防および徳島地すべりの4観測所の組織を統合して、大規模・総合的観測事業やそれと連動した物理実験を臨機に行えるように柔軟な組織としたものである。観測施設や実験施設を用いた共同研究はもっぱらこのセンターで行われることになる。平成7年度には地上・地下の建造物のためと、水中・水際の構造物等のためとに特化された大型の振動台がそれぞれ1基設置されるなど、設備の充実が図られている。今後も大型の共同研究事業を見据えて施設・機器の充実を図って行く。なお、防災研究所の共同利用化に伴う共同研究事業については別項を参照されたい。

 従来、研究支援のための技官は研究室単位で配属され、その都度発生する技術的問題に対応する形になっていて、高度の専門性を培うことが比較的困難であったこと、相次ぐ定員削減によって技官の配属されている研究室の不均衡が生じていること等の弊害があった。「技術室」の設置によって、技官の組織化・専門化がなされ、全体としての技術レベルの高度化と同時に、待遇改善につながって行くことを期待している。
 研究所の意志決定は専任の教授で組織される「教授会」でなされる。しかし、共同利用の研究所となったことに伴い、独善を排するために、研究所の運営全般について所長の諮問に応ずる「協議会」を設けている。その構成は学外委員4名、所外の学内委員3名、所内委員2名であり、京都大学総長による委嘱または任命によっている。共同利用に関わる事項は、「共同利用委員会」の議を経て、教授会で決定される。共同利用委員会の構成は学外委員8名、所外の学内委員2名、所内委員10名である。共同利用委員会の下に企画、広報、ネットワークの各専門委員会を置いている。企画専門委員会は共同研究の公募方針、課題選定の原案作り、広報専門委員会は共同利用に関わる研究成果等の出版、シンポジウム開催等に関わる。また、ネットワーク専門委員会は防災学研究ネットワークの形成、災害データベースの構築、ネットワーク機構による雑誌の出版等に関わる。
 その他、研究所の円滑な運営のために、多くの所内委員会を設けている。
 研究センターにあっては、それぞれの運営に関して、学外委員を含めた運営協議会の議を経ることにしている。