文部科学省・科学技術振興調整費・我が国のリーダーシップの確保
「水災害の監視・予測・軽減に関する貢献」

--アジア太平洋地域を中心とする水問題に関する国際会議等の推進--


第1回アジア太平洋地域水文水資源国際会議


1.課題の目的と意義
 平成13年度より科学技術振興調整費において「我が国の国際的リーダーシップの確保」というプログラムが開始された。これは、わが国が国際的な科学技術活動におけるリーダーシップを発揮し、国際社会における持続的な協力関係を作り上げるため、特にアジア諸国とのパートナーシップの強化を念頭に置きつつ、国として積極的な対応が必要な国際会議、国際的なフォーラムの開催や、それに伴う国際的な調査研究等の活動を推進することを目的としている。
 このプログラムの中で、平成14年度半ばから京都大学防災研究所を中核機関として「水災害の監視・予測・軽減に関する貢献」という課題が開始されている。その目的とするところは,洪水・渇水・土砂・水質など今後ますます深刻化する世界的な水危機の未然回避に資するため,各種会議開催により,水災害の監視・予測・軽減対策に関する国際的なビジョンの作成を国際共同で行うことである。内容としては、(1)災害監視・予測の新技術とその実用化、(2)豪雨起因の斜面災害と自然遺産・文化遺産保護, (3) アジア地域の水問題解決支援のためのモデル・解析ツールの開発,(4)流域総合マネジメントによる水災害リスクの軽減,の4課題を設定している。これらの4つの内容を、京都大学防災研究所、国際斜面災害研究機構(ICL)、国土交通省国土技術政策総合研究所、独立行政法人土木研究所がそれぞれ担当し、これらに関連する一連の国際会議を開催し,日本のリーダーシップを実効あるものとすることとしている。
 アジア諸国とのパートナーシップの観点からは、アジア諸国で予想される急激な人口の増加集中,産業の発展と転換及び気候変動等による深刻な水問題は,決して他人事ではなく,諸外国での生産活動に支えられている日本にも大きな影響を与える。一方,日本には長年水問題に対処してきた経験(成功例も失敗例も)があり,これらは今後同じような社会の発達段階を経験するアジア諸国に対する良い教訓を与えることが期待される。

2.防災研究所の役割
 防災研究所の水関連分野における近年の国際的活動としては、国際防災の十年(IDNDR)、ユネスコ国際水文学計画(IHP)、GEWEXアジアモンスーン観測実験計画(GAME)などを挙げることができる。IDNDRでは、中国・インドネシア・フィリピン・バングラデシュ、IHPでは東南アジア太平洋地域の13か国、GAMEでは中国・タイなどを相手国として共同研究を進めてきた。また、防災研究所で研究を行い博士の学位を取得したアジアからの留学生も少なくない。また、平成13年度末(2002年1月)には、国際斜面災害研究機構(ICL)が発足、平成15年(2003年4月)からは、斜面災害研究センターが防災研究所の中に設置された。
 防災研究所は、この課題において、次のような点を積極的に推進することを狙っている。
○ 防災課題における国際貢献
○ 災害監視衛星の実利用化
○ 広域的な気象・水災害の予測と軽減対策
○ 自然・文化遺産の保護
○ 国際防災十年(IDNDR, 1990-1999)研究事業のフォローアップ

3.アジア太平洋水文水資源協会の発足
 上述のようなアジア諸国とのパートナーシップに加えて、学術的リーダーシップという観点から平成14年9月に「アジア太平洋水文水資源協会」(Asia Pacific Association of Hydrology and Water Resources, 略称APHW、事務局長:虫明功臣福島大学教授)が設立された。水資源研究センターの小尻利治教授をはじめとして同池淵周一教授、田中賢治助手、水災害研究部門・寶らがその設立に大きく貢献した。この協会は、会費無料であり、アジア太平洋地域の研究者、実務家、学生など水問題に関心のあるあらゆる人が参加可能である。現在、京都大学防災研究所水資源研究センターが事務局の役割を担っている。
 この協会の設立の趣旨は、これまで欧米主導で体系化されてきた水に関する科学技術は、アジア諸国には必ずしも通用しないというものである。すなわち、アジアモンスーンによる温暖な多雨・湿潤地域で、かつ、プレートテクトニクスによる山岳や火山とその下流に沖積・洪積平野が連なるアジア地域は、欧米とは全く異なる水文・地勢学的条件である。水田稲作地帯を多く含み、また、沖積氾濫地に人口や資産が密集しており、こうした地域の治水・利水・環境問題、変動帯・火山地域特有の水問題(土砂流出も含む)などの解明と解決のためには、地域の特性を意識した研究の体系化と経験の交流が必須である。
 こうした強い認識にもとづいて、歴史、文化、地勢、気象・気候など多くの面で共通性を有するアジアモンスーン地域の水文学ならびに水資源管理に携わる研究者、専門家がこの地域特有の課題を持ち寄り、手を携えて問題の解明と解決を図るための恒常的な場が必要であるとして、APHWが設立された次第である。

4.第1回アジア太平洋水文水資源国際会議
 平成15年3月13日?15日にアジア太平洋地域における水文水資源に関する第1回国際会議(略称:APHW2003、実行委員長:寶)を開催した(写真)。アジア太平洋地域に特有な気候条件と土地条件、治水・利水問題、環境問題などについての情報を共有し、かつ水環境、水資源に関する教育と研究の交流や技術協力を行うための基礎を確立することを目的として開催されたこの国際会議は、アジア太平洋水文水資源協会の設立趣旨であるアジア太平洋地域の人々が手を携え水問題の解明と解決のための場を実現したものである。科学技術振興調整費・我が国の国際的リーダーシップの確保「水災害の監視・予測・軽減への貢献」の平成14年度の最も大きな活動であった。
結局、この国際シンポジウムにおいては、参加者275名(32か国)、うち外国人129名を数え、盛況のうちに会議を完了することができた。開催時期を第3回世界水フォーラム(3月16日?23日)の直前としたため、本会議参加者は同フォーラムへの参加も併せて可能となったので、この点からも好評を博した。
 本会議では、冒頭の事務局長の基調講演の中でアジアモンスーン地域独特の気候・地勢学的特徴を明示して、当該地域における様々な水問題を地域自らの手で考究・解決していくことの必要性を訴え、本会議ならびにAPHW設立の意義を強調した。その後、5つの分科会、2回のポスターセッションを行って、ちょうど200編の論文発表・報告があり、この間、活発な議論と情報交換がなされた。これらの論文は、合計1300ページにわたる2分冊の論文集に収録されている。同内容のCDも作成し、情報共有の便に供することとした。3日目には、全体セッションを設け、本会議の成果を総括するとともに、当該地域の水問題とその解決への方策、APHWの今後の方向性を多くの国内外の参加者と直接議論する場をもつことができ、これまでにないこの地域の人的ネットワークが形成されることとなり、極めて大きな成果を上げた。この国際会議を契機として、アジア太平洋水文水資源協会には、現在 400人を超える会員が登録されている。平成16年7月には、シンガポールにおいて第2回の国際会議(APHW2004)を開催するべく準備を進めている。

5.おわりに
 「水災害の監視・予測・軽減への貢献」では、この他にもユネスコIHP東南アジア太平洋地域運営協議会の年次会合とシンポジウム(2003年10月フィジー)、「災害の監視・予測・軽減のための人工衛星リモートセンシングの応用に関する国際シンポジウム」(2004年1月、淡路夢舞台国際会議場)を平成15年度に企画している。また、こうした国際会議の開催に加えて、水災害の状況把握も重要であるという観点から、海外における水災害の緊急調査などを実施することも視野に入れて若干の予算を計上している。また、最終年度の平成16年度には、協力機関であるICL、国総研、土研とともに総括的な国際会議を開催する予定である。
(研究代表者:寶  馨・水災害研究部門)