都市における洪水氾濫の水理実験模型

 1999年の福岡水害や2000年の東海水害は都市の水害脆弱性をあらためて明らかにした.こうした状況から,本研究所・河田恵昭教授を代表者とする「都市複合空間水害の総合減災システムの開発」の研究が,文部科学省・科学技術振興調整費を得て2001年度から始まった.この研究課題において,「洪水氾濫水害の危険度評価」を水災害研究部門と災害観測実験センターが共同して分担することになった.
 今回の実験装置はこの分担課題の一環として製作されたもので,事象の性格上十分な資料の得られていなかった発達した都市での氾濫過程に関して,水理実験によって現象特性を明らかにするとともに,氾濫解析モデルの検証資料を得ることを目的としている.
 実験装置として現実の地形を具体的に表した模型とすることにし,実験スペースの制約と測定可能性を考え,京都市中心部(御池地下街を含む)を対象に選んだ.また,地上(地表)での氾濫と地下空間への浸水とでは,空間スケールが相当異なることから,それぞれを別の装置とすることにした.
 写真1は地上模型で,ほぼ,鴨川(東),五条通(南),烏丸通(西)および丸太町通(北),で囲まれた京都の中心部(面積約2km)を表しており,縮尺は1/100である.局所的な地表標高は再現できていないが,全体的には現地の北から南方向の1/200の勾配をつけている.実験では主として鴨川の越流氾濫を考えることにしている.
 写真2は御池地下街の模型である(京都市から資料提供を受けた).この地下街は3層で,地下1階は商店街,地下鉄駅,駐車場,地下2階は駐車場,地下3階は地下鉄プラットホームになっている.地下1,2階は650m×40mの長方形で天井高は3.5mであり,地下3階は100m×8m,天井高2.7mである.模型の縮尺は1/30とし,観測や測定ができるように,天井は設けず,また地下2階を側方にずらせている.
 現在,都市街路網の流れ,地表氾濫と地下浸水の関連,地下空間での浸水伝播など都市における氾濫過程について,技術室の全面的な支援のもとに水理実験的な検討を進めている.今後さらに,多くの想定条件のもとでの実験を重ね,街区への浸水や豪雨による内水氾濫も含めて,資料を集積する予定である.
 なお,このような現地地形をかなり広い範囲で表現した模型,さらにそれに地下空間を合わせた模型はわが国ではおそらくはじめてで,関連研究機関や報道機関などから見学・取材があり,来訪者は100名を越えている.
(水災害研究部門 井上和也)

写真1:京都市中心部の地上模型 写真2:御池地下街の模型