文部科学省・科学技術振興調整費「地震豪雨時の高速長距離土砂流動現象の解明」(APERIFプロジェクト)主催

公開シンポジウム−都市域斜面防災の新世紀−報告


 平成14年8月31日〜9月1日にかけて東京において標記のシンポジウムが開催された.このシンポジウムは本研究所地盤災害研究部門・佐々恭二教授を代表とする文部科学省・科学技術振興調整費「地震豪雨時の高速長距離土砂流動現象の解明」(APERIFプロジェクト,平成13年〜15年度)の2年目の中間報告のためのシンポジウムとして企画された.APERIFとは"Aerial Prediction of Earthquake and Rain Induced Flow Phenomena"の略である.
 この研究費は平成13年に科学技術振興調整費(先導的研究)として採択され,防災研究所を中心に東大工学部,東大生産技術研究所,国土交通省国土地理院、(独法)防災科学技術研究所,(独法)森林総合研究所,および(社)日本地すべり学会が研究を分担し平成15年度まで続けられる予定である.今回の公開シンポジウムは研究成果の中間報告会として企画された.APERIFプロジェクトは以下の4つのサブテーマからなる.サブテーマ1:高速長距離土砂流動メカニズムの解明,サブテーマ2:危険斜面抽出のための地形計測・解析技術の開発,サブテーマ3:土砂到達範囲予測技術の研究開発,サブテーマ4:総括研究:災害危険区域予測法の提案.
 なお,本研究課題は、世界的にも重要な研究課題として認められ,平成14年1月に京都で開催されユネスコと京都大学が共催した地すべり危険度軽減および文化自然遺産の保護に関する国際シンポジウムの際に設立された「国際斜面災害研究機構(ICL)」(会長:佐々教授)が運営する国際斜面災害研究計画(IPL)の一つの研究プロジェクト(IPL-102)として認定された.
東京都内の研究対象の住宅地域での航空機搭載レーザースキャナーによる微地形の調査結果
 一日目は一般および行政担当者,斜面災害関連技術者を対象とするため,JR有楽町駅前の東京国際フォーラムにおいて開催され,100名を超える参加者がありほぼ満席で盛況であった.二日目は主に斜面災害関連技術者を対象に東大生産研のある駒場キャンパス内のオーディトリアムにおいてAPERIFプロジェクト参加者による個別研究発表会の形式で開催し,約60名の参加があった.両日の参加者にはハードカバー論文集(312頁)が配布された.
 一日目は研究代表者である佐々教授のAPERIFプロジェクト発足経緯の説明のあと,盛田謙二・文部科学省研究開発局・防災科学技術推進室長が挨拶し,続いて本研究所長・入倉孝次郎教授が「来るべき大地震と強震動予測研究の現状」と題して,近い将来発生が予想されている東海,南海地震等の巨大地震と強震動予測の現状について特別講演を行った.質疑の中で都市域の各々の斜面についての強震動予測を行うにあたっても数種のモデルがあることが紹介された.本研究の対象となる都市化域を数多く抱える東京都からは三宅島噴火に伴う火山災害,土砂災害の現状とその対策について説明があった.
続いて,APERIFの各サブプロジェクトの現在までの研究成果が紹介された.佐々教授が「地震豪雨時の高速土砂流動現象メカニズムの解明−大都市圏での災害とその防災−」と題して、本科学技術振興調整費のサブプロジェクト1「高速長距離土砂流動現象のメカニズムの解明」の研究成果を紹介した.地震時と豪雨時に発生した高速長距離土砂流動による災害現場の土を採取して実施した地すべり再現試験により、両者ともすべり面液状化が鍵となっていることがわかった。また、今後の地震で発生する可能性のあるすべり面液状化事前に抑止する対策工の検討結果も紹介された.
サブテーマ2については地盤災害研究部門の千木良雅弘教授と国土地理院の市川清次氏が航空機搭載型レーザスキャナによる地盤高測定による微地形判読の技術開発について紹介した.植生や構造物があっても地盤高が精度よく捉えられ,地すべり微地形を高精度で捉えることができることが示された.
サブテーマ3については(独法)防災科学技術研究所の森脇寛氏と(独法)森林総合研究所の落合博貴氏が、大型降雨実験装置を用いて行う実規模土砂流動化再現実験に用いる製作中の斜面土層と自然斜面での人工降雨による土砂流動化再現実験の準備状況を、従来行われてきた土層実験の成果を織り交ぜて説明し,東大工学部の東畑郁生教授が室内土層試験における地下水の間隙水圧・飽和度変化と地表面変位の計測より、崩壊発生時間の予知技術について発表した.
サブテーマ4については,サブテーマ1〜3により得られた成果を応用し,将来発生する大規模地震時に高速長距離土砂流動現象が発生する可能性について検討を行うため,東京都内にある都市化域の典型的な大規模住宅開発地に設定した試験地とそこで実施する各種試験および災害危険度予測の研究計画について紹介が行われた.
また発表者およびNHK解説委員の藤吉洋一郎氏を迎えてパネルディスカッションを行い,21世紀に期待される斜面災害研究の方向性について議論を行った.会場の参加者からも活発な意見と質疑が行われ盛会のうちに終わった.

パネルディスカッションのパネラー各氏 東京国際フォーラムのシンポジウム会場


(地盤災害研究部門 佐々恭二)