京都大学防災研究所 特定研究集会

「防災GISの現状と展望に関する分野横断的研究フォーラム」の報告

(研究代表者:寶  馨(水災害研究部門・教授))


 防災研究所の平成11年度の特定研究集会の一つとして「防災GISの現状と展望に関する分野横断的研究フォーラム」を、11月2日(火)午前10時から午後6時まで宇治キャンパス内・木質科学研究所の木質ホールで開催した。このフォーラムは、「防災GIS」という概念のもとに諸分野で利用されている理論や手法の現状と問題点を明らかにし、将来の方向性を議論することを開催の趣旨としている。特に、分野ごとに個別に利用されてきたGISの理論・手法・データ等について、幅広い分野から情報を集約して議論を深め、防災GISの標準化・共通化と専門化の進むべき方向を明らかにし、防災研究及び実務の発展に資することを目ざしたものである。  本フォーラムは、この種の学会活動を展開している地理情報システム学会(GISA)防災GIS分科会(防災SIG)の協賛を得た。企画や運営について、防災SIG主査の亀田弘行教授(防災研究所総合防災研究部門)、副主査の角本 繁氏(元防災研究所客員助教授、日立製作所中央研究所)の助力を戴いた。
 「分野横断的」ということで、全国各地から、大学、官公庁、民間等から131名もの参加があった。プログラムは、下記に示すとおりである。当初、昼食時に中国国家リモ−トセンシングセンタ−地理情報システム部の何建邦 (He Jian Bang) 教授に、特別講演「中国におけるGIS開発と防災課題へのGIS適用の現状と今後の方向」をお願いしていたが、ビザ取得手続きが遅れ、来日戴けなくなったので、急遽、寶が「自然災害監視へのリモートセンシングの応用の現状と課題」と題して代替講演を行った。
 地震・津波・沿岸環境・洪水氾濫・土砂災害などの分野におけるGISの応用、建設省、国土地理院、海上保安庁や国土庁、地方自治体などの行政の取組についての現状や事例が報告されるとともに、NTT やシンクタンクなどの分野での先進的なシステム構築の現状と構想、高齢社会に向けた今後のGIS応用のあり方などについて話題提供があり、それらについて熱心な討議が展開された。
 本フォーラムにおける議論の内容を要約すると、以下のようである。
(1)防災GISの利用・現状という側面からは、分析力・表現力・大量高速のデータ処理能力という現在のGIS特有の優れた機能は、各分野の現状のレベルにおいてそれなりに活用されている。ただし、地図データの共通化、データフォーマットの標準化が十分になされていない。したがって、多岐にわたるユーザの要求に対して、過去および現有の資産を充分に活用できず、多大な労力をつぎ込まなければならないことが少なくない。
(2)システム構築については、有事(災害発生時)に役立つシステムは日常的・安定的に使われているものである(普段使われないものが有事に役立つはずがない)という観点が重要であり、大型・多機能なものよりも、機能限定でよいから日常的に活用され、徐々に進歩していくようなシステムを目指すべきである。当該地域の災害形態や色々な意味での力量・ニーズを勘案し、地域に見合ったGISの構築と分野間の連携が重要である。空間データ整備が先行する一方、アプリケーション(応用プログラム)の開発が遅れていたが、アプリケーション開発もかなり進展しつつあることがわかった。
(3)GIS データの流通・共有という観点からは、データ構造の共有化・標準化の重要性が指摘された。データそのものは、分野により内容も精度も違うし共有化・標準化は難しい。データ構造を共有化・標準化することによって、異分野間のデータの流通・共有が図れるはずである。
(4)技術論だけですまない問題として、法制度の問題がある。空間データの作成については測量法、統計法、空間データの管理・流通については国有財産法、地方自治法、道路法、河川法など、空間データの知的所有権については著作権法、特許法、商標法などがからむ。紙地図などのアナログ情報を想定して整備された法制度を電子地図(デジタル)情報に適合するように運用を整備する必要がある。本フォーラムのような場で、民間、行政、学界のそれぞれの立場から望ましい方向を探って行くべきである。
(5)近未来社会を考えるとき、社会の防災力を高めるためにどのようなデータ公開
をすべきかについても議論された。情報公開が防災に直結する場合もあるし、機密保持・プライバシー保護の観点から逆に災いを招くこともあり得る。高齢社会に既に突入しているわが国では、災害弱者である高齢者や障害者をサポートするシステムの構築が必要である。コンピュータ化された高度情報社会(サイバースペース社会)における災害情報提供システムがこうした弱者を救うことになるのではないかという意見に対して、情の通った人間同士の触れ合い(ヒューマンコミュニケーション)こそが災害時には重要であるという指摘もあった。高齢社会・情報社会といった社会的条件の変質を考慮しなければならない。システム構築が目的ではなく、防災・減災が本来の目的であるという観点からは、ユーザーサイド(自治体や住民)から見て望ましい防災GISのあり方についての議論をさらに深めたいところである。
 なお、本フォーラムでは、話題提供者の論文や資料を集めた予稿集を配付した。また、フォーラムで行われた議論や、使用された図表、事後に参加者から寄せられた意見等をとりまとめた議事録を出版し、参加者に配付している。
 希望者は、寶(takara@rdp.dpri.kyoto-u.ac.jp, FAX: 0774-38-4130)まで御連絡戴きたい。