科学研究費補助金 基盤研究(S)、基盤研究(A)
新規採択者のコメント


基盤研究(S)
巨大複合災害とその減災戦略
研究代表者:河田惠昭
研究期間:平成19年度−23年度


【研究の概要等】
 発生が迫っている東海・東南海・南海地震と首都直下地震を対象として、これらの震災被害が最悪となるのは、広域化、複合化、長期化とい う被害特性に依存するという研究成果を適用し、具体的に被災シナリオを見出して、それらに対する減災戦略を構築しようとするものです。とく に複合災害として「複数地震および地震と洪水などの時間差発生がもたらす災害時空間の変化、すなわちハザード特性の変化を把握」するこ とと「時間差発生に対応した災害対応計画の構築手法の開発と減災対策の提示」が重要です。そこで、まず、地域特性と発生時間差で決定さ れる外力変化を理解し、これと現状の防災計画の分析から発生時間差が各地域の被害に与える影響を推定します。次に、地域の被害の最小 化を目的として減災計画を時間差発生に対応するよう変更します。この情報と、計画を変更することによって生じる利害関係者間での合意形 成、必要な情報基盤整備などの事前対策手法の組み合わせによって減災戦略を策定する手法を開発します。このような知見が科学的に究明 されて、効果的な減災対策は、実践科学(Implementation Science)として、初めて可能となります。
【当該研究から期待される成果】
 東海・東南海・南海地震と首都直下地震が政府の地震対策大綱や自治体の地域防災計画の発生シナリオ通りに起こらず、複合災害となった 場合でも、巨大な被害を少なくできる対策が提案できます。そうすると現行の対策のどの部分を改めなければならないかが具体的に見えてまい ります。それを実現するための減災戦略やアクションプランを確立することにつながります。そして、自助・共助・公助の具体的な内容が明らか にできます。さらに、これからどのような減災のための努力を継続すれば、どれくらい被害が少なくできるかが目に見える形になります。これら の取り組みは、これからの減災対策の中心になっていくことが期待できます。


基盤研究(S)
伝統木造建築物の構造ディテールに基づく
 設計法の構築に関する研究
研究代表者:鈴木祥之
研究期間:平成19年度−23年度


 現存する歴史・文化財などの社寺建築物のみならず民家等の伝統木造建物を大地震に対しても、それらの安全性を確保することは重要な 課題である。一方では、新しく伝統木造建物を建てたいとの社会的なニーズが多くある。そこで、本研究では、伝統構法の技法、技術の良さを 生かし、木組み仕口・接合部などの構造ディテールの設計法とともに伝統木造建築物に高い耐震性能を与える合理的な耐震設計法や耐震補 強設計法を提案することを目的としている。
 しかしながら、伝統構法木造建築物には、構造力学的に未解明な部分がまだ多く残されており、その構造解析は難しい状況である。そのた め、先ず、伝統的な木組み仕口・接合部、土塗り壁、差鴨居など構造要素の構造メカニズムを実験的、解析的に解明したうえで、これら伝統的 な構造ディテールの解析法を提案する。次に、伝統構法では、現代工法とは異なる特有の構造仕様が地震時の揺れや耐震性に及ぼす効果を 調べて、伝統木造建築物の構造解析手法および耐震設計法・耐震補強設計法を開発する。
 本研究で目指している「伝統的な構造ディテールを基礎理論から解明する」ことは、木構造学の再構築を図る上で極めて重要である。また、 伝統木造建築物の実用的な耐震設計法の提案は、伝統構法木造建築物の構造設計が容易になることのみならず、設計者、大工職人など実 務者に広く普及を図ることができ、伝統木造の復活につながると考えている。


基盤研究(A)
地震はなぜ起こるのか?
 −地殻流体の真の役割の解明−
研究代表者:飯尾能久
研究期間:平成19年度−21年度


 地震学や地震予知研究はまだまだ発展途上の分野であり、本研究課題のような基本的な問題がまだ未解明のままとなっている。それは、 地面の中が「見えない」ためであると考えられるので、「見る」ための努力が必要となる。
 本研究の観測フィールドの長野県西部地域は、日本の内陸では微小地震活動が最も活発な地域の一つである。御嶽山麓の静かな環境と固 くて比較的均質な岩盤等のため、地震の観測研究に大変適したフィールドとなっている。約10年前から10kHzサンプリングという通常の100倍程 度の時間分解能で地震データが記録されてきた。MT法などによる高密度の比抵抗や自然電位のデータも蓄積されている。その結果、地震の クラスターに低速度異常域が伴っており、低速度異常域のまわりに地震が分布することが分かってきた。さらに、浅い低速度異常域の近くには 低比抵抗異常域が推定されている。本研究では、この低速度異常域の実体を解明し、地震活動との関係を明らかにすることにより、地震が引 き起こされるプロセスを解明する。可能性としては、a)低速度異常域で間隙水圧の増加のために断層の強度が下がり、地震活動を引き起こ す、b)低速度異常域で非地震性すべりが起こり、その周囲に応力集中をおこして地震活動を引き起こす、c)低速度異常域に気体が流入して 水を周囲に押し出し、周囲の間隙水圧の増加により地震活動を引き起こす、という3とおりが想定される。どれが正しいかを観測データに基づ いて明らかにすることが本研究の主な目的である。低速度異常域における地殻流体の振る舞い、低速度異常域と地震活動との空間的な関係 を明らかにすることが重要である。本研究では高密度の地震観測と比抵抗構造調査により、低速度異常域の実態を解明し、地震活動との関 係を精細に把握することにより、問題の解決を計る。


基盤研究(A)
次世代型偏波レーダによる降水量推定・降水予測の
 高精度化と水管理へのインパクト評価
研究代表者:中北英一
研究期間:平成19年度−21年度


 本研究は3年間で総計4千万円弱のプロジェクトであり、電場がそれぞれ縦・横に振動する2種類の電波から強度や位相の様々な情報が得ら れる最新型偏波レーダーを核に、それらの情報を用いると降雨粒子の大きさや降水粒子の種類の識別が可能という能力を利用して、降雨量 推定精度の向上を図るとともに、雲物理過程モデルとの結合手法を開発して豪雨の予測精度の向上を図り、加えてそれらの水管理へのイン パクトを評価するという、水文学・気象学双方にとって古くて新しい視点を目的とする。一方、欧米ではSバンドという長波長では最新型偏波レー ダーが現業化しつつある中、Cバンドを現業用レーダーの波長に用いる国土交通省ネットワークレーダーの偏波化・現業化を進める(説得する) 必要があり、その有効性を示す使命感も有している。体制としては、京大防災研究所とともに、総務省情報通信研究機構、電力中央研究所、 宇都宮大学、山梨大学、名古屋大学、山口大学、ハワイ大学からの水文学・気象学の観測・モデルの専門家が連携して実施する。
 さて、本研究課題の大きな醍醐味の一つは、総務省が沖縄に導入した最新型Cバンド偏波ドップラーレーダーを核に、様々な地上観測はも とより、レーダーが電波を出して探査している“まさにその上空のそのポイントで”、どのような大きさや種類の降水粒子がそこに存在するのか をビデオカメラを搭載した高額なゾンデによって直接観測することにある。これは、“レーダーが何を見ているのか?”、これまで実施したくて地 団駄を踏んでいた“夢のような同期観測”であり、ビデオゾンデの改良や、同期観測という初めての観測技術の開発が必要であるために大きな 挑戦となる。19年度の予備観測を経て20年度に本観測を実施する予定である。本科研費の申請後、最新型偏波レーダーの開発を主導してき た欧米においても時期を一にして初の同期観測計画が立ち上がっているとの情報に接しており、本科研費採択によってぎりぎり一歩リードした 形で世界最先端のスタートが切れていることに感謝している。


基盤研究(A)
分散型ハイブリッド実験の高度化による
 大規模構造物地震応答再現手法の開発
研究代表者:中島正愛
研究期間:平成19年度−21年度


【研究の概要】
 耐震工学の高度化をめざす研究において、大型構造実験に対するニーズはいやがおうにも高まっていますが、初期投資・運営経費等におい てそれを実現できる施設は極めて限られています。また、最近若い人材が構造実験に携わる機会が徐々に失われつつあり、それは「ものづく り」を伝統として、それが高質な製品を確実に造る源泉となってきた日本にとって、ゆゆしき問題です。これら切実な問題への有効な処方箋とし て、「分散型ハイブリッド構造実験法」と称する新しい耐震構造実験手法(仮想耐震構造実験施設)の開発を本研究の射程としています。ここで 開発する実験法は、(1)オンライン応答実験や仮動的実験として、日本が世界に率先して育んできた構造物地震応答再現実験手法を基盤とす る;(2)この手法の展開の一つであるサブストラクチャ法(全体構造物を実験部と解析部に分割、実験部にだけ実際の実験を適用し、解析部は 数値解析に委ねる方法)を用いるが、実験を実施する部分を一つではなく多数設け、さらにこの実験を複数の実験施設で分担する;(3)サブス トラクチャ法における解析部にも複数の有限要素法解析コードを用い、複数の実験部と併せた全体構造物の運動方程式を解くことからその地 震応答を再現する、を特徴とします。これらを実現することから、(1)大型構造物の地震応答を実大規模で再現しうる手法の提示によって耐震 工学に貢献する、(2)多くの実験施設を同時に使うことから国内外の研究者を結集できる仕組みを構築する、(3)若手研究者や大学院生等、 次代を担うべき人材に構造実験の醍醐味を実感させる、ことが可能になる、と信じています。本研究は3年間で所定の成果を挙げることを目標 に、フェーズ1(分散型ハイブリッド構造実験システムの構築と試運転)とフェーズ2(分散型ハイブリッド構造実験システムを用いた地震応答再 現試験)からなる研究計画を立案しました。2年目以降は、耐震構造実験室で複数の実験を計画しています。ぜひ見学にお越しください。