防災研究所の改組(2005年4月1日)
−21世紀の防災研究をリードするために


京都大学防災研究所 前所長井上和也*1
同 前将来計画検討委員会委員長小尻利治*2

*1 名誉教授(防災研究所改組計画整備と京大本部との折衝当時、所長)
*2 教授(防災研究所改組計画整備と京大本部との折衝当時、将来計画検討委員会委員長)


まえがき

 防災研究所は、1996年(平成8年5月11日)に全 面的に改組をはかり、以来全国共同利用機関として 活動を展開してきた。入倉孝次郎前々防災研究所長 (在任2001年〜2003年)は、約3年前に、1996年改 組によって得られた新しい成果を総括するとともに 問題点を洗い出し、必要であれば再度改組に踏み切 るべきであると明言された。また2004年の京都大学 法人化(平成16年4月1日)に先だって、各部局は、 それぞれの中期計画を立案しそれを京都大学本部に 提出することが求められた。これら内外の事情を踏 まえ、防災研究所の将来展開について、将来計画検 討委員会を中心に過去3年にわたって議論を続けて きた。この議論の結果、再度改組に踏み切るべきで あるとの所内合意を得て、「京都大学防災研究所改 組計画」を立案、所内各層での議論を経て2004年6 月11日教授会で本改組計画を承認し、その直後に京 都大学に対して改組の決意を表明するとともに本改 組計画を提出した。2004年度は京都大学法人化直後 の過渡期にあたり、部局の改組等も含めた全学的な 組織や制度の見直し作業によって、しばし静観の時 期もあったが、2005年1月から京都大学本部当局と の本格折衝を開始、2005年3月に開催された京都大 学経営協議会で改組が承認され、本年4月1日をも って防災研究所は改組した。以下の記述は、2004年 6月教授会で承認した改組計画に基づいたものであ る。

1.改組の経緯

1.1 防災研究所の変遷

 防災研究所は1951年(昭和26年)、「災害の学理と その応用の研究」をつかさどることを目的に京都大 学内に附置研究所として設置された。発足当初は第 1部門(災害の理学的工学的基礎研究)、第2部門 (水害防止の総合的研究)、第3部門(震災・風災・ 火災および雷災等防止軽減の研究)の僅か3部門構 成であったが、その後、研究的・社会的要請の高ま りなどを背景に、学部をも包含した組織改革を伴い ながら研究体制の段階的整備を図り、1995年(平成 7年)までには、1 6 研究部門、4研究センターお よび7実験所・観測所を有する、地震、火山、地す べり、洪水、高潮、暴風雨など、わが国で問題とな る自然災害のほとんどを網羅する大規模な研究所に 発展した。この間、1970年(昭和45年)には、研究 所の研究部門および事務部を宇治キャンパスに移転 し、研究体制の統合化をはかった。 上記の研究体制の整備は、国内外の防災研究を主 導するうえでの防災研究所の役割を一層強化した が、阪神・淡路大震災などを受けて、研究成果を防 災対策に還元することへの要請も高まってきた。そ こで1996年(平成8年)には、このような要請にも 効率的に応えるべく、組織を抜本的に見直し、部 門・センターの整理統合をはかり、総合防災、地震 災害、地盤災害、水災害、大気災害の5大研究部門、 および地震予知、水資源、火山活動、災害観測実験、 巨大災害の5研究センターからなる体制への大規模 改組を断行した。同時に、研究所の設置目的を「災 害に関する学理と防災のための総合的な方策に関す る研究」と再定義した。また、2003年(平成15年)に は学内措置により斜面災害研究センターを設置した。 本研究所発足以来の質の高い研究成果の蓄積と、 研究体制の改善への姿勢は高い評価を受け、1996年 (平成8年)には全国共同利用の研究所に指定され、 1997年からは防災研究に関する研究拠点(COE)と して認められた。さらに2002年(平成14年)からは 再度21世紀COEとして選ばれることになった。

1.2 改組の理由

 1996年の改組によって、より学際性の高い防災研 究の実行体制が整い、その結果、教育基盤校費はも とより、文部科学省「科学研究費」、「科学技術振興 調整費」、「戦略的基礎研究推進事業費」、「重点研究 創成プラン」等の競争的資金、「地震予知のための 新たな観測研究計画」、「火山噴火予知計画」、「大都 市大震災軽減化特別プロジェクト」等による事業費、 さらには、「研究拠点形成費補助金」(1995年〜2002 年)や「21世紀COEプログラム」(2002年〜現在) の拠点形成資金を軸として、研究活動に勤しんでき た。一方、防災研究所が核となって自然災害研究協 議会や防災研究フォーラムを新たに設立し、全国的 な災害・防災研究ネットワークの形成にも貢献して きた。
 このように防災研究所は、災害や防災に関わる研 究の動向や社会のニーズを率先して汲み取り、必要 に応じて組織を改変しつつ、過去50余年にわたって 災害・防災研究のリーダーシップを確保してきた。 しかしながら、21世紀に入り災害や防災を取り巻く 状況も急激な変化を見せていることを見逃してはな らず、社会がいま抱えるさまざまな課題の解決に積 極的に応えるためには、研究所自身の一層の自己改 革が必要であることも明白になってきた。
 災害や防災をとりまく環境の変遷を語る典型例の 一つに、今世紀半ばまでにはほぼ確実視される東南 海・南海地震の襲来が挙げられる。この巨大地震で は、東海から九州にかけての太平洋沿岸が巨大な津 波の襲来に見舞われ、また阪神淡路大震災よりも大 きな揺れが広範囲にわたって引き起こされることに よって、未曾有の被害が予測される。特に都市被害 は、複合災害と称されるいわゆるチェーンエフェク トによっても格段に増幅される。建物崩壊による道 路等の分断、それによる被災者救援活動の停滞、密 集状態が引き起こす地震後火災被害の拡大、輻輳し たライフライン施設の壊滅的打撃による被災者生活 の劣化、その果てにのしかかる被災者の心の痛み等、 都市地震災害の悲劇的拡大は、経済効率を優先して 発展してきた日本の都市が必然的にもたねばならな い脆弱性と看破できる。この脆弱性の本質を見極め、 単一災害に対する単一防災という従来の枠を超える 防災を描くためには、今にも増して、学際融合的な 取り組みをもって複合災害の解明とその防御に関わ る研究が必要となる。
 上記の問題が、「(都市への)集中」という現象に 端を発しているのに対して、「(地球規模での)拡散」 という現象もまた災害と防災の様相を変えつつあ る。人間活動の急速な拡大は、地球規模でとらえた 環境に急激な変化をもたらし、なかでも、化石燃料 の急激な消費増大や新種の有用ガスの創出と放出に よって、地球温暖化とそれに伴う全球的な海面上昇 と気候変動という深刻な問題を引き起こしている。 海面上昇は陸域の水没のみならず、波浪の侵食作用 によって海浜の消失が促進される。一方で気候変動 は台風の巨大化を促し、その結果として、従来には ない大きな高潮や高波が来襲する可能性が高まると ともに、海面上昇によって防波機能が低下した防護 施設は被災を免れえず、背後地は大災害に見舞われ る。全球的な気候変動は、局地的な気候の変動性を も増大させ、異常集中豪雨による洪水の発生と強烈 な旱魃による水不足はすでに深刻化している。都市 域においては、人間活動の集中化が大気環境の変化 を招き、ビル風やヒートアイランドなどの問題を引 き起こすのみならず、豪雨や竜巻を頻発する可能性 も高めている。この問題に率先して取り組むことも、 災害と防災研究に課せられた使命であって、ここに おいても、学際融合的な取り組みが不可欠となる。
 こうした状況の加えて、旧国立大学の法人化も、 大学とその附置研究所の位置づけを大きく変えよう としている。教育・研究において世界をリードする 画期的な成果を挙げることが求められているばかり でなく、その成果を、Tax Payersである国民に目 に見える形で提示することの必要性が今までにも増 して強調されるようになった。防災研究所も、教育、 研究、組織等の現状と将来を抜本的に議論し、第1 期中期計画を京都大学に提出し、その中でも、上に 示した災害と防災を巡る環境の変化をにらみ、学際 的組織による融合的アプローチを軸とした防災プロ ジェクト研究の実行を掲げた。しかしながら、中期 計画に記した諸公約を遅滞なく実行するためには、 組織のありようを再考する必要も顕在化してきた。 組織の見直しについては、2003年度に実施した外部 評価において、防災研究所における各研究ユニット は、対外的な研究協力の中核としての役割を果たし ているものの、ユニット間の融合的努力による防災 研究所としての総合力発揮や、研究方針の明確化と 研究の戦略的展開にとって必ずしも適したものでは ない、との重要な指摘を受けている。
 上記に示す内外の事情を踏まえ、人口や社会機能 の都市への集中現象や地球温暖化による環境変化が 引き起こす複合災害に対して、学際融合的な取り組 みが切望される新たな研究ニーズと、研究成果の社 会還元に対する要求の変化に的確に対応しつつ、中 期計画で公約した一連の研究教育活動を確実にそし て速やかに果たすために、加えて前回改組から10年 の経験を経て学んだ研究組織のよりよい姿を実現す るために改組を決断した。

2.改組の内容

2.1 基本方針

 前回改組においては研究所の設置目的を変更し た。1996年改組後10年にわたる活動の総括、また設 置目的に沿って立案した第1期中期計画の実行に照 らし合わせて、今回の改組において設置目的を変更 する必要はないと判断した。したがって本改組は、 防災研究所の第1期中期計画で公約した研究教育活 動の実効性を上げるための組織の見直しを主たる目 的とし、改組の基本方針を下記の6項目とした。こ のうち(1)と(2)は研究の新しい展開を促進する項 目、(3)〜(6)はその展開を支える研究とその組織 見直しの基本方針である。
(1)災害と防災を巡る真のニーズに応えるため の防災プロジェクト研究の推進
(2)「環境」や「都市」に特徴的な複合的災害・防災に関わる研究の推進
(3)基礎研究・応用研究の両輪からなる研究展開
(4)学際的研究の一層の促進
(5)研究所内人事交流の活性化
(6)遠隔地観測所・実験所研究活動の活性化

上記の基本方針に沿った改組を実効性のあるものへと導くために、次の組織再編を改組の機軸とした。

研究部門と研究センターの役割分担明示:研究に 関わる中期目標のうち、研究部門を「災害学理の 深化」や「防災知識技術の洗練」等、基礎学問の 追求を実行する組織、研究センターを主として防 災プロジェクト研究を推進する目的明示型組織と 位置づけ、第1期中期計画の実行体制を内外に明 示する。

「研究グループ」の創設:複数の研究部門と研究 センターから構成される「研究グループ」を創設 し、研究グループが防災プロジェクト研究の牽引 車の任を果たす。また、グループ内研究部門・セ ンターの結びつきを明確にし、さらに研究部門セ ンター間の恒常的な人事交流を前提とすることか ら、研究の継続性を保持しつつも、学際性と流動 性の確保をはかる。なお、研究グループが観測 所・実験所運営の主体となって、機動力、適材適 所、柔軟性を確保しうる運営体制を構築する。

執行部体制の強化:上記(1)〜(6)を速やかかつ 確実に実行するために、所長に加えて新たに副所 長職(3名:将来計画担当、研究教育担当、対外 広報担当)を設置し、所長と副所長からなる執行 部を明示的に形成する。

2.2 研究グループの創設とその役割

 本改組においては、複数の研究部門と研究センタ ーから構成される「研究グループ」を創設し、研究 グループが防災プロジェクト研究の牽引車の任を果 たす。またグループ内研究部門・センターの結びつ きを明確にし、研究部門センター間の恒常的な人事 交流を前提とすることから、研究の継続性を保持し つつも流動性の確保をはかる。さらに、研究グルー プには、観測所・実験所運営の主体としての任を負 わせ、機動力、適材適所、柔軟性を確保しうる運営 体制を堅持する。 研究グループは次に示す4グループから構成され る(図1)。グループ名がその内容を語るように、地 震・火山グループは地震や火山による災害と防災 を、地盤グループは液状化や地すべりなど地表変動 による災害と防災を、大気・水グループは暴風雨や 洪水など大気や水に関わる災害と防災ならびに水環 境の保全を、それぞれ主対象とした研究を展開する。 総合防災グループでは、他の三つの研究グループと 連携し防災および防災研究の統合をはかる他、人間 活動、社会、経済等の視点にたった総合的な防災研 究を推進する。
(1)巨大地震の強震動シミュレーションとその活用手法の開発(地震の揺れ)
(2)巨大地震津波による広域被害想定と防災戦略の開発(広域災害と減災)
(3)大規模ライフライン網の地震災害評価シミュレーション手法と耐震性向上技術の開発(ライフライン防災)
(4)統合地震シミュレータに基づく災害対応戦略に関する参加型意思決定方法に関する研究(最適対応)
(5)新公共経営(New Public Management)の枠組みにもとづく地震災害対応シミュレータによる災害対応能力の向上(危機管理能力)
(6)関連する災害対応戦略研究(地震・津波災害の新たなる課題)



図1 研究グループとその連携


総合防災グループ

災害に強い社会の実現に資する科学と技術の総合 化:災害の発生過程における人間活動と、その社 会経済環境への影響の重要性に着目し、社会の災 害脆弱性の変化過程に関して科学的なアプローチ を展開するとともに、事前の改善方策や災害後の 復興施策に関して総合的な防災研究を推進する。 長期的展望に立って社会の発展・複雑化とそれに 伴う災害の複合化の過程を科学的に解明するほ か、現代社会の災害に対する脆弱性を総合的に診 断し、安全性、快適性を備えた文化的で持続可能 な社会を構築するための防災設計・防災計画・災 害マネジメント技術や方法論構築に関する基礎研 究を実施する。併せて、早急に対応が必要となる 大規模災害に対するリスク管理・危機管理を中心 として学際的な研究を実施し、他の3グループと の連携を通じて総合的な防災研究を推進する。

地震・火山グループ

地震火山災害メカニズムの解明と地震防災技術の 開発:地震・火山に関わる災害は、自然災害の恐 怖にさらされる日本においても、とりわけ深刻な 被害を社会に引き起こす。突発的に発生する性質 をもつためその予測は容易ではなく、また、頻度 は低いが一度起こればとてつもなく大きな被害を もたらし、さらに、引き続く余震や火山活動によ って長期にわたって国民に不安を与えるという点 で、他の自然災害とは際だった相違を見せる。本 グループは、この御しがたい地震・火山関連災害 の発生と拡大のメカニズムを科学的に解き明かす。

地盤グループ

地表変動による地盤災害の予測と軽減:液状化、 地盤沈下、斜面崩壊、地すべり、土壌侵食、およ び関連する現象の過程とメカニズムの研究を進め るとともに、災害予測と軽減技術の開発を行う。 山地から丘陵地の地表変動プロセスの解明と低平 地の地盤安定性評価とモデリングの研究を進め る。また、地すべりに特化した発生・運動機構、 危険度評価・軽減、地球規模監視システムの研究 を実施し、国際的な研究の中心的役割を果たす。

大気・水グループ

地球環境の変化をみすえた大気・水に関わる災害 の防止と軽減ならびに水環境の保全:地球規模の 環境変化に伴う大気・水循環の変化について研究 を行うとともに、水資源の確保や管理、水環境の 保全に必要な技術を開発する。異常気象に起因す る降雨・流出・河川氾濫や暴風・高潮・高波によ る災害および異常地殻変動による津波災害の防御 に係わる研究を行う。山地から海岸に至る土砂や 汚染物質の流出機構と制御、さらには流域環境保 全のための研究を行う。また、観測・実験施設で 得られる情報を積極的に公表・活用する。

これら4グループが牽引する、第1期中期計画で 公約した防災プロジェクト研究は下記の通りである。

(1)地球規模での気候、水循環、社会変動によ る環境災害に関する研究:物質循環の科学 的・定量的評価を達成しうるモデルの構築 を行うとともに、地殻変動、人間活動・社 会活動が及ぼす環境災害を、地球規模での 気圏、水圏、地圏における物質移動過程の 異常状態を判断し、その発生特性、影響範 囲を科学的に推定する。また、地域開発、 水利用、汚染物質排出結果を考慮しうる水 量、水質、生態系から見た複合的環境動態 モデルを構築し、地域規模での環境対策を 検討・提示する。

(2)地表変動災害の予測と対策に関する研究: 豪雨や地震による地すべり、斜面崩壊、土 石流が引き起こす土砂災害、土砂供給移動 の不均衡で発生する河床低下・上昇などに よる災害、および地震等による水際低平地 の地盤災害を軽減するため、気候変動、集 中豪雨、雨水浸透、地盤風化、斜面崩壊、 土砂移動に関する研究を高度化・統合化し、 災害発生場と時間の予測技術と危険度評価 技術を開発するとともに、流域一貫の土砂 管理手法を確立する。さらに、これらの技 術に基づいて、地表変動災害に対して脆弱 な地域や、文化的・社会的に重要な保全地 域などを対象として、危険度評価法と対処 法を提案する。

(3)西日本における巨大地震と火山噴火の発生 予測と災害軽減に関する研究: 今世紀前半 に発生が予想される南海地震とこれに先立 つであろう内陸直下型地震の発生予測とこ れによる災害軽減をめざし、西日本の地殻 活動の各種観測と地殻・地盤構造調査に基 づいて、大地震発生に至るプロセスの解明 と震源断層の物理的特性を抽出する。さら に、これらの成果を活用し、強震動・津波 等の予測手法の高精度化を図りつつ、被害 予測を行う。また、近い将来活発化が予想 される桜島など霧島火山帯の火山噴火の発 生予測と災害軽減をめざし、火山活動と日 向灘など周辺の地殻活動の各種観測・調査 に基づいて、火山活動と広域地殻活動の関 連性の解明および定量的な噴火予知手法の 確立をはかる。

(4)都市の災害脆弱性診断と都市生活空間の再 生技術・戦略に関する研究:地震、洪水、 高潮、津波などの災害に対する都市の脆弱 性診断手法の高精度化と、生活空間・社会 基盤の再生技術・戦略の高度化を目指す。 災害発生メカニズム解明から都市生活空間 諸施設の性能評価に至るプロセスを総合し た脆弱性評価法を整備し、ついで、防御・ 軽減・改修・保全・制御技術などを適用し た都市生活空間性能向上技術の新たな展開 をはかるとともに、災害リスクマネジメン ト手法などに立脚した都市再生戦略を提示 する。

(5)防災情報の作成・伝達とその総合化に向け ての新技術の研究:リモートセンシング等 の各種観測技術とGISを活用し、多次元災 害ハザードマップの作成とこれに基づく避 難行動シミュレーション手法を構築する。 さらに、最新のデジタル技術を駆使して、 体験型防災学教育プログラムへと発展させ る。また、ハザードマップを始め、防災研 究所の関連研究成果や他の防災情報を総合 して、災害関連情報データベースと災害時 緊急対策データベースを作成する。

2.3 研究部門・研究センターの再編

 本改組においては、2005年3月までの5研究部門 6研究センター(図2左)を、5研究部門6研究セ ンター(図2右)のように移行・再編する。 いずれも本改組の基本方針にのっとったもので、 そのねらいは下記に要約される。



図2 改組による研究部門・研究センターの移行・再編


地震関連研究における基礎研究と応用研究の役割 分担と理学・工学の連携強化:研究部門が応用基 礎研究を研究センターが応用実践研究を担うこと を明示した体制を組むために、地震予知センター の提携基礎部門として地震防災研究部門を新設す るとともに、工学との連携強化をはかるべく、地 震災害研究部門の一部を地震防災研究部門に再配 置する。

水および大気関連災害・防災研究の融合と関連実 験観測施設の運営体制の整備:気象・海象研究の 融合や地球規模にたった災害環境研究を有機的に 推進するとともに、関連実験観測施設の効率運用 体制を再構築するために、大気災害と水災害研究 部門の合併、水災害研究部門と災害観測実験セン ターの合併による、気象・水象災害研究部門なら びに流域災害研究センターを新設する。

水環境研究の充実: 水は人間の営みにとって最も 基本的な資源であるとともに、その枯渇や汚染は 甚大な災害を引き起こすことから、水資源研究セ ンターを水資源環境研究センターとし、水環境の 観点にたつ研究を充実する。

 また新研究部門・研究センターは、それぞれ下記 の研究ミッションによって特徴づけられる。

社会防災研究部門:社会の災害安全性向上のため の総合防災に関する方法論の構築
地震災害研究部門:地震の発生、強震動の生成から、建物・都市基盤施設の被害に関する基礎的・ 応用的研究の展開
地震防災研究部門:地震発生ポテンシャルの長期 予測と地震災害の長期予防法の構築
地盤災害研究部門:水際低平地から丘陵地、山地 に至るまでの地盤災害の学際的基礎研究とその適用
地盤災害研究部門:水際低平地から丘陵地、山地 に至るまでの地盤災害の学際的基礎研究とその適用
気象・水象害研究部門:大気・水に関する現象や それに伴う災害の発現機構解明と予測及び災害軽 減のための基礎確立
流域災害研究センター:観測実験研究に基づく流 域・沿岸域における自然災害の防止・軽減および 環境保全策の構築
地震予知研究センター:観測研究に基づく海溝型巨大地震および内陸地震予知
火山活動研究センター:観測研究に基づく噴火予 知手法および火山活動評価手法の開発
水資源環境研究センター:地球、流域規模での 水・物質の動態把握と社会的・生態的環境影響評価
巨大災害研究センター:危機管理による巨大災害 の減災
斜面災害研究センター:地すべりによる斜面災害 の危険度評価・軽減と文化自然遺産の保護

2.4 研究グループと研究部門・センターとの関係

 各研究部門・センターは、新しく創設した研究グ ループのいずれかに属し、グループ内での連携を推 進する。両者の連携関係は図3に示す通りである。


図3 研究部門・研究センターの研究グループへの参画

2.5 全国共同利用・国際研究拠点体制

 第1期中期計画において、「防災に関するわが国 唯一の全国共同利用研究機関、また災害科学と防災 学に関する国際研究社会において我が国を代表する 研究機関として、共同研究、突発災害調査、研究ネ ットワーク、災害データベースの構築にリーダーシ ップを発揮するとともに、世界の防災研究に関する 拠点とし活発な国際交流を展開する」ことを公約し た。このうち国内研究展開の充実に対しては、現在 保有する4つの国内客員ポストを全国共同利用にお ける「長期滞在型研究の推進」に、国際研究展開の 充実に対しては、現在保有する2つの外国人客員ポ ストを「防災研究所の研究ポテンシャルプロモーシ ョン」に、それぞれ明示的に充当する。また、流域 災害研究センター(宇治川オープンラボラトリー) を中心に海外からの留学生・研修生を受け入れ、国 際防災研修事業を展開することから、防災研究と防 災技術実践に関する海外移転の実現に努力する。加 えて斜面災害研究センターを中心に、斜面災害軽減 に関する国際共同研究の企画調整等をはかる。

2.6 実験観測所施設の運営体制

 防災研究所は、地震関連、気象・水象関連の研究 を中心に、計15の隔地実験所・観測所施設を保有し、 災害学理の追求の基礎となる実情報の取得と提供に 永年にわたって貢献してきた。本来業務である実験 観測データの獲得と管理に加えて、これまでも学 部・大学院講義科目における活用、全国共同利用に よる研究、産官学連携による研究、研修事業、市民 への啓発活動等の拠点としての役割も担ってきた。 これら隔地施設のフィールドステーションとしての 高いポテンシャルを全国共同利用による研究などに さらに有効に活用するため、また、取得データの社 会還元を効率的にはかるために、データ収集・管理 に対するITインフラの充実を図り、多様な形態をな すデータ利用に耐えうる体制を充実する。 施設運営に関しても、所内での融合的な利用に加 えて、全国共同利用研究における柔軟かつ機動力の ある利用を可能とする体制を確保するために、研究 グループがこれら施設の運営母体となる組織に組み 替える。また、研究グループと諸施設の有機的連携 によって、各施設がもつ特長を活かしつつ長期的展 望に立脚した施設運用体制を構築する。表1に、各 実験所・観測所と研究グループの関係を示す。

3.期待される成果

 本改組によって期待される成果は下記のようにまとめられる。
(1) 研究グループの創設によって、第1期中期計画 で公約した研究の実行体制が強化される。その 帰結として、防災研究とりわけ、社会のニーズに 応えるために設定した防災プロジェクト研究の 促進を飛躍的にはかることができる。
(2) 部門とセンターがもつべき役割を明確にすると ともに、それを包含する研究グループを創設する ことにより、基礎研究と応用研究という研究所の 二本柱を明確に意識した研究展開がはかられ る。またこれは、個人の研究業績評価に対する 透明性と公平性を確保できる体制の構築に寄与 する。
(3)  研究グループを単位とする人事交流を展開する ことから、理学、工学、人文社会科学等をまた ぐ実質的な融合研究体制が結実する。
(4)  グループが責任を負う運営体制を整備すること から、長期的展望にたって実験観測体制と運営 が強化される。その結果、全国大学研究利用プ ログラムの充実がはかられる。
(5)  保有する客員ポストを、防災研究所が推進する 研究のPR活動の一環としても運用することか ら、全国大学共同研究利用プログラムや海外研 究者との共同研究が促進され、防災研究所が蓄 積してきた研究成果を国内外に普及させる起爆 剤となる。
(6)  流域災害研究センターや斜面災害研究センター が主導する、官学連携や国際連携による防災研 修や実習プログラム等を通じて、市民や海外に 対する防災啓発活動が促進する。

表1 研究グループによる隔地実験所・観測所の運営

上 宝 観 測 所
北 陸 観 測 所
阿武山観測所
鳥 取 観 測 所
徳 島 観 測 所
逢坂山観測所
屯鶴峯観測所
宮 崎 観 測 所
桜 島 観 測 所
地震・火山グループ
宇治川オープンラボラトリー
穂高砂防観測所
大潟波浪観測所
潮岬風力実験所
白浜海象観測所
大気・水グループ
徳島地すべり観測所 地盤グループ