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 2.部門・センターの将来構想

2.6 災害観測実験センター


1.部門・センターの目的
 地球社会の調和ある共存にとって大きな脅威となる自然災害を防止、軽減するための研究の基本は、地球社会にインパクトを与える多様な自然現象を観察し、観測・実験・モデリングの協働を通じて災害学理を明らかにすることである。本センターは、気象災害、水災害、地象災害に関わる現地観測、実験施設を統括して全国共同利用施設とし、異相間相互作用の研究を核として学際研究を推進することにより、多様かつ複合化する災害過程を予測して災害リスクの軽減を図ることを目的としている。

2.部門・センターの目的の変更必要性の理由と新たな目的
 変更する理由はない。
(補足コメント)
 自然のプロセスにおける揺らぎと偏り、特にそれらの時空変動特性と地球社会の関わりが、防災学という学問分野の成立を要請し、その持続的発展の駆動力となっている。このような視点に立つとき、防災学研究の拠点を標榜する防災研究所の学術基盤を担保する本センターの役割は極めて大きく、その目的自体は変更する必要はないと考えています。
 ただし、上記の目的をより実効あるかたちで達成するには、部門とセンターの枠を超えた協働(運命共同体として評価も受ける)の仕組みの整備や、隔地観測所の在り方に関する理念の再検討と財源確保スキームの整備、産・官・学連携研究推進の仕組みの整備など、所内マネジメント体制を抜本的に再構築する必要がある。  また、研究内容においては、防災研究に特定せず、環境マネジメントを前面に打ち出した防災学を推進すべしという意見もある。ただし、環境と調和した防災というパラダイムは、知識社会では「自明のこと」(暗黙の理解がある)として、目的を変更することはしていない。

3.部門・センターの現在の研究活動に即した目標と達成したい成果等、および、5年程度の中期目標とそれ以上の期間の長期目標
(5年程度の中期目標)
研究に関する目標:
(1)地球社会における複雑流体系の災害ポテンシャル評価に関わる先導的および学際的研究の推進
(2)地域スケール複雑流体系の災害過程およびリスク軽減方策に関する共同研究の推進
(3)広域複雑流体系による災害過程および災害リスクの軽減方策に関する国際共同研究の推進
(4)知的資源の持続的蓄積と、それを活用した産・官・学連携研究および知識マネジメントの推進
教育および情報発信に関する目標:
(1)特色ある大型実験施設を活用した体験学習、研修、共同利用、地域連携および社会への情報発信(public outreach)の推進
(2)特色ある野外観測実験施設のネートワーキング化と、それを活用した体験学習、研修、共同利用、地域連携および社会への情報発信の推進
(3)オープンラボラトリーにおける知識シナジーを戦略的に推進するための仕組みの整備
施設設備および施設マネジメントに関する目標:
(1)野外観測実験施設における情報通信基盤の高度化
(2)IT(情報通信技術)を活用した先端的観測実験技術の開発
(3)ITを活用した観測・実験データベースの作成・共有
(4)オープンラボラトリー経営手法の開発と整備

(20年程度の長期目標)
(1)世界最先端の研究を遂行可能とする国際学術拠点を目指した組織の創造的再構築
(2)防災学における卓越した国際学術拠点を支える知識基盤の不断の強化;知識の蓄積・共有・協働、および人材育成
(3)災害過程の変遷を視野にいれた災害学理の創造的再構築、特に複雑系地球流体に関わる災害学理の体系化
(4)地域の多様な自然、生態系、文化、社会条件を考慮した災害リスクの軽減方策の高度化と体系化
(5)地球環境の保全を視野にいれた広域自然災害の予知・予防技術の開発、高度化と政策提言

4.部門・センターの目標を達成する上で、現在の分野・領域構成は適切かどうか。変更する場合の理由と構成
 必ずしも適切ではない。
(コメント)
現在のセンターの4研究領域は、気象、水象、海象および地象の全てに網を被せるようにデザインされている。しかし、この考え方は実は防災研究所の組織設計の基本になっているものである。したがって、特別な戦略目標がないと、スタッフ数が少ない本センターの役割はミニ防災研あるいはそれ以下にとどまってしまうおそれがある。
本センターの目的を達成するためには、広く社会に開かれたオープンラボラトリーとして機能し、防災学における卓越した国際学術拠点を目指す防災研究所の学術基盤を担保する必要がある。このことをより実効あるかたちで推進していくには、マーケティングを含めた知識シナジーの戦略的な推進と、弾力的なオープンラボラトリー経営体制の整備が不可欠である。
(具体的な提案)
(1)改組以来、教官定員数の制約によりスタッフの配置が行われていない「地震動観測実験研究領域」を廃止し、新たに、「協働観測実験デザイン領域(仮称)」を設置し、専任教官を配置することを提案する。  本専任教官は未来開拓型の産・官・学連携研究プロジェクトの推進を本務とする。そのため、科学政策、マーケティング、知識マネジメント等における豊かな学識、経験、ヒューマンネットワークを有することが求められる。
(2)土砂環境観測実験研究領域においては、地震予知研究センターおよび地震災害研究部門との協働を視野にいれて、高地震活動域における水際空間のリスク評価とリスク軽減に寄与し得る複雑流体系ダイナミクスの研究を強化する。
(3)本センターの使命を有効かつ適切に果たすためには、センターの4研究領域における教官配置のバランスに留意する必要がある。
(4)部門とセンターの協働を強化するために、部門所属の教官が特に関連の深いセンターの教官を兼務し、運命共同体として評価を受けるような制度(ダブルアポイント制)を導入する必要がある。
(補足)
 上記コメント及び提案は、現状の5部門5センターの枠組み内で、本センターが所期の目的を達成するために必要な最低限の整備要望である。その枠組みを解体して、各実験所・観測所を核とした研究が実施し得る枠組みの再構築も、防災研究所の特色を最大限にだせる改革と考えられる。

5.部門・センターの目標を達成する上で、現構成メンバーの専門分野でカバー可能か。不可能な場合に新たに必要な専門分野
 カバーできていない。
 未来開拓型の産・官・学連携研究プロジェクトの推進を本務とする人材が必要である。資格要件としては、科学技術政策、マーケティング、知識マネジメント等における豊かな学識、経験、ヒューマンネットワークを有することが必須である。国際的な視野、コミュニケーション能力も重要である。
 現在の5部門5センターの枠組みを解体し、再構築した場合においても、上記業務を全所的にマネジメントできる人材を確保するかどうかは、独立行政法人化された時に本研究所が生き残れるかどうかを左右するような重要な案件と思われる。

6.部門・センター内での大講座的運営の実態。大講座的運営のメリットとデメリット
 大講座的運営は徐々に浸透してきている。
 ただし、宇治川キャンパスの施設維持財源や、隔地観測所における教官および技官配置の在り方、施設整備および施設マネジメントの在り方などの課題は、一センターにおける運営の問題ではなく、全所的な視点と将来構想に基づいて、大胆な検討と果断な政策実施が求められる喫緊の課題である。
 制度面からも部門とセンターの協働を強化する必要がある。たとえば、部門所属の教官が特に関連の深いセンターの教官を兼務し、運命共同体として評価を受けるような制度(ダブルアポイント制)を導入してはどうか?

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