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第2編 新しい評価項目によるアンケート

1.背景

 防災研究所における研究活動に伴う諸経費の大部分は、国民の税金に依存している。したがって、防災研究所の全教官には、それに見合った研究成果をあげているかどうかを明らかにするという説明責任(アカウンタビィティ)が存在する。その評価方法については、従来のようにほかの学問分野と同じような学術的な評価によるもののほかに、防災研究所独自のものが、つぎのような理由から必要であろう。

 防災・減災研究は文化と文明に関係する学術研究である。前者は、災害の学理の究明であり、物理過程としての災害発生のメカニズムを明らかにしたり、防災機能、たとえば耐震構造物の設計法や河川堤防の強化方法の確立などです。後者は人間の営みに関係するものであって、社会の有り様によって変化するという特徴を有しており、防災学の確立である。たとえば、災害脆弱性とはどのような内容であって、社会の防災力を向上するにはどのようなことをしなければならないかとか、防災・減災を危機管理の一環として捉えたときに、その防災・減災システムの設計はいかにすべきかというようなことを含んでいる。そして、文明が進歩するということは、私たちが未だ気がつかない危険が存在するということであって、できるだけ先駆的な研究の推進によって未然に防ぐ努力が一層要求されるようになっている。このような背景を踏まえて、多くの人たちが考える防災研究の高い評価がどのようなものであるかを知ることは防災研究所が21世紀にさらに発展するために必須であると考えられる。その結果、不足している機能があればそれを補うような手立てが用意されなければならない。幸い平成15年度から独立行政法人に移行する予定であり、そこで具体的な取り組みが実現されることが期待できる。

 そこで、今回の自己点検・評価方法では外部の人たちの意見を取り入れた評価方法も採用することにした。具体的には政府と自治体の防災関係者、マスメディア・社会インフラ関連企業・高等学校・一般企業などの中堅幹部クラスを視野に入れた人選を行った。その結果、約200名に対してアンケート調査を依頼し、100名を超える回答を得た。そのときの依頼文は以下の通りである。

『時下,ますますご清祥のこととお喜び申し上げます.さて,突然でございますがお願いがございます.京都大学防災研究所では過去2回にわたり,自己点検評価(研究者が点検項目について自らを評価する)を実施致しました.その内容は同封資料にもございますように,ほかの研究分野と共通の設問で,教育・研究の成果を問うという内容から構成されています.しかしながら,防災・減災の目的が人的,物的被害を軽減することにある以上,その成果の実際面での評価も考慮しなければならないと考えております.今回,第3回の自己点検評価では,この点を含む設問を新設し,総合的な自己点検評価を行いたいと考えております.

 そこでその準備として,当委員会の各委員の意見をKJ法により整理し,同封のような評価項目の内容案を並べてみました.つきましては、恐れ入りますが各位におかれましては,つぎの3点についてご意見をいただきたく存じます.

1) これら広報をはじめとするA,B,C・・・・として示した評価項目で十分であるのか.不十分であればどのような評価項目を新しく追加するべきか.別紙1にご記入下さい.

2) それぞれの評価項目中,四角で囲った具体的な評価内容でよいのか.もし悪ければそれに代わる内容はどのようなものか、あるいは新しく付け加えるべき内容を別紙1にご教示下さい.

3) そのほかお気づきになった点をご指摘下さい.

ご多忙の折に大変恐縮でございますが,何卒ご協力賜りますようにお願い申し上げます.なお,返信用封筒は1010日までに投函していただくようにお願い申し上げます.』

このような手紙文にあるように、まず自己点検評価委員が評価項目案を提出し、これをKJ法を用いて分類したものを、外部の皆様からご意見をいただき、それを考慮して最終的にのような評価図を得たのである。

それに基づいて、所内の各研究者個人宛に、つぎのようなアンケートの以来を実施した。以下は依頼文の全文である。『自己点検評価委員会では,従来の自己点検評価項目が理学や工学などの他の学問分野のものと全く同じであることに懸念を抱き,この度,所外の一般の人々が防災研究の評価として妥当と考える項目について調査して参りました。調査方法の詳細は割愛させていただきますが,調査対象とした職業分野についても事前に偏らないように検討し,それに基づく依頼をさせていただいたところ,100名を超える所外の色々な分野の人々から回答を得ました。その結果をまとめたものが別紙添付資料(注:図1のこと)です。

そこで,AからMの記号を付けた大項目のなかで,ご自分が光っている,あるいは得意とする大項目を37つ選んでいただき,それらについて別紙添付いたしました回答用紙に,下記の要領および回答用紙に記載された「記入の仕方」と「ご回答の活用方法」に従って自己点検した結果を記入してくださるようにお願い致します。なお,選んでいただいた大項目の中で,長方形で囲った小項目に該当するものがない場合には,別途,自由にご意見を書いていただきたく存じます。

 なお,今後の予定はつぎの通りです.今回の結果を集計し,防災研究所の全体像としてまとめます。それを皆様のところにフィードバックし,ご自分の自己評価に活用していただくと共に(自己の相対化),ご自身が考えておられる評価と研究所全体の集計結果とを比較していただき,その結果についての考察をお寄せいただきます。当委員会はそれらをとりまとめ,組織としての自己点検評価を行い,報告書に記載する予定です。』

 今回の調査によって、まず1)防災研究所全体として不十分な課題が見つかる可能性と2)研究者個人の相対的な比較から、自分が置かれている位置が理解できることが期待できます。これらの作業は防災研究所の客観評価につながると考えています。


図1 Fig1.PDF

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