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4.9.2 研究領域の活動概要

U.都市・地域水文循環研究領域

教授 岡 太郎、 助教授 城戸由能、助手 浜口俊雄

@領域の研究対象
 都市及びその周辺地域における水収支・水循環、雨水・汚濁物質流出機構に関する基礎研究、水資源の開発・保全・永続的利用、都市水害の防止軽減法に関する研究を行い、都市・地域水文循環システムの基礎から応用までの体系化を目指している。

A現在の主な研究テーマ
1)都市及び自然丘陵地の水文素過程とそのモデル化
2)都市化に伴う水文循環システムの変化と熱・物質収支
3)バングラデシュにおける洪水対策に関する国際共同研究
4)地下水の開発と保全
5)都市の水環境の整備

B各研究テーマ
(1)植物の成長と水消費を考慮した水文素過程(岡・城戸・浜口)
 宇治川水理実験所に設置されているウエイイングライシメータ(重量測定式浸漏計)にトウモロコシ・ブロッコリー・カリフラワーなどを植栽し、植物の生育過程と水・肥料消費・土壌の浄化機能・地下水流出成分の水質変化等について観測研究を開始した。それらの結果より、トウモロコシの場合には、全植物乾燥重量の283〜389倍、穀果の1799〜3305倍の水が消費されたことが分かった。これらの観測結果は水の貿易収支を議論するための基礎資料として注目される。さらに、イオンアナライザーによる水質測定結果より、表層土に加えられた肥料のイオンが約2ヶ月後に地下水流出成分に混じって検出されるなど興味ある結果が得られている。

(2)都市・地域における汚濁物質流出機構の解明と水資源への影響予測        (城戸)
 水文循環過程に基づいた雨水と汚濁物質の流出機構のモデル化を行い、流域全体における水循環と物質循環を把握して都市化の影響を評価する。琵琶湖水系野洲川流域と鳥取市湖山池流域を対象流域として雨水および汚濁物質の流出に関する調査を継続的に行い、流入水域での物質循環モデルに基づき湖沼水質の変化を予測することで、水道水源や他の用途として利用される湖沼環境の保全・対策を評価した。晴天時に点源負荷として発生する汚濁物質に対して雨天時の非点源汚濁物質の流出は湖沼水質に短時間に集中した負荷となり、水質影響が大きいことを明らかにしている。

(3)バングラデシュにおける洪水対策に関する国際共同研究           (岡・城戸)
 バングラデシュにおける洪水対策のための技術移転と研究者の養成を目的とするプロジェクト(外務省・国際協力事業団)に参加し、同国の研究者・技術者に水文観測・データ処理法及び雨水流出解析法、洪水氾濫解析法に関する技術・研究指導を行っている。また、洪水現象の解明と洪水の利害得失を考慮した洪水対策について共同研究を行っている。さらに、科学研究費の補助を受けて、バングラデシュ及びインドアッサム・トリプラ・メガラヤ地方の気象特性を明確にするとともに洪水災害発生機構および・洪水対策法を検討している。特に、この2年間については、バングラデシュ北東部に多数分布している氾濫湖の消長について現地調査と数値解析を行い氾濫湖の挙動と洪水災害との関連性を明らかにした。また、水質調査・住民生活と洪水とのかかわりについて調査を行い人間生活に配慮した洪水水資源・環境対策法を検討している。

(4)地下水の開発と保全に関する研究 (岡・浜口)
 土砂災害・地盤災害・水資源問題と深い係りを持ち、土地利用変化に伴う環境アセスメントの面でも重要な意味を持つ地下水問題に対処するため、昭和43年度より琵琶湖東北部の高時−姉川扇状地に試験流域を設定して観測研究を行うとともに、数値シミュレーション法の開発研究を行ってきた。その後、差分法の他に有限要素法の応用手法、地盤沈下地帯での可能揚水量の推定のために準3次元モデルの開発に関する研究を行ってきた。
 さらに、沿岸帯水層における塩水侵入は地下水利用を脅かすものとして、その予測防御技術の確立が求められている。高知大学・九州大学・宮崎大学などと共同して、高知県春野町に調査・試験流域を設定し、水文観測を継続するとともに、電気探査・電気伝導度測定・各種水質調査および数値シミュレーションを行い、塩水侵入の防御技術に関する調査研究を進めている。
 また、離島・半島では、地下ダム以外に水資源を確保する旨い手立ては見当たらない。地下ダムが設置される事によって発生する地下水位の異常上昇の定量的予測及びその対策法、多孔体中の流況変化に伴う揚水量の減少機構、海水(塩水)侵入地区での塩水排除法について基礎的な検討を行っている。

(5)水文構造の時空間統計学的把握と地下水の流況管理               (浜口)
 地表や地下で見受ける様々な水文現象や水文地盤物性を時空間統計モデルとしてとらえ、その現象の時空間的特性を解明する。その下で、対象領域の地下水の時空間挙動を推定し、地下水資源としての価値・貯留効果・利用可能量を明確にして、本モデルの利用による地下水流況管理の有効性について検討を行っている。具体的には、予備的に現地でデータを収集し、それを基にして以下の手順で研究内容を構築した。地盤統計学のクリギング推定手法を用いて水文構造の空間統計モデルを表現し、さらにそれを時空間統計モデルへと発展させ、同時に水文構造の不確実性を評価する。これらを地下水分野へ特化して適用し、その有用性を検討する。また、物理モデルである準3次元地下水モデルと実際とのズレであるモデル誤差(空間不確定量)を表した地盤統計モデルの両者をベースとした物理・統計複合の地下水モデルを提案し、統計モデルのみの推定と複合モデルでの推定で結果を比較検討する
 これらの結果、時空間モデルを全て統計モデルで構築したところ、物理的な要素がないにもかかわらず、有限要素法での計算結果に酷似した地下水位の推定分布結果が得られた。よって、物理モデル解に匹敵する結果を、物理モデル無しに容易に推定する統計モデルを掲示することができた。また、同じく複合モデルで構築したところ、物理性を表現しながらも真の地下水位挙動に近い推定結果が得られ、物理モデルの精度を改善する統計的手法を提示できたと考えている。

(6)都市の水環境の保全と整備    (岡・城戸)
都市域での環境用水や緊急用水の需要水量の調査を行うとともに、貯留・浸透施設の設置等による水循環および物質循環の解析を行い、雨水および地下水の利用可能性について検討をおこなう。特に、都市域における微量化学物質等の発生・流出機構の解析を行い、都市域の水環境への影響予測を行うとともに、貯留雨水の汚染状況の把握、雨水排除と水質保全の両面から見た都市雨水制御のあり方について検討した。短時間降雨予測に基づいた緊急排水を行うことで浸水防止機能を保ったまま、初期汚濁を積極的に削減するための貯留施設の運用方法を提案した。また、再生利用や発生段階での汚濁物質抑制効果の評価をおこなうための技法についての研究を行っている。

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