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4.2.2 研究分野の活動概要

T.強震動学研究分野

教授 入倉孝次郎 、助教授 松波孝治
助手 岩田知孝非常勤講師:宮武 隆(東大・地震研)
研究担当:釜江克宏(京大・原子炉実験所)


@分野の研究対象と方針
災害に強い都市づくりを目指し、都市の地震災害に対する脆弱性を高精度に評価することを目的とした強震動予測の高度化に関する研究を行っている。そのためには地震波の発生源である震源特性の分析に関する研究、地震波の3次元媒質中の伝播に関する研究、それらの分析的研究を統合した形としての高精度な強震動予測手法の確立を目指す。

A現在の主な研究テーマ
震源のモデル化に関する研究、地下構造のモデル化と不均質媒質中の波動伝播に関する研究、及び強震動予測手法の確立に関する研究  震源モデル化に関する研究としては、強震記録に基づく震源の波形インバージョン、強震動予測のための不均質断層運動の特性化、破壊力学理論に基づく動的震源モデル、震源の相似則、震源近傍強震動と断層破壊過程の関係に関する研究をすすめ、地下構造のモデル化と波動伝播に関する研究では、表層地質の地震動へ及ぼす影響評価のための地震動伝播のモデリング、高精度グリーン関数構築のための地震動シミュレーション、地震動記録に基づく地盤の非線形応答特性に関する研究を、強震動予測手法の確立に関する研究としては、強震動予測レシピの構築、理論的・半経験的方法による強震動シミュレーション手法の開発、過去の地震の強震動評価および強震動と被害の関係を研究テーマとして行っている。

B各研究テーマ名
(1)震源モデルの構築に関する研究(岩田知孝)
高精度の強震動予測のための震源モデルの構築には実際に起きた地震の震源過程を詳細に知ることが必要である。強震記録を用いて2000年鳥取県西部地震や2001年芸予地震の詳細な震源過程を推定した。鳥取県西部地震では破壊開始から約3秒後に主要な破壊がはじまった。このような複雑な震源過程が震源域の強震動分布を支配しているという強震動予測の観点からの重要な視点を与えるとともに、前駆的な群発地震活動や詳細な速度構造モデル等の地球物理学的情報との比較により、この地震の発生に関する重要な知見を与えた。

(2)不均質震源特性の抽出と特性化震源モデルに関する研究            (岩田知孝)
 実記録から推定された不均質震源特性を強震動予測のための震源モデルの構築に生かすことを目的として、得られた震源モデルからその特徴を推定した。地殻内地震ではすべりの大きな、強震動を生成した領域(アスペリティ)サイズと断層面全体の比は地震規模に依らず一定であること、沈み込むプレート(スラブ)内地震では同規模の地殻内地震に対してアスペリティサイズが小さく、応力降下量が大きいこと、サイズ及び応力降下量には深さ依存性があることを示した。この研究は想定地震の震源モデル構築に大きく貢献している。

(3)動的震源モデルと強震動に関する研究(入倉孝次郎、岩田知孝)
2000年鳥取県西部地震は明瞭な地表地震断層を生じなかった。この事実を主断層の周辺において空間的にクラック(亀裂)が多数生じるモデル設定により、主断層から出される波動エネルギーがクラック面の摩擦に消費されることによって破壊進展を妨げる動的破壊過程による一解釈を行った。地震後に行われた地下構造探査によって明らかとなった地表近くの複雑なフラワー構造はこのようなモデルの妥当性を与えるものである。また、震源インバージョンによって得られたすべりの時空間分布から、地震時の動力学的パラメターの推定を行った。これらの研究成果は地震の破壊に関しての新しい知見を与えるとともに、強震動予測のための震源モデル構築の枠組み高度化に大きく寄与している。

(4)地震波伝播経路特性に関する研究(松波孝治)
地震波伝播経路特性及び地震波の減衰メカニズムの地域性を調べるため、和歌山群発地震記録のSコーダ波を用いて散乱減衰と吸収減衰を分離・評価し他地域の結果と比較した。当該地域では2Hz以下では散乱減衰が卓越し、一方16Hz以上では吸収減衰が卓越する。散乱減衰と吸収減衰の和としての全減衰は群発地震域の破砕度の高さを反映して他地域と比較して顕著に大きい。強震動予測において重要な地震波伝播経路特性の評価には、地殻構造の減衰特性の地域性の考慮する必要がある。

(5)近畿における強震動波形ネットワークの構築(松波孝治)
本プロジェクトの目的は、自治体、公益企業などが整備した計測震度情報ネットワークや強震計ネットワークから強震動波形データを収集し共通データベースとして整備するとともに、自治体等のデータ提供機関ならびに大学等の研究機関が大都市圏の強震動予測研究等に利用できるようにすることである。例えば、モデル化された地下構造の地震動への影響を実地震記録波形によって検証したり、さらに、自治体等の所有する詳細な地盤情報を活用することにより面的な地震波増幅特性の評価に寄与できることが考えられる。これまでに、大阪府と滋賀県の計測震度情報ネットワークと京都市消防局ネットの波形データを収集・整備した。大阪府は計47点、滋賀県は計50点、京都市は計13点である。今後、京都府、兵庫県、奈良県にも協力を呼びかけ、波形データの収集・整備を行う予定である。データは、公開用データサーバに蓄積されつつある。ウエブ上(http://wwwsms.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp)で地震リスト、震央マップ、観測点リスト、観測波形、最大加速度分布を見ることができる。

(6) 3次元小スパンアレイの構築と堆積地盤構造推定に関する研究         (岩田知孝)
 地震波は堆積盆地構造によって振幅の増大および震動継続時間の長大化が起こる。この地震波の堆積盆地における挙動を追跡するために、鉛直アレイを含む小スパンの3次元地震観測アレイを京都盆地南東部に設置し観測を開始した。地震基盤層まで達するボーリング孔を用いて堆積層内の地震波伝播速度構造調査を行うとともに、堆積層の地震波速度構造推定に用いられるアレイ微動観測法を同地点で行い、推定地下構造モデルの妥当性を示した。アレイデータは現在蓄積中であり、地震波の伝播性状や増幅特性を精度良く評価することに利用できる。

(7)強震動予測レシピの構築(入倉孝次郎、釜江克宏)
特定の活断層に起因する強震動予測手法を確立するために、震源及び地下構造モデルの分析に基づいた特性化震源モデルと地震波伝播特性を反映したグリーン関数の構築手法を整理し、誰でも使えるような形での強震動予測手法のマニュアル化(レシピ化)を行っている。これには震源や地下構造モデルの最新の研究成果を取り込むことができるとともに、歴史地震記録や既往の地震記録を合理的に説明することによって手法の検証と妥当性を評価するとともに、改良を加えている。

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