Index Next

 3.4 COE活動


3.4.1関連研究の概要

COEとは、卓越した研究拠点(Center of Excellence, COE)の略称で、特定課題の中核的研究機関あることを示す。我が国における研究活動の活性化のために特定研究課題の「卓越した研究拠点、COE」の必要性が平成7(1995)年に学術審議会から文部省に建議された。文部省はこの建議に基づき平成8年度から中核的研究機関支援プログラムを開始した。COE研究機関は、優れた研究者、研究環境、研究資金があり、国内外から研究者が集い、一層の研究の推進を図るための支援プログラムの適用を受けることができる。
防災研究所は自然災害およびその防災に関する多くの研究成果のみならず国内外において主導的役割を果たしてきたことが評価され、平成9 (1997) 年に自然災害研究の「卓越した研究拠点―Center of Excellence、」の研究機関として認められた。COE機関としての中核的研究機関支援プログラムは、研究高度化推進経費、非常勤研究員経費、外国人研究員経費(COE分)、国際シンポジウム開催経費、などからなる。以下に、COE関連経費による研究活動について報告する。

3.4.2研究高度化推進費

地震観測に基づく実時間地震危険度解析システムの開発
研究組織
研究代表者
 入倉孝次郎(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 佐藤忠信(京都大学防災研究所 教授)
 中島正愛(京都大学防災研究所 教授)
 澤田純男(京都大学防災研究所 助教授)
 本田利器(京都大学防災研究所 助手)
 岩田知孝(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
特に都市域における甚大な地震動災害の軽減や、一度巨大地震が発生した際に高密度化した都市の2次地震災害を防止するためには,地震動情報の正確な把握とそれに基づく危険度の評価を行うことが重要である。地震時における地震動被害の軽減防止を目的として、地震動を実時間で観測記録し、それらのデータをもとに地震危険度を推定するための解析装置の構築を目的としている。

(b)研究の方法
地震動観測システムは、宇治キャンパス内において地中及び地表に地震観測アレイを構築している。宇治キャンパスは黄檗断層から盆地内に約1km西に位置している。この地点において3次元の地震観測アレイを設置することは、単に強震動を記録するだけでなく、地震動被害に関係する周期帯域の堆積盆地内の地震動の伝播特性を把握し、盆地形状や堆積層の物性と地震動伝播の関係を明らかにすることに供することができる。本アレイにはそれに加えて建物内2点に配置された3次元のアレイ強震観測網を構築して地震観測を開始した。これによってボーリング孔を利用したVSP調査や当該地域におけるアレイ微動観測による堆積層地震波速度構造についての調査も行った。
 一方、実時間地震危険度解析をすすめるためには、各種の強震データセットとともに、その強震データから予測される震源及び地下構造モデルに基づく強震動評価手法の高精度化が必要とされる。このため,強震記録を使った震源モデル及び地下構造モデルの構築法に関する研究、それに基づく強震動評価手法に関する研究を行った。具体的には兵庫県南部地震や鳥取県西部地震の震源過程と強震動の関係についての研究をすすめ、震源・地下構造のモデル化とその妥当性の検証を行った。

(c)研究成果の概要
 本研究の研究成果は以下のようにまとめられる。
入倉孝次郎,岩田知孝,他:強震動予測のための修正レシピとのその検証,第11回日本地震工学シンポジウム論文集,pp.567-572, 2002.
Irikura, K., et al. : Prediction of strong ground motion for specific active-fault earthquakes, Proc. US-Japan Joint Workshop for US-Japan Cooperative Research in Urban Earthquake Disaster Mitigation, Aug. 2001, pp.36-45, 2001.
岩田知孝,関口春子:2000年鳥取県西部地震の震源過程と震源域強震動,第11回日本地震工学シンポジウム論文集, pp.125-128,2002.
岩田知孝:関西地震観測研究協議会記録を用いた強震動予測事例,関西地震観測研究協議会フォーラム資料集,pp.16-19, 2002.
岩田知孝,他:京都盆地東南部における小スパン3次元アレイ地震観測,日本地震学会秋季大会予稿集, P56, 2001.
岩田知孝,関口春子:強震動記録を用いた地震破壊過程の推定,強震観測ネットワークに関するシンポジウム資料集,日本地震学会強震動委員会,pp.11-16,2001.
小泉尚嗣,岩田知孝,入倉孝次郎,他:黄檗断層の地下構造調査,地震,55, 153-166.


(5102)COE条件付時空間場のシステム同定とそれを用いた構造物の自動損傷検出システムの開発
研究組織
 佐藤忠信(京都大学防災研究所 教授)
 鈴木祥之(京都大学防災研究所 助教授(現 教授))
 澤田純男(京都大学防災研究所 助教授)
 三村 衛(京都大学防災研究所 助教授)
 本田利器(京都大学防災研究所 助手)

(a)研究の背景と目的
 構造工学の分野でシステム同定の理論が応用されるようになったのは、昭和50年代の後半からであるが、実用的に使えるシステムとして運用され成功を収めているものは情報化施工システムの代表的な例であるシールドトンネルの掘削制御や地震の外乱に対する構造物の振動制御技術だけであり、ここで開発しようとしている構造物の健全度を実時間でモニターするようなシステムはわが国のみならず諸外国においても成功していない。このシステムを開発するためには、他の領域で開発されたシステム同定アルゴリズムだけでは不充分であるので、独自のシステム同定アルゴリズムの開発が必要となる。
 本研究では、研究者がこれまでに蓄積したシステム同定のノウハウを持ち寄り、時空間場のシステム同定方を体系化するとともに構造物の健全度と損傷度を自動的に検出できるシステムを開発する。そのためには、感度解析・数値解析の安定性評価・解の存在性等、理論的に取り組まなければならない問題は山積している。本研究では、現実の構造工学問題に同定アルゴリズムを適用できるシステムを整備し、それを公開することによって、研究成果を国際社会に還元することを目的としている。

(b)研究の方法
 前述のような背景に鑑み、構造システム同定に利用されている既存のアルゴリズムについての現状を調査し、集大成した後、研究分担者が独自に開発している適応型かルマンフィルター、忘却機能を有するニューロカルマンネットワーク、時空間場の条件付きシステム同定アルゴリズム等の最新のシステム同定アルゴリズムを高速演算処理装置上で実行できるシステムを開発する。開発したシステムを用いて、構造物の健全度と損傷をリアルタイムで自動的に検出できる可搬型のシステムを構築する。

(c)研究成果の概要
適応型カルマンフィルターを用いて非線形構造系の動特性を実時間で同定するためのアルゴリズを開発しその有効性をシミュレーションで確認した。さらに、H無限大フィルターに観測データの忘却機能を付加したアルゴリズムを開発し、非定常特性を有する構造系の動特性を時々刻々と同定するための方法論を確立した。また、振動台を用いた模型構造物の振動実験結果を利用して、開発した構造同定アルゴリズムの有効性を検証した。

(d)成果の公表
 本研究の研究成果は以下のようにまとめられる。
T. Sato and K.Takei : Development of a Kalman Filter with Fading Memory, Structural Safety and Reliability, pp.387-394, 1998.
T. Sato and K.Qi : Adaptive H∞ Filter : Its Application to Structural Identification, ASCE Journal of Engineering Mechanics, Vol.124, No.11, pp.1233-1240, 1998.
K.Qi and T. Sato : Structural Identification Using Neural- H∞ Filter,第10回日本地震工学シンポジウム論文集, pp.2297-2302, 1998.
T. Sato and S.Tanaka : A Hybrid Structural Control Experiment Using Variable Damper, Proceedings of the Second World Conference on Structural Control, Vol.1, pp.387-396, 1998.
K. Qi and T. Sato : H∞ Filtering Technique and Its Application to Structural System Identification, Proceedings of the Second World Conference on Structural Control, Vol.3, pp.2149-2158, 1998.


文化遺産など社会的価値の高い地区における地すべり災害予測の研究
研究組織
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 千木良雅弘(京都大学防災研究所 教授)
 奥西一夫(京都大学防災研究所 教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 末峯 章(京都大学防災研究所 助教授)

(a)研究の背景と目的
IDNDR特別事業の一環として実施してきた「華清池の地すべり災害予測」の研究が世界的に評価され、この研究を発展される形でユネスコと国際地質学連合(IUGS)合同の国際地質対比計画「文化遺産及びその他の社会的価値の高い地区の地すべり災害予測と軽減のための国際共同研究(IGCP-425)」が採択され、京都大学防災研究所地盤災害研究部門を中心に世界30ヶ国の参加を得て、平成10年度より開始されている。本研究においては、これまでに開発した地震地すべり再現試験機や地すべり計測機器を用いて、IGCP-425の中心課題である 1)長距離運動地すべりの運動速度・運動距離の予測法の確立、2)地すべりの発生規模、発生危険度を予測するための実用的かつ高精度の斜面監視システムの確立、3)地すべり前兆現象及び地すべり危険個所の地質学的判定方法の開発、の研究を現地調査、観測、室内試験に基づいて実施した。

(b)研究の方法
本研究は、その研究の中核となる地すべり運動予測のための試験機「地震時地すべり再現試験機」が、防災研究所によって開発され、すでに実用段階にあることから、今後の研究の実施により飛躍的に発展しうる態勢にある。また、本研究は、IDNDR後の主要な研究テーマとして国際的注目を集め、京都大学防災研究所を中心として世界的な研究協力体制が確立されており、国際的な支援を受けた強力な研究の推進と研究成果の世界的活用が期待できる。

(c)研究成果の概要
(1)福島県豪雨災害における西郷村の長距離運動地すべりや地震時に発生する高速長距離運動地すべりを対象として、運動速度・運動距離の予測法の確立を目的としてリングせん断試験を実施し、すべり面液状化の発生条件、発生メカニズム、すべり面液状化から全層液状化に至るメカニズムについて調べた。
(2)徳島県善徳地すべり地で長期実施している精密地すべり移動観測結果と水文、地下浸食量観測に基づき、長期クリープの原因として地下浸食が作用していることを実証した。
(3)ペルーマチュピチュ遺跡の大規模地すべり、中国華清池地すべりおよび、岡山県備中松山城の岩盤崩落の現場を調査し、地すべり前兆現象及び地すべり危険個所の地質学的判定方法の開発のための基礎調査を行った。
また、IGCP-425グループの研究成果の発表会および研究打ち合わせを1999年9月にパリのユネスコ本部において開催し、研究成果をユネスコアーカイブとして出版した。

(d)成果の公表
Furuya, G, K. Sassa, H. Hiura, and H. Fukuoka : Mechanism of creep movement caused by landslide activity and underground erosion in crystalline schist,Shikoku Island, southwestern Japan, Engineering Geology, Vol.53,pp.311-325,1999.
Furuya, G., K. Sassa, H. Hiura, and H. Fukuoka : The mechanism of creep movement caused by landslide activity and under- ground erosion in crystalline schist, Zentoku, Shikoku, Japan, Proc. Internatio- nal Symposium on Slope Stability Engineer- ing−IS - Shikoku'99, Matsuyama,Japan, "Slope Stability Engineering,"A.A. Balkema, Vol.2, pp.1169-1174,1999.
Okada,Y.,K.Sassa and H.Fukuoka: Stress condi- tion and consequence of liquefaction on weathered granitic sands. Proc. Interna- tional Symposium on Slope Stability Engi- neering-IS-Shikoku'99,Matsuyama,Japan, "Slope Stability Engineering," (Yagi, N., T. Yamagami and J.C. Jiang, eds.) A.A. Balkema, Vol.1, pp.577-582,1999.
Sassa,K.: Mechanism of Flows in Granular Soils.斜面セッション招待講演, GeoEng 2000, Melborne, Australia, 32p. (in Print) 2000.
Sassa,K.: Field Investigation of the Slope Instability at Inca's World Heritage in Machu Picchu,Peru,International Newsletter "Landslide News", pp.37-41,2000.
Sassa,K.(ed.): UNESCO-IUGS IGCP Project No.425 Landslide Hazard Assessment and Mitigation for Cultural Heritage Sites and Other Locations of High Societal Value - Reports and Sub-project Proposal, UNESCO Archive CLT-99/CONF.806/proceedings, 156p. 1999.
Vankov, D.A. and K. Sassa: Dependence of pore pressure generation on frequency of loading at sliding surface. Proc. International Symposium on Slope Stability Engineering - IS-Shikoku'99, Matsuyama, Japan, "Slope Stability Engineering",A.A.Balkema, Vol.1, pp.601-606,1999.
Vankov, D.A. and K. Sassa: Mechanism of earth- quake-induced landslides on almost flat slopes studied with a ring shear apparatus. Journal of Natural Disaster Science, Vol.21, No.1, pp.23-35,2000.
Wang, F.W., K. Sassa and H. Fukuoka: Geotech- nical simulation test for the Nikawa landslide induced by 1995.1.17 Hyogoken- Nambu earthquake. Soils and Foundations, Vol.40, No.1, pp.35-46,2000.
Wang, G.H. and K. Sassa(1999): Effects of density, stress state and shear history on sliding-surface liquefaction behavior of sands in ring-shear apparatus. Proc. International Symposium on Slope Stability Engineering - IS-Shikoku'99, Matsuyama, Japan,"Slope Stability Engineering,", A.A.Balkema,Vol.1, pp.583-588.
岡田康彦,佐々恭二,福岡 浩:大阪層群砂質土の液状化挙動. 地すべり, Vol.36, No.3, pp.91-98,1999.
佐々恭二,福岡 浩,守随治雄:世界遺産インカのマチュピチュ都市遺跡(ペルー国,クスコ州)の地すべり危険度調査,(社)日本地すべり学会第39回研究発表会講演集,pp.51-52,2000.
佐々恭二,汪 発武,王 功輝:リングせん断による高速地すべりのメカニズム−福島県西郷村稗返地区の高速長距離運動地すべりについて−,地すべり学会・地すべり学会東北支部シンポジウム・地すべり発表討論会「平成10年度斜面災害・土砂災害の特徴と実態」, pp.38-49, 1999.
佐々恭二,汪 発武,王 功輝:リングせん断による高速地すべりのメカニズム−福島県西郷村稗返地区の高速長距離運動地すべりについて−. 論文集名:地すべり学会・地すべり学会東北支部シンポジウム・地すべり発表討論会「平成10年度斜面災害・土砂災害の特徴と実態, pp.38-49,1999.


3.4.3 非常勤研究員(COE分)による研究活動

COE非常勤研究員の研究活動概要
(a)総合防災研究部門
防災社会構造分野:
畑山満則(平成12〜13年度)
(平成14年度より総合防災研究部門・助手)
活動内容:自治体・地域コミュニティーにおけるリスク対応型地域空間情報システムに関する検討を行った。具体的には、神戸市長田区において、災害時と平常時で供用できるマニュアル作成に関する知見を得た。また、神戸市長田区真陽地区防災福祉コミュニティーにおいて、災害時での独居老人の安否確認の情報化について研究し、独居老人管理システムを構築した。また、神戸市長田区、富山県婦中町の総合防災訓練において緊急時情報伝達システムのプロトタイプを開発し、その骨格を示した。これらの知見をもとに、アジア版時空間地理情報システムの開発に関する研究を行った、具体的には日中共同研究において、空間情報と時間情報の統合に関する知見をまとめた。またトルコDuzce市(トルコ地震被災地)に、時空間地理情報システムDiMSISを用いた復興状況分析・モニタリングシステムを構築し、多国間共同のシステム開発に関する知見を得た。

(b)地震災害研究部門
金尾伊織(平成12年度)
活動内容:梁の構面外座屈、座屈後の不安定特性、必要補剛間隔という、いずれも兵庫県南部地震後問題視された課題に、三次次大たわみ弾塑性摂動解析法を用いた検討から、現実的な回答を与えることができた。梁の塑性変形能力向上に寄与するとされる断面切り欠き法の適用に付随する構面外座屈への懸念に対しては、それが全く問題にならないばかりかむしろ座屈に対してより安定するという知見を得た。また従来の耐震設計で用いてきた諸規定が複数回の繰り返し変形を考慮していなかったことによる不備を指摘し、このような変形を考慮してもなお梁の挙動が安定でありうるための補剛間隔を明快な定式化によって提示した。これら成果はいずれも鋼構造耐震設計の高度化に寄与する内容である。またこれら成果を、日本建築学会構造系論文集に2編、米国土木学会(ASCE)ジャーナルに1編掲載した。
謝 強(平成13年度)
活動内容:都市密集地域における老朽建物を互いに連結することからその応答低減を図るという耐震改修法を提案した。一連の震動台実験を実施することから、応答低減効果は連結部材の特性と建物特性の相関に依存することを明らかにしたうえで、応答低減を最大化するために連結部材が持つべき特性を、最適問題とした定式化から解析的に導くことができた。また、解析解の妥当性を検証するために、衝突を含む精緻な数値解析コードを開発し、震動台実験結果と比較した。連結による耐震改修という新しい視点にたった手法に具体的な指針を与える内容である。またこれら成果を、日本地震工学シンポジウム他において発表した
邸 元(平成12〜13年度)
活動内容:表面波が伝播する地盤内では地表面近傍のせん断応力が大きくなるため、液状化現象の発生が広範囲に及ぶことが懸念される。こうした現象を数値解析と振動台実験を行うことによって明らかにすることが、Di Yuan氏を招聘して共同研究を行った主目的である。申請者が十数年にわたって開発してきた、液状化解析の汎用プログラムに地盤の3次元的な広がりを考慮し表面波が入射するような場合に対しても解析可能なアルゴリズムを付加する為の研究を大きく推進させた。

(c)地盤災害研究部門
西山賢一(平成12〜13年度)
活動内容:豪雨によって多発する斜面崩壊の地質的素因の事例調査が効率的に進められた。火山岩地域における代表的豪雨災害である昭和57年長崎災害の斜面災害では、火山岩に特有の水理地質構造?溶岩と凝灰角礫岩の互層?が斜面崩壊の素因であることが明らかとなった。また、やはり、堆積岩地域の代表的豪雨災害である昭和47年天草災害の斜面災害では、堆積岩に特有の水理地質構造?亀裂の多い砂岩が低透水の泥岩の上に載る構造?が斜面崩壊の素因であることが明らかになった。これらの事例的研究は、COE非常勤研究員の2年間にわたる地道な調査によって明らかになったものである。
王 功輝(平成12年度)
活動内容:地すべり危険度軽減に関するUNESCO/DPRI- MoU(合意覚え書き)を推進するため、国内外の都市化域の自然斜面、人工地盤などで豪雨、地震などによりしばしば発生する流動性崩壊のメカニズムに関する研究をリングせん断試験機を用いて実施した。  大阪層群を用い、繰り返しせん断時における液状化までに消費されるエネルギーの振幅依存性の試験を行った。また、珪砂を用いた応力制御条件で流動化過程の再現を試み、流動化に及ぼす細粒分の割合の依存性を調べ、特に流動化の発生過程と高速長距離運動過程のメカニズムの研究を行った。
また、平成13年1月に東京で開催されたUNESCO-IGCP東京シンポジウムの組織作業に積極的に貢献した。
王 功輝(平成13年度)
活動内容:地すべり危険度軽減に関するUNESCO/DPRI- MoU(合意覚え書き)を推進するため、国内外の都市化域の自然斜面、人工地盤などで豪雨、地震などによりしばしば発生する流動性崩壊のメカニズムに関する研究をリングせん断試験機、試験土層を用いて実施した。 広島豪雨災害について流動性崩壊の発生の可能性を簡便な方法で判定する方法とその災害予測法の研究を実施した。また大阪層群試料を用い、 地震時地すべり再現試験を繰り返し、地震時斜面安定解析を行い、仁川地すべり地の対策工事としてすべり面液状化に効果を発揮しうる抑止杭の必要条件について検討した。この成果は実際の対策工設計に活かされることとなった。また、平成14年1月に開催されたUNESCO-京都大学シンポジウムの組織作業に積極的に貢献した。
Tewodros Ayelee Taddese(平成13年度)
活動内容:地すべり危険度軽減に関するUNESCO/DPRI- MoU(合意覚え書き)を推進するため、土砂の流動化と長距離運動機構に関する実験的研究を模型実験とリングせん断試験を通して実施した。
その他、岡山県・備中松山城の観測機器の維持管理、データ解析および模型実験を行った。これらの成果は2002年1月のユネスコ−京都大学シンポジウムで公表された。
さらに平成14年1月に開催されたUNESCO-京都大学シンポジウムの組織作業に積極的に貢献した。

(d)水災害研究部門
中山大地(平成12年度)
活動内容:水災害研究部門では、水災害に関するネットワークデータベースの構築を独自に推進しており、当部門のホームページから、河川に関する共有情報、水災害オンライン情報(1995?2001年)、河川水位・流量・水質や降雨、気象条件などに関するリアルタイム情報などにインターネット上でアクセスできるようになっている。中山大地氏は、これらの情報提供の拡充支援を行うとともに、日本及び世界の水文観測データに関する情報の収集・公開、特に、東南アジア・太平洋地域の主な河川の極値(年最大・年最小)流量および多数の地点の極値降水量のデータベースシステムHEAP(Hydrological Extremes in Asian Pacific)を構築・拡充した。
石田亜紀代(平成12年度)
活動内容:水災害研究部門では、水災害に関するネットワークデータベースの構築を独自に推進しており、当部門のホームページから、河川に関する共有情報、水災害オンライン情報(1995〜2001年)、河川水位・流量・水質や降雨、気象条件などに関するリアルタイム情報などにインターネット上でアクセスできるようになっている。石田亜紀代氏は、これらの情報提供の拡充支援を行うとともに、日本及び世界の水文観測データに関する情報の収集・公開、特に、アジア地域の大河川域の水災害研究に不可欠な衛星・現地観測データから編集された各種格子点降水量情報について、それらの特徴と最近の情報入手先を整理しインターネット上での参照を可能にした。

(d)地震予知研究センター
笠谷貴史(平成13年度)
活動内容:平成12年末から平成13年1月にかけて兵庫県北部で発生した群発的地震活動の震源域周辺、大山を含む地域、および、鳥取県西部地震震源域周辺の3つの地域で、非常勤職員に協力の下、9月から11月にかけて広帯域MT観測を実施した。これらの観測に当たっては、本観測はもちろん観測予定地の予備調査等にも協力を得て効率的に観測を進めることができた。また、これら3地域の内、兵庫県北部周辺の測線での観測データの時系列解析を担当し2次元比抵抗構造モデルを推定した。群発的地震の震源は高比抵抗領域及びその下部に位置する低比抵抗領域との境界付近で発生していることを明らかにした。その成果は以下の論文により公表されている。 笠谷貴史,大志万直人,塩崎一郎,中尾節郎,矢部征,近藤和男,藤田安良,宇都智史,吉田賢一:兵庫県北部域での地殻比抵抗構造, 京都大学防災研究所年報, 第45号, B, 571-576, 2002.

(e)巨大災害研究センター
柄谷友香(平成12年度)
活動内容:社会の防災力を導入した防災事業の効果を費用便益解析する方法の必要性が高くなり、平均寿命を社会の防災力の指標とする新手法を開発し、巨大災害に適用させ、これまで定量的に評価されてこなかった間接被害額と継続期間に関する成果を挙げ、米国、台湾などの諸国でも評価されてきた。しかし我が国でこの評価法の適用を認められるため、巨大災害の間接被害額と人命の社会的価値の評価についてグローバル・スタンダードの評価法に発展し、世界の防災に寄与する。

3.4.4招聘外国人研究員(COE分)による研究活動

COE招聘外国人研究員の研究活動概要
(a)地震災害研究部門
Beltzer Abraham(平成13年度)
招聘期間:平成13年7月20日〜10月19日
活動内容:防災研究所地震災害研究部門では、地震学、土木工学、建築学の研究者が共同して、強震時における地震動の同定と予測の研究を主要課題の一つとしてとして強力に研究を推進している。この過程で地震波の伝播経路に沿う波動減衰特性を的確に把握することの重要性が認識された。招聘者は粘弾性体、複合材料、ランダム媒質の中を伝播する波動の減衰特性を長年研究しており、その成果は世界的に認められている。招聘者が開発した「因果性理論に基づくランダム媒質中の波動伝播減衰評価法」を当研究部門で開発してきた地震動の予測プログラムに組み込むことによって、強震動の波形予測の精度を向上することを可能にした。また、構造物の耐震設計に用いる入力地震動のシミュレーションには、地震動の位相特性をモデル化しそれを解析関数として表現しなければならないが、招聘者の開発した記号解析アルゴリズムを導入することにより、それを可能とさせる研究に大きく寄与した

(b)地盤災害研究部門
Jan VLCKO:スロバキア・コメニウス大学自然科学部・助教授
招聘期間:平成12年10月1日〜平成13年2月28日
研究課題:文化遺産と地すべり災害予測
研究概要:佐々が中心となって推進しているユネスコ・国際地質学連合合同事業・国際地質対比計画(IGCP-425)「文化遺産と地すべり災害予測」に関連して、スロバキア国スピス城の岩盤クリープと岡山県・備中松山城の岩盤地すべり、善徳地すべり地の大規模結晶片岩地すべりの観測データ解析、精密高耐久性観測機器開発を行った。また、2001年1月に東京・日本学術会議会議室で開催された、「地すべり災害危険度軽減と文化・自然遺産の保護」に関する国際シンポジウムの論文の査読、編集を行った。また、同会議で設立が決議された国際斜面災害研究機構(International Consortium on Landslides = ICL)の設立の準備に関わる作業を行った。
Jan VLCKO:スロバキア・コメニウス大学自然科学部・助教授
招聘期間:平成13年11月1日〜平成14年3月31日
研究課題:文化遺産と地すべり災害予測
研究概要:佐々が中心となって推進しているユネスコ・国際地質学連合合同事業・国際地質対比計画(IGCP-425)「文化遺産と地すべり災害予測」に関連して、スロバキア国スピス城の岩盤クリープの変動データ解析と岡山県・備中松山城の岩盤地すべり、善徳地すべり地の大規模結晶片岩地すべりの地質調査、精密高耐久性観測機器設置とデータ解析を行った。また、2002年1月にユネスコ・京都大学が主催し、京都市で開催した「地すべり災害危険度軽減と文化・自然遺産の保護」に関する国際シンポジウムの論文の査読、編集を行った。また、同会議で設立した国際斜面災害研究機構(International Consortium on Landslides = ICL)の暫定企画委員会において同機構の運営方法の検討、同機構が実施する国際斜面災害計画(IPL)の設立に関わる作業を行った。

(c)大気災害研究部門
Horia Hangan(ホリア ハンガン):ウエスタンオンタリオ大学(カナダ)・助教授
招聘期間:平成12年1月29日〜2月5日
研究概要:「建物周辺気流のウェーブレットによる乱流構造の解析」と題した講演会を平成12年1月31日に防災研究所国際交流セミナー室において開催し、ハンガン氏が行っている研究内容の紹介と、日本側の研究者との情報・意見の交換を行った。また、滞在中に防災研究所の紹介、関連分野における研究者との交流、大気災害研究部門における研究内容と、ウエスタンオンタリオ大学との研究協力・交流に関する意見交換・打ち合わせを行い、建物周辺気流の乱流場における非定常流れ場の解析に関して共同研究を行ってゆくことを確認した。

(d)水資源研究センター
スロボダン P. シモノヴィッチ (Slobodan P. Simonovic):カナダ国西オンタリオ大学土木環境工学科・教授
招聘期間:平成13年6月1日〜9月24日
研究課題:地球規模の水循環を考慮した持続可能な水資源システムの管理
研究概要:近年の気候変動をみると降水、水資源、水利用分布の変化が予想される。招聘研究員は、システムダイナミックスの水資源への応用を提案し、洪水氾濫地域の管理計画、世界水資源動態などを発表、検討した。またそれを契機に、気候変動、流出モデル、水利用、社会活動を組み込んだ地球規模水資源システムダイナミックスの開発が議論された。滞在中に、災害保険に関する研究会、気候変動に関する研究会を開き、防災研究所のスタッフとの意見交換を行った。特に、地球上の降水分布、水利用分布など地域性の導入と気候モデルへの総合効果について、受け入れ教官と共同研究を進めている。その成果は平成14年11月に研究所間研究協定の調印として現れている。今後、世界を対象とした水資源システムの提案を行う予定である。
研究成果の公表:未定

Index Next