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 3.1.2地震予知計画


1.これまでの経緯
 京都大学は、1965年の地震予知研究計画開始よりこの計画に参画し、1973年には理学部に地震予知観測地域センターが設立され、防災研究所とともに地震活動、地殻変動等の各種観測研究を実施してきた。平成2年6月にこれらの組織が防災研究所地震予知研究センターに統合され、同センターがこれらの研究を継承し、実施している。平成5年度〜10年度までに実施された第7次地震予知計画では、
(1)地震予知の基本となる観測研究の推進
(2)地震発生のポテンシャル評価のための特別研究の実施
(3)地震予知の基礎研究の推進と新技術の開発
(4)地震予知のための体制の整備
を柱として、全国の国立大学及び政府関係機関の協力の下、研究が進められてきた。ただし、第7次計画実施中の平成7年1月17日に兵庫県南部地震が発生し、同計画が見直されている。その後、兵庫県南部地震の経験に基づいて、同計画のレビュー、学術会議地震学研究連絡会地震予知小委員会における議論や研究者有志グループによる「新地震予知研究計画」において地震予知研究の大幅な改革が提言された。平成11年度からは「地震予知のための新たな観測研究計画」として5年計画で研究が実施されている。この計画では、
(1)地震発生にいたる地殻活動解明のための観測研究の推進
(2)地殻活動モニタリングシステム高度化のための観測研究の推進
(3)モデリング
(4)本計画推進のための体制の整備
を柱として進められている。ここでは、平成12年以降に本研究計画事業費により実施された研究について、自己点検を行う。

2.地震予知のための新たな観測研究計画における研究と主な成果
 防災研究所では、地震予知研究センターを中心に、下記の研究を実施している。但し、数項目は予算化されておらず、各担当者及び地震予知研究センター内の他項目の予算により実施されている。

(1)地震発生にいたる地殻活動解明のための観測研究の推進
(ア)定常的な広域地殻活動
@地殻不均質構造の評価と大地震発生のモデリング
 全国共同の自然地震および人工地震観測として平成12〜13年度は北海道日高衝突帯の調査を実施した。また、2000年鳥取県西部地震の発生により、震源域において、稠密地震観測を実施した。平成13年度に西南日本におけるアレー観測を計画し、平成14年度からhi-netのデータも含めて、稠密アレー長期観測を実施している。
鳥取県西部地震の震源域では、これまでにない稠密な観測網により地震観測がなされ、震源域の不均質構造が、各種の方法で明らかにされてきている。また、人工地震観測では平成13年度に実施された東海−中部地下構造探査、平成14年度に実施された四国−中国横断測線による調査などで、列島横断トランセクトが得られつつある。これらの構造によって、プレートおよび内陸における詳細な構造が得られ、地震発生との関連が明らかにされつつある。鳥取県西部地震での人工地震探査では、上部地殻のみならず、上部マントルにおける顕著な反射面が得られ、内帯の深部構造に関する新たな知見が発見された。
跡津川断層付近においては、活断層、地震活動および地下構造との関連についての研究を継続的に実施してきた。この地域では地震活動と活断層の顕著な対応関係が見られる。また、断層クリープが見いだされている。さらに、GPSによる調査によって、新潟―神戸ひずみ蓄積帯の一部を形成していることが、明らかにされつつある。この地域では断層に沿う詳細な地震活動が求められた。また、地震発生層の下限付近と深さ20km付近に顕著な反射面があることがわかってきた。さらに、詳細な人工地震探査が期待される。
比抵抗構造は、地震波と違った面からの構造についての情報が得られる。特に、深部に存在する流体やマグマの情報を得るのに有効だと期待されている。全国の大学合同で各地の観測を実施しているが、なるべく地震の調査域と同じ地域を調査するように計画してきた。平成14年度は深部比抵抗構造調査を2000年鳥取県西部地震地域で実施した。MT法の観測環境としては良好とはいえないが、幸い観測期間中に大きな地磁気擾乱が発生し、この地域としては比較的S/N比の良い時系列データを取得することができた。また、鳥取大学と共同で2001年兵庫県北部群発地震地域においても深部比抵抗構造を実施した。さらに、島根県東部でも広帯域MT法の予備観測を実施した。
(イ)準備過程における地殻活動
@広域長期にわたる地殻活動の量的評価
 内陸活断層周辺の地震データを用いて、地震活動度の定量的評価を実施し、西南日本の主な活断層では、断層の影響範囲が約5kmであることを明らかにした。さらに、全国の98起震断層に適用し、活動度の比較を行った。断層の活動履歴が長くなるにつれ現在の地震活動度が低調になる傾向が認められた。ただし、山崎断層は例外的に地震活動度が高いことが注目される。
A活断層周辺の応力蓄積過程の研究
中部及び西日本のいくつかの代表的活断層周辺でそれぞれの断層に応じた手法を用いて、物理的コントラストや不均質が歪蓄積過程とどのように関連するかを調べてきた。歪蓄積過程の実態を解明するには基本的に長期のデータ蓄積を必要とするがその基礎データの取得と今後の観測展開に必要なデータの取得を進めてきた。
跡津川断層では稠密・群列地震観測網の改良を行ない、センブランス解析による反射の性質、S波反射波面と三次元速度分布の関係を明らかにしている。
花折断層では、稠密GPS観測網において、キャンペーン観測の繰り返しと2本の1周波連続観測線で、琵琶湖西岸断層群を含む断層南部周辺の歪蓄積状態を測定している。この地域は神戸・新潟を結ぶ高歪速度地帯中に位置している。断層から離れた部分も含む範囲に徐々に歪が生じていることが測られつつある。
鹿野吉岡断層を含む鳥取県東部で一連の広帯域MT観測による比抵抗構造調査を鳥取大学などと共同で実施した。微小地震発生下限を境として深部、浅部それぞれの比抵抗構造と相互のコントラストの存在が明らかになった。
B断層の回復過程の研究−野島断層および周辺活断層の深部構造の研究−
断層面の破壊−固着(強度回復)プロセス、断層深部構造と地震発生特性の関係、等を幅広い地球物理学・物質科学的アプローチから理解することが活断層における地震発生メカニズムを解明するうえで重要である。このような観点から野島断層解剖計画では、断層破砕帯に達する1800m孔を用いた繰り返し注水実験を行い、断層回復過程の検出を試みている。これまで、1997年2〜3月、および2000年1〜3月の2回、注水実験を実施し、断層周辺岩盤の透水係数がこの3年間に約50%低下したことが複数観測項目(湧水量、歪、自然電位、誘発地震の発生の時空間特性)から推定され、断層回復過程の進行が示唆された。2003年3〜5月、第3回目の注水実験を行い、野島断層の回復傾向がさらに進んでいるかどうかを検証する。注水実験開始(1997年1月)以前における断層回復過程については、S波偏向異方性の解析から比較的速い回復過程が推定されている。その他、注水誘発地震の解析による破砕帯構造および極微小地震の発生プロセスの研究、1800mボアホール地震データを用いた断層トラップ波の研究、アクロス(高精度人工振動発生装置)連続観測による断層周辺岩盤の弾性的性質の時間変動検出等を行っている。
C南海トラフ沿いの巨大地震の予知
南海トラフにおいては前回の活動以来50年以上経過し、次の活動へ向けてひずみエネルギー蓄積がすでに始まっているとされ、この地域の巨大 地震の発生予測は西日本の地震研究者の総力を上げて取り組むべき課題であると考える。地震予知研究センターでは、これまで南海地域の地震活動やGPS観測などを行ってきた。平成12年度より、研究項目を追加し、下記の項目について研究を進めている。
(a)沈み込み帯の定常活動活発域における海底地震観測
南海トラフ海域との比較対象として日向灘・琉球海溝域の活動様式を正確に把握するため、平成11〜12年度に、気象庁と共同で琉球海溝域での観測を行った。
(b)ヒンジライン付近のGPSトラバース観測と地殻変動の数値モデル化
紀伊半島の昭和の東南海・南海地震による隆起・沈降の変換帯を横断し、プレート相対運動に平行なGPSトラバース観測網(GEONET観測局3点分、全長約40km内に6〜7ヶ所)を設け、これを年1回程度の頻度で繰り返し観測し、詳細な変位・歪場の空間的変化を捉えようとするものである。さらに、地殻及び上部マントル構造を取り込んだ数値モデルを利用して、現在の固着域の下限を推定することを試みる。
平成13年度までに設置した10ヶ所の観測点からなる観測網において、平成15年3月に第3 回の観測を行う予定である。平成12〜13年度の観測データを解析し、1年間の変位を推定した。さらに、推定された変位場からプレート境界面上のカップリングのモデル化を行った。
(c)南海地震予知に向けた地下水観測
次の南海地震の予知に向けてこれらの井戸や温泉を中心に紀伊半島や四国において地下水の観測を行う。平成13年9月より、和歌山県印南町の2ヶ所の井戸において、水位・水温の連続観測を開始した。データは順調に取得されている。平成14年度からは、和歌山県龍神村、本宮町と四国太平洋沿岸においても観測を開始した。v 平成12年度に屯鶴峯観測所にボアホールを掘削し、間隙水圧の観測を開始した。これと地殻変動の比較観測を継続している。
昭和南海地震前の地下水変動の原因について、震源断層面及びその延長上におけるプレスリップの可能性について、モデル計算を行い検討した。
(d)地震波構造解析とNetwork-MT観測による比抵抗構
京都大学防災研究所を中心に蓄積された地震データ、さらには平成11年度実施及び今後予定の人工地震探査結果やレシーバ関数などを用いて、地震波速度構造、沈み込むフィリピン海スラブの形状などを推定する。特に、地震性のスラブが確認されていない四国以北に重点を置いた研究を行う。
南海トラフ陸域の地殻およびスラブ構造を求めるため、紀伊半島南部に位置する紀和観測点(KIS)において、レシーバ関数解析を行い、S波速度構造を求めた。以前求めた四国東部の石井観測点(ISI)のレシーバ構造との比較を行った。今年度は、西日本の広域の地震波速度トモグラフィー解析を行い、レシーバ関数解析結果と比較し、沈み込んだフィリピン海プレートのイメージングを行った。
沈み込むフィリピン海プレートまでの比抵抗構造を求めるため、東大地震研究所・神戸大学理・高知大学理と協力して、NTTのメタリック線と自作電極を用いて、紀伊半島内でのNetwork-MTの観測を2002年2月末から開始した。今年度も観測を継続するとともに、これと平行して、鳥取大学・高知大学と共同して四国東部での広帯域MT観測を実施した。現在、比抵抗構造解析を行っている。
(ウ)直前過程における地殻活動
@アフリカ金鉱山における地震予知の半制御実験
南アフリカの金鉱山では、深さ2〜3kmで行われている採掘による応力集中のため、断層上に応力集中が生じ、M3クラスの地震(震源サイズは約100m)まで発生する。それを、地震計・歪計・変位計のアレイからなる観測網で至近距離において記録し、その震源核形成過程を明らかにすることが本研究の主な目的である。平成13年度までに、Western Deep Levels鉱山の観測網から約100mで発生したM2の地震の前後の応力降下量やb値の変化から、地震による震源域のせん断応力の低下を検知することができた。また、地震直前の応力低下を示唆する変化もとらえられた。これは、震源核形成過程を示唆する現象であり、大変貴重なデータである。しかしながら、歪計では、地震直前の変化をとらえることはできなかった。
平成14年度には、新たにMponeng鉱山、 Tau Tona鉱山で多数の地震計・歪計・変位計のアレイからなる観測網の展開を始めた。
(エ)地震時及び地震直後の震源過程と強震動
@直下型地震の地震環境評価
 山崎断層の安富、大沢の2観測坑道での地殻変動観測を継続、GISを用いた地震活動の定量的評価として、地質構造や地形、重力等も勘案した解析を開始した。山崎断層の近傍で、浅井戸を利用した水位・水温観測を開始した。現地溜め込み方式で太陽電池と携帯電話によるテレメータ方式の導入を進めている。
山崎断層系において、比較的密度の大きな岩石が断層帯に存在する例を見つけ、その深さ分布を推定した。断層下数百メートルから数キロメートルの深さまで、重い岩石が存在する可能性が示された。
地震シナリオの高精度化を目的として、既往の地震の運動学的震源モデルから動的パラメータを推定することにより、特性化震源モデルのアスペリティ及びこれまで困難であった背景領域の応力降下量の与え方についての知見を得た。
 地震波伝播経路特性及び地震波減衰メカニズムの地域性を調べるため、和歌山群発地震記録のSコーダ波を用いて散乱減衰と吸収減衰を分離・評価し、他地域の結果と比較した。当該地域では2Hz以下では散乱減衰が卓越し、一方16Hz以上では吸収減衰が卓越する。散乱減衰と吸収減衰の和としての全減衰は群発地震域の破砕度の高さを反映して他地域と比較して顕著に大きい。これは強震動予測において重要な地震波伝播経路特性の評価には、地殻構造の水平方向への不均質性に起因する減衰特性の地域性を考慮する必要性を指摘している。  2000年鳥取県西部地震の初期破壊について詳しく調べた。初期破壊による波形は、余震のはじまりの波形とは全く異なっており、その規模に比べて、かなりの長周期成分が含まれる。初期破壊は約2.5秒続いたが、この継続時間はこれまでに得られている初期破壊継続時間と地震規模との関係を満たす。初期破壊の波形インバージョンを行い、初期破壊におけるモーメント解放量とその空間分布を求めた。初期破壊の断層面と主破壊の断層面は20°異なっていること、初期破壊と主破壊の間にはモーメント解放量のほとんどない所があること等から、初期破壊が連続して主破壊になったのでは無いことがわかった。初期破壊と主破壊のモーメントマグニチュードは、それぞれMw 5.5、 Mw6.6 と求められたが、卓越周期は両方とも4〜6秒であった。初期破壊の周期はスケーリング則から予想されるよりも長い。
鳥取県西部地震前に、その断層面付近において、1989、1990、1997年にM5.1〜5.4の地震6個を含む群発的な地震活動が発生しており、その領域は、すべり量の小さなところに対応していることが明らかになった。また、2000年鳥取県西部稠密合同観測データを用いたトモグラフィーにより、P波速度が大きくポアッソン比も大きい領域がすべり量の大きな領域を取り囲むように分布していることがわかった。さらに、精度の良い震源の再決定により、群発地震と本震の断層面が断層面と直交方向に数百メートルずれている可能性が指摘された(図1)。
鳥取県西部地震前後に、その断層の下部、モホ面付近で発生した低周波地震の震源過程を推定した。
 GPSの稠密観測により、2000年鳥取県西部地震後に、その断層の上部で余効すべりが発生したことが推定された。また、GPS観測により、山崎断層と花折断層のプロファイルを作成した。
直下型地震の予知に向けて、歪と地下水位の関係を広い周波数領域で求めることが目標であったが、地球潮汐や長期の歪変化を利用して、0.5日から20日までの面積歪に対する地下水位の応答を得ることが出来た

(3)地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発
(オ)観測技術
@高感度比抵抗変化計の開発
断層周辺での流体の動的挙動の解明を目指し、比抵抗不均質構造の時間的ゆらぎモニターのための高感度比抵抗変化計の開発を行なってきた。観測システムは、位相検波方式を用いた長スパン(kmオーダーまで)のダイポールでの高感度比抵抗連続観測システムを形成できるようにする。また、GPS信号を活用し送信点と受信点独立同期を実現し、ボアホール内の別の孔内の電極群の組み合わせによる立体的観測が可能にする。という目標をのもと開発を行ってきた。開発した比抵抗変化計を用いた野外での観測では、2000年2月に実施した野島断層への注水試験に際して、500m孔内の電極による60mスパンのダイポールと、地表での100mのダイポールをお互いに500m程度離れた距離に置き、注水に伴う比抵抗変化の検出に成功した。観測された比抵抗変化は、注水のための圧力増加に起因する約1%のステップ状の比抵抗の増加であった。この比抵抗の増加量から、野島断層周辺の岩盤の応力変化に対する比抵抗の感度は、これまで室内実験の結果から推定されてきた値より2〜3ケタ大きいことが判明した。これは断層周辺の岩盤が多くのクラックを含んでいることに由来していると考えられる。
また、油壺での連続観測を実施し、高精度で長期間安定した観測が可能であることを示した。油壺では、二つの観測点において岩盤内の応力変化をとらえるための精密な大地比抵抗連続モニタリングを油壺で継続した。そして、得られたデータの解析を行った。その結果、油壺サイトは海岸から近いため、海洋潮汐のロードによる応力変動がきわめて大きいということと、海水位変動に励起されて地下水位が潮汐周期で変動しているという特徴をもつ。比抵抗測定は、この地下水位より上の部分飽和の岩盤を主に見ているSPC2測線と、水位より下の完全飽和の岩盤を見ているSPC10測線の二つの測線でおこない、どちらの測線でも10-4オーダーの潮汐周期の比抵抗変動がとらえられた。このデータから取り出したM2,O1分潮の位相の情報より、SPC10の比抵抗変動は一義的に応力変動に起因していることが示された。一方、SPC2の比抵抗変動は、応力変動と地下水位変動がそれぞれにつくりだす二つの比抵抗変動の重ね合わせで説明できることが判明した。そしてこのSPC 2の比抵抗変動への寄与は、応力よりも地下水位の方がわずかに大きいことが明らかにされた。

(4)新地震予知計画推進体制の整備
(カ)地震に関する各種資料の広範な活用と保存@広域地震データの処理解析体制の整備
 気象庁とのデータ交換を実施し、これに伴うセンターのデータ処理体制の改善を進めつつある。
(キ)Hi-netの整備に伴う新しい地震観測の試みA総合移動観測
 2000年10月の鳥取県西部地震発生直後から地震、GPS、電磁気探査などの緊急臨時観測を多数行った。また全国の大学の合同で稠密余震観測を実施した。これは震源域周辺に57点の臨時観測点を設け、既存の定常観測網のデータとあわせて解析したもので、三次元地震波速度構造、余震分布および発震機構の精密決定等に従来の同種の研究より格段に精度の高い結果を得ている。例えば三次元地震波速度構造では、断層に沿った速度構造が、本震の破壊過程と密接に関連していることを明らかにした。
 2001年1月から始まった兵庫県北部の群発地震は、既設の定常観測点から離れた地域で発生した。そこで、震源近傍に臨時に衛星テレメータ観測点を設置した。それにより震源決定精度が向上し、この群発活動の複雑な震源分布と発震機構を明らかにすることができた。
 2002年度初頭より全国の大学と共同で西南日本における合同地震観測を実施している。この観測では鳥取県西部地震震源域を含む中国地方の広い範囲を対象としている。今回の合同観測がこれまでの合同観測と異なる点は、中国地方の地震活動が低いことと、防災科学技術研究所による高感度地震観測網が整備済みの地域で行われる初めての例であることである。したがって、精密な震源分布を求めるといったテーマは主たる研究目標とはならず、自然地震を使った構造探査的な要素を持たせた。中国地方を横断するものと、山陰海岸に沿ったものとの2本の測線状の配置で40点の臨時観測点を高密度に設置した。京大防災研地震予知研究センターはホスト機関として計画の立案・調整と基本的なデータ処理を担当している。各観測点地震波形データは衛星テレメータを介してリアルタイムで各大学で受信でき、データ処理担当の京大防災研では、既設の定常観測点(大学、気象庁、防災科研等)のデータと合わせて処理を行う。観測期間は2004年春までの約2年間を予定している。
 また、1997〜1998年の東北脊梁地域および2000〜2001年北海道日高山地における大学合同地震観測に参加している。
 1999年の台湾集集地震に際しては地震後2日目にいち早く現地入りし、現地の研究者と共同で地表断層および被害の調査を行った。その結果北部では8mを超える断層変位が見られるものの地震動による被害がほとんどないこと、逆に震央に近い南部では断層変位が小さいにも関わらず地震動による被害が甚大であることから、震源断層の破壊過程の地域性大きかったことがわかった。
 東海地方や紀伊半島などプレート沈み込み帯において重力測定も継続して実施している。東海地方では、重力変化と地殻上下変動との明瞭な相関を得た。近畿地方平野部でも重力測定を実施し、精密な重力異常図を完成した。
 人工地震による地下の速度構造調査を全国の大学の共同研究として行っている。最近は2000〜2001年北海道日高山地横断測線、2001年東海北陸測線、2002年中国四国横断測線などで行われている。

4.成果の公表
 本計画において実施された調査・研究の成果は、各担当者が学会・論文発表するほか、年4回開催される地震予知連絡会および毎月開催される地震調査委員会に適宜報告している。更に、これらの資料は、それぞれ地震予知連絡会会報および地震調査委員会報告集に公表されている。


図1 2000年鳥取県西部地震における先駆的群発地震の震源分布、
本震のすべり量分布(岩田・関口、 2002)、地震波速度構造の比較

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