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 2.1 経 緯


 防災研究所は、昭和25年(1950年)のジェーン台風災害を契機として、昭和26年度に災害の学理とその応用の研究を行なうことを設置目的として京都大学に付置された。当初、第1部門(災害の理工学的基礎研究部門)、第2部門(水害防御の総合的研究部門)、及び第3部門(震害風害など災害防御・軽減の総合的研究部門)の3部門で構成された。

 その後、昭和34年(1959年)の伊勢湾台風災害まで、毎年のように死者が千人を超える自然災害が多発したことや、高度経済成長時代に大規模な都市化に見舞われるなど、自然環境と社会環境の変貌が起こった。このような自然災害の多様化や災害科学の進展と呼応して、社会的要求の高い新たな災害問題を研究するために、研究部門及び研究センターの整備を行なってきた。その結果、平成7年(1995年)には、16研究部門、4研究センター、及び7実験所・観測所を有する研究所へと発展した。地震、火山、地すべり・土石流、洪水、高潮、強風など我が国で問題となる自然災害をほとんどを対象とした理工学的研究と災害に強い社会システムを構築する都市防災研究を推進した。

 近年になって、大都市への急激な人口の集中と同時に農山村での過疎化・高齢化による災害に対する脆弱性の増大、人間活動の活発化による地球規模での環境の変化に伴う新たな災害の出現が問題となってきた。阪神・淡路大震災はわが国の高齢化した近代都市の災害に対する脆弱性を示すと同時に、危機管理など災害軽減のための社会システムの欠如を露呈した。それと同時に、国連による「国際防災の10年」の取り組みに見られるように、国際的にも災害多発国への我が国の積極的貢献が期待されるようになった。

 このような防災学研究への社会的要請の変化に応えるため、阪神・淡路大震災が発生する1年前の平成7年に文部省に対して概算要求を行い、平成8年(1996年)に研究所の設置目的を「災害に関する学理の研究および防災に関する総合研究」に変更し、従来中心としていた災害現象およびその防止・軽減のための理工学的研究に加え、災害の人間及び社会的問題を人文・社会科学的研究の強化、全国の大学共同利用研究所への転換、を含む抜本的改組を行なった。これにより、5大研究部門(地震災害、地盤災害、水災害、大気災害、の研究部門に加え、総合防災研究門)と5研究センター(災害観測実験、地震予知、火山活動、水資源、巨大災害)制へと組織替えを行なった。

 平成8年の改組と同時に我が国における自然災害研究の「卓越した研究拠点−Center of Excellence、COE」として認められた。

 改組後、研究部門においては、災害現象の解明及び災害軽減のための防災学の体系化に関する基礎的研究を行い、研究センターにおいては、所内外の研究者との共同研究として、防災学に関するプロジェクト研究を推進してきている。

 新設された「総合防災」研究部門では災害および防災に関する理工学と人文社会科学のインターディスプリナリーな研究にとりくみ、複合的な災害から都市を守るための「都市診断」科学の確立を目指している。「地震災害」、「地盤災害」、「水災害」、及び「大気災害」の研究部門は、災害現象発生メカニズムやその災害軽減の対策に関して長期的視点から災害に備えるための基礎研究を推進している。

 新設の研究センター「巨大災害」では阪神・淡路大震災の復旧・復興過程に関する実証的研究を基に、自然科学と社会科学・情報学を融合する形で、巨大災害発生時の危機管理システム、災害情報システム、被害軽減などの総合減災システムに関する研究やさらに国際・国内防災ネットワーク構築を行なっている。災害観測実験センターは、宇治川水理および潮岬風力の2実験所、大型波浪、白浜海象、及び徳島地すべりの4観測所を統合して、大規模実験と観測を連動させた先端的研究プロジェクトを行なっている。地震予知研究センターは地震発生のメカニズムの解明とそれに基づく地震予知のための技術開発の研究、火山活動研究センターは桜島火山観測所を母体として、火山噴火予知、火山災害の予測および防止・軽減に関して総合的研究を行なうと共に、それぞれ地震予知および火山噴火予知の特別事業の国内の中核的研究センターとなっている。水資源研究センターは水資源を取り巻く自然・社会現象とその変化を多角的に捉え、ジオシステム・ソシオシステム・エコシステムの総体としての水資源の保全と開発の総合プロジェクトを推進している。

 研究所全体の取り組みとしては、全国大学共同利用研究所として共同研究および共同研究集会の公募を行い全国の国立大学・私立大学から多くの研究者と共同の研究成果が出つつある。国際共同研究として、IDNDRならびにGAMEに引き続き、都市地震防災に関する日米共同研究、文化・自然遺産の保護のためのユネスコとの研究協力など、積極的研究活動を行い、防災に関する国際的な研究拠点としての評価を得つつある。
 その後、省庁再編に伴い、平成13年度からは大学教官が科学技術・振興調整費の研究代表者になることへの路が開けたので、これへの公募を積極的に進めた結果、数課題が採択されるとともに、平成14年度には、つぎの特筆すべき2つのプロジェクトが採択された。1つは、21世紀COE拠点形成プログラム「災害学理の究明と防災学の構築」である。これは、自然科学と社会科学・情報学を融合させた形で3課題の学術研究の推進、COE研究員などの若手研究者の育成、東京・京都サテライトにおける防災講座の開設とインターネットによる発信の3つの事業から構成されている。これらの試みによって、防災研究所は21世紀と世界の防災に貢献できる研究拠点を目指すことになった。

  ほかの1つは、大都市大震災被害軽減化特別プロジェクトである。これは政府が進める都市再生ルネッサンス事業の一環であって、防災研究所は災害シミュレーションの構築に関する研究のコア組織として5年間活動することになった。

表2.1 防災研究所の研究部門等の設置
昭和26.4.1「災害に関する学理及びその応用の研究」を目的として京都大学に防災研究所が附置される。災害の理工学的基礎研究部門(第1部門)、水害防御の総合的研究部門(第2部門)及び震害、風害など防御軽減の総合的研究部門(第3部門)から構成される。
昭和26.6.15設置委員会に代わり協議会を設置し、運営に当たる。
昭和26.11.8防災研究所協議員会規程の制定
昭和28.8.1宇治川水理実験所の設置
昭和33.4.1地かく変動研究部門の設置
昭和34.7.9地すべり研究部門の設置
昭和35.12.26水文学研究部門及び桜島火山観測所の設置
昭和36.4.1耐風構造研究部門及び海岸災害研究部門の設置
昭和37.4.1地盤災害研究部門の設置
昭和37.7.1研究所の一部が宇治市五ヶ庄(教養部跡)に移転
昭和38.4.1地形土じょう災害研究部門及び内水災害研究部門の設置
従来の第1部門、第2部門及び第3部門の名称が各々地震動研究部門、河川災害研究部門及び、耐震構造研究部門に改称
昭和39.4.1地盤震害研究部門及び鳥取微小地震観測所の設置
昭和40.4.1砂防研究部門、地震予知計測研究部門及び上宝地殻変動観測所の設置
昭和41.4.1災害気候研究部門、潮岬風力実験所及び白浜海象観測所の設置
昭和42.6.1耐震基礎研究部門、屯鶴峯地殻変動観測所及び穂高砂防観測所の設置
昭和44.4.1徳島地すべり観測所及び大潟波浪観測所の設置
昭和45.4.17北陸微小地震観測所の設置
昭和45.5.16防災研究所研究部及び事務部が、宇治市五ヶ庄において統合
昭和47.5.1防災科学資料センターの設置
昭和48.4.12微小地震研究部門の設置
昭和49.4.1事務部に部課制を施行
昭和49.4.11宮崎地殻変動観測所の設置
昭和52.4.18暴風雨災害研究部門の設置
昭和53.4.1水資源研究センターの設置及び水文学研究部門の廃止
昭和54.4.1耐震構造研究部門の名称が塑性構造耐震研究部門に改称
脆性構造耐震研究部門の設置
昭和57.4.1耐水システム研究部門の設置
昭和61.4.5都市施設耐震システム研究センターの設置
平成2.6.8防災研究所、理学部地震予知関連研究組織の統合により、地震予知研究センターの設置(地かく変動研究部門、地震予知計測研究部門及び微小地震研究部門の各部門並びに鳥取微小地震観測所、上宝地殻変動観測所、屯鶴峯地殻変動観測所、北陸微小地震観測所及び、宮崎地殻変動観測所の各観測所が廃止と地震予知研究センターへの統合)
平成4.3.31耐水システム研究部門の廃止
平成4.4.15湾域都市水害研究部門の設置
平成5.4.1地域防災システム研究センターの設置及び防災科学資料センターの廃止
平成8.3.31都市施設耐震システム研究センターの廃止
平成8.5.11改組により「災害に関する学理の研究及び防災に関する総合研究」を目的とする5大研究部門(総合防災研究部門、地震災害研究部門、地盤災害研究部門、水災害研究部門及び大気災害研究部門)5附属施設(災害観測実験センター、地震予知研究センター、火山活動研究センター、水資源研究センター及び巨大災害研究センター)の研究所となる。
協議員会を教授会に改め、協議会及び共同利用委員会を設置
平成9.4.1卓越した研究拠点(COE)として指定された。
平成12.4.1事務部が宇治地区事務部に統合される。
平成13.4.1自然災害研究協議会を設置
平成14.9.3021世紀COEプログラムが採択される。

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