・研究代表者 北海道大学理学部 笠原 稔
・所内担当者 渡辺 晃
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 京都大学防災研究所阿武山観測所
・参加者数 7名
雑微動の数10Hz以上の周波数領域は、高周波サイスミックノイズ(High Frequency Seismic Noise, HFSN)と呼ばれ、近年、主にロシヤ(旧ソ連)の研究者により研究されてきた。我々は、HFSNの振幅変 化と媒質に作用する応力変化との間に相関関係があるという結果に注目し、これを近畿地方において 検証するために、阿武山観測所におけるHFSNの観測と研究を企画した。観測坑道内で1997年5月から10 月までの約半年間、ロシヤや北海道大学えりも観測所等で使用されている固有周期30Hzのロシヤ製共 振地震計と二種類の1秒速度型地震計による同時比較観測を実施した。第一にこれまでHFSN観測に用 いられている共振地震計がどの程度正確に地動を記録しているかを知る必要があると考えて、その検 証を行った。その結果、昼間の比較的振幅が大きい記録については波形の一致がよく、この振幅領域 では共振地震計が理論特性どおりに地動を記録することから、ロシヤ製の共振地震計が優れた特性を 持っており、狭帯域周波数帯のHFSN観測には有効であることが確かめられた。共振周波数帯域だけで なく広帯域のHFSNの周波数特性やその時間変化を見るために1秒速度計のHFSNのパワ−スペクトルが 調べられた。10−100Hzのスペクトルのその時間変化を見ると、70Hz以下の周波数帯域では人間活動 に伴うものと考えられる明瞭な日変化を示した。また強風時のHFSNの振幅の増加も示され、人工的な ものや自然現象によるHFSNの地域的な振幅レベルが評価された。地殻の応力変化との相関を調べるた めに、スペクトルの時間変化の記録から地球潮汐の主要13分潮の周期成分が最小二乗法により取り出 された。しかし、今回は伸縮計で記録された潮汐変動との相関はほとんど認められなかった。これら の観測結果についてロシヤの研究者を交え数回の研究会が開かれた。今回のHFSNの観測から、地震計 の信頼度が評価されたこと、そして人間活動と風などの自然現象による地域的なHFSNのレベルを見積 もることができたことは重要であると考えられた。一方、地殻応力によるHFSNの振幅は人工的なノイ ズに比べ非常に小さいことから、今後、位相に注目した解析が重要であることや、観測の精度を上げ るともに、長期間の連続観測が必要であることが示された。