・研究代表者 愛知教育大学総合科学課程 辻村真貴
・所内担当者 奥西一夫
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 長野県下伊那郡大鹿村の小渋川流域および長野県上伊那郡飯島町の与田切川流域
・参加者数 5名
1. はじめに 降雨流出機構の解明は水文学の中心的課題であり、過去に多くの研究がなされている。その結果、 様々な降雨流出機構に関するモデルが提案されてきたが、起伏・地質などが降雨流出過程にどのよ うな影響をもたらすのかについては、従来充分に解明されているとは言い難い。特に、大起伏急傾 斜の山地流域における降雨流出機構については、未だ実測すらほとんどなされていないのが現状で ある。そこで、我々は基盤地質の異なる2つの大起伏で急峻な山地流域(中古生層、および花崗岩基 盤)において、流出特性を中心とした水文観測を行なった。また流域の地形判読および微地形調査 を行い、大起伏山地における水循環と地形変化の相互作用の解明を試みた。 2. 調査地域・方法 研究対象流域は、長野県下伊那郡大鹿村の小渋川の小流域(中古生層)と同県上伊那郡飯島町の与 田切川の小流域(花崗岩)である。まず空中写真判読によって地形計測を、さらに現地調査によって 微地形判読を行った。また両流域に各々2つの小流域(中古生層:K1、K6流域;花崗岩:Y1、Y2流域) を設け、土壌水の圧力水頭・河川水位の自記観測、河川流量・電気伝導度等の実測、降水・土壌水・ 河川水の採取、また降雨時においては自動採水器によって河川流出水の連続採取を行った。 3. 調査結果・考察 空中写真判読によると、花崗岩山地には、多くの崩壊跡地が見られるのに対し、中古生層山地に は、地すべりもしくは、大規模崩壊跡地が見られた。微地形判読結果によると、花崗岩流域では、 小規模なHollowとそれに続く水流が密に分布しているのに対し、中古生層山地には、水流は斜面下 部に見られるのみで、その上部は主に崖錐斜面となっていた。 花崗岩地域のY1流域では、すばやく非常に高い流出が見られた。一方、中古生層地域のK1流域に おいては、2次ピ−クを持つ緩やかなハイドログラフを持ち、また隣接するK6流域では、低い一次 ピ−クを持つものの、2次ピ−クはみられなかった。また、降雨に対する圧力水頭の変化を解析し たところ、中古生層流域では主に鉛直下方方向の地中水の流動が卓越するのに対し、花崗岩流域で は斜面に平行な向きに動水勾配が生じ、側方流が発生していた。 以上の結果から、両流域における地中水の挙動と地形変化との相互関係を考察すると次のようにな る。すなわち花崗岩流域では、降雨に伴い飽和側方流が頻繁に発生するため、表層崩壊が数多く発 生し、谷頻度の高い地形を形成するのに対し、中古生層山地では、降雨浸透水は飽和側方流とはな らず、深部浸透水となって流動する。この深部浸透水は、時には基盤すべりを発生させる可能性が 高く、谷頻度の低い谷地形を形成するものと考えられる。