・研究代表者 広島大学理学部 蓬田 清
・所内担当者 西上欽也
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 広島大学理学部
・参加者数 4名
高周波地震コーダ波は、地殻中のキロメートル以下の微細な不均質構造を検 出できる数少ない情報だが、これまでは空間的に一様なランダム媒質で十分な 観測精度しかなかった。高密度・高精度の最新観測により、ある深さや地域に 不均質性が局在する可能性が指摘され始めた。本研究では、1995年兵庫県南 部地震の余震観測網を用いて、コーダ波振幅より局在する微細不均質性を検出 し、地震断層との関係を調べ、将来的には内陸地震発生の危険度評価の基本的 な情報となることを目的とする。 用いたデータは、兵庫県南部地震の余震観測のために、防災研究所が中心と なって阪神淡路地域に設置した地震観測網の波形記録である。67観測点で100 個の地震に対してコーダ波が明瞭に記録されている計8713の地震記録を用い た。まず、コーダ波振幅の時間減衰率(コーダQ値)の安定性が明確に示され た。 次に、断層系の外の震源からのコーダ波振幅を用いて、各観測点のサイト特 性を求めたところ、概ね表層地質分布によるものの、低周波数領域に比べて、 高周波数領域ではバラツキが大きくなることが示された。この結果は、カリフ ォルニアや日本の他地域での広い領域の結果と調和的だが、狭い地域を密に調 査した例は数少ない。 最後に、上で求めた各観測点のサイト特性の補正を用いて、断層系付辺での 余震についてのコーダ振幅を観測点毎に比較した。多くの場合は、サイト特性 の補正後は、コーダ振幅はすべての観測点でほぼ一定となり、従来の不均質性 が空間的に一様なランダム媒質で説明できる。ところが、震源が淡路島野島断 層下の深さ約10kmである場合に限って、野島断層沿いの観測点でのコーダ波 振幅が系統的に2〜3倍他の観測点より大きくなる。しかも1〜4Hzの周波数 帯のみ、この現象がみられる。これは、野島断層下深さ10km前後に不均質性 が局在することを示唆している。コーダ振幅異常が観測される周波数帯から、 その不均質性の大きさは0.5〜1.5kmと推定される。このように局在化した微 細不均質性の存在を明確に示したのは本研究が初めてであろう。 局在化した不均質性が野島断層下のみ、しかも深さが地殻物質のductile- brittle境界付近であることは興味深い。活動的な地震断層だけにこの特徴がみ られる可能性があり、地震危険度の評価にも新しい展望が開ける可能性がある。