・研究課題名(番号) 鉄骨溶接柱はり仕口の塑性変形能力の改善法  (9Gー2)

・研究代表者  大阪大学工学部   井上一朗

・所内担当者  中島正愛

・研究期間   平成9年4月1日〜平成10年2月28日

・研究場所   京都大学防災研究所

・参加者数   11名


<研 究 報 告>

(1)  目的・趣旨
  1995年兵庫県南部地震において露見した鉄骨造建物溶接柱梁接合部の脆性破断は、現行の設計・
施工プラクティスによる鉄骨造骨組の耐震安全性に疑問を投げかけている。このような脆性破断が
続出した原因を同定すること、また柱梁接合部により高い耐震性能を付与することは緊急な研究課
題と認識されている。これらの課題に一つの回答を与えるべく、研究代表者らは1996年度に、統一
した材料・寸法・接合詳細・載荷方式による、計86の実大柱梁接合部試験体に対する構造実験を実
施した。本研究では、これらの結果を相互に吟味し、柱梁接合部の塑性変形能力に及ぼす諸要因を
特定するとともに、各要因が塑性変形能力に及ぼす影響を定量化し、溶接柱梁接合部に期待できる
塑性変形能力を諸要因の関数で表現することによって、耐震設計に供する情報を提示した。各要因
別の影響度については、以下の所見を得た。

(2) 研究経過および成果の概要
  接合詳細の影響:従来から多用されているスカラップ形式(従来型)に加えて、スカラップ孔に
よる応力集中を緩和することを意図した新しいスカラップ形式(改良型)を考案した。改良型を用
いることによって柱梁接合部の塑性変形能力は一般に向上すること、ただじん性が高い材料を用い
た場合には、改良効果は限られていることが明らかになった。
  エンドタブの影響:現在エンドタブにはスチールタブとフラックスタブが併用されている。フラ
ックスタブを用いる方が高い塑性変形能力を与える傾向が見られるが、フラックスタブは施工技量
に依存されやすいこと、また接合形式によってはスチールタブを用いる方が塑性変形能力を確実に
保証できることも明らかになった。
  溶接積層方法:梁フランジとダイアフラムを結合する完全溶け込み溶接において、大入熱1層1パ
ス溶接を施すと早期破断が続出するなど、厳正な入熱管理による1層多パス溶接の必要性が明らか
になった。
  載荷速度:地震時に受ける動的な載荷と、構造実験で多用される準静的載荷による、塑性変形能
力の違いを吟味した結果、当初の予測とは異なり、動的載荷によるほうが高い塑性変形能力が得ら
れることがわかった。またその有力な理由の一つとして、載荷中の顕著な温度上昇が挙げられるこ
とを明らかにした。