・研究代表者 名古屋大学理学部 志知龍一
・所内担当者 古澤 保
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 宮崎県全域・大分県南部・熊本県南部の一帯
・参加者数 7名
(1) 本研究の目的と主旨 1994年霧島火山の全国共同観測を契機とし、九州南部地域において重力データの蓄積が進み、南 部九州地域の理解が進んだ。その結果浮かび上がってきた課題として、極めて顕著な日向灘の重力 負異常が持つ地球物理学的意味を筆頭として、その北側の別府−島原地溝までの中部九州地域のテ クトニクスを解明することの重要性が認識されるに至った。本研究は、これに向けて重力から迫る ことを目的として計画・実施した。 (2) 研究経過の概要 本研究で、名大が宮崎県全域大分県南部熊本県東部の一帯で2,167点、島根大が熊本県中南部 地域で672点の合計2,839点の測定を実施し、名大重力データベースに集録した。本研究以前のもの として、名大重力データベースに集録済みのものが、名大:3,596点,島根大:215点,東大震研:521点, 京大理:(陸上553点別府湾104点),愛媛大:96点,国土地理院:(新萎α1,489点のほか旧萎α1,210点), 地質調査所:2,015点の合計9,799点があり、これら全てを合わせたデータ総計は、12,638点に達した。 名大重力データベースがまだカバーしえていない北部九州と薩南の地域には、既に地質調査所地殻 物理部でデータベース化されている膨大な資料があり、両者は、互に完全に相補的分布をなすもの としてできあがった。この両者を統合すれば、あと天草と大隅・薩摩両半島先端部の僅かな地域で データ補充をするだけで、九州全域で完全無空白・稠密分布・高精度の重力データベースができ上 る。本研究の遂行によって、これを達成するための条件整備が整った。 (3) 研究成果の概要 本研究で、明らかになった重力異常の特徴を箇条書きにする。 a) ブーゲー密度の問題:四万十帯や秩父累帯・三波帯の中古生界では密度2.67、一方火山地帯では 2.30当たりが最適で極端に密度構造が異なる。密度分布を取り入れた重力異常図の作成方法の開発 が、重要な課題として浮かび上がった。 b) 四万十帯南帯と日向灘の強い負異常:宮崎市北部に中心を持つ極めて強い弧状負異常が極めて 顕著。四万十帯南帯の北部では宮崎層群との境界が水平変化勾配の急変点をなすが、南部では四万 十帯の中に食い込み、日向灘の顕著な負異常の成因が深部構造、特にフィリッピン海プレートの沈 み込み形状に支配されたテクトニクスに起因することを強く示唆する。 c) 四万十帯の南帯・北帯境界:この境界がノッチを形成。延岡から南西延長上に市房山の花崗岩 体、人吉盆地の負異常へと極めて直線性の良いつながり方が特徴。 d) 仏像構造線臼杵−八代構造線大分−熊本構造線の特徴:仏像構造線は大崩山コールドロンを 境に東側で重力異常の峰を形成、西側では顕著な特徴がない。一方臼杵−八代構造線は西側でシャ ープな峰を形成、東側では特徴がない。大分−熊本構造線は顕著な北落ち構造を形成、この特徴か ら判断して従来議論の絶えなかった中央構造線の位置はここに存在するという考えを支持する有力 なデータとなった。 e)大崩山コールドロン:四万十北帯と秩父帯に跨って形成され、ring dyke はほぼ -30mgalコン ターに位置する。巨大なバソリスの伏在(Takahashi,1986)を裏付けるようなきれいなパターンが描 かれた。